肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
『ハッピータイヤーズ』/備前 貢
FlyFisher 編集部/滝大輔
肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。◎今回の紹介者
FlyFisher 編集部/滝大輔
1973年2月17日生まれ。東京都出身。アルバイトとしてFlyFisher編集部へ潜入し、ほぼフライフィッシング一筋の社会人生活を送る。同誌編集長を務めたあと、映像編集室、デジタルコンテンツグループを経て、2019年からFlyFisher編集長に再就任。
◆こちらもおすすめ
フライタイイングという表現行為
いきなりあとがきのフル引用から失礼します。コカゲロウのイマージャーからダールバーグ・ダイバーまで、
クラウザーミノーからフルドレッシングなジョックスコットまで、
そしてCDCフェザーからグレート・アーガスフェザントまで、
目指したのは「縦横無尽」
ジョージ・モーティマ・ケルソンからリー・ウルフまで、
古の先人たちの足跡と偉大な知恵をひもとくことで、新しきを発見して進化する。
その醍醐味と愉しみを、自分の視点を通して表現してみたかった。
目指したのは「温故知新」
イワナやアマゴはもちろん、イトウにアカメ。ニッポンが世界に誇るべきサカナたち。
テンカラ毛バリにマシュマロ・ピューパ。ニッポンで生まれたオリジナル。
目指したのは「ボーダレス」
2007年の初夏から2012年はじめにかけての、私のフライタイイングとフライフィッシング活動の赤裸々な記録集となる本書。
伝えたかったのは
「さまざまなフライたちが見せてくれる、深く豊かな世界に浸るシアワセ」
We are HAPPY TYERS.
――引用ここまで。
いかがですか? 著者、備前貢さんの、フライタイヤー、フライフィッシャー、そして文筆家としての底知れぬパワーが伝わってきませんか? ページをめくっていいただければ、おわかりになるはずですが、写真のセンスもただごとではありません。
あ、書き忘れました。本書に掲載しているフライ、文章、そしてほとんどの写真はすべて備前さんご自身によるものです。おまけに企画もすべて備前さんによるものです。つまり……、編集者はおケツをボリボリ掻きながら、ただ待っていればよいという、スーパー著者なのです。
備前さんを野球にたとえるなら、ピッチャーとバッターの二刀流どころでなく、キャッチャーもショートもセンターもなんなら監督としても解説者としても一流、いや、メジャークラスである、ということなのです。 おそらく世界でもここまで縦横無尽で温故知新でボーダレスなフライフィッシャーは稀有でしょう。しかも自分の写真と文章で表現できるとなればなおさらです。
自分の解釈やアイデアを疑似餌に直接盛り込めるのはフライフィッシングの醍醐味の一つですが、本書は備前さんの経験を通じて、そういったトライアル&エラーの楽しさも存分に味わわせてもらえますし、さらにはアメリカ東海岸のストライパーやコロラドのハックル農場への訪問など、旅エッセンスも入っています。しかも伝聞ではなく、すべて自分で試し、経験した肉声のみの説得力は半端ありません。本書で取り上げられている「フラットウイング」、「マシュマロパターン」、「ディーウイング」、など、 備前さんの温故知新な掘り起こしは、実際に影響を受けた人たちも多いはずです。
情報量が多く、字も小さいのでローガン世代には腰が引けるかもしれませんが、この機会に備前さんの宇宙、フライフィッシングの宇宙にぜひ溺れてみてください。
実は私、この連載立ち上げ当時の担当編集者です。本書がもう少しで完成するといったタイミングで、備前さんから電話をいただきました。
「あとがきに滝くんの名前も入れようかと思うんだけどどうやろか……?」というご提案に対して私は
「あ、いえ、それはアレなんで……、遠慮しておいたほうが……」と大して考えもせず、理由もなく辞退してしまいました。
今思えば、あそこに私の名前も書いていただいていれば、娘に自慢できたのになあ。ああ、自己承認欲求。あさましきわざなり!
『ハッピータイヤーズ』
単行本: 256ページ
出版社: つり人社
発売日: 2012/07
そしてセットでおすすめの1冊
『世界の美しき鳥の羽根』
藤井 幹(著) 松橋利光(写真) 舘野 鴻・かわしまはるこ(イラスト) 誠文堂新光社
羽根は、興味のない人にとってはただの生き物の一部かもしれませんが、私たちにとってはそれが道端に落ちているカラスのものでも、美しく愛を注いでしまう存在です。当然ながら保護が必要な鳥も多く、現在では個人が手に入れるべきものではありません。ですが、本書に掲載されているレアな鳥の写真を見ると、自然の神秘さと造形の複雑さに改めて畏敬の念を抱かざるを得ません。
『世界の美しき鳥の羽根』
単行本: 192ページ
出版社: 誠文堂新光社
発売日: 2015/9/1