限られた沖磯時間でルアーを貫くのもいい。でも潮や時合によってはエサをぶっ込んで、多彩な魚種を楽しんでみてはいかがだろう。何が掛かるか分からない豊穣の磯を、気の向くままに楽しんでみよう!
限られた沖磯時間でルアーを貫くのもいい。でも潮や時合によってはエサをぶっ込んで、多彩な魚種を楽しんでみてはいかがだろう。何が掛かるか分からない豊穣の磯を、気の向くままに楽しんでみよう!
写真と文◎山本裕介
伊豆半島沖に浮かぶ孤島へルアー&ブッコミの欲張り釣行
躍動する大海原に対峙するむき出しの岩肌。そのせめぎ合いによって生まれる白泡は海中を活性化し、起伏に富んだ地形や潮流とも複雑に絡み合って多種多彩な生物の営みの場を形成する。磯は海の生物にとって貴重な寄る辺なのだ。
翻って、磯は野生味と浪漫に満ちたフィールドとして釣り人から憧憬の視線を集める夢舞台でもある。釣り方や対象魚の流行が変わろうとも、いつの間にか“ロックショア”と呼ばれるようになろうとも、魚との駆け引きや大物への期待に心躍らせる釣り人の高揚感に満ちている。
半月近く続いた台風の影響がようやく落ち着いた8月中旬、伊豆半島南東沖に浮かぶ神子元島へ向かったのは平坂寛さん。魚類の専門家として国内外を問わずに水辺でのフィールドワークに勤しみ、磯への釣行も多い好事家である。
平坂寛さんは国内外での豊富な取材経験をもとに魚類の研究や執筆活動を行なう生物ハンター兼ライター。公益財団法人黒潮生物研究所の客員研究員を務め、メディア出演や書籍出版など多方面で活躍している
「もちろん『コイツを釣りたい!』と思う魚種はあります。でも、この海にはどんな魚が泳いでいて、エサに食いついてくるのか。そんなことを想像しながらエサを選んだり、仕掛けを組むのがこの釣りの楽しみなんです。今日のように初めてサオをだす場所ならなおさらですね」
青物が不発に終わってもブッコミがあるじゃないか!
30分ほど船に揺られて下り立ったのは、神子元島本島の「本場」と呼ばれるポイント。正面に浮かぶハナレ磯との間を駆け抜ける速い潮流、左右のワンドから広がる大きなサラシ。沖磯ならではの絶景を堪能したのち、まずはサラシの縁にミノープラグを通していく。ヒラスズキを期待しての釣り開始だったが、盛んにルアーを追尾してきたのは“ショゴ”と呼ばれるカンパチの幼魚。投入角度と引いてくるコースを変えながらしばらく続けたものの、掛かるのはショゴばかり。ならばとメタルジグに結び替えて良型青物をねらったもののこちらは不発。朝方のお楽しみは期待外れに終わった格好だが、平坂さんに落胆は見られない。「ヒラスズキや良型青物が釣れれば一番でしたが、あくまでルアーは楽しみのひとつ。日中もナブラが出る可能性はあるので、それを期待しながらブッコミ釣りで別の魚をねらいましょう。いざとなればアイツを泳がせてもいいですしね」
ブッコミタックルを準備しながら指差した先にはタイドプールを泳ぐショゴの姿が……。ハタ系などの大型根魚をねらうエサとして最適らしい。
ショゴの泳がせ釣りは機を見て繰りだす一手であり、まだ潮の速いこの段階ではひとまず温存。まずは複数用意した冷凍エサからカツオの腹身(ハラモ)を付けて投入。潮が速いため、しばらくは足下に仕掛けを下ろして様子を見る。いきなり小さなカサゴが掛かって驚いたが、その後はサオ先が跳ねるように暴れるアタリでウツボが続く。身エサを使う場合には避けられない相手なので、釣っては放す一連を根気強く繰り返す。
好転しない状況に満を持してショゴの泳がせ釣りを開始。すると、投入からしばらくしてサオ先がバタバタと暴れ始めた。すぐにサオを手に取ってサオを煽ると、沖のハナレ磯から伸びたサラシの際で黒い魚影が跳ね上がった。しかし、魚の重みがサオにグンと乗った瞬間にハリスが切れ、魚影は白泡の中へ消えていった。
「一瞬だけ見えたシルエットから判断するに間違いなくサメの類でしょう。島の周囲はシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)が見られる有名なダイビングスポットと聞いていますし、小魚を泳がせている以上はどんな相手が掛かっても仕方ありません。ただ、もう少しやり取りしたかったし、あわよくば種を同定したかったなあ……」
不意の襲来を悔やみつつ、専門家らしい反応を見せた平坂さん。その後もエサをローテーションしたり、潮溜まりの岩陰に無数に潜んでいたカニを捕まえてハリに掛けたりと工夫を続けたものの衰える気配のない激流にギブアップ。夜釣り客を送りがてらに見回りに来た船長に磯替えを願い出て、別のポイントで仕切り直すことにした。
本来ならこの時点で磯上がりとなるが、取材当日はまだ夜釣りが許可されている期間中。あらかじめ船長にお願いし、翌朝まで磯で過ごすスケジュールを立てていたのだ。
夜釣りに備えて磯替えいきなり朱色の根魚が登場!
