肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
『TOP TROUT北海道』/つり人社北海道支社編
ノースアングラーズ編集部/平澤裕樹
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
ノースアングラーズ編集部/平澤裕樹
1975年生まれ、生まれも育ちも北海道札幌市。1999年、大学在籍中にアルバイトとしてつり人社に入り、以来、North Angler’s編集部ひと筋。好きな釣りはトラウト&サーモンのルアーフィッシング。
すべては1つのセミルアーから始まった
これまでNorth Angler’s COLLECTIONと銘打った書籍を15冊出してきた。
そのなかで、特に思い出深いのは、僕が一冊丸ごと編集した最初の書籍で、自らもハマり、今でも一番好きなジャンル“水面で鱒を釣る”をテーマにした『TOP TROUT北海道』だ。
今でこそ、セミを模したルアーを筆頭に水面に浮かべるトップウオータープラグでトラウトをねらうのは珍しくなくなった。
だが、当時まだ「トップトラウト」はかなりの“キワモノ”的ジャンルだった。
僕がこの釣りに興味を持ったのは千歳市の釣具店『清竿堂』で、店主の二橋龍太郎さんに「コレ、使ってみて」と1つのルアーを手渡されたのがきっかけだ。
僕は入社したばかりで駆け出しの頃だったが、とにかくモンスターブラウンを釣りたくて支笏湖のハイシーズンである6月、出社前の早朝に朝駆けを繰り返していた。
しかし、難攻不落の湖は、そう簡単に微笑んではくれない。
何か釣れるヒントはないものか……。
教えを乞うため、『清竿堂』によく立ち寄っていた。
その時、二橋さんからいただいたルアーは『福ゼミ』。
確か、2000年の春頃だったと記憶している。
トラウト関連のアイテムをリリースしているルアーメーカーD-3カスタムルアーズ代表・福士知之さんが手がけたセミルアーだ。
当時、福士さんはメーカーを立ち上げる前でほとんど趣味でルアーを作っていた時代。
その頃、名もなかった福士さんのセミルアーを“支笏湖仕様”に改良させたのが二橋さんだった。
全身真っ黒で、腹部はアワビ貼りというのが『福ゼミ』の特徴である。
二橋さんは生粋のフライフィッシャーだったが、昔からセミフライは“真っ黒”を使って実績を上げていた。
福士さんはそれにヒントを得たのだと思う。
アワビ貼りに仕上げたのは「浮かんだセミを水中から見るとキラキラ輝いていたから」と話していた。
そして、『福ゼミ』を、ただ浮かべてじっとしていると……。
それまでが嘘のように水面が割れた!
僕のウデではモンスターに出合えなかったが、それでも、60㎝級のブラウンをキャッチすることができた。
そのことを二橋さんに伝えると自分のことのように喜んでくれた。
以後、僕は「トップトラウト」の世界にのめり込み、福士さんと、二橋龍太郎さんのご子息でNorth Angler’s誌にたびたび登場している二橋翔大さんと取材&プライベートで一緒に釣りを楽しむ機会が多くなった。
そして、ルアーにとどまらず、マッチするタックルシステムなど、あらゆる視点から「トップトラウト」の釣りを模索した。
『TOP TROUT北海道』は、その集大成。
タイトルバックに『福ゼミ』を入れたのは、そういう理由だ。
僕が言うのもなんだけど、試行錯誤の歴史が分かり、今読み返しても新鮮で面白い。
最後に。
先日、長い闘病の末、二橋龍太郎さんが永眠された。
心からご冥福をお祈りいたします。
『TOP TROUT北海道』
単行本:114ページ
出版社:つり人社
発売日:2005/6/15