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編集部2020年4月24日

21球の舞台裏に学んだ「名手が釣る理由」/アームチェアフィッシングの部屋 第15回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

特集は『渓流釣り「一尾釣るまで」塾』。熱心なベテランも、これからチャレンジしたい入門者も、待望の一尾を手にするプロセスをフルサポート。暖冬小雪の今シーズンは開幕からチャンス。


「江夏の21球」/山際淳司 著(『スローカーブを、もう一球』に収録)

つり人編集部/佐々木徹=文

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
つり人編集部/佐々木徹

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1984年12月18日生まれ。広島県出身。大学在籍中にアルバイトとしてつり人社に入り、以来Basser編集部、デジタルコンテンツグループを経て2020年からつり人編集部に。好きな釣りはバスフィッシング。


「釣りのプロってなぜあんなに釣るのか」への答え

 釣り雑誌記者という仕事をしているとよく聞かれる質問があります。それは「釣りのプロってなぜあんなに釣るのか」というもの。正直、答えるのが難しい質問です。最近、僕はそう聞かれたらこの話を読むことを薦めています。それは山際淳司さんの「江夏の21球」。角川文庫「スローカーブを、もう一球」などに収録されているノンフィクション短編です。「Number」の創刊号に掲載されたことでも有名です。

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 釣り関係ないじゃん、と思われるかもしれませんが、まぁお付き合いください。この話はプロ野球史上に残る名ゲームのワンシーンを切り取り、深く掘り下げたものです。舞台は1979年の日本シリーズ。近鉄バファローズ3勝、広島東洋カープ3勝で迎えた第7戦です。つまり、この試合に勝ったほうが日本一。試合は広島東洋カープが4-3と1点リードで9回裏を迎えます。ピッチャーは絶対的クローザーの江夏豊!

 この回を抑えれば日本一という緊迫感のなか、なんと江夏はヒットと連続四球でノーアウト・満塁というピンチを作ってしまいます。そこからこの回を無失点で凌ぐまでの10球を巡る選手の心情や江夏の意図、内野陣とのマウンドでの会話などを超濃厚に掘り下げたのが「江夏の21球」です(21球は9回裏の投球数)。あの「スクイズ外し」についてももちろん書いてあります。

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 初めて読んだときは感動しました。たった21球でここまで書けるのか……! そして、プロの野球選手は一球ごとにここまで考え、ここまですさまじい頭脳戦を繰り広げているのか……! と。試合を締めた江夏投手、そしてこの21球に目をつけ、これでもかと掘り下げて我々に伝えてくれた山際さんのどちらにもすさまじい執念を感じました。1球、1球にここまでドラマが隠されていることを知って野球観戦がより面白くなったことは言うまでもありません。そして、釣りも同じだと思うのです。

 ここで冒頭の質問に戻ります。「釣りのプロってなぜあんなに釣るのか」という質問に対する僕なりの回答は、「すべての1投に理由があるから」です。投げる場所やイトの太さ、ハリのサイズなど、1投を織り成すすべての要素に理由がある人間が魚に選ばれます。これは10年以上人の釣りを観察して気付いたことです。「なぜ今ハリを変えたんですか?」と聞いて、即答で明確な答えが返ってくる釣り人は例外なくよく釣ります。名手ほど些事で葛藤している!

「キャストが超絶うまい」や「人が気づかないアタリをとれるから」というようなキャッチーなアンサーではないため言葉にするのが難しいのですが、これが僕なりの事実。道具のセレクトや場所の選び方など、ひとつひとつを切り取ってみれば些細なことではあるのですが、そこで生じるわずかな差が積み重なった結果、取り返しのつかない釣果の差となったシーンを何度も見てきました。

 僕自身も「江夏の21球」のような釣りに憧れます。人よりたくさん釣りたい、ということだけでなく、細かいことに葛藤して悩むことが釣りの醍醐味や楽しさをさらに引き出す秘訣のような気がしているからです。

 いつか釣り大会で優勝して「佐々木の21投」を誰かが書いてくれる日がこないだろうか。いや、その前にカープの日本一がもう1回見たい! なにせ前回の日本一のとき、僕は0歳でしたから……。

『スローカーブを、もう一球』
文庫: 285ページ
出版社: KADOKAWA/角川書店; 改版
発売日: 2012/6/22





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