渓流釣りの中でもすっかり人気を高めているテンカラ。なかでもテクニック面でカギとなっているのが、毛バリを思った場所に振り込むキャスティングだ。
人気上昇中のテンカラ釣り。キャストのコツを吉田孝さんが解説
文◎吉田孝 写真◎浦壮一郎
渓流釣りの中でもすっかり人気を高めているテンカラ。なかでもテクニック面でカギとなっているのが、毛バリを思った場所に振り込むキャスティングだ。「ねらった場所を外さずに」「毛バリを静かに着水させる」ことができれば、どのように投げてもよいが、そこには基本的な考え方や投げ方がある。数多くの入門者に「魚が釣れるまで」をアドバイスしてきた吉田孝さんが、ビギナーにも理解しやすく、明解かつ基本的なキャスティングをレクチャー。
この記事は『つり人』2017年3月号に掲載したものを再編集しています。
まずは投げやすいシステムで
どんなスポーツにもいえることだが、テンカラのキャスティングを覚えるにも、「使いやすい道具」を選ぶことがまずは大切。慣れてしまえばどうということはないのだが、キャスティングの難易度は、「ライン」と「サオ」の「重さ」と「長さ」に左右される。
ラインについては、軽いものより重いもののほうが振り込みのタイミングを取りやすく、さらに長いものより短いもののほうがコントロールしやすい。サオについては、短めで軽いもののほうが当然ながら扱いやすい。この組み合わせをここでは「システム」と表現する。具体的にビギナーにおすすめのシステムは、
●サオ
3.3mくらいまでの長さのもの
●ライン
3.3~3.6mの長さで、テーパーラインやフライラインタイプといわれる、ある程度の重さがあるもの。または、フロロカーボン製のレベルラインを使うなら、4号程度の太さのもの
さらに、ラインの先に付くハリスと毛バリについてもしっかり選ぶ。
●ハリス
フロロカーボンもしくはナイロン製の0.8号前後を1.2~1.7m
●毛バリ
ウエイトが入った重たいものやボリュームがあり大きな空気抵抗のあるものは使わない。つまり、一般的な毛バリ
特にラインについては、無理なく振っていられる長さ(その範囲で長め)にしておく。これをオーバーしていると、風がある時など最初はなかなかうまくラインを伸ばすことができず、いつまでもキャスティングの感覚が掴めなくなってしまう。一度手にいれたタックルで「どうもいつまでも上手く投げられない?」と思ったら、目安としてサオと同じか、それよりもやや長いくらいのバランスになっているか(それ以上に長すぎないか)を一度確認してほしい。長すぎた場合には、切り過ぎには注意したうえで、先端側を少しずつカットしていきようすを見る。ちなみに、このバランスのタックルであれば、一般的な渓流でそのまま問題なく釣りができる。
キャスティングの基本
サオの握り方は基本的に自由。実際にいろいろな人に教えてきた経験からも、自然に握りやすい持ち方をしてもらえばまず問題ない。そのうえで、次のようなポイントを意識すると安定してサオを振りやすく、かつ釣りにも適した体勢を作れるようになる。
●足の置き方
ポイントに向かって立ち、右利きの人なら右足、左利きの人なら左足を、半歩から一歩前に出す
●姿勢
やや前傾させる
●腕の位置
脇を締め、ヒジは自然に曲げたまま、サオを動かす時は腕を前に突き出す。サオを持つ手の位置は大体肩の高さに
つまり足をそろえた棒立ちは実践的なキャストができない。この状態からサオを後ろにハネ上げ、倒しすぎない場所で一度止めるようにすると、ライン、ハリスの順序で仕掛けが後方に伸びていく。その仕掛けが伸びきる直前に前振りに移行。今度はサオを前に振り下ろしたところで止める。するとサオ先に引っ張られた仕掛けが、後方から前方に伸びていく。ライン、ハリスと後ろ振りの時と同じように伸び、最後に毛バリが着水する。これがテンカラキャスティングの基本的な動きだ。
サオの振り幅は60度
この時に頭に入れておくことが、「サオの振り幅は60度が基本になる」ということだ。時計の文字盤をイメージしていただくと分かりやすいが、12時と10時(向きが逆の場合には2時)の間ということになる。
