かつての9月後半は初秋であったが、近年はまだ盛夏の様相でなかなか水温が下がらない状況。当然、本来なら好機に突入しているはずのシーバスにも影響が出ている。しかし、そうした変化も含めて「今」を推理するのが面白い
かつての9月後半は初秋であったが、近年はまだ盛夏の様相でなかなか水温が下がらない状況。当然、本来なら好機に突入しているはずのシーバスにも影響が出ている。しかし、そうした変化も含めて「今」を推理するのが面白い
写真と文◎浦壮一郎
高水温が続く湾奥に秋はいつ来る?
ようやく長く続いた夏が終わろうとしていた。といっても水温の低下は順調に進まず、全体的にシーズンが遅れ気味であることは否めない。東京湾の湾奥エリアに注ぐ各河川も、まだ水温が高いまま推移していた。
そんな状況を逐一チェックしているのが都内東部在住の渡邉雄太さんだ。渡邉さんは中高生時代から自転車で自宅からも近い荒川の下流から河口域に通い詰め、大学に進学すると大手釣具チェーンでバイトを始め、ますます行動範囲が広がり、大学3年の現在も湾奥をメインフィールドに時間が許す限り足繁く通っている。
10月に入ってようやく気温は下がりだしたものの、水温はまだまだ例年より高く、本来ならすでに好条件になっているはずが今年は遅れているというわけである。ただし今年が特別というわけではなく、近年はそうした傾向が続いているようだ。
「直前までいろいろな河川をチェックしましたが、概ね状況は似たり寄ったりで、直前には湾奥で青潮が発生したこともあり、消去法で荒川に決めました。例年なら9月中旬からサッパが川に入って、明暗部などで二桁ヒットも普通にある時期ですが、川にベイトはたくさんいるのにシーバスが連動していない。サッパのサイズも小さくまだ3〜5cmくらい。それをねらっているシーバスもセイゴクラスといった印象です」
と、冷静に「今」を分析した渡邉さんはそんななかではまだ生命感がある荒川に賭けてみた。
「ただ、シーバスはピンスポットにしかいない感じで、橋1本外すと魚がいない状況です。むしろ海のほうが居心地もいいからシーバスも川に入ってこないのかもしれませんね( 笑)」
このように芳しくない状況ではあるが、それでも釣る人は釣るのがシーバスの面白いところ。海の状況、川の状況、そしてベイトの有無や種類、それらを熟知しているアングラーは取りこぼしも少ない。それこそがシーバス人気が高い理由のひとつだといえる。
「たしかに、状況を推理して思いどおりに食わせる面白さがシーバス釣りの魅力ですね。特に湾奥エリアは大河川、小河川、運河、港湾部など複合的に釣り場が形成されているから、悪いなりにもどこかでゲームが成立します。ただし最近は推理だけではカバーできない問題もあるのは事実。推理が当たったとしても、その場所に入れるかは別問題。たとえば今日も時合は下げ潮が利き始める19時以降と読んでいますが、その直前に来ても人的プレッシャーもありますから、そこまで読む必要もあります」
ましてや魚の居場所がピンスポットに狭まっているのだからなおさらだ。シーバスとベイトと、さらに人の動きまで加味して展開を構築する。それが湾奥シーバスの現状だ。
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湾奥を1本でカバーする万能ロッド
一般論として、秋のベイトについて渡邉さんに聞いてみた。
「秋の湾奥では基本的にサッパがメインになると思います。オープンエリアのシャローの暗い所ではイナッコのほかハゼやカニを食べている場合もあります。あと、秋になるとコノシロもエサを食べに川に入ってきますが、そのタイミングで雨水が入るとpHショックで弱って浮いてしまい、シーバスに食べられやすくなります。ただし今は雨が少なく水温が高い状況なのでコノシロがまだ川に入ってきていませんね」
事前にそんな話を聞いていたが、取材当日は久しぶりにまとまった降雨となった。時折、土砂降り、風も強く、横殴りの雨に見舞われたが、雨水が入って水温が低下し㏗ショックでコノシロが弱って……という図式になるのかといえば、そうではなかった。雨が降っているさなかや直後にpHショックになるわけではなく、数日降り続いた雨により相当量の真水が川に流れ込むことで、水温低下とpHショックは発生する。そこには時間差があり、釣り場に着いて雨が降り出したからラッキーとはならない。むしろデメリットが多いという。
「雨が降るとベイトのサッパが沈んでしまうんですよ。水面付近にいたサッパが雨によって表層を泳がなくなり、必然的にボイルも起こらなくなってしまうんです」
つまり淡水(真水)を嫌がってレンジが下がってしまうわけだ。釣る側としてもベイトのいるレンジが分散してしまうと焦点が絞りにくくなる。まとまった雨が降り出した直後ともなるとますます難しい釣りを強いられる可能性が出てきてしまう。
そんな悪条件のなかでも、橋脚付近の明暗部ではショートバイトがあった。シーバスはいるようだ。
「大きくはないかも……。セイゴクラスかなぁ」
渡邉さんは数日前からこのエリアは調査しており、ベイトとシーバスの存在は確信していた。ただし、サイズは大きくないようで、50cmに届くかどうかという状況のようだ。
「ベイトのサッパが小さいので、それをイメージしてルアーローテーションしています」
