今、水面に毛バリを流してイワナやヤマメをねらうドライフライテンカラが人気です。『月刊つり人』2019年7月号でも特集されているように、水面に落ちて魚のエサになる昆虫が増えるこれからの季節はまさに好機。
用意する毛バリは3種類でOK
つり人編集部=写真と文
つり人増刊『渓流』2019春号で登場した伊藤菜雪さん。家族でキノコ採りや釣りに行くという。今回は福島の渓流でテンカラを楽しんだ今、水面に毛バリを流してイワナやヤマメをねらうドライフライテンカラが人気です。水面に落ちて魚のエサになる昆虫が増える夏はまさに好機。今回はこれからドライフライテンカラを始めてみたいという人向けのハウツー記事をお届けします。
水面を割って飛び出す渓流魚を見るのは、テンカラの醍醐味。今シーズンは、エキサイティングなテンカラゲームを満喫しましょう!
目次
エサ釣りでは味わえないテンカラの醍醐味
テンカラの毛バリといえば、基本的にはボディー(胴)があり、さらにハリ軸にはハックル(ミノ毛)が巻かれたシンプルな構造が多い。ハックルが若干アイ側に傾いたものは逆さ毛バリといわれ、定番毛バリとして思い浮かべる人が多いはずだ。
源流テンカラの名手で、「渓の翁」と呼ばれる瀬畑雄三さんの毛バリも、だいたいはこのタイプ。ハックルにこだわりはないようだが、ボディーには自己融着テープを巻いている。理由を聞くと、そのほうが素早く沈んでくれるからだという。テンカラでは、このように毛バリを沈めて釣るケースが多い。特に逆さ毛バリの場合、水流を受けたハックルが水中で動き、それが魚を誘うという人もいる。
これからの季節は、テンカラの盛期。陸生昆虫が増えると、水面を流れるエサを食べる魚も増える
魚の気分というのは移ろいやすいもの。同じ日、同じ川、同じ場所でも、タイミングしだいでは水面のエサをパクパク捕食したり、あるいはじっと底に沈んでいたりする。毛バリは浮かせることも、沈めることも可能なので、単純に魚を釣ることを考えるなら、状況に応じて流すタナを変えるのが望ましい。
とはいえ、浮かせた毛バリで釣ることにこそ、無上の喜びを見出す人もいる。ゆっくりと流れる毛バリを見ていると、突然飛沫が上がり、魚が飛び出す……。エサ釣りではまず味わえないこの瞬間こそ、テンカラの醍醐味といえるからだ。
ここでは浮かせた毛バリで釣るテンカラ=ドライフライ・テンカラについて、基本を解説したい。
毛バリの選び方。用意したいドライフライ3選
毛バリには多くの種類があり、そのチョイスは頭を悩ませるもの。しかし基本的には、よほどサイズが合っていないとかでない限り、だいたいの毛バリで魚は釣れる。最初はあまりこだわる必要はない。
とりあえず何を選べばよいか分からない場合は、釣具店に市販のセットが売られているので、それを選ぶのもよい。フライフィッシングのコーナーでは、バラ売りで購入できる場合もある。
浮かせることを考えると、定番といえるのはまずパラシュートフライ。ただしこれは、基本的には自然に流すことが前提になる毛バリだということは頭に入れておこう。
パラシュートフライの例。ポストと呼ばれる目印があるおかげで、視認性がよい。誘いをかけるのには向かない。これからの季節に威力を発揮するのが、アリを模した毛バリ。そのほかにも色やサイズなど、各種用意するとよい
おすすめなのは、エルクヘア・カディスと呼ばれるパターン。作り方は別の記事(2019年7月号p30~)で詳しく解説するが、視認性もよく、浮力もある。また毛バリを動かしても魚が食い付くので、その点でもテンカラ向きといえる。なおエルクヘア・カディスは、沈んでしまっても釣れることが多い。
エルクヘア・カディスは、ボディーに巻いたハックルにより高めに浮く。クロカワムシの成虫であるヒゲナガカワトビケラなどは、水面を滑るように移動するが、それを模して誘いをかけても効果的な毛バリだ
もうひとつ用意したいのが、いわゆる伝統的なテンカラ毛バリ。ボディーがあって、ハリ軸にハックルが巻いてあるタイプだ。ハックルの種類や量によって、沈める毛バリにもなるが、張りのあるハックルを少し多めに巻くと浮きやすくなる。
テンカラ毛バリのなかでは定番のひとつが、このようにハックルとボディーだけのシンプルなタイプ。これはハックルに剣羽根を用いたパターン
ドライフライ・テンカラの初心者は、まずはこの3パターンを用意して釣りに臨むとよい。なお色は各種あったほうがよいが、最初は黒っぽいものと、白っぽいものの明暗2種を用意するのがおすすめ。
サイズも悩むところだが、フライフックでいう12番(#12などと表記されている)を中心に、大小いくつかそろえておけば安心だ。
投げられないと、始まらない。キャスティングのコツ
毛バリを浮かせる、沈めるに関係なく、重要なのがキャスティングである。これができないと、そもそも釣りにならない。
軽い毛バリを使うテンカラでは、ラインの重さを利用してキャスティングを行なう。いってみればムチのようなイメージだ。そのために重要なのは、まずラインとサオのチョイス。
ラインは、大きく分けると重さのあるテーパーラインと、軽いレベルラインに分けられる。ほかにもいろいろあるが、とりあえずこれさえ覚えておけば問題ない。そして毛バリを浮かせる場合は、軽いレベルラインのほうがなにかと有利だ。なかには軽いテーパーラインもあるが、それでもまったく問題ない。
近年のテンカラザオは、主にこのテーパーライン用、レベルライン用、両方に対応したものに分けられる。レベルラインを使う場合は、それに合ったタイプを選べばよい。
