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編集部2017年3月25日

タナゴ釣り/サクラタナゴとフナ寿司を訪ねて

タナゴ 魚種別釣りガイド

見目麗しき関西の「タナゴちゃん」を求めて、春うららの琵琶湖・水郷地帯へ旅立った。せっかくの琵琶湖、ただ釣りに始まり釣りに終わるだけではもったいない。

おすすめ時期:3-4月

村田春雄◎文

サクラ舞い散る水路の中でヤリタナゴが顔を出す

見目麗しき関西の「タナゴちゃん」を求めて、春うららの琵琶湖・水郷地帯へ旅立った。せっかくの琵琶湖、ただ釣りに始まり釣りに終わるだけではもったいない。土地の風光・風物を訪ね、郷土の味と温泉を楽しみ、そして可憐な魚体に欣喜――こんな1泊2日の“のんびり釣行” もいいもんだ。

この記事は『つり人』2016年5月号に掲載したものを再編集しています。

琵琶湖の春の風物詩、ニゴロブナ漁


 遠く比良山系の頂に残る雪が春陽に光り、青一色の琵琶湖の湖面に白い尾を曳いて、漁師船がタンタンタンとエンジン音をたてて次々に港に帰り着く。

 琵琶湖・近江八幡の堀切港は、ちょうどニゴロブナ漁の真っ盛り。

024-029oumihachiman_cs6 (2) 堀切港に帰る漁船。その向こうには比良山系の峰。春の風物詩、ニゴロブナが水揚げされるのは10 時ごろという

 対岸の湖西に連なる比良山系は、せいぜい1000mクラスの山並みだが日本海気候の影響圏にあり、冬期は意外に積雪が多い。その淡美な景色は「比良の暮雪」として歌川広重の近江八景にも描かれているほどだ。

 ニゴロブナは琵琶湖固有の魚で、角張った下顎にでっぷりとした体、クルッと大きな黒目が愛嬌たっぷり。伝統郷土珍味「フナ寿司」の材料として知られる。ギンブナやゲンゴロウブナでもフナ寿司はつくれるが、味はやはりニゴロブナが一番である。しかも3~4月の抱卵したメスが最も重宝されるため、漁師たちは連日、早朝から船を出し、正午前後に港へ帰り着く。比良の残雪とニゴロブナ漁は、まさにこの地に春を告げる風物詩なのだ。

024-029oumihachiman_cs6 (3) フナ寿司の材料となるニゴロブナ。琵琶湖の固有種で春の抱卵したメスが旨い

024-029oumihachiman_cs6 (5) ホンモロコも春が旬。滋味の深い味わいで釣り人にも人気

 漁船からは、ニゴロブナのほかに、ホンモロコ、スゴモロコ、コアユなど、琵琶湖の幸が次々に陸揚げされる。それを、突堤で待ち受ける仲買人が大・中・小などと手慣れた素早さで小分けし、値踏みする。そして魚は、軽トラックに積み込まれて港から加工場に消えていく。

024-029oumihachiman_cs6 (4) 日本最大の天然湖は多彩な淡水魚を育み、その恵みを生活の糧とする人々が暮らす。堀切港の水揚げ風景

1日1000尾を塩漬けに


 一家でフナ寿司つくりに励む「鮒味」を訪ねた。倉庫には、独特のムッと来るニオイ。重石の載った樽がずらりと並んでいる。代表の大川吉洋さんが言う。

「3~4月は買い付けたフナの塩漬け作業で大忙し。家族総出で1日に1000尾を処理します。そうしてシーズン3万尾以上を漬け込むんです」

 フナ寿司は、まず“塩漬け作業”から始まる。ウロコや内臓、エラを丁寧に取って全身に塩をまぶし、樽に詰めて重石を載せ、貯蔵場に保管。

 そして約3カ月後の7月の土用のころ、“本漬け作業”に入る。樽から塩漬けのフナを取り出し、余分な塩を除いて1日陰干をし、近江米100%のご飯に漬け込んでじっくり熟成させる。そうして翌年の春から出荷。最低1年がかりなのだ。2年ものは値段も倍近いそうだ。 薄くスライスし、チビチビとかじるように食べる。最初はその独特のニオイと味に戸惑うが、慣れると酸っぱさの中に甘みと旨味が立ち上がり、クセになる味わい。身よりも、朱色の卵の部分が滋味だ。酒肴、お茶漬けにもってこい。

