ジギングブランド「&ビート」を背負う大橋正義さんがベタ凪&潮が動かないタフな日のイサキに挑む。釣行日を選べないサンデーアングラー必見のバイトを引き出す一手とは?
ジギングブランド「&ビート」を背負う大橋正義さんがベタ凪&潮が動かないタフな日のイサキに挑む。
釣行日を選べないサンデーアングラー必見のバイトを引き出す一手とは?
写真と文◎編集部
大橋正義(おおはし・まさよし)プロフィール:1985年生まれ、大阪府出身。20代前半からジギングにのめり込み、その熱意と実力を大貝俊也さんに買われ、約20年にわたってbeatスタッフとしての道を歩む。現在は&beat製品の開発・製造を担いながら、製品テスト、イベント、ロケなど忙しい毎日を送っている。
真下だけじゃない、横にも広がるジギングの世界
オフショアのジギングと言えば真下にジグを沈めてバーチカルに誘い上げてくる釣り方がまず思い浮かぶが、キャストして中層を横方向に誘ってくるのがメインになるターゲットもいる。
近年よく耳にするSLJ=スーパーライトジギングの代表的な対象魚であるイサキがそのひとつだ。水深が浅い海域で、中層より上のレンジで捕食する状況が多いイサキをねらうときは縦より横にジグを操作したほうが広く探れ、反応があるレンジを長く通せるからチャンスが大きくなる。
今回そんなイサキのSLJを楽しみに玄界灘にやってきたのは、ジギングブランド「&ビート」プロスタッフの大橋正義さんと蒼井さやさん。
&ビートとは?
&ビートはジギングへの深い洞察と経験をもち数々の名作ジグを生み出した故・大貝俊也さんのものづくり意思を受け継いだブランドで、もともと他社のジグの開発やOEM生産を手がけていた大貝さんが自社ブランドとして立ち上げたのが、&の付かない「ビート」だった。2012年発売の大ヒット作「ブースF」はいまなお多くのジギングファンに愛用され、2021年には村上晴彦さん率いるISSEIとの共同開発ロッドをリリース。
しかし、さらなる期待が膨らんだ矢先、大貝さんはこの世を去ってしまう。ブランド存続の危機に手を差し伸べたのが村上さんだった。大貝さんの遺志を受け継ぎ、村上さんと大橋さんとのタッグで再始動したのが「&ビート(&beat)」だ。
20代の頃からブランドを裏方で支え、「妥協せず後世まで残せるよりよい製品を」という姿勢を学んだという大橋さんは「現在の態勢になったことで今年から再び製品を送り出すことができました。長年のお客様からも『帰ってきてくれた』と喜びの声をいただき、感謝とともにますます気持ちが引き締まります」と、ブランドを受け継ぐ思いを語る。
70cmの特大イサキも登場する海域
2025年は春先から不順な天候に見舞われる週末が多く、アングラーをやきもきさせたまま梅雨に突入した日本列島。6月初旬の土曜日、雨予報の合間を縫うように北九州市に集合したロケ班が利用するのは若松区から出船する光生丸だ。
PE0.8号を巻いたSLJのタックルで、水深30~40mの海域を釣る。メインのターゲットはイサキで、マハタ、キジハタ、マダイなどもヒットする。
サングラスが似合う気さくな船長・花島文夫さんによると、2週間前に57cmのイサキがキャッチされているほか、70cmの特大イサキを水揚げした漁師さんもいるというから驚きだ。5~8月の産卵期になるとより浅いレンジで捕食するようになり、上のレンジで食ってくる魚ほどサイズがよいという。よって最盛期はその時期に絡む初夏なのだが「今年のイサキは季節の進行が遅れていますね。釣れるイサキはまだ腹が膨らんでおらず産卵に絡んでいません。ベイトは入ってきてますから、もうそろそろだとは思います」花島船長。
さらにこの日の海況はベタ凪の予測。流れてくるジャコやイワシなどのベイトを表層から中層で捕食するイサキは適度に波のある状況でないと食いが立たず、ベタ凪は最悪だという。
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ベタ凪に大苦戦
出航後、約40分走って最初のポイントに到着した。ドテラで船を流しながら水深30mの瀬を探っていくコース取りだ。
大橋さんが最初に手にしたジグはベビージグレイ45g。まずはフレッシュな魚をねらうため流される船の進行方向側へ30mほどキャスト。底をとったらロッドの振り幅が10~20度ほどの細かいジャークを連続で入れながら、リーリングを止めずに巻き上げてくる。ジグはすぐ手前に寄ってくるので、ピックアップして再キャストする。キャストごとにリーリングスピードを変えたり、ボトムをとらずにカウントダウンで水深の半分まで沈めてから巻き始めたりと、スピードとレンジを広く探るアプローチで反応をうかがう。
「イサキを反応させるために重要なことが3つあります。それは速度感、レンジ、タイミングで、どれも等しく重要です」と大橋さんは断言する。
その時々でイサキが反応するジグの速度があり、レンジも同じ。その速度をいち早く探りあて、そのレンジをいかに長く引けるかで釣果が変わってくる。操作の上では潮の抵抗(潮上に投げるか、払い出すほうへ投げるか)によってもジグの動きは変わるから、それを勘案してジグのウエイトと巻きスピードで調節していくのだ。
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またイサキもほかの魚と同じく、潮が変化したタイミング、ベイトの群れとリンクしたタイミングなど口を使い始めるきっかけがある。これを逃さないように速度とレンジをアジャストしていく集中力も大事だという。
ジグをよりスリムでアクションが大人しく速度を上げやすいカエリ40gにチェンジしたり、キャストを潮が払い出す方向へ変えたり、操作にワンピッチジャークを織り交ぜたりといろいろ試すものの、なかなか本命からの反応が得られない時間が続く。
「まだ食いが立っていないんです。食うとしたら潮が利き始めるときでしょう。いまは0.4ノットですからほとんど流れていません。これだとハタ類など底物は食いますけど、中層にいる魚はもっと流れてくれないとキツいです。他の船もサオを曲げている人が見えません」と大橋さん。
多彩な根魚に交ざり本命イサキが登場
ここからは移動のたびに潮の速さを気にする展開になった。9時を回り、あまりに反応が遠いため、一度フォール主体の釣りを試してみることに。ジグはカエリ60gに、タックルはベイトに持ち替えた。フォール中のアタリを掛けるにはベール操作が必要ないベイトリールが有利だ。
潮が払い出す向きへ15mほどキャストし、スローピッチジャークでねらう。リールを巻かずにロッドを立ててジグをリフトしたら、ロッドを倒すのに合わせてリールを1回転。このときのフォールで食わせる釣り方だ。リフトの幅は45度ほどだが、ゆっくり真上までロッドを立てるときもあった。すると根魚たちが順調に釣れ始める。
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蒼井さんのキジハタを皮切りに、マハタやカサゴが混ざる。そのなかでウリボウサイズではあるが蒼井さんが本命をキャッチ。潮が完全に止まったタイミングだったが「底付近でフォールの動きに反応しました」と蒼井さん。一般のお客さんにもポツリポツリではあるがイサキが掛かり始め、ここから状況が好転するかに思えたものの、その後反応は途絶えてしまった。

