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編集部2024年3月27日

【メガバス】伊東由樹のシーバス観

シーバス-川 シーバス-海 月刊つり人ブログ

日本のシーバスシーンの黎明期から数々の人気ルアーやロッドを手掛けてきたメガバスの創業者でありデザイナーの伊東由樹さん。幼い頃から日常的に触れていたというスズキへの造詣は深く、その食性のド真ん中に刺さるようなルアー作りを目指す。はたして、伊東さんのシーバス観とは。

日本のシーバスシーンの黎明期から数々の人気ルアーやロッドを手掛けてきたメガバスの創業者でありデザイナーの伊東由樹さん。幼い頃から日常的に触れていたというスズキへの造詣は深く、その食性のド真ん中に刺さるようなルアー作りを目指す。はたして、伊東さんのシーバス観とは。

写真と文◎編集部

シーバスとの出会い

シーバスとの出会い

当時の私の実家は浜中湖の漁師町で釣り宿を営んでいました。スズキはもちろんクロダイ、カレイ、マゴチ、当時はアイナメや根魚も多かった。また目前の遠州灘の沖合でカツオ、キハダとさまざまな魚を獲っており「マダカ」はその代表格です。マダカとはスズキのフッコサイズを指す東海エリアの地方名です。物心ついたころには遊漁のお客さんを相手に私は仕掛けを作らされ、少年時代からさまざまな手伝いをした。マダカの釣り方は「弁天流し釣り」と言って、カレイの稚魚、イワシ、イナッコを背掛けにして舟形オモリで流して手釣りをする今切口(浜名湖の湖口部)で行なわれていた伝統漁法です。また実家では「スズキバケ」という仕掛けも使っていた。いわゆるフェザージグみたいなバケバリで船を流しながらシャクって誘う。だからスズキはあまりに身近で日常の一部ともいえるような魚でした。

ルアーで初めて釣ったスズキの記憶をたどると、オリムピックが出していたルアーセットで釣ったのが最初です。近所の年上の友達が持っていたそのセットの中に「スーパーデューパー」というスプーンのような、ひん曲がった鉛のルアーがあって貸してくれました。実家のお客さんから投げザオをお借りして1日ひたすら投げているとセイゴクラスが釣れた。感動があったかといえば、全くありません。なにしろ漁での釣れ方が半端ではなかったですから。子どものころは、たくさん釣れれば偉いと思っていた。それが1尾だけ、しかも小さかった。実家のバケの釣果を見て育ったので疑似餌で釣ったという特別な感動も湧かなかった。

少年時代からルアーブームは来ていましたが、私自身はルアーでもエサでも手あたりしだいに何かを釣りたい子どもでした。その指南書のひとつが『月刊つり人』だったのです。品川でメガバスファクトリーを創業してからも趣味はフライフィッシング。仕事ではバスロッドを作っているのに週末になると渓流に行ってフライロッドを振って。だから個人的な趣味の釣りは、ひとつのジャンルを突き詰める感じではありません。ただ、マダカも含め海の釣りがあまりにも空気のような日常だったので、淡水魚の釣りの神秘に魅かれていきました。

ミカン畑の奥にクモの巣を払いながら行ってみると、突然沼があったり池があったりして、そこでライギョが空気呼吸をしている。子ども心の探求心や冒険心を凄く駆り立ててくれたのが、淡水魚でした。沼のヌシを釣りたいと練りエサでコイを釣ったり、タナゴを釣ったり、ルアーでは本気でメーター超のライギョをねらっていました。そのうちブラックバスを探しに行くようにもなり、ブラックバスのルアーフィッシングにはSFチックな魅力があったんですよ。

地元の浜名湖や遠州灘では、商いである海の魚を獲るためのセオリーはいくらでもありました。カツオを釣るんだったら「五ノットでタコベイトを引け」とか、マダカは四季折々の付き場が分かっていて「この時期は潮裏をねらわず潮上を打て」とか漁師さんの経験によって導き出された当たり前の金言があったのです。でも淡水魚に関しては『月刊つり人』のようなマニュアルを見ないと何も分からなかった。

 

 

スズキの優れた能力とは?

