「釣りなんて、娯楽のひとつに過ぎない。仕事と遊びは別」そう考えるのが一般的だが、釣りとビジネスには意外な関係性があるという。ここではビジネスシーンのトップで活躍するコンサルタント兼“釣り人”のお二人に、世界を激震させた新型コロナウイルスをメインテーマとして、釣りと仕事の関係について熱く語ってもらった。
激動のコロナ禍 スペシャル対談企画
つり人オンライン=まとめ
「釣りなんて、娯楽のひとつに過ぎない。仕事と遊びは別」そう考えるのが一般的だが、釣りとビジネスには意外な関係性があるという。ここではビジネスシーンのトップで活躍するコンサルタント兼“釣り人”のお二人に、世界を激震させた新型コロナウイルスをメインテーマとして、釣りと仕事の関係について熱く語ってもらった。
■対談の模様はYouTubeでも公開中!
コロナが及ぼした生活の変化
そして、釣りはどう変わった?
中鉢 「コロナ禍が始まって1年が過ぎましたが、釣りに関して何か変わったことはあります? 自由な時間が増えて、釣行頻度が上がったとか」清水 「飛行機も飛んでいなかった。だから、釣りに行っている時間と回数は意外と増えてないですね」
中鉢 「僕も毎年九州へ遠征に行ったりしていたけど、そこの船長さんがもう70歳を過ぎていて、うつしたらまずいとかね。そもそも飛行機飛んでなかったし、結局行かなかったな。逆に、今藤沢に住んでいるんですけど、地元で釣りをする機会は前よりは増えたかもしれませんね」
清水 「藤沢は今、神奈川県で転入数がめちゃめちゃ増えて住みたいランキング上がってますよね。東京にいると、そろそろ出なくちゃいけない時期に来ているかもしれない……。そんな感じはしましたね」
中鉢 「実際、僕の仲間で何人も引っ越していますね。若い人、20~30代で子どもが小さい人とか、ずっと東京にいる必要ないと引っ越してきた人は多いですよね」
左/海釣りを愛する釣り人兼コンサルタントの中鉢慎さん。右/フライフィッシャー兼コンサルタントの清水健太郎さん
清水 「やっぱり、そうなりますよね」
中鉢 「このコロナが及ぼした変化をキーワードで上げるとすると、僕は"リアル・ローカル・スロー"この3つなんです。1つ目の"リアル"ですが、この一年間は3密を避ける娯楽として、海釣りがめっちゃ流行ったんですよ」
清水 「もうめっちゃ伸びていますよね!」
中鉢 「特に初心者や若い女性、一人で釣りに行く人も増えましたよね」
清水 「YouTube とかでも、女性の釣り人が増えてますよ」
中鉢 「みなさん、なぜ急に釣りに目覚めたのかなと思ったときに、バーチャルやオンラインが溢れている現代で、生きている実感のようなもの?その"確からしさ"が欲しいのかなってね。やっぱり、釣りってリアルじゃないですか。サオを出さないと釣れないし、釣ったら大きかろうが小さかろうが反応が返ってくる。なんかその確からしさへの回帰っていうのが、みんな求めているんだろうなって」
清水 「なるほど、リアルね」
中鉢 「二つ目のローカルは、例えば震災の時は遠くの人でも助けたいんだけど、コロナはまず近くの人を助けたい。同じ家に住んでいる家族だったり、半径数百mの自分の町内会だったりとか。実はこれまで自分の地域の人のことって、あまり僕は興味なかったんですよ。正直なところ(笑)。今までグローバルだとか言っていましたけど、結局我々はローカルの集合体。だから身近な釣り場に足を運んだり、僕の気持ちもローカルへ回帰したりしている」
清水 「確かに」
中鉢 「最後のスロー。近年はテクノロジーの進化で、もうとにかく速く、とにかくセンス&レスポンス! 感じたらすぐに反応する。でも、このコロナ禍では色々な情報が錯綜したんですよ。聞いてすぐ反応すると間違えることも多かったので、本当は聞いてレスポンスする前に一拍置く。実は反応しないほうがいいのかなって」
