「山木一人=シャッド」というイメージを持つアングラーは多いのではないだろうか。シャッドが低水温期以外のあらゆるシーズンにおいても有効なルアーであることを提唱し、トーナメントでもシャッドを用いて数々の実績を残してきた。
「ある不可能」を実現した山木一人の発想
Basser編集部=文
「ダート性能」と「速巻き時の安定」という要素を両立
「山木一人=シャッド」というイメージを持つアングラーは多いのではないだろうか。シャッドが低水温期以外のあらゆるシーズンにおいても有効なルアーであることを提唱し、トーナメントでもシャッドを用いて数々の実績を残してきた。
バンタム パブロシャッド
59mm、6g。潜行深度は2.7m。水温約10℃でサスペンド仕様。全20色。価格未定。2017 年発売予定
今回紹介する「パブロシャッド」は、山木さんが約1年半にわたり、約20個ものプロトタイプをテストして完成にこぎつけたシャッドプラグだ。「CAD(コンピューターによる設計システム)」を活用して設計図を3D切削機で成型、そして出来上がったサンプルを芦ノ湖で泳がせるテストを繰り返して完成したシャッドはどのようなものなのか。山木さんに話を伺った。
「目指したのは、『スーパースレッジ』のようなダート性能と『ソウルシャッド』のような速巻きでの直進性能を持ちつつ、よく飛んで製品ムラの少ないルアー。これだけ聞くと『そんなの不可能じゃん』って思われるかもしれないし、実際かなりの人からそんなことを言われたよ。でもね、やろうと思えば何でもできるんだよ。不可能なことなんてないんだ」
「ジャークアシストバランサー」による重心移動でキレのあるダートが可能に
そもそも、なぜそのようなシャッドを開発しようと思ったのか。
「少し前の僕は『ソウルシャッド』のような、とにかく速巻きでもバランスを崩さない、クランクベイトのようにただ巻きで使えるシャッドを作りたかった。それに感化されてか、最近の市場には直進性をウリにしたシャッドが増えて、アングラーのみんなもシャッドを時期にかかわらずよく使うようになってきたよね。それはそれで喜ばしいんだけど、だんだんとシャッドのただ巻きの威力が衰えてきたように感じてる。だからただ巻きでも使えて、『ここぞ』というところではダートでバスにスイッチを入れられるシャッドが欲しかったんだ。ちなみにアクションはロール重視のハイピッチ系。弱めのアクションはシーズンやフィールドを問わずに活躍してくれるよ」
では、速巻きでもバランスを崩さない直進性と、ロッドワークでキレよくダートする機能の両立はどのようにして可能になったのか。
その答えは内部構造にあった。基本的な理論として、シャッドのようなハードベイトは重心が低ければ低いほどアクションが安定し、直進性が増す(もちろんボディーやリップ形状との兼ね合いもあるが)。反対に、重心が高い位置(背中側)に来ると泳ぎのバランスが崩れ、ダートのようなイレギュラーアクションが起こりやすくなる。「パブロシャッド」には「ジャークアシストバランサー」という機構が備わっており、ジャーク時にヘッド部のウエイトが斜め上に移動して背中側に来るようになっている。つまり、通常は横方向に移動することが多いウエイトを縦方向に動かすことで、ダート時のみルアーがバランスを崩すようになっているのだ。
「箱出しの状態で直進」の割合を8割まで高めた製造精度
まず前提として、シャッドプラグはトゥルーチューンが必要なルアーである。小さなボディーと、水圧を大きく受ける長いリップという構造上、泳ぎのバランスが崩れやすいのだ。スローリトリーブならまだよいが、速巻きとなるとその傾向が顕著になってくる。「パブロシャッド」を製品化するにあたっても、トゥルーチューンをしなくても速巻きで真っ直ぐ泳ぐ個体の割合をどれだけ増やせるかということにもっとも苦心したという。
「このルアーに限らず、シャッドは必ずパッケージから出したらキャストの前に泳がして、必要であればトゥルーチューンをしてください。それが必要なルアージャンルだと割り切りましょう。たとえば、市場のルアーを見渡してみると、パッケージから出した状態で真っ直ぐ泳ぐのは大体3~7割くらいがいいとこだと思う。このルアーはできるだけ箱出しの状態から使えるようにする調整に半年もかけて、なんとか8割以上のルアーが最初から速巻きで真っ直ぐ泳ぐように製品ムラを減らすことができた。そのせいでどんどん発売時期がずれこんじゃって、シマノさんごめんなさい(笑)。
でも、自分が納得いくまでテストを繰り返して、高い精度で作り込んだおかげでとてもいいものができた。ぜひ『パブロシャッド』の性能を体感してほしいですね」
■ 問合先 シマノ
℡0120-861130
この記事はBasser2017年3月号掲載されているものを再編集しています。
Basser3月号にはこの記事のほかにも読み応えのある内容を満載しています。巻頭ではバスフィッシングの「色」を大特集。「東大教授が説く魚の色覚」、「水深別のカラーセレクト」や「リアルカラーの効果」、「絶対の一色」、「思い出の色」、「フロッグの『黒』」、「ルアーデザイナー目線のカラー考」など、さまざまな角度からルアーカラーを掘り下げています。
2017/1/26