東京の品川でメガバスを開業して、そこから90年代初頭に浜松に戻ってきて「アルカディア」と言う名のガイド船を始めたんです。シーバスもやるし、沖でカツオ、シイラもやる。いわゆる遊漁船の船長をメガバスのメーカーと平行して6年くらいやっていた時期があります。船長ですからお客さんに釣らせなければいけません。理論立てて説明をして、再現性のある釣りをしなくてはいけない。実家では季節ごとの決められた漁のセオリーで当たり前のようにスズキを水揚げしていましたが、ガイド業をやるようになってシーバス釣りの全体像が明確化されたといえます。

 

スズキの優れた能力とは?

遠州灘釣りガイドサービス「アルカディア」時代に制作された「マリンギャングミノー」

 

そんな経験の中でスズキの驚かされる生態はどんなところにあるかといえば、上下動の動きが突出して速いことです。たとえば伊良湖沖にシーバスの産卵床があります。この近辺で魚探を見ながらメタルジグを超高速で引くと水深25mの下の根から表層までロケット弾のように上がってくるシーバスがいる。魚探には自分が引っ張ってくるジグが映っていて、追いかけて食い上がる魚影も映る。まるでゲームのように「来るぞ、来るぞ」と言いながら魚探を見ながらジグを巻くと「来たあ」とロッドが絞り込まれる。エサをとらえてディープまで潜るスピードも半端ではありません。産卵期の太い個体ですら素早い上下動ができる。どうやって浮き袋や気圧の調整ができているのか不思議です。レンジの対応能力が高すぎるんです。そんなことブラックバスは当然できない。多くの海の魚は減圧ができず目ん玉が飛び出ると思う。この上下動はハンターとしての優れた襲撃能力です。

 

伊東さんの座右の銘は「鬼手仏心」。応接室には浜名湖で釣りあげたマダカの魚拓が飾られている

伊東さんの座右の銘は「鬼手仏心」。応接室には浜名湖で釣りあげたマダカの魚拓が飾られている

 

捕食対象を見極める学習能力も高い。つまりルアーを見切りやすい。しかも彼らはそれを群れに伝播させている気もします。最初にチェイスしたシーバスが食えば、次の魚もヒットする可能性はありますが、チェイスして見切った魚がいると同じ群れの中にルアーを通しても次にチェイスする魚がいなくなる。行くのか、行かないのか。襲撃するのか、しないのか。触るか、触らないのか。先頭が食わなければ俺たちも食わないという感じにオンとオフがはっきりした場面に度々遭遇するんです。ブラックバスにはそれがない。ファーストコンタクトで追ってきた魚が食わなくても、次の魚が食ってくる。トゥイッチ入れたら食っちゃう。「ワンテン」を使っているとよくあるパターンです。ボート際でエイトトラップやっていると、遅れてきた魚が食ってくる。でもシーバスは初見で見切られたら次がない。そんなことが多い。

閉鎖空間に放流したシーバスでルアーの実験をしていた時期があります。当然ですが放流したての魚は何を投げても食ってきます。手を変え、品を変えてポツポツと釣り続けたとして2時間も経てば何にも触らなくなる。それがシーバスです。ベイトを見切る能力が高い。一方ブラックバスは6日間経ってもルアーをチェイスしてきます。

 

 

バスルアーとシーバスルアーの違い

シーバスルアーを作る時に私はバス脳では作りません。バスルアー製作の経験値がどこかで活かせるのではないかと考えてやりますが、シーバスにはシーバスの知見が絶対に必要です。

ではバス用とシーバス用の違いは何かといえば一概には言えません。一般的に「バスルアーよりもシーバスルアーはピッチが緩いほうがいい」と言われています。1mの距離をルアーが進む間にロールでもウォブルでもどれだけ左右に振幅するのか。このピッチがバスルアーに比べ、少なく設定されがちなのがシーバスルアーだと思います。じゃあどんなタックル、どんなギヤ比のリールをどの速度で使った時のピッチを言われているのかといえば、多種多様で曖昧です。明確な定義は確立されていません。早巻きをやっていたり、あるいは潮に対してダウンストリームの釣りをやったりする。そういうルアーの抵抗が強くなる環境で設定された時のピッチが緩いのかもしれません。つまりテストした時の基準が曖昧で確定に至るスペックがブレやすいのです。