清水 「そのローカルで、こんな店あったんだ!みたいなね。もうちょっと身近な場所で生活の時間を使うように、人の意識が変わってきたのはありますよね」
中鉢 「海釣りが流行っている話がありましたが、川釣りはどうですか?」
清水 「年配の方々が源流へ上がるのはあったけど、結構若者も以前よりは増えていると聞いています。道具もよく売れたって。海だけではなく、山にも登りながら、登山道の脇に流れている沢でサオを出してみてみたいなって人が増えている。ルアーは勿論、テンカラとか、僕の好きなフライは女性ファンも増えてきていますよ」
対談の舞台は開放感あふれる海岸。釣りとビジネスにはどんな関連性があり、コロナでどう変化したのだろうか
中鉢 「今や、釣りはトップレジャーかもですね」
清水 「僕が感じた変化のキーワードは、暦。日本人の僕らは普通に月曜日から始まって金曜日が最後。土日が週末で、9時から5時がオン、その前後がオフみたいな。1年は365日とか、一週間は7日であるとか、これは太陽暦で、太陽の動きに従って動いています。でも釣りに行くときって、今日は大潮とか、満潮や干潮が何時とか見るじゃないですか。あれって太陽じゃなくて月の動きなんですよ。それって海だけじゃなくて川もなんです」
中鉢 「あ、川もなんですか!」
清水 「そう。イトウ釣りをしている知り合いから、満月と新月に釣りに行くようにしたら釣果がよくなったって話です。川も月の動きに影響されるんですね」
中鉢 「まあ、海と繋がっていますからね」
清水 「鮭が遡上するのは潮の関係が大きくて、みんなが揃えたように上がってくる。実は動物って月で動いていて、僕らは太陽で動いている。アフターコロナで時間の使い方を見直すと、また月時間に戻ってもいいんじゃないかなってね」
中鉢 「ほほう、より野生に近づくってことですね、それは」
清水 「そう。たとえば、満月と週末がくっつくタイミングを1年間くらいリストアップして、それで、年間休みをブロックするとかね」
中鉢 「はっはっは!なるほどね」
清水 「仕事とか、社会的な活動は太陽暦。釣りとか、動物的なのは太陰暦。週末とか平日とかじゃなくて、毎日を細切れにして、この時間でコレあの時間でアレ。とかね」
中鉢 「実は、湘南に住んでいる人は結構そういうのが多い。コロナの前から、会社に行く前の朝4時から6時まではサーフィンとか釣りに行くみたいなものがあって、最近はSUPをやりながらサオも出すとかね。で、帰ってからまた釣りとか(笑)。近くに遊び場があれば、時間単位で動くってのが素直なのかもしれないですね」
清水 「コロナ禍を通して、人間性の復活といいますか、野生に帰れるキッカケになったのは間違いないと思います」
これまでで、印象に残っている釣り人はいますか?
中鉢 「これまでたくさん釣行されていると思いますが、印象に残っている釣り人っています?」
清水 「うん、いっぱいいますね。すごく覚えているのは、北海道に行きつけの宿があるんですけど、そこにいつも『こんにちはー!』って、バシッとスーツ着た人が入ってくるんですよ」
中鉢 「スーツ着てくるの?」
清水 「とある会社の重役さんで今は社長さんなんですけれど、金曜にスーツできて、土日は釣り三昧。月曜の朝一にまたスーツを着て『行ってきます』って出勤するっていう(笑)。寝る間も惜しんでずっと釣っているんです。スゲェなって」
中鉢 「その人は釣りも仕事も、両方全力でやる人なんだね」
清水 「超全力ですね。寝る間も惜しんでいるのかすらわからないほどに(笑)。めちゃめちゃエネルギッシュですごかったです」
対談翌日は遊漁船で五目釣りを満喫。中鉢さんは見事なマハタを手にしてご満悦な様子
清水さんも負けじと仕掛けを入れ続け、良型のオニカサゴを釣りあげた。普段はフライフィッシャーだが、船釣りにもハマりそう?
