産卵期を迎えた春のイカは個体によりナーバスになっていて、秋に比べると餌木を抱かせるのは難しい。そこで貴重なヒットにつなげる要素とは? 余市港を舞台に3人のスタイルから釣果アップのコツを探ってみたい。
Photo & Text by Takanori Nakagawa
産卵期を迎えた春のイカは個体によりナーバスになっていて、秋に比べると餌木を抱かせるのは難しい。そこで貴重なヒットにつなげる要素とは? 余市港を舞台に3人のスタイルから釣果アップのコツを探ってみたい。
余市港でも……
道央日本海における春のエギングシーズンは3月下旬~4月下旬。通常ヤリイカは4月上旬~5月中旬、マメイカは5月中旬~6月下旬がハイシーズンといわれている。札幌から近く、エギングフリークに人気のある余市港は2022年、ヤリイカは例年どおり釣れていたものの、マメイカは4月中旬から連れ出して6月中旬には閉幕した。
春にヤリイカが岸寄りするのは産卵のため。体色が白くなり、大きな群れでゆっくり移動していると餌木への反応はいまひとつ。といっても釣れないわけではなく、群れのなかには少なからず餌木に反応する個体もいる。ただし、産卵前で神経質になっているのか、積極的にアタックはしてこない。興味本位で触腕を伸ばすことや軽く抱きつくことはあっても、がっちり餌木を抱くことは少なく、ちょっとでも違和感を覚えたらすぐに離してしまう。群れで行動しているヤリイカは一発フッキングさせるのがキモになる。
一方、まだ性成熟していない単独の個体や、数ハイの群れで泳いでいるヤリイカの場合、小魚を追っていて餌木に好反応を示すことから積極的に誘ってフッキングにつなげられる。今回は昨年4月中旬の釣行を振りかえり、春イカ攻略のヒントを探りたい。
ところで、本題に入る前に触れておかねばならぬことがある。2023年3月、余市港の管理者である余市町は、余市港の一部を立入禁止に指定する看板を設置した。この背景には釣り人のマナー違反がある。今冬、数多くの釣り人が訪れたことで、漁業者や市場関係者の作業に支障が出たことが原因。船の荷揚げ場所やトラックの通路になっている市場前の岸壁と、南防波堤の全域が立入禁止に設定された。同町は「支障が続けば禁止区域が増える可能性もある」としている。余市港はもちろん、他の港でも立入禁止の場所には入らない、漁業関係者の指示に従う、ゴミは持ち帰るなどマナーは徹底したい。
教員と生徒
昨年4月20日、余市港を訪れたのは札幌市の田口清輝さん、神奈川県の岩間利也さんの2人。
田口さんはフライフィッシングをメインにしながらも、イカが釣れる時季は余市港に足を運ぶマルチアングラー。エギング歴は 15年以上と長い。余市港でエギングを楽しんでいる仲間からは、田口さんが教員をしていたこともあり「ティーチャー」と呼ばれている。
岩間さんは教え子のひとりで、卒業後も趣味の釣りをとおして交流。神奈川県に住んでいても学生時代に夢中になったエギングを忘れられず、今回は有給休暇を取って来道した。
岩間さんから「イカが釣りたい」と連絡がきたときには釣果情報がなく、過去のデータから予想して「20日くらいがいいのでは」と答えたという田口さん。その予想は的中し、前日の19日、港内でヤリイカの群れを確認した。3 月下旬から釣行を重ねていた筆者は4月5日にシーズン1パイ目をキャッチ。その後は釣れなかったが、16日に6パイゲットして状況が上向いてきたのを実感していた。
しかしSNSで釣果情報が出ていなかったせいか20日に同行したとき、見える範囲でイカをねらっているのは4人だけ。早速、常夜灯のおかげで明るい中防波堤の基部側から探ることにした。
群れで変わる誘い方
ロッドは田口さんも岩間さんも7.6フィートのライトロックフィッシュ用を選択。メインラインはPE0.6 号、リーダーはフロロカーボン6ポンドを 50㎝ほど電車結びで接続。メインで使っている1.8号の餌木を基準に、 ライトなタックルセッティングにしている。一方、2.5号の餌木まで用いる筆者は、8.2フィートのミディアムパワーのエギングロッドを選んだ。 ラインはPE0.6号、リーダーはフロロカーボン8ポンドを80cmほどFGノットで接続。
最初にエントリーしたのは、港内側の水深が比較的浅いエリア。港内奥に位置するため砂の流入が少なく、底には捨石が散らばっている。まずは全員1.8号の餌木からスタート。田口さんが2投目でヤリイカを釣ると、すぐに岩間さんも続いた。