私の長年の経験で言えば、シーバスはハイピッチなルアーに対する反応もめちゃくちゃいいです。私がテストで使うロッドは高弾性な「空海」シリーズです。リールはシマノさん、ダイワさんの3000番台でイト巻きの範囲やスプール系のだいたいの範囲を決めながら測定し、メガバス社の伝統として全部私がテストをしています。私にはゾーンというのがあるんですよね。このゾーンに入っていれば釣果の保証はできるという。ただ釣ればいいというものではない。すこぶる高活性な魚はどんなルアーでも釣れてしまう。重心の位置が適切ではない、ラインアイの位置がよくないルアーでも釣れちゃう。その魚がストライクゾーンのド真ん中の釣果か、外角ぎりぎりの釣果なのかの判断は、自分が確かめなければいけないと思っています。それにはとことん数を釣らなければ分からないし、コンディションに関わらず魚が触りに来るゾーンのルアーを目指しています。

ルアー作りの大前提として、意識すべき要素が2つあります。ひとつはシーバスの生態、食性ですね。もうひとつは遠投性能やレンジキープ能力など、アングラーの使い勝手。この釣り人側の要望を満たすだけでも釣れてしまうのがシーバスの世界でもあったりして、それが第一要件として終わらないように気を付けています。私はシーバスの食性のド真ん中に刺さるようなルアーを作りたい。そこで意識するのがルアーのピッチなんです。

シャッド、ミノー、バチ系ルアー、シンキングペンシル。私の作るシーバスルアーは概ねハイピッチを意識しています。このピッチを「ロール」という回転のピッチで出すのか、左右に揺れる「ウォブリング」で出すのか、ルアーによって正解が違ってくるんですね。たとえばアクティブに上下動できるいい個体をねらいたい時はロールのほうが下層の魚にもアピールしやすい。フラッシングの光の明滅がアピールしてくれるからです。一方、魚のレンジに合わせて誘うミノーなどはウォブリングのピッチを上げたほうがいい時もある。こうしたテストをしながらシーバスの生態に響く各ルアーの適正なピッチを見出していきます。

バイブレーションを例に挙げますと、シーバス製品には「カットバイブ」があり、バス用には「バイブレーション- X」というルアーがあります。この2つはピッチも違いますし、正面から見た時のロール角を変えています。カットバイブのほうがよりロール角が大きいです。ハイピッチにどのあたりまで体側面を翻していくかを考えた結果、体高を体長に対して抑えています。海の魚にはそっちのほうが絶対的に刺激力はあると思って作っています。

 

左が「カットバイブ」、右が「バイブレーション-XSW」。カットバイブはラウンドヘッドで背部にフラット面がない。正面から見るとお腹は膨らんで背中は細くローリングのアクションをしたがる構造になっている

左が「カットバイブ」、右が「バイブレーション-XSW」。カットバイブはラウンドヘッドで背部にフラット面がない。正面から見るとお腹は膨らんで背中は細くローリングのアクションをしたがる構造になっている

 

体高を出すルアーにするなら「コノシラスシャッド」のようにウォブの左右へのヒネリの動きを入れてあげたほうが追いはよくなると思います。一方バスは単純にロールとウォブリングをバランスよく掛け合わせたウィグリングの振動数を高めたほうが、世界的にどこで使ってもアジャストしやすい。

バイブレーションXの基材を使ってソルト用でも売っていた時代がありました。「バイブレーション- XSW」という製品ですが、バス用とは全くの別物です。元の製品はフラッドヘッドなので水がベタっと当たって水流抵抗を受けすぎる。横ブレの振動は出しやすいですが、ロール角の大きなピッチは出しにくい。そこでソルト用はウエイト構造を変えました。バス用は上下にウエイトが入っていましたが、シーバス用は前と下にしかウエイトが入っていない。さらにフックがカドミウム製でバス用よりも3g重いフックがセットされていた。このように低重心化することでフラッドヘッドでも振動時にロール角が大きくなり、海水比重でもハイピッチロールを産み出すセッティングにしていました。

 

 

ハイピッチロールするミノーを作りたい

リップインベイト

ガイド船を始めた1989年には「マリンギャングミノー」という樹脂製ミノーを作っていました。「POPX」を作る遥か以前のことですね。昔手掛けたミノーで印象的な製品は1995年に作った「リップインベイト」です。体高のないミノーでいかにハイピッチなロールを出すかということにアイデアを絞った製品です。

