あの繊細なクロダイのアタリと、竿を絞り込む強烈な引き。その興奮が、実は都心でこそ最も熱く味わえるのをご存知だろうか。釣り場の数、規模、そして圧倒的な魚影の濃さ……もはや東京は「ヘチ釣りの聖地」と呼んでも過言ではない。今回は、東京黒友会の郡雄太郎さんとヘチガールの梶原さとみさんをナビゲーターに迎え、大都会のアーバンサイドで繰り広げられる、この熱いゲームの最前線を紹介する。
写真と文◎編集部
東京都内で楽しむクロダイのヘチ釣り
「僕たちの時代は当たり前のように沖堤防ごとに落とし込み釣りのクラブが存在して、そこに入会して先輩から教わりながら腕を磨くという流れも当たり前だった。でも今は全然違うよね。縦のつながりはほとんどない代わりにSNSなんかで横のつながりはある」
東京黒友会の副会長である郡雄太郎さんの口ぶりは、今の状況を憂いているわけでも悲観しているわけでもない。
「東京湾では木更津と五井くらいしか渡してもらえる沖堤防はなくなったことは寂しい限りだけど、なくなった釣り場だけじゃない。むしろ都内だけでみればヘチ釣り場が増え続けているよ。ね、さとみちゃん」
「私は東京生まれじゃありませんし、上京したときから豊洲や晴海でクロダイが釣れる状況でしたけど、それでも去年まではなかった釣りのできる遊歩道が増えているって毎年のように実感しますし、隅田川や荒川とつながっている運河や水路はほとんどどこでもクロダイがいるように思えます」とは、ヘチガール・サトミンこと梶原さとみさん。
ヘチ釣りのできる釣り場が拡大中
実際、都内周辺から千葉、神奈川や関西方面へ遠征するのが当たり前だったクロダイのヘチ釣りだが、ここ最近は千葉、神奈川、埼玉やさらに遠方からわざわざヘチ釣りをしに都内へやって来る人が増えている。
「毎週のように都外のヘチ釣り仲間から、『来週、江東区か中央区にクロダイを釣りに行くから案内してくださいよ』なんて連絡があるんだよね」
「私も、都内でカニ売っていますかってよく聞かれます(笑)」
江東区を中心に大型店舗をはじめ数件の釣具店で周年カニは販売している。ということは、それだけ需要があるということだ。
「私がよく行く中央区の朝潮運河は年々、遊歩道が拡張されていて釣り場が増えていますからね」
「僕が以前行っていた豊洲運河も左岸だけじゃなくて右岸側も入れるようになって仲間たちも結構釣っているみたい。そう考えると、その界隈の釣り場の総延長は相当なものだよね。風向きしだいで釣り場が選べるくらい規模が拡大している」
都内のヘチ釣りポイントは無数に存在
今回はふたりが都内の東側に住んでいることから江東区と中央区で釣っているが、京浜運河や多摩川のある港区、品川区、大田区、そして隅田川を上がった墨田区、台東区、荒川区、中川や江戸川のある江戸川区や葛飾区にもクロダイは生息し、すでにヘチ釣りを楽しむ姿は各地で散見する。
「そうした都内でネックになるのが高すぎるコインパーキング代だよね。僕なんかも朝8時までの安い夜間料金を利用して朝マヅメ勝負にしたり、長くやるときは最大料金が設定されているところに複数人で行くようにしている」
「私はむしろ高速道路に乗って渡船を使う釣りよりもリーズナブルな気がしています。自転車で行くことが多いからですけど(笑)」
この日もぐるり公園や晴海臨海公園は、ちょっと気が引ける値段設定のコインパーキングの中から、比較的良心的な最大料金が設定されたところを選んで駐車。
それにしても、平日だというのにヘチ釣りファンが多い。挨拶をかわすと遠方からわざわざクロダイを釣るためにやって来たという方も少なくない。一番遠方だったのは静岡県の清水からやって来たという若者。アーバンな景色の中で複数のクロダイをキャッチしたと嬉しそうに話していた。釣りのできる沖堤防が激減してしまった今、この流れはますます加速していくだろう。
豊洲・晴海にオフシーズンなし。冬でも釣れる理由
気になるのは冬以降の状況。 「この辺りのヘチ釣りは昔からあったものではないからなんともいえませんが、豊洲ぐるり公園や対岸の晴海臨海公園および晴海緑道公園に関しては水深もあるので真冬でも早春でもクロダイは釣れます。もちろん、夏までのようにバンバン当たることはないけれど、普通にデカい魚も食います」
「私も晴海界隈はオフシーズンがないと感じています」
郡さんによれば、秋シーズンの隅田川本流および支流の運河筋は、潮位の高い時間帯に5~6発当たって2~3尾釣っている仲間が多かったという。水温が下がるにつれてアタリは少しずつ減っていくが、クロダイ自体が川筋から抜けていなくなるわけではなく、年内いっぱいは楽しめるだろう。
※このページは『つり人 2025年12月号』の記事を再編集したものです。

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