2000年、「ロードランナー・Nシステム」の派生モデルとして発売されたのが「ロードランナー・ハードベイトスペシャル」だ。ロードランナーシリーズの生みの親で、当時アメリカのB.A.S.S.TOP150(現エリートシリーズ)に参戦していた田辺哲男さんは、ピッチングからボトムでの誘いが中心になるソフトベイトゲームと、リーリングを中心としたハードベイトゲームとではロッドに求められる特性が異なることに気付いており、特化モデルの必要性を強く感じていた。
オールストライクのキャストを実現するために
Basser編集部=文
ロッドの反発スピードを調整することで生まれたメリット
2000年、「ロードランナー・Nシステム」の派生モデルとして発売されたのが「ロードランナー・ハードベイトスペシャル」だ。ロードランナーシリーズの生みの親で、当時アメリカのB.A.S.S.TOP150(現エリートシリーズ)に参戦していた田辺哲男さんは、ピッチングからボトムでの誘いが中心になるソフトベイトゲームと、リーリングを中心としたハードベイトゲームとではロッドに求められる特性が異なることに気付いており、特化モデルの必要性を強く感じていた。
そうして誕生したハードベイトスペシャルの特徴は、投げやすさを極めるために必要なウエイトを持たせていたこと。重量のあるフロントグリップと標準装備された20g(10g×2枚)のバランサーの効果で重心が手元に寄ることで、キャストのブレが軽減される。さらに、決して軽量・高弾性ではない30トンカーボンのブランクには厚みのある塗装とチタンよりもウエイトのあるステンレスガイドが搭載されており、キャスト時にロッドがしっかりしなり、ゆっくりと反発することで、ねらったスポットにルアーを置きに行くように届けることができるのだ。また、ハードルアー特有のラインテンションがかかった状態でのバイトも弾かない。ティップの反発スピードが調整されているため、吸い込まれたルアーがより長時間バスの口の中に残るからだ。
「カーボン素材による巻き物専用ロッド」という、それまでに前例のなかったコンセプトで打ち出された初代ハードベイトスペシャルは、軽さと感度がもてはやされた時代においても多くのファンを獲得。現在に至るまで高い人気を誇ってきた。
ストライクボールのみが要求されるハードベイトゲーム
ハードベイトスペシャルの誕生に際して、なぜ軽さや感度よりも「正確なキャスティング性能」が重視されたのか。
取材中、田辺さんから印象的な台詞を聞くことができた。
「ハードベイトゲームにボール球は許されない」
野球であれば、ピッチャーはバッターを歩かせてしまうまでに3つまでボール球を放ることが許される。つまり、コントロールを誤った球を数投投じてもまだバッターを打ち取る可能性は残されている。しかしハードルアーの釣りに関してそれはないということだ。
「ハードルアーが持つパワーは、ときにソフトルアーを大きく上回る釣果をたたき出す強みである一方、ミスキャストしたときに離れた位置のバスを中途半端に引っ張ってしまうという側面もある。ミスキャストしたルアーをバスが少しでもチェイスしてしまったら、次のキャストでそのバスをキャッチできる確率は限りなく低い。バスの口もとにルアーが届いてからが勝負であることが多いソフトルアーに比べて、ハードルアーは着水の瞬間がゲームのスタートだということを理解してほしい。つまり、キャストを誤った時点でゲームオーバーなんだ」
アングラーの120%を引き出す「言い訳」のできないロッド
では、2004年の「VOICE(ヴォイス)」シリーズ登場におけるマイナーチェンジから、実に13年ぶりのリニューアルとなるハードベイトスペシャルはいかなるロッドなのか。
「新しいハードベイトスペシャルは、より遠くに、より正確なキャストを決められるロッド。もちろんこれまでのモデルも投げやすさに重きを置いて作られているけど、それを上回る精度と飛距離を約束するよ。そのパフォーマンスを引き出すために使うパーツやセッティングにはかなりこだわっているけど、このロッドの本質を理解してもらうためには、まずは使ってみてっていうのが俺からのお願い。このロッドでルアーをキャストして、魚を掛けて、寄せるっていう一連の動作をこなしてみれば、俺のこだわりを理解してもらえるはずだよ」
リファインされたハードベイトスペシャルは、一昨年に発売された「ロードランナーヴォイスLTT」シリーズのデザインを踏襲しており、グリップは田辺さんと富士工業が長い時間をかけて共同開発したPTSリールシートを採用。外観でLTTシリーズと大きく異なるのは、ブランクが全塗装になった点だ(LTTはストリッピングガイドから先が無塗装)。塗装の調節によりロッドの反発スピードがやわらげられている。この小さなこだわりが、より簡単にリリースのタイミングを身体に伝えてくれるのだ。たとえばサイドハンドキャストの正確性を測るひとつの基準として、自分の真正面にキャストができるかというものがあるが、高弾性のカーボンロッドでサイドハンドキャストをしたとき(アングラーは右利きで、身体の右側から振った場合)、キャストが正面より左側に流れてしまった経験はないだろうか。これは、アングラーがロッドの速すぎる反発スピードに対応できず、リリースタイミングが遅れてしまったことが原因だ。
「日々フィールドに出ていて感じるのは、やっぱりハードベイトゲームをやり込んでるアングラーがまだまだ少ないということ。フィネススタイルを否定する気はさらさらないけど、ハードルアーで釣る楽しさも知ってほしいなって思うよ。ハードベイトゲームをやり切れないのは、大体の場合道具が不十分だから。ソフトルアーで使うような、高弾性カーボンを厚巻きにした硬いロッドで正確なキャストを決めるのは難しいよ。ちゃんとしたロッドを使ってもっときちんとルアーを入れ込めれば釣れるのに、ボール球を投げ続けて『あ~あ、やっぱりプラグは釣れない』となって、ますますハードベイトから遠ざかってしまう。
その点、ハードベイトスペシャルはアングラーのキャスティング技術を120%引き出すことができるロッドだと断言できる。これまでロードランナーを使ってきてくれたユーザーなら性能の向上を実感できるし、初めてロードランナーを使った人はキャストが決まるようになって驚くはず。いうなればこれは『言い訳』できないロッドなんだよ。アングラーの技量を最大限引き出してくれるから、これでもキャストが決まらなかったら道具のせいではなくて使い手に問題があるってこと。そこで初めて道具ではなく自分自身と向き合うことができる。ハードルアーをやりこめる道具を使って、相手がバスだからこそできるイケてるバスフィッシングを目指してほしいね」
15機種(HB560L、HB511LL、HB600L、HB600M、HB630LL、HB630L、HB630M、HB640ML、HB660H、HB680L、HB680M、HB680XH、HB710LL、HB760L、HB760M)をラインナップ。4万8000円~5万3000円+税
ロードランナーは息が長いロッドだ。ハードベイトスペシャルのモデルチェンジが実に13年ぶりだったように、田辺さんは簡単に上書きされてしまうようなロッドは世に出さない。裏を返せば、新生ハードベイトスペシャルはこれから長きにわたって本気で使い倒し、アングラーの身体の一部にしていくことができるロッドだということだ。5年、いや十数年先の未来でも、多くのハードベイトフリークがこのロッドを握っていることだろう。
ウエルエフ
2017/5/30