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編集部2023年12月25日

船釣り関係者に激震「救命いかだ搭載義務化問題」とは? 遊漁船に不安と負担を強いる本末転倒な改正省令案

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現在、全国の遊漁船事業者が懸念している問題がある。それが改良型救命いかだ等の搭載を遊漁船にも義務付けるという(※海水温や航行区域などにより一部例外もあり)、国土交通省(国交省)の改正省令案だ。

編集部=まとめ

現在、全国の遊漁船事業者が懸念している問題がある。それが改良型救命いかだ等の搭載を遊漁船にも義務付けるという(※海水温や航行区域などにより一部例外もあり)、国土交通省(国交省)の改正省令案だ。

この改正省令案のきっかけは、知床で起きた旅客船KAZUⅠ(カズワン)の沈没事故だった。ただでさえ海水温が低い春先の北海道で、地元の漁師でも船を出さないような天気予報だったにもかかわらず、無謀な出船判断、船体自体の欠陥などにより大事故が発生。この事故を受け、政府は運航管理者の試験制度の創設や事業者への罰則の強化などを盛り込んだ海上運送法などの改正案を閣議決定し、衆院本会議で可決・成立させた。これにより、国交省も省令の改正などに動いていた。

そうした中、2023年の10月頃から、遊漁船事業者にも国交省からの案内が届き始める。そこには新たに小型旅客船の安全設備の義務化が予定されており、ついては遊漁船も導入費用の一部を補助する補助金に速やかに申請するようにという案内が書かれていた。具体的には「改良型救命いかだ等」「業務用無線設備」「非常用位置等発信装置」の3つの設備の導入が義務化されるという。

問題はこの改正省令案が、全国に1万3000軒以上ある遊漁船事業者にとっては突然の通達で、なおかつその中身が遊漁船の実態をまったく把握していないことだった。たとえば国交省自身が示した資料を見ても、遊漁船に安全に搭載できる改良型救命いかだというのは、実際にはまだなく「これから発売予定」という状態。遊漁船は当然ながら一般の遊覧船とは構造や広さも全く異なる。改良型救命いかだを例にした場合、国交省の資料に示された購入自体が多大なコスト負担になる遊漁船も多く(※下段参照)、仮に「発売予定」のものが実際の船に合わなかった場合、船自体を買い替えなければならない可能性もあるが、そうした遊漁船事業者の不安なども全く考慮されていない。

そこで2023年11月2日に、各地の船宿からの不安の声を受け、日本釣りジャーナリスト協議会の呼びかけで、国交省、水産庁、公益財団法人日本釣振興会、遊漁船関係者らによる最初の意見交換会が急きょ実施され、その後も複数回開催されたが、そこではまず、今回の改正省令案の議論の過程で、遊漁船関係者や各地の遊漁船について理解している専門家がいっさい関わっていないことが明かされた。

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日本釣りジャーナリスト協議会や日本釣振興会の呼びかけで始まった「救命イカダ等に関する意見交換会」はこれまでに4回開催。今回の改正省令案について徐々に実態が明らかになり、複数の遊漁船事業者を含む関係者から厳しい意見が出された

さらに遊漁船事業者によっては廃業にもつながりかねない死活問題であるにもかかわらず、改良型救命いかだ等の購入・維持にかかる多額の費用については、国交省の管轄で全国に約3000軒が登録されている小型旅客船には補助金が出るのに対し、水産庁の管轄で全国に約1万3000軒がある遊漁船事業者(1万3000軒は事業者の数であり船の数はさらに多い)は補助金の対象外という説明が行われるに至り、今回の改正省令案が完全に当事者不在で進められていることが明らかになる。

ちなみに国交省の資料では、小型旅客船に改良型救命いかだを導入する費用は、定員25名の船舶(旅客定員23名、船員2名)の場合で、「救命いかだ1台の設置費約185万円」+「5年間分の維持費約60~約90万円」の合計で約245~275万円だが、そのうち100万円が補助金の対象となるため合計約145~175万円が必要という例が提示されている。しかし遊漁船は補助金の対象外なので、そのまま約245~275万円(一艘あたり)が必要となる。このほかに業務用無線設備と非常用位置等発信装置も必要で、小型旅客船は補助金を申請できる(購入費用の2/3)が、遊漁船はやはり対象外だ。意見交換会の場では、のちに水産庁も遊漁船への支援として補助金の予算要求を行っているとの説明が担当者からなされたが実現はしていない。こうした点も多くの遊漁船事業者が今回の改正省令案に危機感を抱かざるを得ない理由になっている。

これらの事態を受け、日本釣振興会、日本釣りジャーナリスト協議会、各地の船宿連合会などは、連名で「遊漁船適用除外の要望書」を国交省に提出。また、今回の改正省令案に関するパブリックコメントへの協力も呼びかけた。その結果、問題点を指摘するものを含めて300件以上の声が国交省に寄せられ、2023年12月21日に実施された意見交換会では、国交省の担当者から「これまで12月月内に公布予定としてきたが、年内の公布を延期する」ことや、「遊漁船からの案で安全を担保できるものがあれば、特例として検討する」ことが説明された。また、国交省のHPでも本件については「遊漁船への適用日については(当初予定していた年内の交付ではなく)検討中」と表現が修正された。

しかし、日本釣振興会、日本釣りジャーナリスト協議会、遊漁船事業者からは、「船の安全面を否定しているわけではないが、今回の改正省令案はあまりに現実的でなく、周知も徹底していないことから、この状況で適用した場合釣り文化の喪失につながる」「あくまで遊漁船を除外してほしい」という要望が出されている。日本釣りジャーナリスト協議会の鈴木康友会長は、「我々としては、全国の遊漁船関係者および漁協関係者、釣り具メーカー、小売業者などに本件を周知徹底して、抗議の声を大きくあげてもらう努力を引き続き続けます。全国の遊漁船は1万3000軒と言われています。3000軒の小型旅客船に対して35億円の補助金が出るそうですが、遊漁船用の救命いかだはまだ出来ておらず、補助金の金額も決まっていません」と語る。

今回の一連の問題で見落としたくないのは、各地の遊漁船には、釣り客のライフジャケット着用義務化に協力してきたり、地域の海における警戒監視活動に協力してきた実績がすでにあることだ。そして四方を海に囲まれた日本においては、各地の遊漁船の存在が大切な領海においても、秩序を守る日常的な目になっている。そのようなかけがえのない資産は、一度失ってしまったら取り戻せない。だからこそ、国や官庁には遊漁船関係者が不安なく協力できる、実態に即した施策をぜひ検討してもらいたい。

 

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