肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
『川づり名人』/わちさんぺい
月刊Basser編集部/谷川駿介
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
月刊Basser編集部/谷川駿介
1990年5月21日生まれ。東京都出身。祖父の影響で始めた荒川のハゼ釣りをきっかけに釣りにのめりこむ。中学生のころから地元の先輩とバスフィッシングに没頭するようになり、気が付いたらBasser編集部で働いていた。
いろいろな釣りを異なった視点で楽しむ姿勢を僕に教えてくれた
「つり人社」というド直球な社名どおり、弊社は淡水から海水、エサやルアーを問わず、さまざまな釣りに関するコンテンツを発信していて、従業員も殆どが釣りに夢中です。それは素晴らしいことなのですが、皆お気に入りの釣りが違うせいか、「どちらの釣りがより魅力的か」的な小競り合いが稀に起きます。以前は社員同士で取っ組み合いの喧嘩に発展したこともあるとか……。
僕はバスフィッシングの専門誌『Basser』編集部に所属しています。もちろんバスフィッシングは好きなのですが、渓流のルアーフィッシングも、ワカサギやウナギ釣りも、海で食べられる魚を釣るのも大好きで、いずれもその釣りにしかない魅力があるように思います。
筋金入りの太公望が集まる弊社おいて、ある釣りを「●●釣りは▲▲ですね」と断定的に論ずることは、海外で宗教の話をするのと同じくらい危険です。ですが、ここではあくまで個人的な意見として、僕が好きな釣りをどう楽しんでいるか書いてみたいと思います。
まず、バスフィッシング。
誰でも手軽に始められる釣りのひとつかと思いきや、僕のなかでは「釣れない釣り」の筆頭です。昔と違い、今は各フィールドの個体数も減って「入れ食い」にはほとんどならないし、関東近郊のメジャーなフィールドでは、1日やってノーフィッシュなんてこともザラです。
そんなバスフィッシングとは「価値ある1尾と出会い、興奮するための釣り」として向き合っています。
そもそも、本物のエサとは似ても似つかない擬似餌(ルアー)を用いているため、「こんなモノで魚を騙してやったぞ!」という具合に、釣れたときの満足感が高まります。さらに、各フィールドで開催されているトーナメントなどに参加すれば、バスをキャッチしたときには手が震えるほど興奮できます。なぜならその魚には「人との勝負に勝つための釣果」という付加価値が付くからです。
その1尾を釣り上げるためにさまざまなタイプのルアーを買い揃え、それらルアーにあったロッドを数十本と揃え、さらには魚群探知機やバスボートまで……。そうやって本気でやり込むほど、精神的にも、金銭的にも(泣)、1尾の価値と単価が高まっていく。だからこそ、キャッチできたときはこれ以上ない興奮に包まれる。僕にとってのバスフィッシングはそういうものです。
関東のフィールドで2尾も釣れたら大満足(個人の感覚です)。それくらい、現在のバスフィッシングは難しい
渓流のルアー釣りも大好きです。
とくに、山深い小規模渓流で、天然に近いイワナをルアーで釣るのが毎年の楽しみ。
この釣りの面白味はバスフィッシングとはまた違ったところにあって、まず透き通った水が流れる綺麗な川のそばいるだけで心地がいいです。仮に魚が釣れなくても、一定の満足感を覚えるほど。
そして、イワナは本当に不思議な魚です。人の手が入っていない自然のなかで育ったイワナが放つ雰囲気は、大袈裟ではなく神秘的な、畏れを抱かせる何かを感じさせます。
僕にとって渓流釣行は、普段暮らしている都会の雑踏では感じることのできないものに触れて感じる「心の洗濯」なのです。
町では吸うことのできない空気を吸い、見ることのできいない景色を楽しむ。それが渓流へ足を運ぶ大きな理由です
そのほか、コイ釣りでは重量のある魚のトルクフルな引きを全身で楽しむことができるし、ミミズをつけたブッコミ釣りは魚を引き上げるまで何が掛かっているかわからない、まるでガチャガチャをしているかのようなワクワク感が味わえます。どの釣りも、見方によっては誰かにとって一番魅力的なものになる面白さがあるように思います。
このように、いろいろな釣りを異なった視点で楽しむ姿勢を僕に教えてくれたのが、小学生のころ手にした『川づり名人』という本でした。
イラストと漫画を中心に淡水の釣りものを幅広く扱った本で、一見すると初心者向けに見えますが、内容はかなりマニアック。ナマズのポカン釣りやヤマベのぺちゃんこ釣り、ハリを使わずにウナギを釣り上げる方法など、興味深い釣法がわんさか書いてあります。
そして人気のターゲットはもちろん、クチボソやブルーギル、ザリガニ釣りまでしっかりとページを割いて紹介し、釣るためのコツがこと細かに書いてあります。
何より素晴らしいのが「この釣りで一番面白いのは、こんなとき」というように、どんな魚相手でもその魅力をきちんと読者に教えてくれるところ。作者のわちさんぺい氏が、すべての魚に本気で向き合っていたことがわかる一冊です。すでに絶版となっていますが、大手通販サイトでは中古品も出回っているので、ぜひ手に取ってみてください。
ラジコンボートで仕掛けを遥か沖に投入させる釣りや、地元の釣り人秘伝の釣法など、魅力的な釣りを数多く紹介しています
『川づり名人』
文庫: 180ページ
出版社: 集英社
発売日:1996/5/15