2022年の「買ってよかった」は10年前の買い物でした。我が銀河系で10年続いたハイパー・オペラ(T.D.ハイパークランク伝説)の開幕からフィナーレまでをお届けしましょう。
T.D.ハイパークランク1066Ti(ダイワ) 10年目のハイパー・ウォーズ
文◎佐々木徹
2022年の「買ってよかった」は10年前の買い物でした。我が銀河系で10年続いたハイパー・オペラ(T.D.ハイパークランク伝説)の開幕からフィナーレまでをお届けしましょう。
筆者プロフィール
佐々木徹/銀河系バス釣り雑誌『月刊Basser』編集長。盟友R2-T2とともにバスフィッシングの秘密を探る旅の途中。
普段は魚探解析係としても活躍するR2-T2
フォースを感じながらドラッギング。ピピピポパパ!とR2が音声を発するとたいてい釣れます
「ハイパークランクがおかしな使われ方をしているのです!」
遠い昔、はるか彼方の銀河系で――。
僕はR2-T2(バスフィッシングの秘密探査を主業務とするドロイド)から寄せられる情報をもとに銀河系バス釣り雑誌『Basser』の編纂に励む日々を送っていました。10年以上前の初夏、津久井湖から帰着したR2-T2が再生したホログラムには恐るべき情報が入っていました。
「助けて! あなただけが頼りです。T.D.ハイパークランクがおかしな使われ方をしているのです!」
それは新たなるサーガの幕開けでした。
さっそく現地(津久井湖)に飛び、渦中の人物とのコンタクトに成功。宇宙港機密保持法により名前を明かすことはできませんが、ハードベイト限定のトーナメントH-1グランプリで活躍しているアングラーです。その人は当日もナイスフィッシュをハイパークランクで釣っていました。
どうやって釣ったんですか?
「普通に巻いただけだよ」
場所は?
「あのブイの近くだよ。普通ですよ、普通」
いや普通ではありません。だってそのブイがある場所は水深15m。ブイ直下で釣ったならわかるけど、ディープクランク……?
巻きスピードはどんな感じですか?
「総合的に普通ですね。あ、そろそろ帰らなきゃ家族に怒られちゃう。また会いましょう」
上記の会話は一部ですが、わずか3分の会話で「普通」という言葉が10回以上出てきました。そこに宇宙の謎が隠されていることだけは確信できる内容でした。その後僕のR2-T2による諜報活動のし烈さは増し、大枠を掴んだうえで、数ヵ月後にそのアングラーと再度接触。R2-T2による嘘発見音波を当てながら当時の私の主要なやり方である「聞くまで帰りませんよ!」を繰り出し、絶対に口外しない約束でハイパーの秘密を教えてもらいました。
・亀山湖に「ハイパー小出」なるマスターがいる
・トーナメントのウイニングメソッドになっており亀山湖では知る人ぞ知るテクニック
・巻きスピードは超絶スロー。かなり強烈なウォブリングが出る
・レンジは表層~4mまでさまざま。最初に普通に巻いて攻めたいレンジまで潜らせ、その後デッドスローで巻くとレンジキープできる
・色はカルピスっぽいやつを使う人が多い
・カバー周りはもちろん、オープンウォーターのド中層でも釣れる
・ボイル場で待機中のバスも釣れる
僕のためのルアーかも知れない
ビッグバドを高速引きで潜らせて強烈ウォブリングで釣ることが日常であった僕にとって、「オレのルアーかもしれない」と思わせられる内容でした。ハイパークランクは当時は生産休止中だったため、僕は中古の武器商人を訪ねてハイパーの実弾をかき集めました。
しかし、教わった通りに使ってみてもイマイチ釣れないんですよね。チェイスはたくさんあるんですけど……。そこで私は「カルピスっぽいやつ」の話を思い出しました。どうせ使うならみんな使ってるやつを使ってみよう!
