姿が減ったアオリイカ。全国各地で起きている問題にダイバーと釣り人が手を組んだ。支障木を活用して人工産卵床を作り、海に沈める。海も山もよくする葉山町の取り組みを紹介したい。
海のために山のために
レポート◎編集部 写真提供:ダイビングショップナナ
姿が減ったアオリイカ。全国各地で起きている問題にダイバーと釣り人が手を組んだ。支障木を活用して人工産卵床を作り、海に沈める。海も山もよくする葉山町の取り組みを紹介したい。
この記事は月刊『つり人』2022年6月号に掲載したものを再編集しています
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人工産卵床でアオリイカを増やせ!
春から夏が産卵期となっているアオリイカの寿命は1年から長くても1年半程度。海藻やサンゴなどの根本に卵を産み付けたら生き残ることはない。そのため、資源量の変動を実感しやすい生きものである。
近年、アオリイカが減っているという話を各地で耳にする。産卵する藻場が減少しつつあることが主な原因だとされているようだ。藻場の減少は磯焼けなどさまざまな理由が考えられる。
神奈川県葉山町では危機的な状況にあるアオリイカを守ろうと、木の枝で作った産卵床を海底に設置する取り組みをしている。7年前にイカを増やしたいと考えた地元のダイビングショップナナや漁業者などが活動を始めたもので、今年も釣具メーカーのヤマリアや地元の釣り人、釣具店の人々含めて総勢20人ほどが集まった。産卵床を設置したのは4月4日。その前日に木の枝を束ね、沈めるための土嚢を作った。「木をまとめる時には程よく隙間が開くようにするといいですね」と言うのはヤマリアでイカの研究をしている森有平さんだ。集まった人に作り方のレクチャーをしていた。
人工産卵床に卵を産み付けるアオリイカ。美しい姿はダイバーにも人気
写真提供:ダイビングショップナナ
支障木を有効活用
産卵床の材料になる木は一般財団法人葉山の森保全センターから提供された。今回は横須賀市のクスノキの枝を使った。木の種類は毎回違う品種を使っている。その理由は「支障木」を使うため。支障木とは簡単にいえば生活に支障が出る木のことで、車道や歩道に張り出してしまった樹木や台風などにより倒木の恐れがあるものを指す。
地元の釣り人やダイバーも集まり、一丸となって作業を行なった
産卵床として使う木は葉が長く付いていることが重要。今回はクスノキを使用した
「僕らは山サイドなので、このプロジェクトをやることによって葉山の森の資源が循環していくことを願っています。人はもともと森から資源をもらって生活をしていた。そのころはここまで荒れていなかったと思います。化石燃料に置き換わった結果、荒れてしまったのでしょう。アオリイカももちろんだけど葉山のために森も循環させていきたい」
と葉山の森保全センター代表理事の藤本嶺さんはこのプロジェクトに対する思いを語ってくれた。
支障木を産卵床に使えないかと考えたのは地元釣具店である葉山釣具センター社長の水留清隆さんと日釣振事務局の吉野生也さん。ダイビングショップナナが産卵床に使う木の入手に手間取っていると聞いて葉山の森保全センターに協力を頼み、使い道がなかった木々の提供を藤本さんが快諾。「葉山町里海里山プロジェクト」として始動することになったのだ。
この活動には地元の釣り人も参加していた。「今回活動に参加した理由は、昔からこの葉山の海と葉山釣具センターにお世話になっていたというのが大きいです。恩返しのような感じですね。こういった活動は継続していきたいと思います」と言うのは葉山で生まれ育った大学2年生の藤森漁太さん。そのほか5名の釣り人が参加していたが皆に共通するのは「葉山の海を護りたい」という強い意思だった。「昔はアオリイカのキロオーバーも釣れていたんだよ。最近は見ないね」といった声もあるが、このような活動により少しでも個体数が戻り、豊かな海が復活することを願う。
水中に固定するための土嚢には麻袋を使う。マイクロプラスチックの原因となりうるプラスチック製は使わない
作業の翌日、ダイバーが海中へ設置した。今年も産卵床を利用してほしいものだ