慣性スライドを備えたヘビーシンキングミノーの名作、D-コンタクトの開発秘話をスミスの平本仁さんに聞いた。
慣性スライドを備えたヘビーシンキングミノーの名作
解説◎平本仁
D-コンタクト50開発ストーリー
渓流ではもともとウェイビーを多用していたのだが、シンキングとはいえルアーのシンクレートが浅いため、下層からチェイスするヤマメ、イワナが届かないことがあると感じていた。そこで、もっと自重のあるミノーならより下のレンジをトレースでき、バイトを得られるのではないかとの発想で開発に着手したのがD-コンタクト50だ。
いくつかの既存モデルをベースに試作を重ね、ウェイビーにウエイトを追加したりもしてみたものの、いずれも泳ぎがジグ化してNG。それからまったく新規のボディを製作する方向性に舵を切った。ただ、当時は3Dプリンターがなかったため、さまざまなボディ形状をすべて手で削り出すことになり、その中からベストを選別。初期金型を製作した後、半端ない数のサンプリングモデルのスイムテストを経て、リップ形状、ウエイトの量と配置、アイの角度を決定。開発期間は数年に及んでいる。
今振り返ると、それまでの渓流ミノーの常識を覆す製品の開発にこれだけのパワーを注ぐことに対して、会社としては大きな戸惑いと不安があったと思うのだが、ゴーサインを出してくれたスミスに感謝したい。
フローティングミノーをトゥイッチした場合、その浮力からミノーは「アクション〜ポーズ〜アクション」という感じの動きになる。しかしヘビーシンキングのD-コンタクト50は、トゥイッチを入れると初動の最も大きな「アクション」の後に「ボディがねじれて進む」動きが生じ、さらに「微速のスライド」を見せるところが最大の特徴だ。この一連のダートアクションがつまり慣性スライドであり、さらにヘビーシンキングの自重に加えて後方重心の設計にしたことと、ボディサイズのわりに大き目のリップにしたことにより、よく飛ぶ「ディスタンス力」、オールレンジ対応で沈む「ディープ力」、アングラーの個性を活かす「ディレクション力」を手に入れている。
また、ボディの背中中央をへの字に盛り上げことも運動能力の向上に貢献。ボディ側面を平面にすることで、ヒラ打ちした際のフラッシング効果も高めた。リーリング時はウォブリングでアピールし、アングラーの発想力でさまざまな攻略が可能なミノーである。開発者としては、そのポイントの一番おいしそうなところをバシバシのトゥイッチでねらう使い方が好みだ。
D-コンタクトは大き目のリップでヘビーシンキング特有の運動能力の弱さを克服。リップ角を寝かせることで、慣性スライドをより効果的に発生させられるようにもなっている
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根掛かり知らずのD-コンパクト45FES
D シリーズには重量3.5gのD-コンパクト45があり、浅場を釣る時はこれまで同モデルを選んでいた。しかし、D-コンパクト45は沈みが速く、根掛かりを避けるためにロッド操作がせわしなくなることが避けられない。ルアーの上下動もまた激しくなり、魚のミスバイトが多かったことから、もっと軽いシンキングミノーがあれば攻略しやすいはずとの思いから製作したのがD-コンパクト45FESだ。
FESに関してはD-コンパクト45をベースに7種類のウエイトモデルをスイムテスト。最も重い2.8gはキャストしやすいものの沈みが速くてNGとなり、重心位置の違いなどもテストした結果、ベイトリールでも充分キャストできる重量2gに決定。水平でなおかつとてもゆっくり沈むので、空気中で羽が舞い落ちるかのようなそのフォールの特徴から浮力表記を「フェザーシンキング(FeatherSinking)」とした。FESはその略称だ。
言ってみればD-コンパクト45の根掛かりしないバージョンであるのだが、アピールよし、水噛みよし、さらにアップ、クロス、ダウン、すべてよしのハイパフォーマンスなミノーになっている。根がかりを軽減するフェザーシンキングの設定であるうえ、微力のロッド操作に対しても反応するので、30〜50cmの浅場を果敢に探る釣りが可能だ。D-コンパクト45FES でそれまで釣り飛ばしていた浅い流れをねらってみると、予想以上に多くの魚がいる事実にきっと驚かれることと思う。
増水後の平水に戻るタイミングでは、ベイトタックルでの使用がおすすめだ。ダウンクロスにキャスト後、クラッチを切ったままスプールをサミングした状態でアクションを加え、バイトがなければサミングの圧を緩め、適度なテンションをかけながら下流にドリフト。よさそうなところで再びスプールを押さえてアクションを加える。これを繰り返し、バイトがあったらハンドルを回してやり取りする釣法でいい型を取っている。
※このページは『鱒の森 2024年4月号』を再編集したものです。