しかし……。
不自然なほど「カルピスっぽいやつ」の在庫がない! そう、その威力を知るアングラーにより「プロズシークレット」(当時のカラー名)の買い占めが起きていたのです。というか、公式カラー名にシークレットって入っている時点でシークレットちゃうやん、とは思いつつ、美味しそうな情報にはとりあえず乗ってみるのが正しい記者の在り方でしょう。ようやく在庫を確認できたお店に行くと、驚愕の数字が待っていました。
「きゅ、きゅうせんごひゃくえん!!??」
「お金よりアタリが欲しい」が我が銀河系の掟。9500円という金額はカルピス伝説の信ぴょう性を示しているように思えました。2万円だろうが4万円だろうが釣れるなら購入一択です。
「2個ください」
そうして手に入れた諭吉ハイパーはデビュー戦でいきなり躍動しました。亀山湖の最上流にあるサイトの鉄火場「プール」に向かった僕は、先行者の姿を見て絶望。天才の名をほしいままにしていたサイトフィッシング超人だったからです。その名手は30分ほど粘り、「バスいますけど天才すぎてぜんぜん食いませんね~」と下っていきました。代わりに入ってハイパーを水面直下でガコガコさせていると、それまで平和に泳いでいた40cm級がいきなり食い上げ! 天才が見切った天才が僕のハイパーを襲ったぞ!
ハイパーデッドスロー引きの発祥の地でもある亀山湖。この魚は最上流の「プール」で釣れた1尾。流れに逆らうコースで、一点で長時間首を振らせているとハイパーが襲われました
以来、僕の「諭吉カルピス」への信頼は絶大なものになりました。なぜこのカラーが釣れるのか、それは誰に聞いてもハッキリしません。「もちろんほかの色でも釣れるけど、なんだかんだこの色がいいんだよね」という意見が支配的です。のちに『Basser』で取材することになるハイパー小出さんも同じような話をしてくれました。視認性がいいのは間違いないです。「金属リップが小魚に、ボディーがフィッシュイーターに見える」という話に出会ったこともあります。
2022年秋の戸面原ダム。水面直下をデッドスロー引きするという今やノーマルな使い方にて
時は流れ2022年。野尻湖でも活躍
時は流れ、H-1グランプリなどを通じてハイパーの秘密は徐々に公然のものとなり、ダイワから復刻版も発売されました。僕もハイパークランクを通じて多くのバスと出会うことができました。普通の巻物だと厳しい状況下で、ハイパーのデッドスロー引きはついつい食べちゃう、というバスは思いのほか多いようです。ハイパークランクについての記事は『Basser』2021年12月号のディープクランク特集にハイパー小出さんの亀山湖ロケのようすを掲載しているのでそちらをご覧ください。
そして2022年。僕はR2-T2とともに夏の野尻湖にいました。小バスの入れ食いを楽しんだ一日の終わり、桟橋で衝撃的な釣果を聞きます。その日は周りの釣り人もサイズアップに苦戦していた一日で、40㎝アップはほぼ出ていませんでした。
「45cmアップを2本。たった2バイトしかなかったよ」
そのヒットルアーはハイパークランクでした。リップ裏にオモリを貼り、スーパーディープをドラッギングで攻めるというもの。そういえば、ハイパーといえばかつては板オモリチューンによるディープ攻略が有名でした。デッドスローにばかり頭がいっていた僕にとって、その方の話は逆に新鮮でした。
その後のH-1グランプリ@野尻湖では1/2ozシンカーを装着したハイパークランクで水深10mをねらい、高速寄りのリトリーブでナイスフィッシュをキャッチ。ウォブリングが極めて大きいハイパークランクは、ヘビーウエイトを仕込んでもしっかりアクションしてくれるという意味でディープでも唯一無二の存在なのです。
そのハイパーは10年前購入したあの個体でした。両極の使い方で別の顔を見せてくれたハイパークランクはルアーとバス釣りの奥深さを教えてくれました。9500円は安すぎる買い物でしたね。
野尻湖の10mで釣った800g級のスモール。オモリを貼ってディープを攻めるのはかつては常とう手段でしたが、今はあまり見かけなくなりました。カルピスはディープでもよく釣れます
つり人社編集部員が買ってよかったアイテム2022
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