古くはシーバス釣りのミノーといえばラパラの「CD9」が代表的です。バルサ製で軽比重なのでいくらでもウエイトを仕込める。シンキングミノーなので浮かなくてもいい。この軽比重がもたらしているのがハイピッチアクションです。30年以上前の自分は海外から来たラパラの出すハイピッチの威力を知っていました。ガイド船をやっていた時もハイピッチルアーの釣りはめちゃくちゃ強かった。そもそもイワシを背掛けにして泳がせた時のあの痙攣した泳ぎは、ハイピッチロールですよね。

リップインベイトを作ったころの樹脂(インジェクション)は強度を出すためにゴムが含有されていました。ゴムの比重って結構重いんですよ。だからいくら中空で作ってもバルサの軽比重に敵わない。飛ばせるルアーにするとなればウエイトも多く入れなければならず、動きが鈍重になってピッチがより緩くなる。

 

「リップインベイト」が製作された四半世紀以上前のインジェクションルアーは、樹脂を丈夫にするためにゴム素材が混ぜられていた。それは重いためピッチを細かく作りにくい。また右のように「黄化」現象を起こす

「リップインベイト」が製作された四半世紀以上前のインジェクションルアーは、樹脂を丈夫にするためにゴム素材が混ぜられていた。それは重いためピッチを細かく作りにくい。また右のように「黄化」現象を起こす

 

じゃあバイブレーションはリップがないのになぜあれだけハイピッチになるのか? バイブレーションは頭部から背中にかけてがリップとして機能しているからです。リップインベイトはダイビングリップ付きミノーと見立てられますが、実は背中までがリップという意匠で泳ぎを生み出している。だから「リップイン」と名付けたのです。

 

「リップインベイト」は高比重素材にも関わらずバイブレーションと同じベクトルのハイピッチアクションを意識した画期的ミノー

「リップインベイト」は高比重素材にも関わらずバイブレーションと同じベクトルのハイピッチアクションを意識した画期的ミノー

 

このミノーを発表した時に周りから「メガバスがダイビングミノーを出した」と言われました。でもこのルアーはダイブしないしそんなに潜らない。いうなればミノーの形をしたハイピッチバイブレーションです。何をやりたかったかといえば、細身のバイブレーションと同じアクションベクトルでハイピッチのロールを出したかった。正面から見るとお腹を絞って背中をやたらと広げて逆三角形としている。この背面による高めた引き抵抗が強振動を産み出し、フィーディングのきっかけをもたらします。アングラー側の感覚は無視してシーバスがどんな時でも食ってしまう、いわゆるゾーンど真ん中のストライクを考えた。この構造は後の「ゾンク」になり「CookaiBRING 130」といったルアーに発展していくのです。

 

X -80SW

シーバスルアーはより飛んで、抵抗が楽で、その結果、全体的にローピッチでいいんだという雰囲気がもしあるとすれば、それは必ずしもそうとは限らない。もちろん落ちアユを意識した釣りなんかはいい場合もあるでしょうが、東京湾や浜名湖や名古屋港といったベイエリアで多くのシーバスは小さなトウゴロウイワシやイナッコとかピチピチ動いているものを食っている。その動きによく似たハイピッチロールは有効ですよね。それを出せるミノーを作ろうということでやったのが「X-80SW」です。

80mmという小型ミノーでハイピッチなローリングによる水流攪拌をもたらしたい。そのためにはもっともっと水を受けなければいけない。普通のリップではどうしてもローピッチになってしまうのでリップに窪みを作った「ディンプルリップPAT.」を考えたんです。水を集中的に加圧して体高を上げてスレンダーにして、尻ビレ部分は狭めた。とにかくヒラを打たせたいから。つまり何をしたかったかといえば、下層に居る魚に対して体側面のフラッシュを見せたい。お腹は水面と同調させてカモフラージュ。ボディーの側面や背面が表層の海面に映り明滅させる。表層部の鏡面効果を利用して下層にいる魚によりアピールしたかった。だからハイピッチロールにこだわった。ロールの回転数が多ければ多いほどアピール力は高まります。

 

ハイピッチロールアクションが特徴的な「X-80SW」。リップの窪み(ディンプルリップPAT.)に注目

ハイピッチロールアクションが特徴的な「X-80SW」。リップの窪み(ディンプルリップPAT.)に注目

 

