流路延長全国2位、流域面積全国1位という利根川の懐は深く、汽水域となる河口周辺はあまりに広大な川幅である。このスケールの大きなシーバスフィールドに魅せられ、週に一度は足を運ぶというアングラーが「RED中村」の愛称で親しまれるシーバス界の大御所、中村祐介さんだ。
流路延長全国2位、流域面積全国1位という利根川の懐は深く、汽水域となる河口周辺はあまりに広大な川幅である。このスケールの大きなシーバスフィールドに魅せられ、週に一度は足を運ぶというアングラーが「RED中村」の愛称で親しまれるシーバス界の大御所、中村祐介さんだ。
写真と文◎編集部
メインベイトはイナッコ
利根川には河口から18.5km上流に河口堰がある。この堰までが主なシーバス釣り場だが、鬼怒川合流点(河口から約82km)、さらには利根大堰(河口から154km)までシーバスは遡上する。「一番の魅力はランカーサイズが出やすいことです。私の実績では96cmが最大ですが、メーターもねらえます。関東の川ではとても夢のあるシーバス河川です」
そう話す中村祐介さんはシーバス釣りに限らず多彩な釣りを楽しんできた。原点はバスフィッシングだが、ジギング、サクラマス、ウキフカセ、タナゴ釣りも大好き。全国津々浦々の水辺を釣り歩くトラベルアングラーでもある。つり具の上州屋、アムズデザイン(ima)と勤務してきたキャリアを生かして2015年にルアーブランド「ポジドライブガレージ」を立ち上げ、個性あふれるシーバスルアーを毎年発表している。
9月下旬、中村さんと訪れたのは、かもめ大橋と銚子大橋の間にある「荒波」という地名の茨城県側のポイントである。
「利根川下流のメインベイトはイナッコとサヨリです。どんな釣り場でも共通していえることですが、ベイト密度の濃いポイントを探すことがシーバス攻略の第一歩です。秋が深まれば地形変化や明暗、流れ込みにベイトが集中してポイントも絞り込みやすい。ただ今年は間もなく10月というのに夏を引きずっている感じです。ベイトが散漫で少ない。ずばり、釣況は渋いでしょうね」
水辺に立つとイナッコの波紋が各所に見える。「ここは可能性がありそうですよ」と16時にはキャストを開始。
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ねらいは下げ潮
この日の潮回りは大潮前の中潮2日目。中村さんは下げ潮メインで探るという。まずは夕マヅメから干潮となる21時までの下げ潮をねらうが、この間の潮位変動は50cmと潮位差が小さい。そして午前3時の満潮から昼にかけての後半戦の下げ潮は潮位差が114cmと大きくなる。
「大きな潮回りは流れにメリハリが出ます。釣果に沸くことも多いですが、ダラダラと動く小さな潮が悪いかといえば、そうでもない。時合が長く続いて、数が出やすい傾向もあります。下げと上げの実績でいえば、利根川の場合は上げ潮時に厳しいことが多いです。それとデイゲームも難しい。やっぱり夜のほうが、ベイトは岸まで寄りやすいと思います」
中村さんの立ち位置の左側はワンドになっている。マヅメ時や夜にイナッコが溜まりやすい地形である。
「大型ほどブレイクエッジで釣れることが多いです。イナッコ、サッパ、コノシロといったベイトが溜まりやすく、シーバスもベイトを追い込みやすい。特にランカーの実績が高いのは瀬のヒラキにあるブレイク周辺です」
秋が深まればベイトサイズに合わせてルアーサイズも大きくするが、この日は秋らしくない中途半端な状況なので10cm以下のルアーを主力にした。基本は水面から探ってレンジを刻むが、ベイトも浮いていないので「フィンバックミノー75S」というバイブレーションのような波動が強めのシンキングミノーからスタート。このルアーをカケアガリに当てるイメージで通すという。このミノーもそうだがシーバスルアーの大半は「ただ巻き」で使用する。最もシンプルな操作だが、大切なのはルアーが一定の泳ぎをするように、流れの強弱に合わせてリトリーブ速度を調整すること。流れが利いている所ではリトリーブを遅く、流れの緩いヨレでは気持ち速めにリトリーブする。