鮒味のフナ寿司倉庫
鮒味
(℡0748-58-2535 /滋賀県蒲生郡竜王町橋本617-1)

 滋賀県竜王町で鮒寿司の製造販売を行なっているお店。匂いを抑えた円やかな味が自慢のフナ寿司をぜひご賞味あれ。営業時間は8:30 ~ 18:00。休日は日曜と祝祭日。通信販売もしている。

024-029oumihachiman_cs6 (14) 鮒味の人気商品。抱卵した子持ちフナの『鮒寿司スライス』。無添加の手作り。独特の匂いと酸味があるが、慣れると酸っぱさの中に甘みと旨味が立ってくる。癖になる伝統料理

024-029oumihachiman_cs6 (15) 下処理をしたフナの全身に塩をまぶし樽に詰めて重石を載せ、貯蔵場で約3ヵ月塩漬けに

024-029oumihachiman_cs6 (16) こちらが塩漬けされたニゴロブナ。身がどんどん締まっていく

024-029oumihachiman_cs6 (17) 3 ヵ月塩漬けしたフナを取り出し、余分な塩を除いて1 日陰干をする。近江米100%のご飯に漬け込んでじっくり熟成

024-029oumihachiman_cs6 (18) こうして本漬けされたフナは翌年の春から出荷。最低1年がかりの工程を踏み、2年ものは値段も倍近くなるとか


水郷の〝ヨシ原〟は魚のゆりかご


 琵琶湖東岸に広がる近江八幡市は、安土城跡や八幡山城跡など戦国~江戸期の風情が色濃く漂う歴史の町である。

 碁盤の目状に整備された通りには、白壁の土蔵や黒塀の旧家など古い建物が残り、湖魚や近江牛、赤コンニャクなどの郷土グルメの店があちこちに。また、琵琶湖から八幡山を囲むように引かれた近江商人の水運・八幡堀を和船でめぐるのも歴史情緒たっぷり。

024-029oumihachiman_cs6 (6) 近江八幡の水郷めぐり。船頭の伸びやかな歌声にのどかさを増す春の水辺

 船めぐりといえば、日本三大水郷のひとつ近江八幡の水郷めぐりである。ヨシの繁茂する広大な水郷を、船頭の名調子を聞きながらのんびり&ゆらゆら。堤に咲くサクラや菜の花に心が華やぎ、水辺には時おりカイツブリなどの水鳥が顔を出す。

 歩いて町をめぐり、船で水郷をめぐり、そして車で琵琶湖一帯の春をめぐっていると、道路脇の空地に、刈り取ったヨシをやぐらに立て掛けている人に出会った。

 車を停め、「立派なヨシですね」と声をかけると、「大きいのは14、5尺(4mあまり)。陽気がいいので乾燥させているんだよ」と言う。辻羊治郎さん(71歳)という方で、元は水郷めぐりの船頭をやっていたが、ヨシ原の荒廃ぶりに我慢ならず、その再生のために立ち上がったのだそうである。

琵琶湖の豊穣に欠かせないヨシ 024-029oumihachiman_cs6 (19) 024-029oumihachiman_cs6 (20) 4m あまりあるヨシを乾燥させていたのは辻羊治郎さん。元は水郷めぐりの船頭をやっていたが、ヨシ原の荒廃ぶりに我慢ならず、その再生のために立ち上がった


「ヨシは放っておいたら荒れ果てるだけ。毎年冬に刈り取って焼き払うことで、翌年の春の芽吹きがよくなり、均一で立派なヨシに成長するんですよ」

 ヨシの群落は水を浄化し、水郷の景観にも欠かせない。またニゴロブナやゲンゴロウブナ、ギンブナ、ホンモロコなど琵琶湖の魚たちの棲み処でもある。ヨシに卵を産み付け、そこで孵化し、その水辺で育つのだ。つまりヨシ原は、琵琶湖の魚たちのゆりかごでもあるわけだ。

 刈り取って乾燥させたヨシは、昔は茅葺き屋根の材料やヨシズ、つい立てなどに重宝され、専門に扱う業者が多くいたが、いまは販路探しにひと苦労。

「面白いところでは、茶畑の霜除け・直射日光避けに使われたり、寒天の水切り用になったりしています」

 日本古来の天然建材・生活素材として、ヨシは再発見されているようだ。

満開の木の下でサオをだす

024-029oumihachiman_cs6 (1)_1 近江八幡の水郷地帯。菜の花とサクラに挟まれた春爛漫の水辺でひょいとタナゴザオをだしてみた


 2日目は、お待ちかねのタナゴ釣りだ。琵琶湖一帯のタナゴ釣りに詳しい西村達さんと合流。西村さんは上州屋滋賀栗東店の店長で、どんな釣りもひととおりこなすが、「タナゴの魅力は格別」と言う。

