サケ釣りのマナー問題が取りざたされるようになって久しいが、近年は各地で釣り場の閉鎖や立入制限など、事態は深刻化している。嘆いているだけでは何も変わらない。今こそ、この状況と真摯に向き合うべきだ。
斜里町がローカル・ルールを策定
「ライセンス制」は必要か
昨今の事情から全道の愛好者たちの間では「岸からのサケ釣りにもライセンス制を設けてほしい」という声があがっている。しかしながら導入へのハードルは高い。これは現在の法制度によるところが大きいようだ。
まず、漁業に関する規制ができるのは大臣か知事、海区漁業調整委員会に限られる(各市町村に権限はない)。ちなみに船釣りについては漁場利用調整の観点から、海区漁業調整委員会指示により許可制(ライセンス制)とすることが可能な旨が(水産庁長官通知にて)述べられている。一方の海浜からの釣りに関しては、許可制が「可能」とはされていない(※ ショアのライセンス制は、全国的に事例がないらしい)。
あるいは「遊漁規則や入漁料は設定できないの?」という疑問もあるだろう。これについても法的制約が存在し、現状で遊漁規則を定めることができるのは内水面のみであり、海水面には設けられないという。理由は内水面資源の特性として遊漁の比重が高く、増殖しなければ成り立たない魚種が多いから(海面漁業とは性格が異なるため)だそう。
そもそもライセンス制や遊漁規則、入漁料は最適解なのだろうか。「お金を払っているのだから」とグレーな行為を働く人もいないとは限らない。また〝ライセンス制〞と銘打つ以上、ライセンス保持者にはある程度の知識・教養が必要になってくる。敷居が高くなることで〝サケ釣り離れ〞を助長してしまわないだろうか?議論の余地はまだまだありそうだ。
そんななか、サケの水揚げ量日本一の斜里町では「斜里海浜サケ・マス釣りローカル・ルール」が検討されている。同町は今年7月に暫定版を策定。その内容発表と確定版に向けた検討を、先月2日の「斜里海浜のサケ・マス釣りを考えるシンポジウム」で行なった。会場の「ゆめホール知床」には地域住民や町内外の釣り人、漁業者から漁協関係者にいたるまで総勢106名が来場。ローカル・ルールへの期待と、関心の高さがうかがえた。
同町産業部・水産林務課長の森高志さんが「斜里海浜サケ・マス釣りローカル・ルール」の検討経過を説明したのち、質疑応答の時間では活発な討論がなされた。下記は質問・意見の一部である。
「ただでさえ漁獲量が減っている昨今、漁師が網を上げている時期には釣りも禁止にしてほしい」(漁業者)
「早朝からの騒音でノイローゼになる住民もある。メディアはルール面の啓蒙にもっと力を入れてもらいたい」(地域住民)
「とくに町外の釣り人にマナー違反が多い。そういった人たちにどう周知するのか」(町内の釣り人)
思えば地元住民や釣り人、漁業者、漁協関係者などが一堂に会する機会はめったにない。立場が違うからこそそれぞれが感じていること考えていることを共有する意義がある。森課長は「皆様の意見を尊重し、確定版に向けてよりよいルールを検討していきたい」と話す。今回のシンポジウムを皮切りに、さまざまな立場の方から意見を聞きながら、来年7月までの確定を目指すという。
以前は超有名ポイントだった幌別川河口周辺だが、ヒグマの出没により近年は立ち入りが制限されている。ゴミがヒグマを誘引してしまった悪しき事例
とくに知床はヒグマの濃密な生息域だけに、ゴミ投棄が及ぼす影響は言わずもがな。昨今はカラフトマスが激減していることもあり、飢えたヒグマがいつ人間に牙をむくかは分からない
『斜里海浜のサケ・マス釣りを考えるシンポジウム』ではローカル・ルールの概要だけでなく、同町が抱えるサケ・マス釣りの問題や資源保護の現状について発表がなされた。写真はパネルディスカッションのようす
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前号のアンケート結果
North Angler’s (2023年10月号) では、読者アンケートにて「サケ釣りのルール・マナーについて、思うところがあれば書いてください」という設問を設けた。その結果、 寄せられた回答は以下のとおり。
「ゴミのポイ捨てや迷惑駐車など、マナーの悪さが目立つ。そのせいで、よく行っていた漁港が立入禁止になってしまった」
「前日からの場所取りや、ときには密漁者(河川内での釣りや引っ掛け)の姿もあり、もはや無法地帯と化している」
「一度に何本もサオをだしている人がいて、なかなか釣り場に入れない」
「釣り人どうしの間隔が狭く、余裕を持って釣りが楽しめない」
「これ以上釣り禁止の場所が増えないか不安」
なかには「釣り場の雰囲気が悪いので、もう10年近くサケ釣りから離れている」や「サケ釣りに行くと必ずといっていいほど嫌な気持ちになる」という嘆きもあった。本来は楽しいはずのサケ釣りだが、耳にする話題はこのように暗いものばかり。近年はとくに顕著になっている気がする。今や釣り人が邪険にされている感すら否めない。ただ、悲観しているばかりでは話が進まないどころか、状況はさらに悪化してしまう。まれにSNSで見かける まれにSNSで見かける〝吊し上げ〞のような投稿はたしかに効果があるかもしれない。一方これでは「そんなに殺伐としているなら怖いしサケ釣りはやめておこう」などと委縮してしまう人も出てくるだろう。「釣り人が減る=よい思い(釣り)ができる」は短絡的な考え方だ。将来的なサケ釣り市場の衰退を危惧するのならば、決して得策でないことは明白。だからこそ、(手垢のついた表現かもしれないが)一人ひとりが当事者意識を持つことこそ大切なのではないだろうか。釣り場に節度あるアングラーが増えれば増えるほど、マナー違反を犯せる雰囲気ではなくなるはずだ。
詳しくは斜里HP(斜里海浜サケ・マス釣りローカル・ルール(暫定版)始まります!)に掲載されています。
※このページは『North Angler’s 2023年11月号』を再編集したものです。