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編集部2020年4月10日

『回想のフライフィッシャー』(芦澤一洋)を回想する/アームチェアフィッシングの部屋 第1回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『回想のフライフィッシャー』/芦澤一洋・著

小野 弘(つり人社・月刊『つり人』編集部)

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
小野 弘(つり人社・月刊『つり人』編集部)

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1965年生まれ。1988年から「つり人社」でアルバイトとして働き始め、翌年編集部社員として採用。『FlyFisher』3代目編集長を務め、現在は単行本の編集を担当。


シェリダン・アンダーソンとの出会いに思いを馳せて

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『回想のフライフィッシャー』(芦澤一洋)、『フライフィッシング教書』(田渕義雄/シェリダン・アンダーソン)。手前は14歳の時、父に買ってもらった初めてのフライリール。シェリダンの本はその翌年読んだ記憶がある


 弊社「つり人ノベルズ」の一冊である本書を紐解くと、1979年に森林書房から刊行された『西洋毛鉤鱒釣師譚』を改題・再編集した内容であることが、目次につづいて記されている。その本もまた約1/3が釣り雑誌『フィッシング』記事からの転載であり、初出は1974年にまでさかのぼる。1974年といえば昭和49年だから、ぼくが14歳で初めてフライロッドを手にするより5年も前の話だ。

 当時の芦澤一洋さんは30代半ば、そして海を越え、現代フライフィッシングの礎を創り上げた男たちを訪ねる旅に出る―本書はその出会いの記録といっていいのだが、登場する綺羅星のごときフライフィッシャーたちの中から、気が付くとぼくはいつもシェリダン・アンダーソンの章を開いている。まるで強力な磁石か何かに引き寄せられるように。

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「ロッククライマーであり、アーチストであり、ワンダラーであり、フライフィッシャーであり、見せかけの倫理道徳に対する永遠の反抗者と名乗る男、シェリダン・アンドレアス・マハランド・アンダーソン」。『回想のフライフィッシャー』より


 シェリダン・アンダーソンは、田渕義雄さんとの共著による金字塔『フライフィッシング教書』(40年以上も続くウルトラ・ロングセラー!)により、日本のフライフィッシャーの間で一躍有名になった。しかしそれは彼の名前とアクの強いイラストレーションに留まり、本人への興味がより深く喚起されることはなかったように思う。実際に会ったことのある日本人は、全読者の1%にも満たないのではないだろうか。
 芦澤さんは、そのシェリダン・アンダーソンにはるばる会いに行く。『フライフィッシング教書』は1979年初版だから、芦澤さんは『THE CURTIS CREEK MANIFESTO』(原著)を先に読まれていたのだと思う。

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芦澤さんの名著のひとつ、『アーバン・アウトドア・ライフ』は2018年に中公文庫から復刊されている。うしろの2冊は、芦澤さんとシェリダン・アンダーソンを結びつけると想像するブローティガンの著作


 出会いは強烈だ。それは他の章に登場するどのフライフィッシャーとも異なり、奇天烈で、もの哀しさにあふれている。フライフィッシングの叡智を求めてたどり着いたのは、廃屋と見違えたあばら家でバーボンにライズするマス釣りの成れの果てだった。酒と調子っぱずれの歌と噛み合わない会話が続く中、芦澤さんは、ふとシェリダンの本棚に自分自身の青春時代を発見する。シェリダン・アンダーソンに強い興味を持ち、一度は会ってみたいと願い続けた気持ちの正体がそこにあった。

 その日、オレゴン南部のくそ暑く人気の薄いインディアン集落の片隅で、なぜ自分自身が日本のフライフィッシャーとなったのか、バックパッカーになったのかの答えのかけらを見つけたと、芦澤さんは最後に記してこの章は終わっている。読み終えたあとにはいつも、言葉にできない哀しみが残る。

 しかし今夜は違った。本を閉じかけた瞬間、待てよ、ひょっとしてこれは、芦澤さんがシェリダン・アンダーソンとグルになって創り出した「おとぎ話」なんじゃないのかと思ったのだ。そもそもフライフィッシングは、毛バリでマスを騙して釣る釣りだ。2人にまんまとしてやられた? そこまで考えた瞬間、『フライフィッシング教書』のカバーにシェリダンが描いた人相の悪いマスが、ニヤリとウインクしたように一瞬、見えた。

『回想のフライフィッシャー』(芦澤一洋)
新書判258P/つり人社
定価:本体950円+税
https://tsuribito.co.jp/cover/archive/detail?id=3845&kind=1



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