ブッコミの魅力再発見。アキアジを狙うための仕掛けからテクニック、探り方まで幅広く解説しています。北海道のサケをねらう参考にしてください。
アキアジ春期講習
写真・文=横川英樹
プロローグ
オホーツク海に秋の風が吹き始める頃、サケを釣るために遠方より訪れるファンでサーフはにぎわう。日の出とともに現われる無数の投げザオのシルエットは圧巻だ。そんなサケ釣りのようすは、オホーツクの秋の風物詩としてメディアでも紹介されるようになった。
サケの投げ釣りは、古くから「ブッコミ」と呼ばれ親しまれてきた。
朝焼けに向かってフルキャスト。数ある釣法のなかでも、ヘビーなタックルを片腕にする投げ釣りはダイナミック。独特な面白さがある
鬼アワセで確実にフッキングに持ち込む、札幌市の古井星次さん。軟らかいロッドはしなる分、フックまで力が伝達するのにタイムラグが発生する。逆に硬いロッドは力が伝わりやすく、アワセはゆっくり徐々に加重するイメージで行なう
サーフに複数のロッドを並べて、エサを付けた仕掛けを投げた後は、チェアに座ってサオ先に出るアタリを待つスタイル。そのため、アグレッシブなルアーフィッシングに対して、「静の釣り」と認識されることが多い。しかし、水面下では自作のオリジナル仕掛けを駆使し、積極的に魚と駆け引きをする「攻めの釣り」であることはあまり知られていない。
サケがエサをくわえるとロッドの先端が大きく揺れ始める。それを見た瞬間、アドレナリンが全開で噴出する。ちゃちなサオ立てならば一発でL字型に曲げられることもある豪快なアタリ。サーフの砂を勢いよく蹴飛ばしながら一気にロッドまでの距離を縮める。ロッドを手に取ると同時にリールを軽く巻き、たるんだラインを回収する。ラインにかかるテンションが抜けているとフッキングがあまくなるからだ。ここまでの動作が完了したら、いよいよロッドを頭上に立てるようにしてフッキングに持ち込む。「ギュン」とカーボンロッドがしなり、「ドン」と重たい手応えを感じたら魚が乗ったことを確信する。
「ヒット!」と叫びたい気持ちを抑えつつ、垂直付近まで立てたロッドをさらに後方へ引いて荷重する。ロッドのしなりが限界まで達したら、フックはもう貫通しているはずだ。もし、沖に跳ねるサケの白い魚体が見えたらフレッシュな個体と確定する。40号の三角オモリをいとも簡単に引きずりながら暴れるサケとの格闘が始まる。
今シーズンの初ものとファイト中
見事な魚体が、今年も秋の到来を告げた。この日は3尾ゲットして定数釣りを達成
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サケ釣りのルーツ
無差別な乱獲や密漁が原因となり、人工ふ化事業を行なってはいたものの、北海道のサケ資源は長い間低迷していた。記録によると、1970年頃から徐々に回復傾向を示し始め、およそ80年ぶりに1千万尾を超えたのが1975年。以降、1981年に2千万尾、1985年に3千万尾、1990年に4千万尾、1994年には5千万尾を超えた。北海道の海岸でサケが釣れ始めたのは1979年頃。サケ資源の回復した時期と重なっている。
「サンマの餌でよく釣れる」。これに釣り人が気づくと、道東のサーフでは投げ釣りでサケがあがった。これをきっかけに道内全域に広がり、サケ釣りブームが到来した。当時、サケ釣り専用のタックルや仕掛けはなかった。そのため、他魚種のタックルを流用したり、自作したりしながら試行錯誤を繰り返し、北海道独自のサケ釣りスタイルが確率されていった。
エサ・投げ・仕掛け
見出しタイトルはオホーツクの名人から教えていただいた名言だ。どれかひとつおろそかにしても成立しないのが投げ釣りの奥深さであり、面白さでもある。フィールドではまれに巨大な群れに遭遇することがあり、入れ掛かりになって2桁釣りを楽しめることもあった。しかし、そのような好条件は年に一度あるかないかのレベル。たいていの場合は、マヅメと時合(魚が食べる時間帯やタイミング)の短時間での勝負になる。その日、そのときの条件により、釣果が左右されるのは事実。安定した釣果を上げるには、条件にマッチした釣り方に変えられるかどうか。アングラーの引き出しの数にかかっている。条件とは主に、次の7項目を指す。
①天候(気温、気圧、波高、風向、風力、雲量など)
②真水(河口・沼・湖との距離、湧水の有無)
③光量(マヅメから日中の時間、南中高度)