バスの場合はジャークを織り交ぜてアピールしないとフィーディングスイッチが入らない個体も多いですが、シーバスはハイピッチロールのみでほぼ9割方フィーディングしてくれます。それくらいロール角が大きいルアーにシーバスは反応しやすいという実感があるのです。よりロール角が大きくなるようにフックもワイドゲイプで重いステンレス製をセッティングしています。「X-80SW」を作った頃には、樹脂のゴムの含有量がゼロでも頑丈になりました。比重が「リップインベイト」の時代よりもはるかに軽くなって非常にレスポンスのいいハイピッチロールに仕上がったんです。

 

下層の魚を刺激するのがハイピッチロールによる明滅と言う伊東さん。「X-80SW」はハイピッチなロール性能を最も意識した製品のひとつ

下層の魚を刺激するのがハイピッチロールによる明滅と言う伊東さん。「X-80SW」はハイピッチなロール性能を最も意識した製品のひとつ

 

 

重心移動システム「LBO」は飛距離アップと高い始動性も利点

LBOのキモは、ロール軸と重心位置を同軸上にマウントできることです。アクションの軸といいますか、ローリングアクションをさせる時のロール軸に重心がマウントする位置、これが同軸にありますとリールハンドルのノブに手をかけた瞬間から一発目のロールが入ります。つまりアクションの始動性がめちゃ速い。それだけロールの回転数が上がりハイピッチ化が促進される。干渉する波や引き方でバランスを崩すような要因があったとしても、基本的にアクションは全く破綻せず常に泳ぎ続ける状態になります。

 

LBO は泳ぎ出しがよく、驚異的な飛距離を出せる重心移動システムだ

LBO は泳ぎ出しがよく、驚異的な飛距離を出せる重心移動システムだ

 

球形重心のルアーの中には、中心軸がロール軸から下になったり上に位置したり、少なくとも一致していないルアーがかなり多いと思います。一致させるにはリップの角度や、ルアー内部の容積も変えなければいけない。ロール軸と球形重心の中心をどんぴしゃで一致させないと、泳がないポイントや泳げないリトリーブ速度が必ず生まれ、アクションが乱れたり変わったりする。LBOはそうしたアクションの段付き感がなく、シームレスなロールアクションになります。デッドスローでも高速でも適切なロール角の回転が維持できている。どんなリールを使ってもハイピッチでずっと高速でローリングし続けるという。どこに魚がいるか分からない条件でも常に動き続けていればストライクチャンスは拡大します。着水点からピックアップの最後まで泳ぎ続けたほうがいい。どんなティップポジションであっても、ルアーとの入射角がベタになっても高くなっても、常に泳ぐこと。それを実現させるのがLBOです。シーバスは動いているものには意外と抗えません。

もともとLBOの前身として「ヴィジョン95」があります。シャフトバランサーといって棒状のバランサーウエイトをマウントして常に泳ぎ続けるバスルアーを過去に作ったんです。そして棒状のベアリングケースを重心にして移動させたらどうかと発想したのがLBOです。当然重心移動なので、飛距離は出ます。アングラーにとっての使い勝手のよさも意識していますが、前提として魚の習性、捕食の訴求の要因として作用するシステムです。めちゃくちゃ飛ぶんだけど、魚にとってはどうなの? というシステムではないのです。

 

大人気ルアーの「カゲロウ」シリーズはLBO なくして生まれていない

大人気ルアーの「カゲロウ」シリーズはLBO なくして生まれていない

 

 

近作シーバスルアーについて

ゴーラム147F SW

ジョイントのビッグプラグをよりレスポンシブなルアーにしたかった。それがこの「ゴーラムSW」のコンセプトです。木で作ったジョイントベイトが発想の原点になっています。名前の由来は「御神木」みたいなイメージでゴロッとしたボラのような恰好のルアーですね。このプロトを木曽三川沖の中州の浅瀬、浜名湖ビーチからテストをしている時に、夕マヅメのベタナギの海面をテロテロ引いてくるだけで後ろから水面がボコボコに割れ食ってくる経験を何回もした。当時作ったルアーは安定性が悪かったんですが、高速巻きに耐えうるようなでかいけど安定性を高くしたらどうなるかというイメージができていた。それにはLBOを1個ではなく2個入れたい。それが「ツインスパークLBO」というシステムです。

