全米で大ヒットを記録し、数々のフォロワーを生んだ名品「RC」はいかにして生まれ、そして「LC RTO」になっていったのか……。「RC」が開発されるそもそものキッカケは、バスプロショップスによる「リック・クランのシグネチャークランクをプラスチックで作りたい」という企画だった。この話が持ち上がったとき、リック・クランがデザイン&製造担当として指名したのがラッキークラフトだったのである。
リック・クランから大森貴洋へ
写真◎石川正勝
この記事は『Basser』2013年9月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!ラッキークラフトUSA クランクの系譜
ラッキークラフトとバスプロショップス、そしてリック・クランによるコラボレーションで誕生したスクエアビルクランク「RC」が、2012年、「LC RTO」としてリニューアルされた。今回紹介するのはその「LC RTO」シリーズだが、その特徴と歴史を紹介するためには、「RC」の誕生まで遡る必要がある。「RC」と「LC RTO」は名前以外はまったく同じルアーだからだ。
全米で大ヒットを記録し、数々のフォロワーを生んだ名品「RC」はいかにして生まれ、そして「LC RTO」になっていったのか……。
「RC」が開発されるそもそものキッカケは、バスプロショップスによる「リック・クランのシグネチャークランクをプラスチックで作りたい」という企画だった。この話が持ち上がったとき、リック・クランがデザイン&製造担当として指名したのがラッキークラフトだったのである。
その理由は、ラッキークラフトのシャロークランク「ファットCB B.D.S.4」にある。当時の詳細な経緯を、ラッキークラフトUSAの開発スタッフに話を聞いた。
「ラッキークラフトがアメリカに進出したのは1997年。ラッキークラフトルアーのコンセプトは『トーナメントで勝てるルアー』です。アメリカでもそれを貫こうと、まずはクランクを作ることにしました。なぜなら、B.A.S.S.の勝率No.3のパターンが、フリップとスピナーベイティング、そしてシャロークランキングだったからです。当時はシャロー優勢の春を中心に試合が組まれていましたから。この3つのなかでプラグはクランクしかない。じゃあクランクだろ!という経緯です。ほかのジャンルに目を向ければ、サミー(ペンシルベイト)やポインター(ジャークベイト)など、今でも第一線で活躍するルアーがすでにありました。でも、アメリカで本当に認められるには、クランクでいい物を作ることが使命だと感じたんです」
開発スタッフがまず行ったのは、ツアープロからとにかく話を聞くことだった。スキート・リースやジェラルド・スゥインドル、マイク・オートン、ケリー・ジョーダン、そして大森貴洋さんからシャロークランクにまつわる情報収集を行なったという。
そのうえで、バグリー・バルサB3のアクションをプラスチックで再現することを意識してシャロークランクの開発を進めていった。完成したファットCBのプロトタイプを彼らに送ったところ……。
「反応は最悪でした。たとえば大森さんは動きを見てひと言、『なんか違う』とだけ。彼らは“釣れるルアーの動き”は深く理解していますが、ルアー力学は知らない。だから、『ココをああしてくれ』とか、具体的なアドバイスはくれないんです。ただ、大森さんが『違う』と言うということは、釣れない動きなんです」
そして、何度かの挫折と試行錯誤を経て完成したのが「ファットCB B.D.S.4」だった。このルアーを大森さんに送ったところ、数日後にスタッフの元に留守電が入ったという。
「『ルアー試しました。あの動き、正解です』とだけコメントをもらいました。人をめったに褒めない大森さんがそう言ってくれたのは、一生忘れられない思い出です」
そして発売された「ファットCB B.D.S.4」は、大森さんだけでなく、ゲーリー・クラインやリック・クランの目にも留まった。
そうして、「このクランクを作れるメーカーと組めばいい物ができる」と感じたリック・クランがラッキークラフトをパートナーとして指名したのである。
リック・クランのリクエスト
こうして「RC」の開発がスタートした。最初のサイズは「1.5」。リック・クランが求めたのは「バルサB2、もしくは3のアクションを、小型のプラスチック製クランクで再現する」ことだった。リック・クランが「小型」を求めたのは、バイト数を伸ばすため。ディープタイニーNなどのスモールクランクを多用するリック・クランらしいリクエストだ。「プラスチック製」の理由は、ウッド製と比べるとアクションのバラツキがなく、リップが削れたりロストしたりしてもいくらでも替えを準備できるからだ。また、酷使してもリップが取れたりしない強度の高さを出せるメリットもあった。
