ここ数年、秋口に新子サイズが確認されるようになった三陸の海。しかし、昨年はついに良型が連発。今年の初夏には大型の産卵が各所で確認された。いち早く三陸の異変を感じ取っていた笛木展雄さんとともに北上した
いち早く三陸の異変を感じ取っていた笛木展雄さんとともに北上した
写真と文◎時田眞吉
アオリイカが隔絶された海で
アオリイカの釣りシーズンは大きく2回。それが春と秋。春は産卵のため接岸してくる良型が期待できる。秋は、その産卵で孵った新子のアオリイカをねらうというサイクルだ。
ちなみにここに挙げたのは、関東以南の暖かな海でとの条件が付く。アオリイカは温暖な海域を好み、海水温が13℃以下になると極度に活動が低下して、エサを獲ることもままならないようで衰弱して死を迎えるからだ。
だから、温暖な黒潮の流路がアオリイカの生息域に直結しているのだ。黒潮とは日本近海を流れる代表的な暖流で、東シナ海を北上してトカラ海峡から太平洋に入り、日本列島に沿って東に向かい、房総半島沖に達する。北からの冷たい潮流である親潮と黒潮がぶつかる銚子沖が太平洋側のアオリイカの生息北限と言われている由縁だ。
日本海側はどうか。北限は青森までと思われていたが、温暖化の影響か北海道の南部以南で釣果が確認されている。が、これらは暖流の対馬海流によって運ばれてきた新子たちで、津軽海峡を抜ける流れに乗って函館までやってきているようだ。早くから道南に通っていた笛木さんによればシーズンは9月から水温の低下する11月までの秋イカに加えて近年は初夏の親イカも釣れ始めているそうだ。
同じように、太平洋側の東北地域も、対馬海流に乗って日本海側から回遊してきた新子たちが、津軽海峡を経て青森、岩手と回遊してくるが、宮城の海までは辿り着かない。時折、黒潮の分流に乗ってやってくるだけと、ほぼアオリイカが隔絶された地域なのだ。
昨年秋に笛木展雄さんが田代島周りのティップランで手にしたこの1パイが三陸アオリイカ事情を一変させた!?
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良型が連発した宮城の謎
もともと宮城県は、東北の太平洋側でも最もアオリイカの少ない地域だ。だから最近まで、仙台や石巻に点在する釣具店にはアオリイカ釣り用のエギングタックルはほとんど販売されていなかった。エギングロッドはもちろんエギなどもほぼ皆無というお店も多かった。
ところが、現在では関東も顔負けの品揃えの充実度である。その兆しは数年前からあったものの、完全に火が付いたのは2023年の秋。
10月のある日、牡鹿半島の田代島にある船宿・はま屋を訪れていたのはエギング名手として知られる笛木展雄さん。ただし、もともと笛木さんはロックフィッシユを楽しみに田代島へ釣行を重ねていたのだが、はま屋の濱温船長から「どうも大きなアオリイカが牡鹿半島の各所で釣れているみたいで、あちこちの堤防が墨跡で真っ黒らしい。船から釣れないかな!?」と相談を持ちかけられた。
興味をもった笛木さんはもちろん二つ返事で快諾。まずは田代島周りの水深13~23mをティップランでねらってみると、ほどなくして1㎏はあろうかというアオリイカがエギに抱き付いてきた。
これには笛木さんもビックリで、「すごいニュースだ!」と、その釣果に目を見開いた。
その後もティップランで釣果を重ねていくうちに、「そう言えば堤防周りでも釣れているんだから、浅い場所でもいけるかも!?」と、船を浅場へ移動。水深は5m前後。 今度はキャスティングタイプのエギに付け替えて、堤防からの釣りと変わらないアクションでエギを操作させると、ツンとラインが弾かれ、アワセを入れるとグンとイカの重みと手応え。こうして浅場でもキロ級がエギにヒットしたのだった。
宮城の海で良型のアオリイカがコンスタントに釣れてきたことに誰よりも驚いたのは、これまで幾度となくロックフィッシュねらいで足を運んでいた笛木さんだ。それ以前からケンサキイカが三陸地方で釣れだしていることは知っていたが、アオリイカまでねらって釣れる状況だったとは。当然、地元の釣り人たちの動きも早かった。地元の釣具店にわずかに置いてあったエギングタックルは軒並み完売。にわかにエギングコーナーが設置される店も出たほどだ。
牡鹿半島の田代島から出船する「はま丸」の船上。例年ならアイナメなどのロックフィッシュねらいで利用しているが、昨年秋は全員がティップランに挑戦した
その種明かしは、やはり黒潮が関係している。2017年9月に始まった黒潮の大蛇行は現在も続いており、大蛇行が始まって7年2ヵ月(9月現在)を記録している。その蛇行により黒潮続流(※日本南岸に沿って流れる黒潮の房総半島以東の流れを黒潮続流と呼ぶ)が北上して、2023年の4月以降、三陸沖ではなんと海洋内部で平年よりも10℃も高い水温が観測されている。ちなみに、海面水温のデータを集めている地元の東北大学理学部の研究で、この1年に、世界で最も水温が上昇したのは三陸沖だとする研究者(杉本周作准教授)の話がニュースになり世間でも話題になったばかりだ。
2023 年秋の牡鹿半島の堤防。どこも真新しい墨跡だらけ
この影響は牡鹿半島でキロ級のアオリイカが釣れたことと無関係ではないだろう。その後も高水温は続き、2024年の初夏には牡鹿半島周辺の浅場で大きいものは2~3㎏もある親イカたちがペアリングを開始。あちらこちらの藻場でアオリイカの卵が確認され、また、親イカの釣果報告も相次いだ。
三陸沖のティップランは良型の連続ヒットもある
EZ-Q ダートマスターでもヒット。笛木さんもびっくりの釣況だ
エビQ +パタパタシンカーにヒットしたのは1㎏オーバー
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そして牡鹿半島の新子たちは!?