中鉢 「印象に残る釣り人って、別に釣りが上手い下手じゃないですよね。最近一緒に釣りをした人なんですが、去年の2月のコロナの直前に、僕はヨーロッパのマルタ島に行ったんです。知り合いからマルタ島の友人を紹介してもらったんですが、レストランのシェフをしている50半ばの方でした。その人に『マルタ島で釣りがしたいです』とメールを送ったら、『じゃあ連れて行ってやるよ!』と。『でもあなた、仕事でしょ?』と聞くと『それは、俺が考える』って言うんですよ」
清水 「おお、頼もしい!」
中鉢 「僕ひとり、一週間泊まっていたのはマルタ島のゴゾ島というところ。その人も近くにいるのかなと思ったら、なんと片道2~3時間かかるところ。彼は仕事が終わるとすぐに車を飛ばして、フェリーに乗ってゴゾ島に着いたのは午前0時ですよ(笑)。それで『今から?』と聞くと『釣る』と。船は出せないから堤防か岸壁なんですけど、サオやライトも用意してくれていて。この日初めて会ったんですよ僕……。やり取りはメールだけですから(笑)」
清水 「それはすごい!」
中鉢 「結局朝まで粘ったんですけれども、釣れなかったんです。でも月明かりの下、風が気持ちよくて、二人でああでもないこうでもないって言いながら投げるわけですよ。二人とも英語得意じゃないんですけど、めちゃめちゃ楽しかった」
清水 「うん、楽しそう」
中鉢 「おもてなしというか、初めて会った人間に対してすごいなと。やっぱり、あのような人間でありたい。釣れなかったのに、一緒にいて楽しかった。あれから1年経ちましたけど、SNSとかで繋がっているので、今はお互い釣った魚を自慢しあっています。あんな釣り人になりたいですよね」
清水 「言語は関係ないですからね、釣りっていうのは。海があって、川があれば地球上どこにでも釣り人はいますもんね」
中鉢 「コロナで人に会えない今、それを強く感じます」
釣行の了承を得るために家族を説得するテクニックは?
中鉢 「僕も清水さんも家族がいて子どもがいるじゃないですか。釣り人の悩みの一つに家族を説得するのがありますよね。秘伝というか、テクニックってありますか?」
清水 「やっぱりね、僕以外もみんながスケジュールで動いているじゃないですか。僕の場合は、それ以外にも月の動きとかに時間を支配されているところもあるので。時間が噛み合わないんですよ。そのぶつかり合いがピークになると、『こっちはこうなのに、そんな時にこれ?』みたいなのが一番大きいですね……」
清水 「それで、遊びじゃない、ライフワークだ!って、非常に大事なものだという説得、というか説明をしたんですね。で、行く意味はわかったと」
中鉢 「心が広いですね。で?」
清水 「理解はしたと、理解と納得は距離があるので……」
中鉢 「まさにね、今の納得っていうのが大事で、僕は反省があってね。この本(仕事ができるようになりたければ釣りをしろ)を書いたのは8年前なんですけど、僕は当時コンサルタントをしていたので、説得の方法をいっぱい知っているじゃないですか。伝える・感情に訴えかける・権威を使って脅すとかね。今読み返すと、これはよくないなと……。大事なのは説得じゃなくて、納得だよねと」
清水 「説得は最終的に逆効果ですよね……」
中鉢 「僕だけじゃなくて、向こうにも予定や事情がある。例えば買い物や用事で車が必要とか、掃除や片付けとか、週末に済ませておきたいことがたくさんあるわけですよ。それを確認もせずに、突然『明日釣りに行かせろ』とは何事かと!」
清水 「確かに。それでは納得はしませんね」
中鉢 「そこで、少なくとも釣行1カ月前には事前告知するようにしたんです。こういう理由で釣りに行きたいのです、いかがでしょうか?と。すると、奥さんが済ませてほしい用事を先に言ってくれるようになり、それを済ませると許しを得ることができるようになったんです。つまり説明→理解→納得→合意。これをテーマに、今新しい技術を磨いているところです(笑)」
清水 「余裕を持って話し合って、説得ではなく納得。そして最後は妥協するのではなく、お互いの合意が大事ってことですね」
◆プロフィール
中鉢 慎(ちゅうばち・しん)
1971年生まれ。海釣りを愛する釣り人兼コンサルタント。外資系コンサルタント会社に13年間務めたのち、チームリーダーを育成するリーダーシップ研修の立ち上げ及び講師を担当。2011年、教育関連事業および新規事業支援を柱とする、ディアマンテス株式会社を創業。仕事の合間に仲間たちと海釣りを楽しんでいる。湘南在住。著書に『仕事ができるようになりたければ釣りをしろ』、『リーダーになりたければ海へ行け』(いずれもつり人社)がある。
清水 健太郎(しみず・けんたろう)
1969年生まれ。祖父に連れられ、幼少より釣りをして育ったフライフィッシャー兼コンサルタント。PwCコンサルティング、IBMビジネスコンサルティングを経て株式会社SIGMAXYZディレクターを務める。キャンプや焚火、燻製、音楽活動、けん玉などにのめり込みベッドに辿り着けない日も多数。一女の父親。著書に『釣りバカ解体新書』(つり人社)がある。
この対談の様子はYouTubeのつり人チャンネルでも公開!