肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
『魚ヘンな旅 水辺のキニナル地名行』/田代俊一郎 著
つり人編集部/天野三三雄
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
つり人編集部/天野三三雄
1969年6月17日生まれ。東京都出身。Basser編集部のアルバイトを経て入社。つり人、Basser、ルアーパラダイス九州を経て2020年からつり人編集部に。釣りは広く浅くなんでも楽しむ派
地名行は地名考
魚にまつわる紀行本や魚ヘンをテーマにした書籍は数々あれど、魚ヘンの地名だけに絞って一冊にまとめた本はこれが最初ではないかと思います。この本は2014年に創刊した「ルアーパラダイス九州」(季刊を経て現在は隔月刊)の№08秋号からスタートした連載をベースにしており、著者であり西日本新聞客員編集委員も務める田代俊一郎さんが九州各地の魚ヘンの付くキニナル地名の水辺を歩き、そこに住む方々に話を聞き、時にはその地名ゆかりの魚をねらって釣りをして、その地名の由来に思いを馳せる。それが魚ヘンな旅なのです。
九州にはそのものずばりの「鯰」という地名もあれば「鯰渕」「鯰田」なども多く、また神仏として祀られているところもある。こうした魚ヘンの付いた地名を旅していく
田代さんは言います。
「私は地名研究家でも郷土史家でもない。古文書を読む力もない。地名学には門外漢の、ただの釣り好きに過ぎない。地名は場所を示す固有名詞ではあるが、いつ、だれが、どんな理由や目的でつけたか分からないのが大部分であるが、この難題に対して、私たちが取った手法は文献主義にかたよるのではなく、ひたすらその土地を歩き、そこに生きる人々に話を聞く現場主義だった。地名はその土地に生きる人々の歴史であり、物語である。 釣り竿を担いだこの旅で何尾の魚ヘンの地名を釣り上げ、その由来を解き明かせたのか。地名行とは地名考であり、それは下手なミステリー小説もよりも面白く、読者の方々も独自の推理、見解を交えながら読み進めてください」と。
本書には全15話が収録されており『納得明魚編』と『混迷謎魚編』と『神社奉魚編』の三章に分類されています。『納得明魚編』は土地の人々の話からも地理的背景からも納得のいく魚ヘンの地名だったところです。具体的にはキビナゴ(魚ヘンに長)網代、鮗ヶ浦、黒鯛、鱒渕ダム、鯨道海岸や鯨油、小鯛や鯛ノ浦などです。
『混迷謎魚編』は、聞けば聞くほど混迷を深めた魚ヘンの地名。当て字や転化などにより本来の意味から大きく変容したケースも少なくありません。具体的には鮟鱇、鮎帰、鰈岬、鮒越などです。
アンコウの産地ではない熊本県内に、なぜか「鮟鱇」の地名がふたつもある。アンコウが獲れない有明海沿岸と、海から離れた内陸部に……。このミステリーを解く鍵は?
長崎県鷹島では地元の漁師さんに「鰈岬」の位置を説明してもらった。そしてこの岬周辺ではカレイは獲れないという……
『神社奉魚編』は神仏になった、あるいは神の使いとなって祀られた魚群です。具体的には鰾神社、エツ(魚ヘンに齊)大師堂、鮭神社、鯖大師堂、鯰渕などです。
アユが引き返すような滝もない地区に「鮎帰」があり、ニベを大明神として祀る神社があり、今でもキビナゴがきらめく地区は、今は誰も住んでいないかつての隠れキリシタンの里だったり
地名は不変ではありません。時代や言葉の響きによって変化したり吸収されたり転化して、消えていくものが少なくことを教わりました。本書は九州の雑誌での連載をまとめたものなのですべて九州での地名行でしたが、全国を見れば興味深い魚ヘンの付いた地名はいっぱいあり、地名の由来が知られていないところも少なくありません。いずれ九州以外でも魚ヘンな旅を楽しめれば最高ですね。
『魚ヘンな旅 水辺のキニナル地名行』
田代俊一郎著
単行本:144ページ
出版社:つり人社
発売日:2018年1月24日