そう話す渡邉さんがこの日使用したのは『ドリフトペンシル90』をメインに『ドリフトペンシル シャロー90』、『ドリフトペンシル シャロー110』、『ドリフトペンシル75』をレンジに合わせて使い分けた。
写真上2つはバロール、下4つが今回のメインルアーのドリフトペンシル。「流れが緩いときはシャロータイプ。速いときはノーマルを使います。流れの速さと使いたいレンジによって使い分けます。シャローのほうが動き出しが早いのでアップで使う場合はシャローを選びますが、明暗部はダウンの釣りになることがほとんどです。バロールはバチ抜けシーズンに活躍しますが、秋のベイトフィッシュパターンでも使います」
ドリフトペンシルはその名のとおり流れにドリフトさせてシーバスを誘うモデル。河川、干潟、港湾部などフィールドを選ばないレギュラーモデルに対し、シャローモデルは干潟や河川など表層でのドリフトに特化している。
「最初、橋の下流のヨレで反応があったのはドリフトペンシル75でした」
残念ながらバラしてしまったものの、シーバスが着いていることが確認できたのはモチベーションを保つうえで価値あるコンタクトだった。
ドリフトペンシルとともに多用したのがフローティングミノーのアストレイアだ。レギュラータイプはSSR(セミシャローランナー)と名が付くように20〜60cmのレンジに対応している。対するシャロータイプは0〜20cmと、より表層をキープすることができる。いずれもダウンクロスや激流、速巻きにおいても暴れすぎず、姿勢を維持したままレンジをキープするのが特徴だ。
この日に投じたのは『アストレイア99F - SSR』、『アストレイア シャロー99F』、『アストレイア 127F -SSR』。このうち反応があったのはシャロー99Fを放置するように流していた時だった。
アストレイアも秋に多用するメインルアー。今回使用したのは99F-SSR とシャロー99 Fと127F-SSR だった。SSR はセミシャローランナーの略であり、シャローモデルがレンジ0〜20cm であるのに対し、SSR は20 〜60cm をねらえる
「10cmくらいのレンジで触るけど乗らない。かといって普通にシンキングペンシルを引っ張ってきちゃうと追い切れない感じでしたね」
なんとも痺れるシビアな状況であるが、こうした魚からのいくつかのヒントを元に、渡邉さんはさらなる推理を巡らせる
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ヒントがないことをヒントに
この日、渡邉さんが使用したロッドは『アクシアトラック』シリーズに新たに追加されたATSSー8MLL。
「8フィート8インチというレングスは湾奥のシーバスにはこれ1本あれば年中使えるという絶妙な長さです。アキュラシーキャストが決まりやすく、グリップも長すぎず短すぎず、取り回しがちょうどいい。パワー表記はMLLで、ベリーからバットにかけてのパワーバランスが秀逸なためランカー相手のファイトも余裕で楽しむことができ、ティップは繊細なためウエイトの軽いルアーも軽快にキャストできます。吸い込むようなショートバイトでも弾かないので食い込みもよく、もちろん春のバチ抜けパターンにもバッチリですよ」
シーズンを問わず湾奥なら自信をもってこれ1本でOKと勧めるロッドで、橋脚周りの明暗部にビシビシとコントロールよくキャストを決めていく渡邉さんだが、魚からのヒントは途絶えた。しかしヒントがないことがヒントになることもあるようだ。
時合と考えていた19時からすでに3時間近く経過したタイミングだった。ここで渡邉さんが結んだのはimaとのコラボモデル『sasuke120裂波SSP』のサンライズチャートカラー。セミサスペンド(SSP)チューンとエクリプスカラーを移植した限定モデルだった。
エクリプスとima のコラボモデル『sasuke120 裂波SSP』。カラーは10 色あるが、今回キャストしたのは写真右上のサンライズチャート
「昨日まではサッパに着いていたシーバスが雨の悪影響か反応しなくなってしまった。もう大きく場所を変えるという選択肢も頭をよぎりましたが、まだ下げ潮はガンガンに流れていたので、もしかしたらイナッコねらいの一発があるかもしれないと思って、初めてしっかり水を噛んでくれるルアーをチョイスし てみました」
それがsasuke120裂波SSPだった。イナッコは今いるサッパよりも大きいベイトなだけに、それに食ってくるシーバスならサイズもアベレージより上だろうという予想も的中した。
ここ数日の釣果は大半がセイゴクラス、最大でも50cm程度だったというが、sasuke120裂波SSPに襲いかかった魚はなかなか姿を見せない。予想を上回るサイズだったが、ATSS -88MLLで引きを楽しみながらグイグイと寄せる。
流れるような動作でランディングしたのは71cm。釣れてもセイゴクラスの可能性が高く、雨でそのバイトすら激減したタフな状況を考えると値千金の1尾だった。
文句なしの格好よさだ。充分に体力を回復させてからリリースすると、元気に流れに戻っていった
状況次第では千葉側の河川でウエーディングする可能性もあったため、エイガードも準備していた。エクリプス『サバイバルフィート』は要人警護などに使われる防刃ベストの主要素材ケブラーを使用し、縫い目の広がりを抑える特殊コーティングが施されている
※このページは『つり人2023年10月号』を再編集したものです。