アオリイカの卵は孵っているのか。それが最大の関心事であった。潮流に乗って一時的に流れ着いたものと違い、今度は現地で産卵行動までしているのだから、もしも卵が孵って新子サイズが釣れるようになれば、生まれて成長し産卵するという命のサイクルがここ三陸で完成された証明になるのではないか。
それを確認するため、白羽の矢を立てたのが、トピックスの生みの親でもある笛木さんだ。地元の船長の相談に応えてすぐに結果を出した人だけに最適な釣り人である。
しかし実釣に赴いたのは9月3~4日。牡鹿半島周辺でアオリイカの卵塊が目視されるようになったのは7月上中旬。卵からふ化するのに約1月かかるといわれていることから、順調にいってハッチしたのが8月の上中旬。つまり現在は生まれてからまだ数週間程度しか経っていないことが考えられるため、笛木さんも「だから今回はサイズは二の次。存在確認が最優先ですよね」と理解したうえで取材に協力してくれている。
牡鹿半島は、宮城県北東部の太平洋に向かって南東に突きだした約25㎞の半島。三陸海岸の最南端に位置し、西に石巻湾を抱き、東は太平洋に面している。 笛木さんの読みでは2日目は東風が強く吹きそうなので、初日に太平洋に面した東側、2日目は半島西側の港周りを探ることにした。
正午近く、牡鹿半島東側にある寄磯漁港から探ってみる。あいにく台風10号の影響で水潮気味で濁りもある悪条件。「せっかくの取材なんでもっと釣れるエリアでやりたい気持ちもありますが、三陸ロマンに全力を尽くします(笑)」とエギをキャストする。
オカッパリで牡鹿半島をランガンした
まずはサーチに適したマグQタングステンの3号をチョイス。カラーは高視認、高アピールの「まずめオレンジ」「日中ピンク」などでアオリイカを誘い出す。笛木さんも開発に尽力するデュエルのエギは、2段シャクリや3段シャクリなどは必要なく、シャッ、シャッと間を置いてシャクり、ラインテンションを抜いて2回、3回とロッドティップを振るだけで充分にダートしてアオリイカの興味を惹き付ける。
しかし、なかなかエギを追うアオリイカの姿は現われず、荒れ後のためか回収してくるエギに海藻が掛かってくるのみ。
海に向かって左手の堤防へ移動しようと、その付け根の船溜まりを覗いた笛木さんが、「いるよ、いる!」と声を上げる。水面を覗くと、そこには胴長10㎝に満たない新子のアオリイカが数ハイ漂っているではないか!ついに今年孵ったアオリイカたちを確認することに成功した。
しかしその後、鮫浦漁港、西側の表浜漁港のシャローエリアを中心にエギを通すものの追ってくるアオリイカの姿は見えない。
夕マヅメを迎える午後5時近く。暗くなれば少し型のいい個体が回遊してくるのではないかと、潮通しのよい半島先端付近に位置する鮎川港の堤防でエギをキャストする笛木さんであったが、この日はアオリイカの姿を見ることは叶わず。
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新子のアオリイカを確認せり!?
