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編集部2020年5月5日

友釣りファン必読のアユの生態学読本/アームチェアフィッシングの部屋 第26回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『アユの話』/宮地伝三郎

つり人編集部/佐藤俊輔

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
つり人編集部/佐藤俊輔

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1980年6月6日生まれ。神奈川県出身。映像系専門学校を卒業後、助監督として映画の現場を綱渡りしながら映画以上に釣りに熱中。2007年から月刊つり人編集部の一員になる。特に好きな釣りはアユ、磯、渓流。

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アユの「ナワバリ」範囲を知りたい。

 我が家は嫁と娘の3人で生活しています。「ステイホーム」をしていると「パパはこっちに来ないでね」と仕事机に追っぱらわれることがしばしば。亭主元気で留守がよいとは言いますが、全くそのとおり。多分に私の個人的性格にもよるのでしょうが、ナワバリを主張する女ふたりと無駄な争いを避けるために、隅っこ暮らしを粛々とするのみ……。そんなゴールデンウイークです。
 さて、ナワバリといえばアユの友釣り。若葉の美しくなる5月には各地で飛び交うアユのソ上情報を確認するのが我が編集部のルーティーン。月刊つり人では例年5月発売号で6月解禁のアユ河川の解禁情報を掲載します。全国の漁協に電話をかけ、ソ上のようすや放流魚の生育ぐあい、解禁日を問い合わせます。今年は異例の解禁となる川もあるでしょうが、天然アユは人間世界と関係なく、元気満点ひたむきにソ上をしています。解禁のころには早期ソ上の「一番上り」が美味しい苔の付いた石にナワバリを張っている川も多々あるはず。もちろん、ほどよく成長した放流アユもしかりです。
 前置きが長くなりましたが、本の紹介です。果たしてアユはどの程度の区域にナワバリを持つのでしょう? その答えが載っていのるのが宮地伝三郎著『アユの話』です。


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 この本は1960年に岩波新書から発行。著者の宮地さんは東大理学部を卒業し、京大理学部の教授を勤め、動物生態学を専攻された超エリートな学者さんです。なぜアユの研究を始めたかといえば「川へ放流するアユ苗の密度の基準はいかほどか、という水産庁委託試験の課題を引き受けた」からです。

 戦後間もない1949年12月、漁業法が改訂されました。「湖や川などの内水面で天然にふえた川魚を、特定の人たちに独占させるのは不合理なことだから、漁業権には魚族を保護し増殖する義務を伴わせるべきだという占領軍の考え方が盛られ、その指導にあたるために、各都道府県に漁業者と学識研究者と遊漁者の代表とからなる内水面漁場管理委員会がおかれた。ところが、この委員会が法律にもとづいた仕事を始めたところ、漁業協同組合に示すべき増殖の義務の内容や数量が、誰にもわからない。たとえば、この川にはどれくらいの数のアユを放流させるのが適当か」ということを割り出していく課題を宮地さんら京都大学の研究者が担うことになったのです。
 川の「包容力」または「生息可能密度」を明らかにすべく着目したのがアユのナワバリ行動です。「二尾のアユはある距離以内には共存できないはずである。そこで、この許容範囲の広さを一つの目やすに使って、アユのすみうる密度の基準を求めることはできないだろうか」と考えたわけです。
 この時代は魚に取り付けられるような発信機やGPSもありません。どうしてアユのナワバリ範囲を見極めたかというと京都を流れる川幅5mくらいの鞍馬川という川を、長さ9mの金網でしきって実験区を作りました。そしてこの範囲に棲んでいた25尾程度のアユに次のような標識を付けました。
「特定のアユ一尾一尾について、その時々刻々の動きを追跡したいのである。そこで、色とりどりのナイロンの布切れを、背びれの前の部分にナイロンテグスでぬいつける方法をとってみた。つまり赤や黄の旗さしものを背につけてアユが動くのを、水面の上から観察しようというわけである」
 このように実に地道な観察を真夏の炎天下に行ない、ナワバリ範囲を割り出していくのですが、そのスケッチがなんとも芸術的です。