④水深(遠浅か深場か)
⑤水温
⑥海水の透明度
⑦潮回り(月齢、大潮~小潮、潮止まり)
これらは同じフィールドでも刻々と変化していく。とくに時合の見極めはマズメに次ぐ最も重要な要素である。フィールドでは常に周りの状況を観察するようにしている。観察する項目は次の9つ。
①キャスト距離(遠投or近投)
②ヒットポイント(魚道)
③回遊周期(何分おきに釣れるか)
④回遊方向(左右どちら側から釣れるか)
⑤群れの密度(一度の通過で何尾釣れるのか)
⑥魚体のサイズや色(新しい群れか古い群れか)
⑦オス・メスのヒット率
⑧仕掛けのマッチカラー
⑨エサの種類
これらをチェックすることで、短時間で通過する群れの動きを読み、数少ないチャンスを逃さないようにしている。
釣行風景や釣果は、すべてデータとして記録している。スマホ画像は高画質なうえに日付や時刻、位置情報も同時に記録され、後で振り返るときに重宝する。魚のコンディションとヒット仕掛け、その日の条件などと合わせて分析したり、統計したりできるので大変便利だ。現代のサケ釣りは、情報収集能力と分析力が釣果アップの鍵となる。
打ち上がったカタクチイワシ。沖でサケに追われたベイトが逃げ惑った証。この現象が見られると翌朝の好釣は確定したようなもの
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エサが付いているかどうか
エサの種類は実に豊富で、アングラーがそれぞれのお気に入りを用意する。サンマ、カツオ、エビ、フクラギ、イカなどは入手しやすく、人気、実績ともに高い。鮮魚店やスーパーでできるだけ新鮮なものを入手し、オリジナルレシピで加工しているアングラーも少なくない。これらは遠征先の釣具店やホームセンターなどで、生から塩締めまでさまざまな加工品を購入できるので便利だ。サケの群れ、気象などの条件、釣り方の違いによっては、その日、そのときの「アタリのエサ」があることは確かだ。しかし、「どのエサが最も釣れるか」にこだわるより、「エサが付いているかどうか」のほうがサケ釣りにおいては重要視される。そのため、エサ替えと投げ返しを頻繁に行なっている人に釣果がかなわないこともある。やはり、仕掛けにエサが付いていなければ、釣れる確率は極端に低くなる。逆に、ほんの少しでもエサが付いていれば釣れる確率は高くなる。
時合や群れが回遊する直前にエサ交換を済ませておくことはセオリー。エサのサイズも重要で、大きすぎるとエサ取りを集魚してしまうので注意。エサがなくなるまでの時間を逆算し、交換するタイミングを決めるようにしたい。
群れが回ってきたときは、迷わず「生エサ」を使うようにしている。生エサの身や血合いから出る臭いや脂が、サケを集魚すると考えられる。そして、なぜかメス率が高いという実績がある。エサの身が厚く重たいと、メスが通りやすいボトム付近をフロート仕掛けが漂うことによると考えられる。群れがいないときは、エサの消耗を最小限にするため、持ちのよい塩締めを使うのがベター。最後に、餌は鮮度が大切。クーラボックスは必須アイテムだ。
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カケアガリにセットする
サケはシーライスを嫌うため、ジャンプして水面にお腹をぶつけたり、カケアガリの壁に擦りつけたりするので腹が赤くなっていく。つまり、サケの群れはカケアガリに沿って河口と沖を回遊していることになる。したがって「魚道」となるカケアガリを見つけ、そこへ正確に仕掛けをセットできるかどうかが釣果の差になる。地形や波の立ち方、離岸流などを観察すると、割りと簡単にカケアガリを見つけられる。ただし、そこへピンポイントでキャストすることはベテランでも難しい。
そこで、コツさえつかめば誰でもできる簡単な方法を紹介したい。まずは、ねらったカケアガリよりも遠くへキャストする。次に、手前に引いてきてポイントに仕掛けをセットする。このときは海底の地形を想像しながら、ロッドを手前に引くようにしてオモリを滑らせるのがコツだ。
砂の改定には必ず「引っかかる場所」がある。そこが、カケアガリ。リールで巻き取るように引こうとすると手感が鈍るので注意してほしい。また、三角オモリは平坦な砂底を滑らせやすく、傾斜地にくると角が引っかかりカケアガリを見つけやすい。投げ放しでは偶然カケアガリに入るかもしれないが、潮で流されでもしない限り、魚道にセットすることはできない。ポイントの選定から釣りはスタートしている。