あとはサオの振り方だが、まず前後に大きく振り過ぎないことが大切。時計の針でいえば、右向きで投げる場合は前振り(フォワードキャスト)が2時の位置まで。後ろ振り(バックキャスト)は12時の位置までというのがセオリー。
キャスティングのコツ 後方に振り上げる際には、後ろにラインを飛ばすというよりは上に跳ね上げるイメージ。あまり後ろに倒しすぎないこと
ラインが後方に伸び切るまで、わずかにタメを作る。これはラインの種類や長さによって、タイミングが異なる
しっかりと後方に伸び切ってから、前方にサオを振る。そうすることで、力がしっかりとラインの先まで伝わる
振り切った状態。ラインが真っ直ぐに伸び、しかも水面(写真では地面)を叩いていないことが分かる。これが理想的なキャスティングだ
ラインが後方に伸び切るまで、わずかにタメを作る。これはラインの種類や長さによって、タイミングが異なる
しっかりと後方に伸び切ってから、前方にサオを振る。そうすることで、力がしっかりとラインの先まで伝わる
振り切った状態。ラインが真っ直ぐに伸び、しかも水面(写真では地面)を叩いていないことが分かる。これが理想的なキャスティングだ
実際にはサオは曲がるので、サオ先はそれよりも倒れてしまうが、とにかく振り過ぎないことを心掛ける。特に遠くに飛ばそうとすると、どうしても大振りになるので注意したい。
次に大切なのは、サオを振るスピード。重いテーパーラインの場合は、軽く振っても飛んでくれるが、軽いレベルラインだとそうもいかない。ある程度スピードを付ける必要があるのだ。名手・石垣尚男さんはよく「体操のリボンのように、頭上でラインが円を描くように振ってみましょう。そのスピードで、前後に振るイメージです」と教えている。
そしてもうひとつ、前後に振るタイミングにも注意したい。柔軟なラインに力を伝えるためには、ラインが伸びていることが大切。まず強めにバックキャストを行ない、ラインをしっかり後ろに伸ばす。これが伸び切る前にフォワードキャストに移ると、ラインに力が伝わらない。毛バリはすぐ手前に、力なく落ちてしまうことになる。それを防ぐには、特に確認しにくいバックキャストの後は、若干テンポを遅らせてから前に振るとよい。
キャスティングは、実際にやらないと上達しない。まずは練習してみることだ。
渓流では、頭上に木が被っている場所が多い。そのため、できればサイドキャストなども習得したほうがよい。基本的には、通常のキャストと変わらず、やはり振り幅は小さめを心掛ける
なお練習でも釣り場でもそうだが、先端にハリが付いた状態で振り回すのだから、周囲には気を配ること。特に後方に人がいないかは、必ず確認してほしい。
距離を詰めるのが魚への第一歩。アプローチは慎重に
テンカラはラインの長さが限られるので、必然的に魚に近づく必要がある。これがルアー・フライフィッシングとは異なる点だ。当たり前だが、ポイントへは極力静かに近寄ること。
姿勢を低くして静かにアプローチする。ポイントに毛バリが届く場所まで近寄れないと、釣りにならない
落ち込みが連続する場所では、下の段から上の段をねらいやすいので、近寄るのが容易だ
テンカラは、どちらかといえば落ち込みの連続する渓流や源流のほうが釣りやすい。大場所では毛バリが届かないし、近づく間に魚が逃げてしまうからだ。落ち込みが続くと、たとえば下の段に立ったまま、上の段の肩や落ち込みを釣ることができる。また流心を挟んだ対岸側などは、多少近づいても魚が出ることがある。
自然に流す? 誘いをかける? 毛バリの流し方
まずは魚の居場所を読むこと。ケース・バイ・ケースなので場数を踏むしかないが、基本的にはヤマメは流心付近、イワナは緩流帯に多い。流れが速すぎない流心、流心脇の緩流帯、巻き返し、落ち込みの脇、ヒラキ、肩……とさまざまな場所に魚が付くが、とりあえずはすべて探る気持ちで釣るとよい。テンカラの場合、意外なほど浅場で釣れることもあるので、小場所もていねいに流すこと。
流し方のコツだが、まずはできるだけ自然に流してみる。つまり毛バリがイトに引っ張られて、不自然な動きをしないように注意する。そのためのコツは7月号18ページからの記事で解説されている。とりあえずサオを高く保持して、ラインをあまり水に付けないのが手っ取り早い。
サオを高く保持することで、あまりラインを水につけないようにする。そのほうが、ラインが流れに引かれて毛バリが動いてしまうのを防ぎやすい
それでも自然に流せない時には、いくつか対処法がある。ひとつは、ハリスを長くすること。ハリスが長くなり、その部分がたるんでいると、ラインが多少引っ張られても毛バリが動くまでにはタイムラグが生じる。その間に魚が食ってくれればもうけもの、というわけだ。またハリスは細いほうが有利だが、当然切れやすくなる。細くても0.6号くらいを目安にしよう。
もうひとつ、自然に流すための工夫は、そもそも自然に流せるだけの時間しか、魚に毛バリを見せないということ。そのためには、魚の付き場を正確に把握する必要がある。名手たちは「ここへ打って、このあたりで食わせる」などという読みができるのだ。そのためには、やはりフィールドへ足を運んで魚から教えてもらうしかない。
自然に流しても魚が出ない場合は、誘いをかけてみるのも悪くない。あまり大きな動きではなく、水面を少し動く程度でよい。動かしすぎると、魚が出ても食い損ねてしまう。ただしパラシュートフライでは、誘いをかけてもあまり効果がないことが多い。
2019/5/24