時おりボイルが発生するも散発的で決まった位置で起こらない。ボイル位置が読めない状況である。この日は満月である。月明かりが照らす水面は池のように凪いでいる。流れも弱々しい。日が沈んでからはベイトの気配も消え、ボイルもなくなった。中村さんは移動をする。2、3ヵ所回ってイナッコが溜まっていたのが波崎新港周辺。利根川本流の脇を流れる分川である。ここは明暗がはっきりしており、浮いているシーバスも確認できる。ボイルも起きていた。ここで中村さんはペンシルを投げた。夜のトップゲームで食わせるコツは「チャカチャカと動かしすぎないこと」と話す。アクションを見ているとチョンチョンとスライド幅の狭いドッグウォークをさせてポーズを一間入れるくらいのリズムだ。そのうち「パン!」という炸裂音が響いたが、誤爆である。潮止まり時刻を迎えると水面は穏やかになりボイルは消えた。
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北風の期待感、そして。
午前3時の満潮までは休息を取り、夜明け前の下げ潮に中村さんは勝負をかけた。再び夕マヅメの護岸に立って釣りを始めるも霧が発生するくらいの無風である。波もなければ、流れもない。1時間ほど無の時間が続いたが、北風がそよそよと吹き始めて流れが出てきた。
「秋の開幕を告げるのは北東の風です。利根川下流は下げ潮の流れに北風が同調します。こうなるとはっきりとした流れが生じて好条件になります」
強い流れが少し緩んだタイミングでヒットしたのはこの日同行した杉浦さんだった。秋らしいパワフルな引きを楽しんでタモ入れに成功する。
渋い状況を打ち破った価値ある1尾に中村さんも気合が入る。空が白み始めるとイナッコの活性がにわかに高まり、ねらいを絞ったシャロー帯で騒ぎだした。ペンシル、ミノーと表層から探るもヒットには至らず。バ イブレーションの「クリスタルサリー」に替えてベイト溜まりを撃った。すると、ゴンとティップが入る。ところがエラ洗いをしない。浮上したのはニゴイである。中村さんは愉快そうに笑い飛ばしてリリース。この頃にはすっかり太陽が上がり、ベイト密度も薄くなっていく。半ば諦めかけたところでガツンとバイト。間もなく激しくエラ洗いをしながら銀色の魚体が飛び出した。
「食った~」
と自然と笑みがこぼれ、丁寧にやり取りする。苦しい展開で出た1尾に中村さんは胸をなでおろす。
「今日は可愛いサイズですがねえ。安心してください、秋はこれからが本番です!」
利根川の熱い季節は11月半ばまでが目安。この秋はスタートが遅れたことからシーズンも長く続く可能性がある。大河のランカーハンティング。そのスリル満点の駆け引きをぜひ、味わっていただきたい。
ヒットルアーのクリスタルサリー60。ヒット時の根化け防止や牡蠣殻対策で# 6 のシングルフックを装着。これによりバラシも軽減される
ルアーは表層系からバイブレーションまでプラグオンリー。この日のローテーションで出番が多かったのはフィンバックミノー、ジグザグベイト、スイングウォブラー
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愛用ラインは「ROOTS」
夜釣りが主体のシーバス釣りではラインの視認性も重要項目に挙げられる。ルアーの位置を把握してコースをつかむにはライン軌道がはっきりと見えたほうがいいからだ。このため、多くのシーバス専用PE は蛍光カラー(主にグリーン)が採用されており、中村さんが愛用する「ROOTS」もライトグリーンである。
PE は染料で染まらない素材である。色を付けるためには顔料を混ぜた樹脂のコーティングが必要となる。非常に接着しにくく摩擦で容易に剥離し、色落ちトラブルが発生する。しかし「ROOTS」に使用されている通称「X 樹脂」は、PE 素材と最も密着性の高い特殊な樹脂で、色落ちの度合いの評価となる摩擦堅牢度テストではトップクラスの実力を証明している。さらに、仕上げ材として「特殊シリコーン」を塗布することで色落ちを軽減した。このカラーコーティングは、いわばラインの鎧のような役割をしてくれ、高切れの要因となる摩擦熱の低減にも効果を発揮。また原糸の選定や加工技術、テンションをかけた高密度な編み組みによって原糸間の密着性を高め、組み伸びや強力低下を軽減している。中村さんは実感の籠もった口調でこう語る。「もともと私は張りが強めのパリッとしたラインが好きでした。ROOTS はどちらかといえばしなやかな性質のラインですが、ダマになりにくくトラブルはほとんどありません。長く使えて操作感も視認性も非常にいい。おすすめですよ」
※このページは『つり人 2023年12月号』を再編集したものです。