編集部2020年4月17日

人と都市と自然は、相対する存在ではなく、混ざり合っているもの。/アームチェアフィッシングの部屋 第8回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『Tamagawa 東京ネイチャー』/津留崎 健

FlyFisher 編集部/滝大輔

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
FlyFisher 編集部/滝大輔

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1973年2月17日生まれ。東京都出身。アルバイトとしてFlyFisher編集部へ潜入し、ほぼフライフィッシング一筋の社会人生活を送る。同誌編集長を務めたあと、映像編集室、デジタルコンテンツグループを経て、2019年からFlyFisher編集長に再就任。


完全にネクストステージにいったと思います。


 写真家、津留崎健さんが切り取る釣り人と自然は、時に荒々しくダイナミックで、「たかが釣り雑誌」を「されど釣り雑誌」に昇華させるブースターのような役割を持っている、と私は考えています。
 そんな津留崎さんとは雑誌FlyFisherを通じてもう20年以上お仕事をご一緒させていただいています。前作の写真集「幸福の森』発売の際には、一緒に全国のギャラリーを巡り、トークショーのお手伝いもさせていただきました。ここでは書けないことも含め(笑)、津留崎さんとは浅からぬお付き合いをさせていただいている、というわけです。
 そんな私は、今作『Tamagawa 東京ネイチャー』は津留崎健第2章といってもよいものだと考えています。その理由を以下に挙げます。


01-15
 まず1点目。
 釣りの写真ではない、ということ。世界でも有数の大都市を流れる多摩川を舞台に、生き物や風景を被写体にしていますが、そのほとんどが釣りではありません。大量に遡上するアユや水面上に目だけ出している甲殻類、沈む使用済みコンドームに産み付けられたコイの卵など、これまでとは違う、でも当然ながら津留崎健の作品とわかる写真が並びます。ずっと釣りの写真を見てきた私としては新鮮な驚きでした。

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津留崎さんお得意の半水中の構図でこれか〜、と


01-B
同じ水で大量のアユが産卵する

 そして2点目。こちらのほうが重要ですが、1点の写真から受け取る内容が、より複雑だということです。
 これまでの写真はたしかに美しくダイナミックでした。しかし、ほとんどが「釣りの写真」としてその枠に収まるものだったことは否定できません。  しかし、ここに掲載されている作品は、美しくダイナミックという土台の上に、さらにいくつものレイヤーが乗せられ、ずっとスケールアップしているように私には感じられます。釣りという縛りと取ると、この人はこういう仕事をするのか、と正直驚きました。
 これらの写真は、コイがコンドームに卵を産み付ける環境を肯定も否定も礼賛もしません。津留崎テイストのまま、ゴロリと目の前に出してきます。釣りの写真であり、都市の写真であり、自然の写真であり、環境の写真であり、感じ方は我々に委ねられて、社会、環境、都市、人間、汚染、復活、豊穣……、見る人間の心にさまざまなイメージを浮かび上がらせるはずです。
 CM のキャッチコピーでも、俳句でも、映画でも、音楽でも、優れた作品は、作り手側からの一方通行ではなく、見る側の感情や解釈が加えられてさらに高みへ登るものです。『Tamagawa 東京ネイチャー』もそんな写真集だと思います。


01-C
同じ水辺で人々は花火大会を楽しむ


『Tamagawa 東京ネイチャー』
単行本(ソフトカバー): 128ページ
出版社: つり人社
発売日: 2015/9/25

そしてセットでおすすめの2冊:人と自然の関わり方を考える本


1冊目
『なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか』
クリス・D・トマス著 原書房
02-15

 著者は英国の生態学者と進化生物学者です。彼は、絶滅している種よりも新たに定着している種の数が多いエリア(その多くは人の手が入っている牧草地、果樹園、水路など)があることを報告し「多くの生物は進化したところで住み続けるのではなく、たまたま生き残った場所で生息している」、「移入種が市民権を得るのにだいたい2000年かかる」と語ります。

 来種の問題は私たち釣り人にとって深く関わるトピックですし、同じ釣り人でもジャンルが変われば意見は正反対だったりします。しかしそのどちらでも、現在世間で交わされている「生物多様性」「外来種駆除」の議論に違和感を持っている方にとっては腑に落ちる話がたくさん詰まっています。

2冊目
『絶滅できない動物たち』
M・R・オコナー著 ダイヤモンド社
03-13

 著者はニューヨーク在住のジャーナリスト。写真にある帯の言葉に付け足すことはありません。取り上げられている動物は、キハンシヒキガエル、フロリダパンサー、ホワイトサンズ・パプフィッシュ、タイセイヨウセミクジラ、ハワイガラス、キタシロサイ、リョコウバト、そしてネアンデルタール人。それぞれのエピソードについて、私にとっては知らないことばかりで、こちらも刺激的な読書体験でした。

 おすすめの楽しみ方は、『Tamagawa 東京ネイチャー』、『なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか』、『Tamagawa 東京ネイチャー』、『絶滅できない動物たち』、『Tamagawa 東京ネイチャー』と交互に読む(眺める)というもの。それぞれの回で多摩川の写真が違って見えてきます!

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