あえてこの時代に新しくオープンしたバス専門釣具店があれば、話をきいてみたい。調査すると、2022年に大阪でオープンした「TASF」が浮上した。取材班が向かうとそれは、大阪のシンボル・通天閣のすぐそばにあった。待っていたのは、いわゆる典型的な釣り好きのオーナーではなかった。むしろある種の表現集団といってもよかった。

文と写真◎Basser編集部
1986年に日本初のバスフィッシング専門誌として創刊された『Basser』の編集部。バスフィッシングのテクニックだけでなく、日本や本場アメリカのトーナメントシーン、ムーブメントを伝え続けてきた。
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仲良しコンビがはじめたプロジェクト
バスフィッシングに特化した釣具店は減少傾向にある。新規参入も決して多いとはいえない。そんな中、取材班が訪れたTASFは、2022年にオープンしたという。そこはこれまで入ったどの釣具店とも違っていた。店内中央にはバス関連の古着があり、四方を囲むように新旧のルアーがディスプレイされている。ユーモア溢れるグッズはどこかスタイリッシュで、店内はおもちゃ箱のような雑然さと整然さが同居している。

この「不真面目なような真面目さ」がTASFの、また安藤さん・山本さんの魅力だろう。インパクトのあるスキンヘッドの2人は、ユーモアとシリアスの間を揺れながらこう語ってくれた。
安藤「TASFをオープンしたのはコロナの影響もあります。僕は中学のときできた彼女のお兄ちゃんに影響されて以来、古着カルチャーにどっぷり浸かってきました。でも、コロナが始まって自分を俯瞰で見るようになったとき、視野が狭いような気がしたんです。そもそも、ファッションって必要なの? とまで思いました。コロナでお客さんも来ないし、なんだか楽しくない。どうせなら一番楽しいことをやろうと思い、まず浮かんだのが釣具店だったんです」
山本「僕らは常に楽しいこと、オモロイこと、イケてることを最優先でやってきました。商売ベースでやると続かないんです。『THEモンゴリアンチョップス』のアパレルを始めたときも、当時はキワモノ扱いだったと思います。でも、楽しかったし、若くて失う物も無かったからできた。そうやって自分達の楽しいことを続けていると、必ず共感してくれる人がでてきて、物事がうまく回りだす。その成功体験があったからTASFもオープンできました。コロナでアパレルの方もジリ貧になるのがわかっていたし、それなら一番ワクワクすることに投資してみようという感じですかね」
3年ほど赤字で厳しい時期があったが今は軌道に乗り、TASFを通じて知り合った人たちの間でゆるやかなコミュニティもできている。オフ会的にフローター大会なども主催しているという。
「TASF(Tool Assist Super Fishing)=超釣支援道具」とは、釣りを支援する道具の販売所という意味ではない。人々がTASFを介して釣りを豊かにする。TASFはそんなツールであってほしい、という思いが込められている。
「イケてる」モノで脳汁を出してほしい
2人の「イケてる」感覚をアウトプットするために、アパレルブランド「THEモンゴリアンチョップス」があり、独立レーベルの「BOKU HA TANOSII」があり、釣具屋「TASF」がある。では、2人の考える「イケてる」とはなんなのだろうか。
山本「まずはユーモアですよね。単純に笑ってほしいっていう。TASFのインスタとかはめっちゃふざけてるんですよ。でも実は、『ココを変えたい!』とか『これまでにない角度を見せたい』とか、そういうひねくれたところもある。それこそ若いころは『ムカつく!』とかが原動力だったり。
でも日常で気になることをそのまま表現するとシリアスになっちゃうので、最終的に面白おかしく着地させることは心がけてます。その手法として、パロディであったりオマージュが好きですね」
安藤「僕たちのレーベル『BOKU HA TANOSII』も、アメリカ人は英語で書かれたTシャツを着ているのに、日本人は日本語のTシャツを着ずに意味不明な英語のTシャツを着るのが面白いなと思ったのが発案のキッカケです。ロゴを見た人が『何このTシャツ?』と、コミュニケーションの起点になるモノ作りも心がけています」

ルアーでも「脳汁を出させる」
そうした考え方はTASFに並ぶルアーにも現われている。奇をてらうわけではなく、今までになかった視点を持ち込むことで、見る者をハッとさせる。2人の言葉を借りると、『脳汁を出させる』。
安藤「これはハトリーズの『ハスティー3』をウチでリペイントしたオリジナルです。カラーのネタ元はヘリンの『フラットフィッシュ』というルアー。幾何学的なドット柄が面白いと思ったので、ハスティー3の上に塗ってみました。名前は『TASF』+『ハスティー3』で『タスティー』です」
山本「このリバイアサン(メガバス)はエラープリントでリップインベイトって印字されてるんです。こういうのがめっちゃ綺麗にディスプレイされているとつい欲しくなりません?(笑)。ほかにも、中古ショップで安売りされていた無名の作り手のルアーも『作家さんシリーズ』として集めてます。コレとかすごくかわいいですよね。ほら、脳汁出ませんか?(笑)」

