ウミタナゴは愛らしい。オチョボ口につぶらな目。体高のある魚体にきめ細かい鱗。ノベザオで掛ければ小気味よい躍動が癖になる。水深は2mもあればいい。
ポイントの選び方と道具立て
つり人編集部◎写真と文
海藻が繁茂する春磯はウミタナゴの楽園だウミタナゴは愛らしい。オチョボ口につぶらな目。体高のある魚体にきめ細かい鱗。ノベザオで掛ければ小気味よい躍動が癖になる。水深は2mもあればいい。海藻があれば高確率で群れなしてキュンキュンと来る引きを入れ食いで味わえる。同じ道具でモエビを使えばメバルもヒットするのだから、春の小磯&堤防は癒しのウキ釣りパラダイスだ。
この記事は『つり人』2016年5月号に掲載したものを再編集しています。
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「なんでもいいから釣ってみたい」入門者におすすめ
「初めて釣った魚はウミタナゴでした」
そう話すのは長谷川知教さん。上州屋横須賀中央店の店長である。三浦半島三崎町で生まれ5歳で釣りが好きになった。油壺マリンパークがすぐ側という実家に育ち、子どものころからクロダイ、メジナを追いかけた。釣り好きが高じて上州屋に勤務し店長になって15年。
上州屋横須賀中央店の長谷川知教店長。三浦半島周辺のホットな釣りに精通している
「なんでもいいから釣りをしたい。そう言うお客さんにおすすめするのがウミタナゴ釣りです。昔は専門にねらう人も多かったのですが、近年はめっきり減りました」
小誌バックナンバーを見ると90年代まではウミタナゴが誌面を飾ることは多かった。中でも三浦は盛んな釣り場で、ノベザオを手にしたウミタナゴファンが磯にずらりと並んだ写真も見られる。水温が低くアタリの乏しい春の海でにぎやかにウキを動かすウミタナゴは、老若男女が楽しめる貴重なターゲットである。思えば淡水のタナゴ釣りも古くは厳寒期に数が釣れることから人気を集めた。
そんなウミタナゴは北海道中部以南の日本各地に生息する。ウミタナゴ、アカタナゴ、マタナゴ、アオタナゴの4種に分類される。産卵ではなく胎生という特徴があり、晩春から初夏には20~30尾の仔魚を産む。春は命のゆりかごとなる藻場で多くのエサを取る。
「三浦のウミタナゴは10月から7月までよく釣れて、真夏はぱったり釣れなくなります。東京湾のほうが大型は多く、相模湾側はそこまで大きなサイズは釣れにくいです。横須賀の海風公園ではカレイ釣りの外道で30㎝クラスが掛かることもあるんですよね。でっぷりと肥った白いウミタナゴです」
3月上旬、気温16℃の好日に長谷川さんは三浦半島西岸の諸磯へ。上州屋横須賀佐島店の林義夫さんを誘って訪れた。
上州屋横須賀佐島店のスタッフ林義夫さんは「海釣りのきっかけのひとつが馬堀海岸でウミタナゴを釣ったことです。久しぶりにやると面白いですね」とこの笑顔
三浦の一級磯周辺が好釣り場
取材日の風向きは北東のち南東の予報で正午に満潮を迎える。「春の三浦は何を釣るにも正午過ぎから夕マヅメがベストです」と長谷川さんは言う。すなわち、早起きせずとものんびりと釣行すればよいのである。
穏やかな日差しの下で地磯歩きは気持ちイイ
ウミタナゴはサラシをねらうわけでもなく穏やかな湾内で気軽に遊べる。最低限の装備でよい
ウミタナゴの好釣り場はノベザオでも届く距離に溝があり、かつ海藻の繁茂する場所。「水深は2mもあれば充分」と言う。三浦の一級磯周辺ならどこでも釣れるという。
長谷川さんと林さんは愛用のノベザオ5.3mを伸ばした。
手のひらに収まるようなウミタナゴもノベザオで釣れば十倍楽しい。手返しがよいのも、ノベザオの魅力である
「ノベザオは引き味がよくて手返しも早いです。もちろんメバルやアジング用のルアーロッドで釣っても楽しいですよ」
仕掛けはミチイト1号に浮力の異なるナツメウキを数珠状に並べたもの。長谷川さんは3段ウキ仕掛けで、イトを通さず着脱できるデュエル『TGソナー』を上からB、G2、0号の順に付けている。ハリスの上には浮力調整用ガン玉の1号をひとつ噛ませ、その下にハリス0.8号を40㎝取る。ハリは袖の4~5号。エサはオキアミとジャリメだ。
長谷川さん愛用のノベザオは中継ぎモデルの5.3m。おすすめの長さは3.6~5.3m。引き味を楽しみたいならハエザオのような軟調子もよし。手返しを重視するなら張りの強い硬調がよし
デュエル『TGソナー』。上からB、G2、0 号というぐあいに異なる浮力のウキを3つ付けてアタリを見極める。水深の半分くらいのウキ下に調整すればよいだろう
マブナ釣りでも活躍する昔ながらの中通しウキ。ナツメ型、丸型はお好みで選ぼう
