伊南川はのどかな風情と透明な水がファンを魅了し「西の馬瀬川、東の伊南川」とも謳われた。 長らく低迷していた河川だが、近年は解禁初期の釣果が上昇傾向にある。立ち込むだけで胸のすく流れは子どもや女性にも優しい。多くの家族やビギナーが楽しんだ昨年の清流祭りを振り返る。
おすすめ時期:7~10月(解禁期間要確認)
編集部◎写真と文
透き通った流れでのんびりとオトリを泳がせる。川の風はサラリと爽やか
伊南川はのどかな風情と透明な水がファンを魅了し「西の馬瀬川、東の伊南川」とも謳われた。長らく低迷していた河川だが、近年は解禁初期の釣果が上昇傾向にある。立ち込むだけで胸のすく流れは子どもや女性にも優しい。多くの家族やビギナーが楽しんだ昨年の清流祭りを振り返る。
この記事は『つり人』2016年7月号に掲載したものを再編集しています。
伊南川と野嶋玉造さん
かつて琵琶湖産アユの放流が隆盛を極めた時代、南会津の山里を潤す伊南川は流域に釣り会のバスが何台も連なって停まるほど人気を集めた。しかし冷水病が蔓延すると釣果は著しく低迷し、かつてのようなにぎわいは消えた。
漁協に大きな変化はないものの、数年前から放流アユの種苗に静岡県産を加えた。そのおかげか、近年は解禁日から数日間はよい人で50、60尾と釣果が出るようになる。また、釣り人が減るお盆のころから、数は出ないが大アユが掛かり、ひっそりと楽しむファンもいるようだ。
伊南川をよくしたいと10年来川づくりに関わってきたのが野嶋玉造さんだ。激流大アユ釣りのレジェンドがこの川を訪れる理由とは。
「8年くらい前まで俺は兄貴とふたりで池を持っていて、アユの養殖をやっていた。その時に来たんだ。伊南川の五十嵐さんという人が。病気でアユがみんないなくなった。なんとかお宅のアユを入れてもらえないだろうかと。予算はないというけど、兄貴と相談して池のアユ400尾を伊南川に持っていった。それが縁で南会津町の町長やいろんな人と知り合ってね。昔みたいに人が来るアユの釣れる川にしたい。そう訴えてきた。俺はそのころ『ぐんまの魚振興室』という部署に関わりが深くて群馬の川をよくしたいと川づくりのいろんな活動をしていた。そんなことにも注目してくれたんだろう。だから講演をした。その時に民宿のおかみや土木関係者、地元の住民みんなを集めてね。こんな自然のある川はそうないよ。大事にしなきゃ。冷水病のアユなんか入れたらダメだと。だけど組合の体質がなかなか変わらない」
以来、釣り人を呼ぼうとNFS(野嶋フィッシングスクール)が関わり、行政や組合の支部も手を組んで『伊南川清流まつり』が行なわれるようになった。2015年は7月26日に開催し42名が参加。小、中、高の学生から女性、シニアまでビギナーが伊南川を訪れた。
野嶋玉造さんは子どもたちに伊南川の自然とアユ釣りの楽しさを知ってもらいたいと長くこのイベントに関わってきた
この日を心待ちにしていたのがNFS会員の山田訓久さんだ。福島県いわき市に住む山田さんは、お祖父さんと7人の子どもたち、親子3代で和気あいあいとアユ釣りを楽しんできた。東日本大震災の影響で家族での釣行が少なくなり、この機会にと17歳の悠希江さん、13歳の隼久君、8歳の悟大君と75歳の一則さんを連れて「清流まつり」にやってきた。
福島県いわき市に住む山田さん親子は3代で友釣りを楽しむ
アユ釣りで弾ける親子の笑顔
「伊南川清流まつり」が行なわれたのは新伊南川橋の前後である。青々とした夏空が広がり空気は澄んでいる。山がちな土地ゆえ朝のうち川の水温が低い。追いがよくなるのは日が高くなってから。祭りは9時にスタートする。訓久さん、一則さん、悠希絵さん、隼久君、悟大君の5人はアユタイツを履いてサオを抱え瀬肩のポイントを目指す。
「小学生のころは、父さんとあちこちの川に行ったんです。印象にあるのは福島の鮫川とか大分の三隈川ですね。今は部活のソフトボールが忙しくて。ほんと久しぶりのアユ釣りなんです」
と悠希江さん。そう言いながらもハナカンは自分で通し、流れを恐れず立ち込む姿は経験者のそれである。
一方の隼久君は祖父の一則さんと岩に腰掛けのんびりと構える。そのうちオトリが浮いてしまうと「もっとサオを寝かさないと」と一則さんが諭す。