日本の古着文化と釣り文化
そうしたオリジナルグッズやレアな中古品が盛りだくさんのTASF。しかし中核を占めるのは、ひと昔前に生産され、今でも現役で使える名作だ。
山本「僕らはアパレルの世界にいたのでより強く感じるのかもしれませんが、釣具店って中間層が少ないと思うんです。タックルベリーがセカンドストリートみたいなリサイクルショップだとすると、オールドトップウォータープラグ専門の釣具店が高級ヴィンテージショップみたいな。レギュラーもヴィンテージも取り扱う、いわゆる普通の古着屋みたいなお店が釣り業界には少ない気がするんです」
安藤「だからTASFにはレア物も、現行の売れ筋ルアーもありますが、中心となるのは90年代から2000年代前半までの、バスバブル期のルアー。このころのルアーって過小評価されている気がするんです。余裕があった時代だから作りこまれている物も、現在のメーカーのバックボーンになる物も多い。古着にも通じる、ちょうどいい懐かしい年代のものや歴史と文脈のあるもの、デザインの優れたものをセレクトしています」
山本「がっぽりみんなの意識から抜け落ちて、過小評価されている年代のルアーでも、深掘ると色々見えてくるんですよ。今はなきメーカーの中にもデザイナーさんがいて、その方は今どこでルアーを作っているだとか、あるいは別々のメーカー内に同じデザイナーさんがいたりだとか。そういうストーリー性を踏まえた上でサイズや色、状態を見極めています。古着のセレクトと近いですね」
安藤「この色は結構ストックあるから要らん、とかな(笑)」
値付けも表現。相場とは自分たちがつくるもの
山本「一般的には無価値だと思われているルアーをレスキューして、ハリを変えて、ちゃんとディスプレイして売ってあげる。性能だけでなく昔の思い出とかも含めてお客さんに愛でてもらえたら嬉しいなと思ってます。だから、普通は500円で安売りされているルアーでも、僕らが2000円の価値があると思ったらその値段で売る。あたかも世の相場で2000円の価値ですよ、っていう風には絶対売らない。その値段を付けた理由を説明します」
安藤「そういう実験的な意味合いもあったから、最初は口コミで高いって書かれたりしました。けど、それはもうしょうがないというか。最近はだいぶ世の中の相場がTASFに追いついてきたというか。再評価が進んだり、TASFの相場を参考にしているところも増えている実感があります」
山本「あとはファッションにも通じる『平成』リバイバルとかも含めてな」
安藤「でもその値付けってアパレルでは普通だけど、釣りの世界ではあまり馴染みがない。だから、すごく気を遣う部分でもあるんです。アパレルでもバンドTシャツというだけで高値をつけると無知な人の値付けっていう風になる。釣りも一緒で、逆にすごく良いルアーがゴミ同然に売られていると、本当に価値わかってるか? と思っちゃう」
山本「世の中の相場って、メルカリとかが勝手につけるものじゃないんです。誰かが先陣切ってその価値を説明して、それに賛同する人が増えたら、自然と動くものなんです。釣り業界にせっかく僕らが行くんだったら、新しい角度で道具の価値を見せたいなと思いました」

TASFの裏テーマ
新しい価値観と、ユーモア溢れるグッズで釣りを楽しんでほしい。そう考えるTASFにはどうやら裏テーマがあるのだとか。
安藤「『あの時のバスフィッシング』と『これからのバスフィッシング』ですね。少年のころに使ってたタックルやルアーって、それだけでアガるじゃないですか。昔バス釣りをしてた人が、お店に来て『懐かしい~!』ってなって、もう一度釣りをはじめるキッカケになったら嬉しいなと思いますね」
山本「コロナをキッカケに釣りを始めた人が、最近辞めてしまっているというのもよく耳にします。やっぱり釣りって難しかったりするし。そういう人たちをTASFが巻き込んで釣り大会をしたりして、少しでも減らせたらいいかなとも思いますね」
安藤「なんといっても、僕がまさにその口だったんです。リサイクル店に昔憧れた初代デストロイヤーが5000円で売ってて、買って原付で抱えて帰った(笑)。バス釣り再開のキッカケでした」
山本「前は仕事でしんどくなったらバイクで2ケツして奈良まで釣り行ったよな(笑)」
名前が先にあり、実態は後からついてきた
2人が何かを立ち上げるとき、最初そこには名前しかない。服作りをはじめる前から「THEモンゴリアンチョップス」を名乗り、釣具屋をはじめるずっと前、仕事の息抜きのため釣りをする日々から「TASF」はあった。いつも名前だけが先にあり、実態は後からついてきた。それはどこか、何もない空き地を自分たちの秘密基地として名づけるのに似ている。
そんな遊び心と、企みと、初期衝動が詰まった場所が大阪の新世界にひっそりとある。ぜひ脳汁が吹き出る瞬間を味わってほしい。
・TASF Tackle Mart
大阪府大阪市浪速区恵美須東1丁目7-5 TEL 06-6626-9777
営業時間/13:00~20:00 定休日/火・水・木曜日
公式サイト:https://www.tasf.fishing
Instagram:tool_assist_super_fishing
※このページは『Basser 2026年11月号』に掲載した記事を再編集したものです。


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