ひと昔前と比べて東京湾の流入河川で増えたのはクロダイと牡蠣瀬だろう。ますます盛り上がりを見せている東京湾チニングにおいて必須ともいえるのが牡蠣瀬周りのスタック回避術だ。

解説◎渡邉長士 写真と文◎月刊つり人編集部
1981年生まれ。千葉県在住。幼少の頃より釣りに親しむ房総半島の申し子。四季折々のターゲットをねらい、なかでもライトゲームには絶対の自信を持つ。誰にでも好かれるキャラクターで各メディアで活躍中。
目次
ライトゲームの名手が内房のチニングにハマった理由
「チニングは地元のいすみ市の河川で昔から楽しんでいました。日中はペンシルやポッパーなどトップウォーターの釣り、夜はクランクベイトで底を叩いて土煙を立てる巻きの釣り。ワームの釣りはなぜかそんなにハマらなかったですね」
そう語るのは外房在住のライトゲーム名手“チョーシ”こと渡邉長士さんだ。
木更津の水路で見た悠然と泳ぐクロダイの多さ
「ここ数年はバチコンや堤防アジングで内房の木更津に通うことが多く、釣りの前に水路とか覗くとクロダイが至るところに見えるわけですよ。『うわ、なんじゃこれ。しかもデカいし』って。もちろん、外房にもクロダイはいますけど、こんなにたくさん見えないし、人の気配を感じたら逃げていきます。ところがこっちは浅いところや壁際で悠然としているからびっくりしました」
日中だったこともあり、トップから入るも反応なし。そりゃそうだと思いつつ、オフセットフックにクロー系ワームをセットしてボトムの釣りを試してみると、カツンっといいバイトがあって呆気なくいいサイズのクロダイが釣れた。そこからはバチコン前に水路でチニング。バチコンあとにも水路でチニングと楽しむようになったという。
「あの気難しいクロダイがこんなに釣れるのかとどハマりしました(笑)」
そのうちにバチコンやアジングタックルは家に置いて、チニングタックルだけを持参して内房に通うことも。
「実感するのは日中よりも夜がいいということ。まさに夏の夜釣りに最高のターゲットだと思います」
変化するクロダイの釣れ方と牡蠣瀬の増加
クロダイがルアー釣りの対象魚になって久しいが、それはタックルやテクニックの進化で釣法が確立されたこともあるが、クロダイの性質が変化したことも関係しているのではないだろうか。
ご存じのようにクロダイはイガイやフジツボなどの貝類、カニやエビなどの甲殻類、イソメやユムシなどの環形動物、ノリやワカメなどの海藻、イワシやハゼなどの小魚まで口にする雑食性でスイカやサナギを使った釣り方も存在する。
小櫃川に増えた牡蠣瀬とクロダイの環境適応力
シーバス釣りのメッカである東京湾や流入河川でクロダイのルアーでの釣果が聞かれ始めたのは20年ほど前からであり、それまでは沖のバースでも岸寄りのストラクチャーでも今ほどはクロダイの釣果が聞かれなかったのは、おそらくルアーを追わずとも、動かなくて逃げることもない貝類がいたことや、今ほど個体数も多くなかったことから1尾あたりのエサが周囲に充分にあったためではないだろうか。
「小櫃川にはシーバスねらいでは随分前から釣りに来ていますが、当時はこんなにボトムに牡蠣瀬がありませんでしたしヘチ寄りにクロダイの姿を見ることもありませんでした。今は小櫃川に限らず、内房エリアのどの川でもボラのように群れる姿を目にします。メインのエサとなる貝類は明らかに減っているのにこれだけ増えているのは類稀なる環境への対応力があるからでしょう」
牡蠣瀬に着くクロダイは食い気が立っている
いま各地でノリやアサリやシジミなどのクロダイ食害の声が上がっているのも類稀なる環境への対応力、つまり雑食性が強いためだろう。クロダイは昔から各地に存在していたし、ノリやアサリやシジミも存在していた。つまり共存もできるのだが、周囲の環境が変化すれば対応できてしまうところがクロダイの強みであり悪食といわれるゆえんだ。とはいえ牡蠣をバリバリ割って食べているとは考えにくい。それでも牡蠣瀬はクロダイが好むカニやエビやイソメの住処になっていることからクロダイも好んで集まるのだろう。
「イガイが密集した壁面やこうした牡蠣瀬にいるクロダイってやっぱり食い気が立っています。日中でもそうですが夜はさらに食いが立ち、1キャスト1バイトどころか2バイト、3バイトすることもあるくらい。最高でひと晩に30尾釣れましたから」
その話を聞くと、やはり以前とはクロダイおよびクロダイの周りの環境が大きく変化したと思わざるを得ない。
牡蠣瀬に根掛かりしないことを最優先したリグ
夕マヅメを迎えた小櫃川下流左岸から釣りを開始する渡邉さんがオフセットフックにセットしたのはシルバーウルフ アーバンシュリンプ2.8in。シンカーはわずか0.5号という軽さのフリーリグ。
「チニングの場合、フリーリグとは呼んでいるものの実際にはシンカーストッパーでシンカーを固定しますが、僕のはアイにスプリットリングを介してスイベルをセットしていますのでシンカーがスルスルとフリーに動く純正フリーリグです(笑)」
極限まで軽いシンカーでボトムと喧嘩しない
そもそもチニングのフリーリグで多くの場合、シンカーをストッパーで固定する理由は(1)シンカーとワームがほぼ同時に着底するため底取りもバイトも素早く察知しやすい、(2)ワームをクイックに操作でき、ボトムバンプもさせやすい、(3)リアクションバイトが取りやすい、という3点が挙げられる。
ところが、固定式のメリットであるボトムバンピングのしやすさが木更津界隈ではさほど吉とは出なかったという。