移動先は島の裏手に回った「裏本場」というポイント。足下から適度な水深があり、潮の流れもそれまでと比較して緩やかだ。水面までは適度な高さがあって足場も悪くない。夜釣りにはうってつけの環境である。船長によれば、それまでサオをだしていた本場と比べれば全体に浅く潮流も緩いが、フエダイ(シブダイ)の実績は充分とのこと。気を取り直して仕掛けを打ち込んでいく。
常に激流を意識しながらの釣りから解放され、落ち着いてアタリを待っていると早々にアカハタが掛かった。吉兆かと思いきやハリに掛かるような反応は続かず、たまに掛かるのはウツボ……。
ウツボはブッコミの定番ゲスト。鋭い歯を持つので取り扱いには要注意
「どんな釣りでも釣れない時間帯はあります。朝までたっぷり楽しめるので、ダメな時間帯はルアーを投げたりして気分転換しましょう。どちらも楽しめるようにしておけば沖磯での貴重な時間を無駄なく遊び尽くせますし、朝方釣れたショゴのように活きのいいエサが確保できることもありますから」
平坂さんの釣行スタイルを一言で表現すると「来るもの拒まず」。特定の魚種やアプローチにこだわることなく、場所とタイミング、自身のモチベーションに合わせて柔軟に楽しみ方を変えていく。エサもあらかじめ持参したものにこだわらず、イソガニや小型青物が捕獲できればそれを躊躇なくハリに刺す。ブッコミ釣りで反応が薄ければルアーを投げるし、逆もまた然り。とにかく、釣り場での時間をめいっぱい楽しんでいるように見えた。
取材当日は全体に魚の活性が低かったのか日没後もめぼしい釣果は得られなかったが、夜明け前のラストチャンスに突然サオ先が暴れるアタリが出た。サオは手もと近くまで曲がり、ミチイトを引き出されては再び巻いて間合いを詰める息詰まる攻防を続けること10分ほど。同行者にアシストを受けつつ、やっとの思いで水面まで引き上げたのは全長が1.5mはあろうかという特大のエイだった。「おそらくマダラエイですね。サバの切り身を付けていたのでモロコを期待しましたが、これもブッコミゲームの定番ゲスト。やり取り中の緊張感は楽しめましたからヨシとしましょう」
明け方近くにサバの切り身に食ってきたのは特大のマダラエイだった。こんな大物が磯周りにはウヨウヨしている!
釣り方や魚種にこだわり、一途にサオを振る釣りスタイルは潔く気高い。ただ、せっかく沖磯まで出かけたのだから、その環境ならではの魚との出会いや格闘に興じる。それも釣りの楽しみ方の一面である。後者のスタイルに魅力を感じたなら、ぜひブッコミというプラスアルファを準備して磯へと出かけてみよう!