フロントのLBOにはベアリングボールが120個、リアのLBOにはマイクロボールベアリングが48個入っています。重量が違うウエイトは移動にタイムラグが生じやすい。作動が同調しないとルアーとしてのアクションがバラけ、飛行の際は「へ」の字になって空気抵抗をより受け飛ばなくなってしまいます。キャスト時はふたつの重心がタイムラグなく後方に移動し、着水後ハンドルノブに手を掛けた瞬間に戻るように何度もテストを繰り返して同期させています。

ゴーラムはジョイントの可動部分が、結構抑えて作られたルアーです。せっかくジョイントにするなら、もっと動いたほうがいいと思うかもしれませんが、むしろ積極的に動かしているのはリップの付いたフロント部のほうです。このフロントのアクションに追従するカタチで小さな体積のリア部がついていく。水をえぐるようなトルクフルなロールアクションになり後方に生じる水のヨレ、すなわちスリップストリームが長い。この水のヨレがニュートラルな魚を覚醒させます。ベタナギの海で釣りにくいニュートラルなシーバスさえも襲ってくる。フィーディングに入っていない魚にめちゃくちゃ強いのです。

 

基のLBO が搭載された「ゴーラム147F SW」。重量の異なる重心をタイムラグなく同期させて誕生したレスポンスのよいビッグプラグだ

基のLBO が搭載された「ゴーラム147F SW」。重量の異なる重心をタイムラグなく同期させて誕生したレスポンスのよいビッグプラグだ

 

ニュートラルな魚のフィーディングモードも覚醒させる「ゴーラム147FSW」は大型魚を引き出す力も強い

ニュートラルな魚のフィーディングモードも覚醒させる「ゴーラム147FSW」は大型魚を引き出す力も強い

 

ホムラ86

名の由来は「炎のゆらぎ」のようなイメージです。メガバスにとっては本格的につくるこの手のシンキングペンシルになるので、メラメラと燃える個人的な情熱的な意味合いも掛け合わせています。

シンペンは本当に奥が深くて難しい。水面直下でゆらゆら漂わせていればどんなシンペンでも釣れます。ストライクゾーンの外角にいる魚も拾ってしまう。ルアーデザイナーとして何を基準に作っていくかという方向性が見えにくい。魚の生態にアジャストさせる部分に加え、アングラー側の使い勝手も他のルアー以上に重視していかなければいけない。レンジコントロールをしたいのにアングラーのイメージよりも沈んでしまうとか、沈みを意識しすぎて早く巻かなければとなってしまう。もっとスローに引きたいとなると、ティップを立てたようなポジションでずっと使わなければいけないとか。アングラーにテクニックを強いる状況が生まれやすいルアーです。

ホムラはシャローエリアの中層から上層のレンジをよりスローに引いてもちゃんとハイピッチで泳いでくれます。デッドに引いても、アップクロスに投げても、U 字でターンしてくる時もピッチがしっかり出ている。

もうひとつフラットな腹部によってスリムな体型なのに水に乗っかりやすい。だから水平に近い姿勢を保つ。デッドスローでもより水平に近い姿勢で引ける。浅くてストラクチャーがたくさんあるようなところを、リップもないのにシンキングなのにゆっくり引けるというのがキモです。

加えて特筆したいのは左右への振れ角です。しょっちゅう変化しています。アップ、ダウン、U 字ターン、あるいはティップを軽く上げた瞬間、ラインをちょっと緩めてロッドを寝かした瞬間、アングラーが投げた後にポジションを変える瞬間など、ラインにドラッグがかかって「ちょっと動いちゃったかな」という時も毎回ルアーのアクションの振れ角を変える。つまりピッチは安定しているけど、アクションの振れ角が変異しやすいセッティングになっていて「ナチュラルリアクション」を多発させるのがねらいです。

ストラクチャーがたくさん沈むシャロー帯も沈み過ぎず引きやすい「ホムラ90」。デッドスローなリトリーブでもしっかりとしたピッチが出る

ストラクチャーがたくさん沈むシャロー帯も沈み過ぎず引きやすい「ホムラ90」。デッドスローなリトリーブでもしっかりとしたピッチが出る

 

腹部のフラット面によって水平姿勢を保ちやすい

腹部のフラット面によって水平姿勢を保ちやすい

 