ボトムまで沈めてから、チョ~ン、 チョ~ンとやさしくシャクリを入れて3秒フォールを繰り返していると、 フォール中にラインが弾かれるような小さなアタリ。その直後、ラインが引き込まれる明確なアタリを感じてスイープに合わせた。ズシッとロッドに負荷が掛かり、グ~ン、グ~ンと魚とは違う引きが伝わった。
遠投するとまとまっている箇所があり、毎年その近くまでヤリイカは回遊してくる。そこは常夜灯の明かり外のため、目視で確認はできない。が、船道を通って入ってきたヤリイカは海藻の所で行き場を失い、少しうろうろしてからUターンして戻ていくのではと推測している。なぜなら1パイ釣れると5分くらい連続でヒットすることが多いため。ただ通過するような場所では1分くらいしか釣れないのが普通。数分釣れ続くということは、そこに止まっていると想像できる。
回遊のヤリイカをねらう場合は、堤防の基部や角など、イカが素通りできずに折り返す場所を考えるのが大事。 そこに群れがきたとき、餌木をしっかり見せるとヒットチャンスが増す。今回釣れたヤリイカはサイズ的には小さく、まだ産卵を意識していないのか餌木への反応はよかった。
産卵のために岸寄りした春イカをサイトでねらう場合、秋イカのようにビシッ、バシッと激しくシャクるのではなく、群れの進行方向を予測してキャストし、ラインの張りを調整しながら群れの通るレンジまでスローにフォールさせるのが肝要。アクションを加えるときは、チョン、チョンと餌木の頭部のみを上下に小さく動かすように操作する。反応したイカが近づいてきても焦らず、餌木をステイさせるイメージで抱いてくるのを待つ。
餌木を抱いたイカはバックするので、ラインを張らないようにロッドティップを送り込み、しっかりと抱かせる。 その際、ラインにテンションが掛かると餌木を離してしまいがち。一方で、 産卵を意識していないイカなら、少しアクションを加えても抱いてくる。回遊しているイカが産卵前なのかどうか、 それを見極めながら誘いの強さを調整したい。
3タイプどれがいい?
実釣開始から1時間が経過。スローフォールに重点を置いた誘いを駆使し、 釣果は人ハイペース。岩間さんが「足もとにイカがいます!」と言い、見えイカの近くにキャストすると反応がよく、すぐに抱いてきた。キャッチしたのは大きめのマメイカ。秋に釣れるサイズの倍くらいある。どうやら足もとや船陰周りにマメイカがいるようだ。
ここで岩間さんはマメイカにねらいを定めて1.5号の餌木にチェンジ。 すぐに1パイ追加したが、「1.8号のほうが反応はいい」とのこと。秋イカのように激しく誘って抱いてくるイカには、アピール度の高い1号がよいようだ。
ところで、同じ1.8号でもタイプやメーカーによりフォールスピードは変わる。取材時に岩間さんが多用していたのは、重さ4.5g、1m沈むのに10秒かかるシャロータイプ。田口さんは5.0g、8.5秒のベーシックシャロータイプ、筆者は5.5g、5秒のノーマルタイプと三者三様。どれがよいということではなく、イカの泳ぐレンジやアングラーの操作をふまえて選びたい。
これからの時季、ヤリイカもマメイカも産卵のために群れで行動を始める。餌木への反応は悪くなり、激しく誘うと逃げてしまうことも。ゆっくり静かに誘うため、餌木の選択は重要。たとえば、1mのレンジをイカが通るとしよう。そのレンジに到達するまで10秒かかるシャロータイプでは、イカの進む2m先にキャストしたとしても、 ヒットレンジに達する前に通過してしまう。逆に5秒の餌木はどうか。今度はイカがくる前に1mのレンジより沈んでしまう。
シャロータイプはフォールスピードを速めることはできない。そのため、 イカの回遊スピードと餌木のフォールスピードを考慮し、キャストする場所を遠くに定める必要がある。とはいえ上手くアジャストすることができるようになると、じっくりとアピールでき、 春イカ攻略にもってこいの餌木と言える。
5秒のノーマルタイプの場合、フォール中にラインテンションを調整することでフォールスピードを遅くでき、イカの通過に合わせることが可能。レンジが2~3mと深ければノーマルが有利だろう。
8.5秒のベーシックシャローは両者の中間的なタイプ。オールラウンドに使えることから
春イカはちょっとしたコツとテクニック、経験値の差で釣果が分かれる。 日本海の留萌~島牧エリアなら、余市港とほぼ同時期に春イカをねらえるはず。人がいないから釣れないとは思わず、気になる場所は積極的に探ってみたい。ひょっとしたらそこは誰も知らないイカパラダイスだったりして!?
この記事は『North Angler's』2023年5月号に掲載されているものを再編集して公開しています。