最もアグレッシブなのは悟大君だ。小柄な身体で思いきりよく首まで川に浸かっている。なんでも「玉ちゃんみたいになるのが夢」と言うほど野嶋さんに憧れているのだ。もちろん隣では訓久さんが流されないようにサポート。
悟大君は「玉ちゃんみたいになるのが夢」と言う
伊南川は女性的な川相だが、全体は大石底である。数を取れるのは瀬肩の大石周り。川底に掘れたような変化があるとなお有望。アユが付きやすいのは石裏にできるY字状の流れ。石で分かれた流れが合わさる部分にオトリを入れてようすを見て、そこから石の横、前と探ってみる。しかし、場荒れ気味なのかポンポンとは掛からない。
悠希絵さんは浮き気味になったオトリの上に0・5号のオモリを付けて、川底に馴染ませた。ややあって目印に衝撃が走った。ギュンギュン引くアユを抜き上げると笑顔が弾ける。
「小学生以来のアユ釣り。気持ちいいです」と悠希江さん
隼久君もオモリを付けオトリを落ち着け1尾を掛ける。タモに入ると一則さんも我がことのように喜ぶ。川を切って、点々とポイントを探る悟大君も瀬の中からガツーンと当たる元気アユを相手に一生懸命サオを絞る。抜き上がった2尾のアユは訓久さんがキャッチ。山田さん親子のオトリが循環し始めた。
「じいちゃん、うれしいね」と笑みを浮かべる隼久君は山田家の二男
「ユキ姉に先に釣られて悔しかったけど。やっと掛かった!」と三男の悟大君。サポート役の訓久さんもにっこり
そのころには各所でサオをだしていた「清流まつり」の参加者たちも次々とアユを掛けている。子どもたちは小ぶりなのに強烈に引くアユの手応えに夢中だった。
親子で参加する釣り人は多かった
夏の日差しを浴びてTシャツを抜いでアユを夢中で釣っていたのは玉川夢斗君9 歳
「アユって小さくてもスゴイ引くんですね」と笑顔なのは星良樹君12 歳
「アユ釣りは簡単に始められることをもっと多くの人たちに教えないと」と野嶋さんも講師として参加
レジェンドの急流攻略
12時にアユ釣り教室が終了すると、野嶋さんが伊南川の自然の素晴らしさを講演した。そして一息付くとサオを持ち、急瀬の上段に立ち込んだ。
「だいぶ日が高くなったからね。アユは水当たりのきつい流れに出ているよ。注目するのは変化だ。ヨレと芯が複雑に絡むところだよ」
野嶋さんはアユ釣り教室で配られていたフロロ0・3号の完成仕掛けを張ると、0・5号のオモリを噛ませる。「逆バリなんかどこに打ったっていい」と荒っぽく皮打ちしたオトリを送り出し、ヨレから流心のど真ん中に沈める。
白泡からしぶきが上がり、蝉しぐれを瀬音がかき消す。野嶋さんはオトリをじわじわと引き上げる。間もなくトンと目印が弾けて一気に下流に走った。次の瞬間には2尾のアユが上流に舞った。
瀬落ちの芯で抜き上げた黄色い魚体が躍る
「どんな川でも最初の1尾を釣るのが一番うれしいんだ」
と目尻が下がる。そうして瀬を下りながら1尾1尾の痛快なアタリを楽しむ。
「同じ場所で2尾以上のアユは釣りたくないね。どんだけ入れ掛かりになったって俺は動くよ」
そして水当たりの最も激しい瀬落ちの絞り込みにやってきた。
「この辺には一番大きなアユが付くだろう。俺はいつも弟子に言うんだ。その川の一番大きなアユを釣ってみろよと」
筋を変えて何度かオトリを引き上げたが反応はない。野嶋さんは首をかしげる。
「ねらいのポイントにアユがいなけりゃあ一服。コーヒーでも飲めばいい」と笑う。
そして瀬落ちに来ると大岩の狭間にできる水通しのよいスポットにオトリを馴染ませる。ここで目印が飛んだ。「いいアユだんべ(笑)」と川に飛び込み、胸まで浸かって気持ちよさそうに泳ぎながらつまみ糸を持ち上げて見せる。黄色くて鱗のきめ細かなアユがその手にはぶら下がっていた。
鱗のきめ細かな伊南川アユ。手にするとスイカの香りが漂った
伊南川流域には民宿が数軒ある。野嶋さんの常宿は『田吾作』(℡ 0241・76・2310)
●管轄漁協:南会津西部非出資漁業協同組合(℡ 0241・72・2110)
●オトリ店:マルトミ釣具店(℡ 0241・72・2148)
●交通:東北自動車道・西那須野塩原IC で降りR400 を北上し塩原温泉郷を抜けてR121 を右折。日光街道を会津方面へ。R352 を南会津方面に左折。しばらく北上すると伊南川
2017/5/25