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編集部2020年4月16日

時空を超えて釣りを旅するアームチェアの醍醐味/アームチェアフィッシングの部屋 第7回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『オーパ!』(開高健 著 高橋昇 写真/集英社文庫)
『旅人 開高健』(高橋昇 著/つり人社)
『開高健 夢駆ける草原』(高橋昇 著/つり人社)
『釣魚雑筆』(S.T.アクサーコフ 著 貝沼一郎 訳/岩波文庫)

つり人社別冊・ムック編集部/佐藤一裕

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
つり人社別冊・ムック編集部/佐藤一裕

08-2
1969年生まれ。東京都出身。バブルが弾けたちょっとあとに月刊つり人編集部に潜り込んでウン十年。淡水海水いろいろな別冊類を手がけつつ、渓流・アユ・美味な沖釣りターゲットで楽しむ一杯が最高です


書斎の静寂を密林の熱狂に変える圧倒的な作品世界

『オーパ!』(開高健 著 高橋昇 写真/集英社文庫)
『旅人 開高健』(高橋昇 著/つり人社)
『開高健 夢駆ける草原』(高橋昇 著/つり人社)

やっぱり、これですよ。
書斎に居ながらにして自分が世界の辺境を痛快に釣り歩く旅人になったかのような、極上アームチェアフィッシングの醍醐味を存分に堪能させてくれる傑作釣魚紀行『オーパ!』。


01-13
辺境ムード満点の表紙が読み手にガブリッ! すでにしてここから作品世界へといざなわれます

九死に一生を得たベトナム激戦地潜入ルポを『輝ける闇』などの作品に昇華させた独特の濃密文体が生み出す圧倒的なフィールド描写と、決定的瞬間を逃すまいと挑んだ若き写真家の気概みなぎる骨太な映像群。
この2つがひとつになって熱波のように読者に迫ってくるから、さぁ、たいへん!
気づけば書斎の静寂にサルが鳴き、ピラーニャが群れ、ズガーンッ! と水面を割ってドラドがジャンプする、まさにオーパ!な(感嘆すべき)作品世界にドップリと浸りきってしまうはず。
第一級の釣魚紀行でありながら、それを超え、ふと人間という存在を考えさせられる読みごたえは、やはり小説家の筆ならではのもの。


02-13
単行本発刊当時、小学生だった僕は伊勢丹かどこかのデパート催事場だったと思うが「オーパ展」を見に行ってドラドの剥製(だったかホルマリン浸けだったか?)に「オーパ!」とビックらこいたもんだった


03-11
驚嘆。絢爛。豪放。悠久。生と死。文明と自然。バブル期くらいまでにフィッシングライターを志した若人なら、きっと誰もが一度は模倣を試みた開高ワールドへようこそ

新郎が釣り好きである場合、結婚式のスピーチでしばしば引用されると聞く
「1時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。3日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。……永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい」
この言葉を世に広めたのは本書の冒頭フレーズ。その他、釣り人ならずともこっそり読み覚え、いつかどこかで誰かに言ってみたい名言&警句のオンパレード。

『オーパ!』シリーズのほか『フィッシュ・オン』『もっと遠く!』『もっと広く!』こちらもオススメ&お好みでどうぞ。
小社からは『オーパ!』の写真家・高橋昇さんによる『旅人 開高健』『開高健 夢駆ける草原』が絶賛発売中なので是非!


04-11
『オーパ!』写真家・高橋さんが秘蔵カットを交えて語った、とっておきのフォトエッセイ。オススメです

『オーパ!』(開高健 著 高橋昇 写真/集英社文庫)
文庫: 352ページ
出版社: 集英社
発売日: 1981/3/20


『旅人 開高健』
単行本: 216ページ
出版社: つり人社
発売日: 2005/5/1



『開高健 夢駆ける草原』(高橋昇 著/つり人社)
単行本: 202ページ
出版社: つり人社
発売日: 2006/10/1



桜蚯蚓に土蚯蚓? 北の大地の釣魚ノスタルジア

『釣魚雑筆』(S.T.アクサーコフ 著 貝沼一郎 訳/岩波文庫)


ロシアですよ、ロシア。
しかもピョートル大帝とか女帝エカテリーナとか、歴史上の人物が闊歩した帝政ロシア期1847年に発刊された釣りのハウツー本です。


05-10
露文学の巨匠トルストイ、ドストエフスキー、ツルゲーネフがバリバリに元気だった時代のハウツー本。当時、釣り愛好者は農村部を中心に数多くいたと記されています

日本じゃ無名ですが著者のアクサーコフさんも作家とのことで、この本が発刊された当時の文芸批評家は「ロシア文学上の一事件」と激賞したらしい。

とはいえ、そんな予備知識はひとまず置いて、とにかくページをめくってみれば
「釣りの技術でもっとも大切なことは(中略)釣り竿を上手に仕立てる技術である」
ハリ=「これはもっとも重要な部分である(中略)釣りの成否は(中略)鉤の善し悪しにある」
などのほか、当時の合成ザオの素材に白樺や胡桃の木などが用いられ穂先にクジラのヒゲや杜松の細枝が使われていたこと、桜蚯蚓(たぶんシマミミズ)と土蚯蚓(同ドバミミズ)の違いや糞虫(サシ類)、カブトムシ、カタツムリなど各エサの効能と使い分け方……など。
釣具理論からポイント選定術、さらにオショロコマ、コイ、ナマズ、パイク、イトウほか全25魚種に関する実釣アドバイスを網羅する充実ぶり。


06-3
ヘラブナ以上の背っ張りシルエット。こちらフナだそうです。3~4㎏にもなる大型がいる……なんて記述もありますね


07-2
ナマズ。「尾の部分や脂肪が絶品」とか「エサに半分だけ毛をむしった鶏、鴨、さらには小豚さえ餌につける」ということが行なわれていたようです

現代の日本で暮らす僕らが目にしても「おっ!」とか「ほほぅ~」と思わずうなずいてしまう、アクサーコフさんの実体験に基づく生きた記述にあふれています。

ロシアンティーで一息、はたまたウォッカをチビリチビリとなめながら、知られざる帝政ロシアの釣り風景に思いを馳せるなんてこともアームチェアフィッシングならではの楽しみといえるでしょう。

『釣魚雑筆』
文庫: 257ページ
出版社: 岩波書店
発売日: 1989/12/18

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