ただし、この振り幅は基本的なことで、釣り場の状況によってはもっと幅広くサオを動かしたほうがよい場合もある。とはいえ、キャスティングのタイミングをしっかりと身につけるには、この振り幅をまずは意識しよう。
後ろを勢いよく、ピタッと止める
ここからはテンカラのキャスティングを上達させるためのいくつかのコツを解説したい。
1つ目は「後ろ振りで初速をつける」ということ。テンカラでは、後ろへサオをハネ上げる際に、ラインが後方にしっかり伸びるように勢いをつけないと充分なキャストができない。後方でラインがしっかり伸び切らないと、前振りに移る際に、ラインの重さがサオに乗らないのでサオが曲がらず、結果、前方にラインが伸びなくなり、毛バリも飛ばなくなってしまうのだ。
2番目は、サオを振り終えた時に、サオ先を「ピタッと止める」ということ。後ろ振りと前振りのどちらにもいえることだが、ラインの重さを感じながら、サオを止めるタイミングを取るようにすると上手くいくと思う。
そして3番目は、「前振りに力を入れ過ぎない」ということ。ルアーのキャスティングのように前振りの時にスナップを利かせる、あるいは投げ釣りのように力を入れると、テンカラでは逆に毛バリが飛ばなくなってしまう。力を入れるのはバックキャストの時にハネ上げる時だけで、前に振る時はサオを止めるタイミングのみを考え、そのことに意識を集中するとよい。力加減は「後ろ7割、前3割」という感じだ。
もう一度おさらいすると、
「後ろへのハネ上げ→12時の位置でサオを止める→ラインが後方にスルスルと伸びていく→伸びきる手前で前振りに移行→10時(2時)の位置で前に倒したサオを止める→ラインとハリスがほどけるように伸び、最後に毛バリが着水する」
これが一連の形となる。
効率よく練習するには
●毛バリをつけて練習する
たかが毛バリの重さで…と思うかもしれないが、キャスティング時の毛バリの重さや空気抵抗は、使用する毛バリによってずいぶんと変わるものだ。ハリスも毛バリも付けないで練習するよりも、実際に使用する毛バリをハリスに結んで練習しよう。その際、特に釣り場ではない所で練習する場合、周囲にいる人やモノに引っかからないよう、毛バリのハリ先を切り落とし、危険のないようにして行なおう。
●後ろ振り時にラインの動きを目視して確認する
実際の釣りでは振り込むポイントを目で見て定め、そこに毛バリを振り込むようにするのだが、練習の時には後方に伸びていくラインを目で追い、ライン→ハリス→毛バリが順序よく伸びているかを確認しよう。先にも述べたが、バックキャストが上手くいかないと、サオを前方に振り下ろしても、きれいに仕掛けが伸びていかず、仕掛け全体が失速し、クシャクシャになって着水することが多くなってしまう。
●毛バリ先行で静かな着水を
ある程度自分のキャスティングの形が決まったら、後は自分自身で力を加減し、「毛バリ先行、静かな着水」を心がけるように練習しよう。キャスティングの最終的な目標が、「毛バリをねらった場所に正確に振り込む、しかも静かに」ということになるので、それができるようになってから、それぞれの釣り場や釣り方に応じた振り込みを作り上げていけばよい。
ねらった場所に毛バリを運ぶことができれば、ヤマメやイワナといった渓流魚を自分の手で釣りあげることはけっして難しくない。ぜひ、シンプルで楽しいテンカラキャスティングに挑戦してほしい。
よしだ・たかし
1960 年生まれ。埼玉県所沢市在住。長年、バスフィッシングや渓流のフライフィッシングなどに親しんだのち、テンカラを始めてそのシンプルさと奥深さに入れ込む。以来、釣りはテンカラのみ。現在は「吉田毛鉤会」を主宰し、東京奥多摩の「TOKYOトラウトカントリー」を主な会場にテンカラ教室を開催している
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2018/1/26