特集は『渓流釣り「一尾釣るまで」塾』。熱心なベテランも、これからチャレンジしたい入門者も、待望の一尾を手にするプロセスをフルサポート。暖冬小雪の今シーズンは開幕からチャンス。
『山溪ハンディ図鑑13 日本の海水魚』/写真・解説:吉野雄輔 監修:瀬能宏
つり人編集部/佐々木徹=文
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
つり人編集部/佐々木徹
1984年12月18日生まれ。広島県出身。大学在籍中にアルバイトとしてつり人社に入り、以来Basser編集部、デジタルコンテンツグループを経て2020年からつり人編集部に。好きな釣りはバスフィッシング。
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ダイバー時代の私のバイブル
僕が釣りを始めたのは小学4年生のころ。そこから8年間、暇さえあれば釣りばかりしていましたが、大学入学とともにダイバーになりました。釣りのサークルに入ろうと思っていたのですが、「泳いでるハコフグの幼魚が見れるよ~」という誘い文句に気が変わったのです。
一番の興味はやはり「実際海の中ってどーなの?」ということでした。高校生のころは堤防から投げ釣りやフカセ釣りをすることが多かったです。そのころ必死に妄想していた海中を覗けるのはとてもエキサイティングなことでした。
初めて潜ったのは釣りのポイントでもある伊豆の大瀬崎。正直相当ビックリしました。「めちゃめちゃ魚おるやん!」と。当時の僕にとって難攻不落だった40cmオーバーのクロダイや25cmオーバーのメバルがうじゃうじゃいたのを見てショックを受けました。
もうひとつ驚いたのは矛盾するようですが「魚ってぜんぜんいないんだな……」ということ。障害物や地形の変化があったりするところにはたくさん魚がいるけど、何もないところには果てしなく何もいないんです。海中で孤独を感じて怖くなるくらい生き物がいないゾーンもありました。「教科書には障害物の近くをねらえとか書いてあるけど、実際はどこにでもいるんじゃないの?」と疑っていた自分にとってこれまたショックな光景でした。釣りの教科書は正しかった! こんな空白地帯に仕掛けを投げてずっと待つ可能性もあるのだと知ってゾッとしました。というか、過去の自分はほとんどの時間をこういう場所で待っていたのではないか……。いや、考えないことにしましょう。
潜り始めて何年か経ったころ、もうひとつの興味が沸いてきました。潜って見える魚たちの目の前にエサやルアーを垂らしたら入れ食いなのでは……?
僕はジャケットにハリのついていないメタルジグ(ラインつき)を入れて潜ってみました。根魚やエソ、ヒラメなどを見つけたらとりあえず目の前に落とすことにしたのです。ワクワク。
しかし、現実は予想とはほど遠いものでした。ほとんどの魚は目の前にメタルジグを落としたり誘ったりしても無視。めちゃくちゃしつこく誘ってようやく逃げる……というケースがほとんどでした。たまーに激しくルアーを追ってくれる魚もいて、彼らには露骨な共通点がありました。物陰に隠れた気になっている魚や、2尾以上で行動している魚はかなりの高確率でルアーに好反応を示してくれたのです。「待ち伏せしている魚をねらえ」も「競争意識を利用せよ」も釣りの書物によく出てくるセオリーですが、これも正しかったのです。また、ルアーフィッシングではよく「魚のスイッチが入る」という表現が使われますが、タイミングや個体ごとにテンションの落差が激しいようすをこの目で見て、まさに「スイッチ」という表現がピッタリだと思いました。
その後400本(タンク本数)前後潜っていろいろな海中を覗きました。魚がいる場所を見つけることがまず難しく、いたとしても釣れる魚はごく一部。ダイビングという別の趣味を通じて、釣りの難しさと奥深さを再認識することができました。
今回紹介している『日本の海水魚』はダイバー時代の自分のバイブル。1246種類の海水魚がすべて海中写真とともに紹介されていて、釣り人用の魚図鑑とはまた別の楽しみ方ができる一冊です。釣りの対象魚ではない未知の魚たちもたくさん載っていているので魚好きにもオススメです。写真や文章に釣りのヒントがちりばめられています。
『日本の海水魚 (山溪ハンディ図鑑) 』
単行本: 545ページ
出版社: 山と溪谷社
発売日: 2008/8/29