「琵琶湖は関西のタナゴ釣りのメッカ。釣り場は大きく分けて湖北・湖東・湖南があり、ぼくは家と会社の行き帰りや休日の“チョイ釣り”が主なので、湖東~湖南が中心になります」

 タナゴ釣りを始めたきっかけは、病気入院後の“リハビリ”のためだった。

「田んぼのあぜ道を散歩するようなのどかな釣りですから、無理な体力を使わないのでリハビリにいいんですよ。それで連れて行ってもらったら爆釣して、ハマってしまいました。タナゴは日本に18種類いますが、派手なカネヒラ、純朴なアブラボテ、スマートなヤリタナゴ、希少種のシロヒレタビラなど、みな小っちゃくてかわいくて、けな気。どれが釣れてくるかわからないドキドキ感も、楽しみのひとつですね」

024-029oumihachiman_cs6 (8) サクラの花の満開の下でタナゴ散策

024-029oumihachiman_cs6 (9) 琵琶湖から広がる水脈のひとつ。小河川の一角に愛らしい魚影を捜す西村さん

 満開のサクラの木の下の土手をブラブラ。その下には、いかにもタナゴちゃんが遊んでいそうな流れ。あらかじめ見当をつけておいたポイントを、偏光グラスでのぞき込む。

「おっ、いますね」

 すばやくサオを伸ばして仕掛けをセット。まず、エサを付けずに落とし込んで水深をチェックする。そして、ウキを付けてイトオモリを調節。

「エサはグルテンと黄身練り。メインはグルテンですね。黄身練りは朝食の卵の黄身を少し拝借してつくる程度で充分。たくさんあっても、使いきれませんからムダになります」

024-029oumihachiman_cs6 (23) ハリはがまかつ『カネヒラ専用』。主に在来タナゴをねらう琵琶湖周辺ではオカメに使う研ぎバリなどは必要なし。大らかに繊細なアタリを楽しめる

024-029oumihachiman_cs6 (24) 仕掛けは主に連動シモリ。親ウキは大きめ。1m以下の短ザオの出番は少なく、3.6 mクラスのサオに合わせた仕掛けもある

024-029oumihachiman_cs6 (25) メインのエサはグルテン。指先にはめるグルテンリングを使うと装餌に便利

 1回目の振り込みで、ツンッ、ツンッとアタリ。合わせるが乗らない。

「タナゴじゃない感じ」

 2回目も“即ツンッ”のアタリ。今度は逃がさない。しかし、「ああ、やっぱり。オイカワでした」。ザンネン。

 その後、数回振り込むがアタリが出ない。そこで、黄身練りエサに取り替える。

 スッと仕掛けを落とす。フッといきなりアタリ。水中から上がって来たのは、「アブラボテですね。4㎝くらい」。

 見ているだけで癒されるような、ずんぐりむっくりのユルキャラ魚体。次に釣れて来たのは、スマートで素早そうなヤリタナゴ。6~7㎝の中型だ。よく見ると、魚体やヒレに黒い斑点が散らばっている。

「ゴマ入りヤリタナゴです。琵琶湖周辺はコレが多いんです」

 それからは再びグルテンエサにして、飽きない程度にポツポツと釣れてくる。

024-029oumihachiman_cs6 (10) 西村さんが「ドン臭い感じが愛らしい」と言うアブラボテを手に。オリーブグリーンのイメージが強いアブラボテだが、4 月上旬は春の婚姻色に染まっていない魚が多い

024-029oumihachiman_cs6 (7) “ゆる系”魚体のアブラボテは琵琶湖各所の水路に潜む

大のオトナが〝タナゴの学校〟で釣り遊戯


 アタリが遠のいて場所移動。ここで入れ食い状態になる。我慢たまらず、ワタクシもサオをだす。ひと通りレクチャーを受け、「ホラ、ソコ。ヒラを打ったのが見えたでしょう」との西村さんの指図で、「エイ」と振り込む。

 いきなりアタリ!