ルアーでもブッコミでもよく釣れるアカハタ。食べても美味しい人気魚種だが、小型は成長を願ってそっとリリースした
平坂さんは日本各地でブッコミゲームを楽しんでいる。こちらはクエ
アオブダイも釣れる
コブダイ。個性的な見た目をしているが、ベラの仲間だ
スジアラが釣れることもある。“ 来るもの拒まず” のスタイルなら季節を問わずに楽しめる
強めのタックルで万全の態勢を!エサは冷凍品があれば必要充分
ピトン&サオ掛け、根掛かりした仕掛けを切るためのラインブレーカー、大型のハサミ、ペンチは必須
磯からのブッコミ釣りは「イシダイやモロコといった特定の大型魚のみをねらうベテラン向けの釣り」というイメージが根強いが、実際には対象魚が多く、誰でもチャレンジできる間口の広いジャンルである。ここでは必要な道具や釣り方を簡単に紹介したい。
サオは大物ブッコミ対応の専用品を使うのがベスト。ただ、30号以上のオモリが投げられれば別ジャンルのサオも流用できる。投げザオや100〜120gのメタルジグをキャストできるショアジギロッドでも充分に釣りこなせる。
仕掛けはパイプを利用した遊動式のテンビンに、環境に優しいエコオモリを組み合わせたもの
リールはドラグ性能に優れた大型スピニングが好適。メインラインとなるPE5〜6号を300m程度巻けるサイズがおすすめだ。磯から大型青物をねらうショアジギタックルがあればそのまま流用できる。
仕掛けがシンプルなのもよいところ。太イトやハリの結節さえマスターすれば仕掛け作りはそれほど難しくはない。あらかじめ予備の仕掛けを用意しておけば結び替えるだけで済む。
釣具店だけでなく、スーパーマーケットのような身近なお店でエサが手に入るのもありがたいところ。サバの身やカツオの腹身(ハラモ)といった青魚の切り身、丸のままのイワシやアジ、短冊状に切ったイカ、エビ、ムール貝など、さまざまな海産物で釣果が期待できる。冷凍品を使っても釣果が期待でき、ほかの釣りの片手間に楽しむにもうってつけだ。もちろん、釣り場で捕獲したイソガニや釣り上げた小型青物もよいエサになる。
その日の状況や魚種によって効果的なエサは異なるので、魚類、貝類、甲殻類(エビやカニ)、軟体類(イカやタコ)から2〜3種類を用意するのが万全だ。
釣り場は足下からストンと落ち込むような地形がこの釣りに向く。ショアジギングで青物をねらうようなポイントなら申し分ないが、あまりに潮流が速いと底で仕掛けが落ち着かずに釣りにくい。
大型枠の玉網やギャフ、アタリを待つ間に使うサオ掛け&ピトンのほか、根掛かりした際に使うラインブレーカーも必須。ライフジャケットとスパイク付きの履き物を確実に着用し、くれぐれも不用意に磯際に下りないこと。沖磯はもちろん、地磯であっても単独釣行は避けるなどして安全に楽しんでほしい。
平坂さんのエサ使い
魚種によってエサの好みは異なるが、魚やイカの身、貝類、甲殻類(カニやエビ)の3種類から選べば間違いない。生きたものや未加工品(冷凍や加熱処理をしていないもの)がベストではあるが、入手や保管が容易な冷凍品でも構わない。クーラーボックスに氷や飲み物と一緒に入れて保管し、当面使用する分だけをエサ箱やタッパーに取り分けながら使うと鮮度が落ちにくい。
カツオの腹身(ハラモ)は皮目がキラキラと光るうえにハリ保ちがよく、ブッコミ釣りで重宝する
イワシは1〜3尾を丸のまま使う。眼の穴を貫通させ、背骨の硬い部分を貫くようにして止める
サバの身は皮目から入れたハリ先をいったん身側に抜き、再び皮目へと貫けばよい
サバの尾の部分も捨てずに使う。尾ビレとの境の中骨にハリを貫くとキャスト時に外れにくい
短冊状に切ったイカは磯魚全般に効く万能エサ。付け方はサバの身と同じでよい
イソガニは脚を取り、脚が付いていた穴からハリ先を入れて別の穴に抜く。2〜3個掛けも可
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※このページは『つり人 2023年11月号』を再編集したものです。