肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
『釣れんボーイ』 『新釣れんボーイ』 『曇天三茶生活』/いましろたかし
FlyFisher 編集部/滝大輔
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
FlyFisher 編集部/滝大輔
1973年2月17日生まれ。東京都出身。アルバイトとしてFlyFisher編集部へ潜入し、ほぼフライフィッシング一筋の社会人生活を送る。同誌編集長を務めたあと、映像編集室、デジタルコンテンツグループを経て、2019年からFlyFisher編集長に再就任。
隙間だらけの行間に、熱い釣り描写が炸裂する
本記事のタイトルは「釣れんボーイ」の主人公、ヒマシロ先生が「釣り師とは(中略)それは生き方だ」とつぶやいた後のセリフです。ちなみに握っているのはハエ釣り用の寄せエサです
私が「釣れんボーイ」に出会ったのは10年以上前のこと(初版は2002年です)。分厚い釣りの漫画らしき本があるなあと手に取ってみたら、主人公の漫画家、ヒマシロ先生の日常というか釣りというか、を描いたものでした。作者自身の体験を綴るタイプの作品なんだと思います。
800ページを超す辞典のような1冊ですが、当時、私は作品全体に漂うあきらめと焦燥感、率直さと釣りに狂っている感じに完全にやられてしまい、雑誌「フライフッシャー」でも半ば無理やり紹介しましたし、本書を買っては親しい筆者の方々に無理やり送りつけるという、迷惑行為まがいのことまでやっていました。
本作でヒマシロ先生がやっているのは、アユ釣りをメインに渓流釣り、テンカラ、ハエ釣り、エギング、ヤエン、フライフィッシングなど。主人公が通う釣具屋の名前こそ変えてありますが(もちろん類推できます)、登場する釣り道具や河川名などはほぼ実名で、だからこそ生々しく、釣りが抱える狂気みたいなものがにじみ出ています。今回、この企画のために久しぶりに読み直しましたが、やはり私にとっては大傑作でした。
実は私の漫画IQは非常に低く、「北斗の拳」とか「湘南爆走族」あたりですっかり止まっています。なので、漫画家いましろたかしの立ち位置とか、文脈をまるっきり理解していません(弊社の鮎釣りムックにも原稿を書いていただいていたような記憶があります)。
そして先日、何の気なしに「釣れんボーイ」で検索してみると、なんと続編が発表されているではありませんか! それが「新釣れんボーイ」です。初版は2016年。4年近くも前ですが私は全く知りませんでした。さらに「曇天三茶生活」。こちらは2017年で、題名こそ違いますが、釣れんボーイの続編的位置付けなのだと思います。
あれから私も再婚し、子供もできました。「新釣れんボーイ」のひましろ先生(こちらはひらがな表記になっています)も、常にメガネをかけて身体のあちこちに問題を抱えています。猫と政治の話が増え、釣りの描写が減りました。「釣れんボーイ」と「新釣れんボーイ」を連続して読むと、人間が歳をとるということが客観的に感じられる気もします。
「新釣れんボーイ」より
「曇天三茶生活」より
ただ、これらの作品に共通するのは行間の広さ。ポッといきなり違うトピックに移ることが少なくありません。その唐突さに意味があるようなないような、鋭いような鋭くないような、意図的なようなたまたまなような、それでいて妙な緊張感があるのです。そして、この展開の中に、なかば唐突に異常な熱量の釣り描写が放り込まれます。
構図、釣り人と魚、川底の描写、セリフ、迫力、完璧だと思いませんか?
左ページ中段のコマ、好きです
ただ、世の中的にはこれが釣りの本として認知されているとは思えず、一般の人にこの作品がどれくらい受けるのだろうか、と編集者としては考えてしまう作品でもあります。
「釣れんボーイ」はじっくり時間をかけて味わえますし、「新釣れんボーイ」と「曇天三茶生活」は愚痴成分と連動して、多めのセリフ量なので、こちらもじっくり楽しめます。望む、映画化!……、は無理か。
『釣れんボーイ』
コミック: 803ページ
出版社: エンターブレイン
発売日: 2002/07
『新釣れんボーイ』
単行本: 168ページ
出版社: KADOKAWA
発売日: 2016/10/24
『曇天三茶生活』
コミック: 180ページ
出版社: KADOKAWA
発売日: 2017/9/25