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仕掛けのレシピ
投げ釣りの仕掛けは、市販品が少ないこともあり、自作して楽しむファンが多い。一般的なのは、幹イトにピンやビーズなどを固定し、ハリスの先にフロートなどの装飾を施すドウヅキ仕掛け。フロートの自由な動きを演出するため、ピンやビーズなどを固定しない遊動式仕掛けも人気がある。
港や堤防からの釣りは水深があるため、タナの調整がしやすいように幹イトを長くし、固定するピンの位置をフィールドで調整できるようにした仕掛けも見かける。また、ライセンス船の電動リールによる深場の釣りで使われる仕掛けのように針数を2~3本に増やし、より幅の広いレンジで群れをとらえようとする場合もある。
フロートを「発泡ルアー」として考えると釣りを組み立てやすいだろう。シルエットはベイトを模して、カラーなどにもこだわってみるとよい
遊動式仕掛け。上のビーズを固定。下のオモリまでの間をVピンが遊動する。フロートの泳ぎがよく食いはよくても、ピン固定式のドウヅキに比べて向こうアワセにはなりにくい。アワセが遅れないようにしたい
金属製の自作Vピン。空中と水中で姿勢が安定しやすく、ハリス絡みを最小限に抑えられ、フロートの泳ぎが安定する効果がある。脚の長さは7㎝程度
金属製Vピンにスプリットリングとスイベルを装着し、ハリス側に付けたスナップスイベルと接続する
自作ドウヅキ仕掛けはダブルフロート仕様。金属製の自作Vピンをビーズで固定。完全固定式と異なり、ピンの幅5㎝ほど動き、フロートの泳ぎがよくなる。「半遊動式」ともいえる。プラスチック製のYピンは軽く、動きすぎてハリスが絡みやすくなる
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ルールとこれからのサケ釣り
昨年、斜里町でサケ釣りに関するローカルルール策定のためのムーブメントを知った。そこでルール策定に先駆けて、フィールドで試してみようと思った。賛同してくれた友人とともに、「マイ・ルール」(ロッドは2本、キープは1日3尾、釣果は自宅でのみ消費)を設定し、今までとこれからのサケ釣りを実践して比較、分析することにした。
結論からいうと、デメリットよりもメリットを実感できた。メリットは次のとおりだ。①ゲーム性の向上(情報収集・分析・戦略の楽しさ)、②エサの消費量が激減、③エサ替えの効率化、④仕掛けとハリの消費量が減少、⑤タックルの軽量化、⑥スレに強い(ロッド間隔が広い)、⑦ポイント移動が簡単、⑧場所取り不要(すき間に入りやすい)、⑨釣果に大きな差はない(以前の6本ザオとの比較)、⑩遠投と近投のコントロールが向上、⑪調理のレパートリーが増えた、⑫さばく手間が減った。
強いてデメリットを挙げるとすれば、①仕掛けの選択肢が減少(これはダブルフロートシステムで改善)、②知人にお裾分けができない、③6本ザオのほうが釣れそうな心理的優位性
今シーズンは、斜里に続いて小清水町と網走市にもサケ・マス釣りのルールができた。本格シーズンを迎えたが、私がフィールドで見る限り、ルールを守って釣りを楽しんでいるファンは多い気がする。一方で、古参のベテランほど長年の習慣を変えられないそうだ。
「釣り人がサケ・マス資源を地域とともに持続的に利用するために必要なルール」、「このルールが守られない場合は、より厳しい罰則について、国や道などと協議を行いたい」(網走海浜サケ・マス釣りルール(案)のパブリックコメントから)。ルールは守ることを前提に策定されている。「ルールに罰則がなければ守らなくてもよい」などと安易にとらえると、サケ釣りができなくなるかもしれない。一度禁止になると元に戻らないのは、網走港の立入禁止などの前例がある。そして前例がなく、国や道、自治体との協議が必要な岸釣りのライセンス制の実施は困難が予想される。アングラーはこれからのサケ釣りを考え、行動していくことが求められている。北海道のサケ釣りが、どのように変容していくのか、しっかり見届けたい
今年から斜里町、小清水町、網走市の海岸では、サケ釣りをするとき1人サオ3本というルールが設定された。海岸の風景は変わりつつある
※このページは『North Angler's』を再編集したものです。