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アユの泳跡を描くと芸術が出来上がる

「まず川底の地形をざっとスケッチしておいて、それにアユの泳跡を書き入れていく。泳跡は美しい図形になるが、その中に、いつも動きまわっている範囲と、ときどき出かけていく範囲とが区別される。他のアユが近づいて来ると、背びれを立て、胸びれをはり、口を大きくあけて、はげしく追う。やって来たアユは、突撃をくらうと、ほうほうの態で退散するが、追う方も深追いはせず、二~三㍍で引きかえす。ときどき出かける範囲といったのは、ほぼこの出撃限界なのである」
 果たして「なわばりの区域は、川底に投影した平面積として、だいたい一平方㍍以内で、時々動きまわる周りの場所を加えた行動圏は、ふつう二~三平方㍍以内」だということが分かりました。「その広さはあたりの微地形に左右されているが、となりに他の個体がいてもいなくても、その広さや形はあまり変わらない。あるアユのなわばりを写し取っておいて、それを釣り上げると、まもなくそこに別のアユがやってきて、ふたたびなわばりを作るが、その形は前住者のものと全く重なる。アユがすみつく場所の微地形をみとめる方式――利用のしかたには個体差はなさそうである」という観察結果が出たのです。


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アユのハミ跡にはこまかい筋が見えるが、それは上あごと下あごにある約13個の歯によってつけられる。アユの属名のPlecoglossusとはひだになった舌という意味だそうです

 本書にはアユが1日にどれほどの藻類を食べるのか? 砂地に程よい石を置くと何日後にアユがナワバリを持つのか? 群れアユの行動とは? 居着きアユの補給源となる淵の重要性なども説かれ、アユの生活史が多く解説されています。友釣りファンなら実釣で出会ったシーンの数々を思い浮かべながら、ふむふむと頷かざるを得ない実に楽しい本です。
 この『アユの話』を私が知り、耽読するようになったのはある書評がきっかけでした。月刊つり人で「釣本耽読」という世良康さんによる書評連載があります。そこに取り上げられたのですが、世良さんの書評がまた読ませる。松本清張の名作『張り込み』を引き合いに出して、このアユのナワバリを張り込み観察する宮地さんら研究者たちの奮闘ぶりを描いています。世良さんといえば別冊『鮎マスターズ』や別冊『鮎釣り』でもおなじみの、アユ釣りファンなら知る人ぞ知る名ライター。連載をまとめた『釣りの名著50冊』では本書も取り上げられており、ぐいぐい読んでしまう魅力的な書評ばかり。先行発売されているデジタル版でも読めます。自粛時間のお供にぜひ。
 それにしても早くアユが釣りたいです。


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アユは「川魚の王」とも称されます。百獣の王のライオンは強さを問題にしているわけですが、アユは味のよさや魚体の可憐さからそう称されているのかもしれません


『アユの話』
新書: 308ページ
出版社: 岩波書店
発売日: 1994/7/15

『釣りの名著50冊』
フォーマット: Kindle版
出版社: つり人社 (2020/4/28)





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つり人 2020年5月号

列島をゆるがすコロナウイルス。けれども、日増しに暖かくなる春の日を、じっと家にこもって過ごすのはやっぱり体によくない。その点、手軽な海の釣りは、風も気持ちよく、大人も子どもも、思い切り深呼吸しながら時間を過ごせる。ウミタナゴ、メジナ、クロダイ、カレイ、アオリイカ、カサゴ……。元気な魚たちが泳ぐフィールドで、がんばろう、ニッポン! そのほか、3名手の渓流解禁レポート、里川で見つかる美味しい道草、みちのくタナゴ旅など旬の釣り満載でお届け。