「クイックな誘いが効かないわけではないんです。ただ、それをやるにはあまりにもボトムに牡蠣瀬が多い。むしろ、底が取れる極限の軽さのシンカーを使って、極力ボトムと喧嘩しないようにソフトタッチで舐めるように操作することで根掛かりを回避する釣りを心掛けています。10gとかのシンカーを使えたら流れも気にしないでボトムも簡単に取れますし、サクサクとスピーディーな釣りが展開できますけど、実際にそれをしてしまうと毎キャスト根掛かりしますから」
フックポイントを埋め込まない理由とフックのセット位置
ちなみに渡邉さんはオフセットフックの先端をワームのボディーやスリットに埋め込んでいない。
「埋め込んだほうが根掛かりは減りますがフッキング率が低下するのも間違いないので。川の牡蠣瀬の根掛かりの大半はワームフックが刺さるのではなくシンカーのスタックが理由ですから」
しかも、シンカーの近くにフックを固定してしまうとシンカースタックだったものがフックまで刺さり込む重症化を招きやすいという。
ダウンに投げてアップへトレースするのが基本
「同じ理由で圧倒的にシンカーがスタックしにくいのはダウンに投げてアップへトレースする釣りです。ダウンに投げれば流れを受けたラインに引っ張られてシンカーは浮き上がろうとするしワームはシンカーから離れようとするからです。対して、アップに投げればシンカーは倒れて沈み込むしワームはシンカーに近づこうとします」
ナス型オモリとテンションを緩めない巻きで根掛かりを減らす
とにかく根掛かり対策に余念がない渡邉さん。
「チニングで挫折するとすれば根掛かりの多さに心が折れるからだと思います。ラインを結びなおして高価なタングステンシンカーをセットして、次のキャストでまた根掛かりロスト。これを何度かやったら『もうや~めた』ってなりますよ。ましてや今はタングステン不足で超高価ですし。僕はクイックな操作を求めていないから重いシンカーは必要ないのでどこにでもあるナス型オモリを使っています。それでもロストが少ないのは軽いものを使っていることとラインテンションを緩めないようにしているからです」
ズル引きにしてもボトムバンピングにしてもロッドで操作をするのが普通だが、渡邉さんの場合はティップでシェイクこそ加えるもののボトムを舐めるようにスローに巻き続けるスタイルのためラインテンションが緩まない。これが根掛かりを回避する大事な要素だ。
小櫃川のち木更津港、青潮直前の実釣
「おかしい。全然アタらないしクロダイの姿が見えない。こんなこと初めて」
と盛んに首をひねる渡邉さん。8月上旬、日中は危険な酷暑が連日続いていたが、北東風が強く吹き付けたこの日は涼しいを通り越して冷感インナーを着込んでいると寒いくらいであった。
「正直、小櫃川は全く心配していませんでした。というのも実は、昨日も用事があって夜の8時くらいにちょっと小櫃川に寄ったところ、たくさんのクロダイが見えるし、ワームを投げればすぐに釣れて、いつもどおりだなと思っていました」
渡邉さんは小櫃川のあとに回る予定の木更津港内の釣りに若干の不安があった。
「港内は基本的に泥底ですから川に比べると根掛かりしにくい分、バイト数は川ほど多くありません」
日没後にバイトが増えて40cm強のアベレージサイズ
そんなことを話しながらスローに巻いていると、「アタった、またアタった」と急にバイトが増えてきた。やはり日没後の19時を過ぎてから。ほどなくして今度はアワセが決まった。その瞬間、下流に向かって突っ走り、ドラグ音が夜の川面に響き渡る。
「引きますね。楽しい!」
干潮時には干上がってしまうほど浅い護岸付近まで寄せられたクロダイは激しく抵抗して何度も川面に大きな波紋を作って反転する。
ネットに収まったのはアベレージサイズだという40cm強。今のファイトでリーダーはザラザラだ。
牡蠣に負けないラインシステムと8の字結びの効果
「メインラインはPE0.6号。リーダーはフロロカーボン3号を1m。引っ張り合いなら何の不安もないんですが、どうしてもリーダー先端は牡蠣に触れて傷が入りやすいので、先端の30cmだけ1号太い4号を入れています」
フロロ同士は8の字で結び、そこがシンカーストッパーになって、ファイト中にPEライン側まで上ずってしまうトラブルが防げる。
中の島公園へ移動もバイトは少なめ
「やっぱりおかしい。こんなバイトが少ないなんて」と言いつつ、30分後に若い小型の個体を追加すると、「もしかすると今日は川がよくないのかも」と言って木更津港内の中の島公園へ移動した。
実は翌日、千葉県内の湾奥から内房にかけての広範囲で大規模な青潮が発生した。夜の間はわからなかったが、沿岸部の水は真っ青で貧酸素によって多くの魚が浮いたというから、渡邉さんがしきりに口にした「今日はおかしい」は正しかったのだろう。
土煙を立ててクロダイの興味を惹く
むしろ中の島公園側のほうが生命感に乏しく、この日は小型のマゴチを追加したのみで、数回だけあった本命らしき硬質なバイトはフッキングまで至らずに終了した。
「木更津港内もクロダイの数は半端なく多いんですが、川の中の牡蠣瀬周りのクロダイとかヘチの壁面に近づいている捕食モードのクロダイは少ないので、砂泥底をスローに巻くことで土煙を立てて興味を惹く感じ」
追尾が長くなる分、ショートバイトが増えるものの、足場のよい手軽な公園から手軽にチニングを楽しめるのは魅力だ。
※このページは『つり人 2026年10月号』に掲載した記事を再編集したものです。




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