翌朝、石巻湾に面する桃浦漁港に到着すると、右手の堤防にチラホラと釣り人の姿が見える。昨日訪れた港には釣り人は皆無であったのに。
堤防の先端付近にいた釣り人が車に戻ってくるタイミングで笛木さんが声を掛けると、「ちょっとイイ型のアオリイカが見えたので、エギングの道具を取りにきました」と、うれしい言葉。さっそく釣り人に付いて堤防先端に足を運ぶも、アオリイカは泳ぎ去ってしまったのか姿は見えない。
切り替えて、新子ねらいの定番である港内のストラクチャー周りを探る。これで追ってくる姿が確認できれば日中の見えイカ釣りが楽しめるはず。
まだ遊泳力の乏しい新子たちはこうした潮の流れの緩い港内角などに溜まっていた
しかし、反応なし。続いて堤防外側のシャロー周りを丹念に探るが、こちらも今ひとつ。なんと、台風後に海が変わったからなのかショゴとワカシが来襲。堤防のすぐ沖でボイルしている。こうなると、食われてしまう側の新子たちは一斉に姿を隠してしまう。見切りを付けて次へ。桃浦漁港はリアス式海岸の奥まった場所にあるが、月の浦漁港は突き出た岬付近に造られた港で潮通しもよい。シャローの磯場が根元に広がる右手の堤防にはエギをシャクる釣り人の姿があった。なんと山形からアオリイカを求めてやってきた釣具店の店員さんで、「いま、胴長20㎝ぐらいのアオリイカをバラしてしまいました……」と残念そうに教えてくれたのだ。
シャローの藻場が広がる磯周り。釣れそうな雰囲気がプンプンしていたが……
これには笛木さんもテンションマックス!堤防から浅いシャロー周りを徹底的に探る。少し大きめのエギで沖目から足もとまでイカにアピールするも反応がない。それならと、堤防根元に広がる磯場へと釣り場を広範囲にも移動するが……仙台発の新幹線を予約していた我々はタイムアップの午後3時を迎えてしまった。
駐車スペースへ戻ると、そこには桃浦漁港でアオリイカが見えたと教えてくれた釣り人に遭遇。桃浦漁港から月の浦漁港、そして侍浜漁港と行って、また月の浦漁港でサオをだして見ようと戻ってきたようす。「釣れましたか?」と尋ねると、なんと2ハイの新子をゲットしたと、その釣果を見せてくれた。やはり、親イカが接岸して産卵したのち、秋にはふ化した新子が釣れることが証明された瞬間で、笛木さんも隣で目を輝かせていた。
三陸産のアオリイカだ
これが大きく育って来年また牡鹿半島で産卵するのかどうかは、海水温の推移に委ねられるが、間違いなく言えるのは今年の秋はアオリイカが必ず釣れるということだ。それも、遠くから潮に乗って流れ着いたのではなく、三陸産のアオリイカが。すでに田代島「はま屋」のはま丸を始め、牡鹿半島の周りにはティップランで楽しませてくれる船宿もポツポツと現われているし、堤防や磯からももっと釣れやすくなっているはず。
世界で最も水温が上昇した三陸。これがアオリイカたちにどう影響するのかはこの後の推移を見守りたい。というか、当分このエリアからはますます目が離せない!
ここにも新子たちの群れ!
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使用したタックル
笛木さんの出で立ち。ライフジャケットにパッキングされたエギを収納している
ロッドは「セフィア CI4+ S906MH」全長は2.90m。リールは「セフィア Ci4+C3000SDH」(ともにシマノ)
大物に対応したギャフ
異なる号数が巻いてある替えスプール
水温の変化を把握する水温計
左からメインラインとリーダーをMID ノットで接続するための「ハピソン/ラインツイスター」、リーダーは「デュエル/魚に見えないピンクフロロ ショックリーダー」の8lb、12lb、PE 用ハサミ、ライター、接続具とラインカッター
【3.0 号】右から
●マグQ タングステン(まずめオレンジ)
●マグQ タングステン(モンスターマスター)
●イージーQ ダートマスター(まずめオレンジ)
●イージーQ ダートマスター(にごりライム)
●アオリーQ フィンエース(日中ピンク)
【2.5 号】右から
●パタパタQ(夜光チャート)
●イージーQキャスト喰わせ(ケイムラシルバーレッドイソスジ)
●イージーQキャスト喰わせ(藻場ブラウン)
●イージーQダートマスター(まずめオレンジ)
●イージーQダートマスター(すみ潮ブルー)
●イージーQダートマスター(夜光チャート)
●イージーQダートマスター(日中ピンク)
【2.0 ~ 1.6 号】右から
●アオリーQ RS(2.0 号 ケイムラゴールド)
●アオリーQ RS(2.0 号 スケルトン夜光オレンジエビ)
●アオリーQ RS(2.0 号 夜光ボイル)
●アオリーQ RS ヒイカSP(1.8 号 夜光オレンジ)
●アオリーQ RS(1.8 号 スケルトン夜光ピンクエビ)
●アオリーQ RS ヒイカSP(1.6 号 夜光オレンジ)
●アオリーQ RS(1.6 号 ケイムラゴールドアジ)
●アオリーQ RS ヒイカSP(1.6 号 夜光ライムグリーン)
【3.0、3.5 号】右から
●イージーQ キャスト プラス(ケイムラレッドイソスジ)
●イージーQ ダートマスター サーチ ダブルグロー(ゴールドオレンジ)
●イージーQ キャスト 喰わせ(リアルイソスジエビ)
●マグQ タングステン(3.0 号・地磯藻場マスター)
※このページは『つり人 2024年11月号』を再編集したものです。