小型の立ちウキでアタリを取るのも面白い。いろんなウキでアタリを楽しめばまた一興
ハリは袖型4~5号。0.8号のハリス付きが使いやすい
寄せエサはアミコマセ1ブロックとメジナ用の配合エサが1袋あれば充分すぎるほど。写真は上州屋オリジナルの配合エサ。安価である
オキアミはムキ身にすると吸い込みやすく、アタリも出やすい。ただし取られやすいのが難点である
アワセ時を見極めるのも楽しみ
海面には柔らかな春の日差しが降り注ぐ。寄せエサを撒くと群がる魚影が見えた。
「ウミタナゴですよ」
ウキ下は1.5m。ふたりは仕掛けを投じた。間もなく、長谷川さんはウキの変化を見逃さなかった。合わせるとノベザオがキュンキュンとしなる。見るからに小気味よい引きの後で、バシャッと水面を割ったのは赤い本命である。
一投目から入れ食い。林さんもリズムをつかむが、両者とも10㎝クラスの小魚ばかり。
「もうちょっと手応えのよいサイズが釣りたいですね。寄せエサを撒かずに、ウキ下を深くしてジャリメを大きく付けてみましょうか」
試みると手のひらクラスが掛かって来た。ジャリメのメリットは、エサが残りやすく同じエサで釣れ続くことだ。
ジャリメはエサ持ちがよく同じエサで3尾、4尾と釣れることも多い。ただし寄せエサに狂ってしまうと、オキアミにしか反応しないこともあるので2種類用意するのがおすすめ
ジャリメに変えた林さん。一回り型のよいタナゴが水面を破った
誰でも簡単に釣れそうだが、アタリを出すにはちょっとしたコツがある。第一にウキ下をたるませない。ウキからハリまでがたるんでいると魚がエサをくわえてもウキに反応は出にくい。潮下にエサ、潮上にウキがくるように振り込み、仕掛け着水後はウキを潮上に軽く引っ張る。もちろん仕掛けやエサの流れ方を観察しないと、こうした操作もできないだろう。
「アワセが遅いとハリを飲まれます。ハリを飲んだ魚は弱り、手返しも悪くなります」
長谷川さんのウキは一番下のゼロが海面下にシモり、真ん中のG2が水面ギリギリを漂い、上のBはプカプカと浮く。ゼロがスッと沈み、G2が消し込む直前にアワせると、口にフッキングしやすいという。
「釣りにハマるきっかけはいろいろですが、アタリを取ることの面白さを知るならウキ釣りが一番です。ウミタナゴは釣り入門に最適ですよ」
ふたりは1時間も経たないうちにバッカンいっぱいのウミタナゴを釣りあげた。
入れ食いのウミタナゴ。短時間でも満たされる癒しの釣り
40分ほどでバッカンいっぱいのウミタナゴが釣れた
モエビを付けて日中メバル
今度はメバルをねらうことにした。陸っぱりのメバルといえば夜の釣り。だが、長谷川さんはモエビを使えば日中でも釣果は手堅いという。
「メバルをねらうなら根際にモエビを漂わせます。モエビを使うとウミタナゴは釣れず、なぜかメバルばかりが食ってきます」
モエビは日中でもメバルが当たる特効エサだ。ウミタナゴの道具をそのまま使って、エサを変えればOK
長谷川さんは偏光グラスを掛けて根際を観察。小型のメバルが1尾、2尾と確認できた。
ウミタナゴと同じ道具立てにモエビを付ける。ウキ下は1.5m。根際に仕掛けを入れると、ウキはトロトロと沖に向かって流れ、一気に消し込んだ。鋭い引きでノベザオを曲げたのは15㎝ほどのメバルだった。
「モエビの威力、恐るべしですよね(笑)」
小ぶりのメバルだったため、長谷川さんはウキ下を40㎝ほど深くした。再び根際を探ると、根掛かりしたのかウキが斜めにシモっていくが、そのまま放置する。
「根がオーバーハングしていますから、その中にメバルがいるかもしれません。モエビを根の上にしばらく置いてようすを見てみましょう」
モエビをエサにすれば日中でもメバルは好反応。根をタイトに探るのが勘所
そのうちウキが不自然に引かれた。聞くとグングンと手応えを得たが、根に潜られた。長谷川さんは落ち着いてサオを前に突き出す。テンションをじわりと掛けていると、根に張り付いた魚は泳ぎ出した。すかさずサオを絞って浮かす。今度は手のひらからはみ出るくらいの黄金の魚体が躍り出た。
黄金のメバル。春告魚の異名のとおり春は好機である
4時半の時報が鳴った。長谷川さんいわく太陽が水平線の間際に来るころから数時間はクロダイ・メジナのゴールデンタイムという。ウミタナゴやメバルと日中に遊んだら、夕マヅメは大ものと一発勝負もありだろう。
最後に長谷川さんは、「メバルが美味しいのはもちろん、ウミタナゴだって調理しだいです。三浦の人は水分が多いので、素焼きしてから煮るか、揚げてから煮ています。こうすると身崩れしにくくて旨いですよ」と教えてくれた。ウミタナゴの型がよくなるのは4月以降というから、ノベザオを片手に小磯を探訪してみよう。