「ヤー!」と合わせる。グイグイッと、引きが意外に強い。大ものか? しかし抜き上げる寸前でバレる。跳ね上がった仕掛けを見失う。「上ですヨ~」の声に見上げると、ああ、得意の枝掛かり。サクラの枝に絡まったのだった。

 それから何投目かに、ツンッとウキが動いた。小さく合わせると、弱々しい生き物の感触が伝わってくる。これはタナゴだろう。手のひらに乗ったのは、何だかヒレに黒っぽいゴミが付いたような魚だった。

024-029oumihachiman_cs6 (13) 「これがゴマ入りのヤリタナゴです」と西村さんが教えてくれる

「ああ、それアブラボテです」と西村さん。同じアブラボテでも場所が変わると少しずつ雰囲気も変わる。このあたりもまた、タナゴ釣りの面白いところなのである。

 さあ、やっと1尾目が釣れた。その後は爆釣といきたいところだが、ヤリタナゴも混じって釣れたり、釣れなかったり、バレたり、空振ったりという感じ。しかし、バレたり空振りをしたりするのもまたご愛嬌なのが、この釣りだ。

024-029oumihachiman_cs6 (30) アブラボテを手中に。乗りそうで乗らない小さなアタリを合わせた時の小気味よさ。どんなタナゴかは、釣りあげるまで分からない。淡水魚の王国、琵琶湖の水域ならではの愉しみ

 土手の上の小道では、おじいさんやおばさんが犬の散歩で行き交い、また自転車の子どもがすいすい通り過ぎ、ランニングの若者がタッタッタと走り去る。乳母車に赤ちゃんのお母さんもゆっくり歩いて行く。

 やがてポツン、ポツンと雨が落ちて来た。満開のサクラとやわらかい春の雨を背中に受けて、大のオトナが2人、幼稚園の遊戯のようなタナゴ釣りに時の過ぎるのも忘れて没頭。

 ♪タナゴのがっこうは川のなか そっとのぞいて見てごらん~

 何だか童心に帰ったような、ゆる~い気分に包まれた釣り旅であった。

024-029oumihachiman_cs6 (12) 春雨に目覚めたカエルが簡易水槽のヤリタナゴを見つめる。そぼ降る雨に湿った土手は土の匂いが濃厚だった

流入河川の河口で熱いホンモロコ釣り 024-029oumihachiman_cs6 (21) 024-029oumihachiman_cs6 (22) 琵琶湖で春に人気の小もの釣りといえば、流入河川河口で釣れるホンモロコ。アカムシをエサにしたドウヅキ仕掛けや、チョイ投げ仕掛けでブッコミで釣る。釣った魚は泥を吐かせて素焼きにして、三杯酢で食べると絶品という


浅井長政ゆかりの秘湯宿「須賀谷温泉」
(滋賀県長浜市須賀谷町36 /℡0749・74・2235)

 宿は、長浜の奥座敷「須賀谷温泉」に取った。小谷山の麓に湧く秘湯で、一帯は「姉川の戦い」などで知られる戦国の武将・浅井長政ゆかりの地。長政とその家臣・軍団もこのお湯に浸かって傷をいやしたという。また、長政に嫁いだ信長の妹・お市の方も湯治に通ったそうだ。お市は“戦国時代一の美女”との誉れが高い。まさに、歴史のロマンが香る温泉だ。
 泉質はヒドロ炭酸鉄泉。源泉は無色透明だが、空気に触れて湯船では赤茶色に変色。神経痛・筋肉痛・肩こり・胃腸病・アトピー・疲労回復などに効能ありとされている。
 宿の食事は本場の近江牛のほか、夏はアユ、冬はぼたん鍋や鴨鍋も。琵琶湖の川魚も種々供される。1泊2食付き1 万4000 円~

024-029oumihachiman_cs6 (27) 本場の近江牛や川魚料理も美味しい

024-029oumihachiman_cs6 (26) 歴史情緒のある秘湯を堪能


琵琶湖のタナゴ釣りなら 024-029oumihachiman_cs6 (29) 西村達さんが店長の上州屋滋賀栗東店(℡077・554・0915)

024-029oumihachiman_cs6 (28) 琵琶湖周辺の上州屋店舗の中でも特にタナゴコーナーが充実

●交通:名神高速道路・米原JCT から北陸自動車道に入り、栗東IC で降りてR8 を左折すると右手に上州屋滋賀栗東店。須賀谷温泉には北陸自動車道・長浜IC で降り、県道37 号を経由し国道東上坂の交差点を左折しR 365 を北上。国道沿いにある看板が目印

2017/3/25

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