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編集部2020年4月18日

潜って、泳いで、釣って、遊んだ尾崎さんだからこその言葉/アームチェアフィッシングの部屋 第9回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『「江戸前の海」が「サンゴ礁の海」になる? 東京湾 生物の不思議・最前線』/尾崎幸司 著

つり人編集部/天野三三雄

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
つり人編集部/天野三三雄

profile

1969年6月17日生まれ。東京都出身。Basser編集部のアルバイトを経て入社。つり人、Basser、ルアーパラダイス九州を経て2020年からつり人編集部に。釣りは広く浅くなんでも楽しむ派


世界の海を潜り、江戸前の海に潜る

 著者の尾崎幸司さんは、グレートバリアリーフから南極まで世界中の海を潜り続けてきた我が国を代表する水中映像カメラマンで、その素晴らしい水中映像はNHKなどの特番でたびたび目にしていることでしょう。世界中のダイバーが憧れる美しい海を見てきた尾崎さんの一番の関心は、生まれ育った東京下町に面する母なる海、すなわち東京湾に注がれています。


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左は昨年刊行した尾崎さんの著『東京湾 生物の不思議・最前線』。右は私が月刊つり人の記者時代に担当していた尾崎さんの巻末連載『海中紙芝居』。当時も今も東京湾への愛情はまったく変わっていない

 尾崎さんと初めて知り合ったのは、江東区有明、本来ならこの夏にオリンピックの選手村として活用されるはずだったエリア(その後、選手村は晴海地区に創設)が、まだ広大なハゼ釣り場だったときのこと。隅田川本流に隣接するその貯木場跡は、釣り人の間で十六万坪と呼ばれる広大な閉鎖水域で、本流が泥濁りで釣りにならない雨後でも濁りが取れるのが早く、夏から秋の週末ともなれば東京はもとより千葉県側からも多くの釣り船がこのハゼの楽園に押し寄せ、多くの釣ファンが小気味よい引き味を堪能していました。


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十六万坪の埋め立て反対運動のあと、私は尾崎さんと水中映像を最大の売りにした釣りのDVDを3本製作し、いずれも話題を呼んだ。これは『黒鯛UNDERWATER』の撮影中のひとコマ。あの気難しいクロダイがカメラの前で何度もダンゴを割り、付けエサを口にした


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弊社のDVDで尾崎さんが最初に手掛けたのがカワハギ。当時は空前のカワハギ釣りブームとあって、まさにバイブルとして売れに売れた。アングラーは本書にも対談が収録されているダイワスタッフでカワハギ名人として知られる宮澤幸則さん。実はこの映像も東京湾内で撮影された。当時の平成時代の東京湾と令和時代の東京湾ではまた変化が起きている。そのあたりを宮澤さんとじっくり話し合っている対談も必見

 ハゼが釣れる場所などどこにもありそうに思えるかもしれませんが、東京湾奥の遊漁船の船長たちが口を揃えて「ここは別格、まさにハゼの楽園」と言うのには理由があり、それは尾崎さんが「砂底の浅場が大事」と言っていたことと関係します。尾崎さんは常々「深いところも大事だけど、命の源であり稚魚が育つゆりかごである浅場はもっともっと大事」と言っていました。浅いところは埋め立て工事がしやすく人間の手が入りやすい。そこを埋めてしまうと、いきなりドン深な垂直護岸だらけになり、生産性が著しく低下すると警鐘を鳴らしていました

 先ほどの十六万坪でも尾崎さんが潜って撮影してくれた水中映像は、ここがビルに囲まれた江東区内の海とは思えないほど生物相が豊かで、マハゼだけではなく多彩なハゼの仲間やセイゴが群泳し、エビやカニなどの甲殻類、海藻などの生命が画面いっぱいに満ち溢れていて、協力した船長が涙ぐんでいたのを思い出します。

 1944年生まれの尾崎さんが十代の頃、最高の遊び場だった豊かな東京湾、昭和の高度成長期に公害にまみれていく東京湾、平成になり少しずつきれいになりながらも無粋な柵などが張り巡らされて親しみやすさが希薄になっていく東京湾、そして令和の今の東京湾の姿を愛情にあふれた言葉で語ります。


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とにかく魚が大好きで、潜って観察するだけではなく、釣ったり突いたりが大好きなんである

 そこには我々釣り人も知らない意外な東京湾の姿がたくさん描かれています。江戸前名物の魚たちの生き残り戦術から、外国籍の大型船のバラスト水などにより拡散される外来生物のこと、温暖化による海水温の上昇により増えた南方系の魚のこと、東京湾で繰り広げられている知られざる生き物たちの営み、形を変えていく東京湾と昔ながらの面影を残す東京湾の二面性をより深く知ることができるはず。それはまさに東京湾の最前線であり、潜って、泳いで、釣って、遊んで、食べてと深く関わった尾崎さんだからこそ伝えられる真実なのです。


『「江戸前の海」が「サンゴ礁の海」になる? 東京湾 生物の不思議・最前線』
尾崎幸司著
単行本:160ページ
出版社:つり人社
発売日:2019年10月26日

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