もうひとつ、リック・クランが求めたのは「7ftのグラスロッドでリズムよくロールキャストできて、なおかつキャストが決まる重さ」だった。リック・クランにとって、掛けたバスを確実に獲るためにはグラス素材が絶対であり、なおかつクランクのトレースコースを自由自在にコントロールするためには7ftという長さが不可欠だった。「7ftのグラス」はリック・クランだけでなく、ほとんどのツアープロにとってのスタンダードだったという。「RC1.5」は12gに設定された。
小型、プラ製、キャストが決まる重さ……、と、この3つの条件が並べば、どうしても犠牲になる物がある。それはスナッグレス性能を高めるための「浮力」だ。しかし、リック・クランにとってそれは大きな問題ではなかった。
「『このサイズのルアーなら、ロッド捌きに機敏に反応するから、ロッドワークでカバーを回避することができる』というのがリック・クランの考えでした。リック・クランがRC1.5を使うのは、バスのサイズを問わずバイトを得たいとき。だから、浮力を強めるためにルアーを大きくすると本末転倒だったんです。もちろん、ラッキークラフトの技術を駆使して、可能な限りの浮力は持たせました」
アクションについて、「ウォブルはこのくらいで、ロールはこうだ」などの話は出なかったという。
「アメリカのアングラーは、ルアーのアクションを見た瞬間に釣れるかどうかを経験から判断します。『求めるアクションは出せたけど、釣れるかどうかは投げてみないとわからない』という日本的な感覚とはギャップがあります。だから、アクションについても、『ウォブルとロールの比率』というような話にはならないんです。単に仕上がりを見てシビアに判断される」
そうして完成した「RC1.5」。サンプルに、リック・クランは一発でOKを出したという。シャロークランクの神様と呼ばれた男が、ラッキークラフトが作ったクランクの動きを「これなら釣れる」と認めたのだ。
「実は私自信、リック・クランの熱狂的ファンでした(笑)。だからこのコラボレーションは本当に嬉しかった。“リック・クランの世界観を初めてプラスチックで表現したクランク”を作ることができたと自負しています」
大森貴洋を勝たせるために
こうして完成した「RC1.5」は全米で売れに売れ、トーナメントシーンでもなくてはならない存在となった。昨今のスクエアビルブームも「RC1.5」が源流になっているといっても過言ではない。その後ラインナップが拡充された「RC」だが、2011年、リック・クランがバスプロショップスから離れたことを受け、「LC」(ラッキークラフトクランク)として販売されることになった。
このとき、ラッキークラフトとリック・クランが話し合った結果が、「『RC』を大森貴洋のシグネチャーモデルに」というものだった。リック・クランが後継者として大森さんを指名したのだ。
「リック・クランのクランキングをマウスtoマウスで学んでいる唯一の人間が大森さんなんです。2004年のクラシックをバルサB2で勝ってシャロークランクブームを起こしたのも大森さんですし、FLWの試合ではリック・クランとクランキングで競って優勝したこともある。リック・クランの指名は誰から見ても自然なものでした」
こうして「RC」は「LC RTO」に名を変えて販売が続けられることになった。カラーリングを除く仕様はまったく変えられていない。
最後に今後のラインナップについて聞いた。「LC RTO」になってから追加されたのが、最大潜行深度6.7~7mのスーパーディープクランク「3.5XD」だ。
「今後も『大森貴洋を勝たせるためのルアー』を作っていきます。今のB.A.S.S.エリートシリーズでは、6~9月の試合が必ず組まれます。となると、夏にディープに落ちるスクーリングフィッシュを攻略することがマストになる。そのために作ったのが『3.5XD』です。単に売るためなら『2.5XD』からの発売がベターなんですが、コンセプトはあくまで『勝つため』。だったらビッグバスを獲れるデカいモデルから、という発想です」
例外は「Tiny」~「1.0」までの小型モデル。
「こちらは、大森さんのためではなく、日本の皆さんを強く意識して作りました。サイズは小さくなっていますが、リック・クランと大森貴洋が導いてくれた釣れるシャロークランクの方程式を当てはめて作っています。ふたりのクランクを、日本のフィールドでももっと体験してほしい。そういう思いです」B
■ラッキークラフト http://www.luckycraft.co.jp