スローな状況へアジャストした隠し玉
お昼を前にして、花島船長の「もっと潮が動きやすい所へ行こうか」という声で大きく移動。ここでは0.5ノットで潮が流れていて、表層までベイトの反応があり時折目視でもそのきらめきを確認できる。
ミヨシに立ったお客さんが13~15cmのサバをヒットさせており、これが捕食されているのかもと思った矢先、蒼井さんのロッド・グーステクニカルエスが大きな弧を描いた。ティップが水面に刺さるようなダッシュを何度も受け止め、バットパワーで浮かせたのは64cmのマダイだった。
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本命ではないとは言え、こんな魚に出会えるチャンスがあるのがSLJなのだ。楽しくないはずがない。
午後2時過ぎに再び大移動。水深34mの瀬をねらう流しだ。大橋さんはフォールの誘いをメインに据えて、カエリとベビージグレイをローテーション。どちらも水平姿勢でフォールするタイプだが、カエリはスライドを繰り返しながら沈んでいくのに対して、ベビージグレイはボディーをパタパタさせてフォールする。その違いで反応を探っていく。
ここで長らく沈黙していたイサキがほかのお客さんにヒットし始めた。反応のあったジグを聞いてみると21gのブレードタイプだという。ここまで大橋さんは40g以上のジグを使ってきたが、予想以上にスローなスピード感のようだ。
そこで大橋さんが取り出したのは、プロトタイプでまだ色も塗っていないベビージグレイの18g。イサキが表層でベイトを追う状況を想定して作ってきたサンプルだ。この日は中層からボトム付近でヒットしているので用法は合っていないが、スピード感をアジャストするにはこれしかない。根気よくボトムまで沈めてからの巻き上げでハンドル14回転ほどさせたとき、リアにセットしていたフックがついにイサキの口を捉えた。そこまでの大物とは言えないものの、待望の本命に歓喜の笑顔が輝いた。
動画や雑誌で見るSLJはカンタンに多くの魚を手にしているように見えるが、それも状況次第。釣行日を選べない一般のアングラーならなおさらだ。今回特別タフな状況に挑むことになった大橋さんのジグセレクトとスピードとレンジのアジャスト術を参考にしてもらえたら幸いだ。

この日活躍したジグ

右:ベビージグレイ30g&40g(&beat)。水噛みがよくリトリーブでも強めのアクションが出る。フォールは水平姿勢のパタパタ系
左上2つ:カエリ60g&80g(&beat)。細身のため速めのリトリーブに対応。フォールは水平姿勢のスライド系
左下:ポットベリー75g(&beat)。中層のバイトが遠いときに根魚をねらってみるため底付近のスロージャークで使用
フックはジガーライト早掛(オーナーばり)、アバニオーシャンワークスSLJリトルモンスター(バリバス)など。サイズは#1/0。
※このページは『つり人 2025年8月号』を再編集したものです。