キリンジ90

アングラーに水の抵抗感をあまり感じさせず、ハイピッチの高速ローリングが入って、引き波がタイトで長い。それが「キリンジ90」です。「カゲロウ」シリーズとは全然違うジャンルでローリングウエイクベイトみたいなイメージのミノーですね。 加えてこの口でポッピングもできる。魚探を見ながらのテストで魚のレンジが落ちている時、スプラッシュを出すようなポッピングをやるとタナを上げてくる魚がいるんです。特にコンディションのいい時はバンバン上げてくる。また表層の横方向に離れた魚も関心をもってくれます。

ちなみにスプラッシュサウンドが魅力的だから食べのるかといえば、そうではありません。演出したいのは水面で捕食中の魚がいることをイミテートするため。深い所にいる魚に水面の捕食音を伝達させ意識を表層に向けさせる。私は水中でシーバスの捕食音を聞いたことがあります。それは木魚を叩いているような「ポグン」という硬質な音です。その音を出すためにカップ形状も工夫しています。

 

「キリンジ90」はポッピングもできるウエイク系ミノー

「キリンジ90」はポッピングもできるウエイク系ミノー

 

一方でスプラッシャーはアピールの要素でしかありません。シーバスが食うのはルアーを引いている時で、リトリーブによるローリングアクションの最中です。ローリングの長い引き波が決め手となります。そしてなるべくハイピッチのほうが下層の魚に対してのアピール力も高い。

 

この大きな口でシーバスを寄せられる

この大きな口でシーバスを寄せられる

 

ポッピングできる大きな口は、水をガバッと噛んで本来は抵抗感が強くなりますが、キリンジは違います。余剰水流を逃がすためのウォータースルーダクト(ハイドロダイナミクス構造PAT.)で作っています。これにより軽快なリトリーブフィールになり、しなしなとしたハイピッチロールで引き波を長く伸ばして軽やかに泳ぎます。

大きなカップなのに強い引き抵抗を全く感じさせないウォータースルー機構を導入。ストレスのない軽快なリトリーブで長い引き波が生じるハイピッチロールで魚を誘う

大きなカップなのに強い引き抵抗を全く感じさせないウォータースルー機構を導入。ストレスのない軽快なリトリーブで長い引き波が生じるハイピッチロールで魚を誘う

 

 

シーバス専用ロッド「空海」を作る際に意識したこと

昔のシーバスロッドは長くて重くて「緩い感じのする」ロッドが多かったように思います。魚を乗せることやトルクが重視されたコンセプトで作られたロッドですね。個人的に好きなロッドはどんなものかといえば直感的なロッドです。「ダイレクタビリティ」と僕らは言っていますが、感度がめちゃくちゃよくて、持った瞬間からバランスよくティップがすっと上がる。高弾性で軽量ルアーもロッドの反発で飛ばしやすい。そんなロッドが「空海」シリーズです。

メガバスは創業当時から競技系バスロッドを作ってきました。競技用ということは他の選手を出し抜いて勝つためのロッドです。つまり他の人より多くの情報を感知し、限られた時間の中でチャンスを拡大できる。シーバスには競技がないけれども、そういうツールの作り方というか、バランスの設定の仕方、ブランクの巻き方をシーバスロッドに適用する意識で作っています。

デストロイヤーは勝つためのロッドとして日米欧でさまざまなプロがあらゆるタイトルを獲得してきました。そこで蓄積してきたノウハウも空海には積極的に導入しています。加えて2000年代にはソルト用の「XOR」というシリーズを手掛けていて、それは空海の前身となるような競技系のソルトロッドです。ヨーロッパに行くと上顎が長くて下顎が短い欧州産シーバス「バール」という魚がいるんです。その釣りがとても人気で、バールフィッシングのワールドカップがフランスなどでは盛んです。そこのトップ10のうちの4人までがメガバスのXORを使って活躍していました。

操作するルアーの細部が感じられ、ストラクチャーのあれこれや底質を感じられる。そういった観点で作っていくとやっぱりバスの競技ロッドのテクノロジーをフィードバックしたい。たとえば堤防のギリギリにルアーを通した時にフジツボを掻いている感じ。ここはフジツボエリア、ここは昆布エリア、ここは何にもない。という感じにストラクチャーの質感が めちゃくちゃ分かり、潮流の変化も感じ取りやすいですね。小さなルアーでもその振動の変化がかなりハッキリ伝わります。

多くのシーバスロッドはキャストの際にグッと曲げ込んで引き手と押し手で前に出して飛ばす。あるいはペンデュラムキャストのようにたすきで振ってルアーのウエイトを乗っけた時に一番気持ちよく飛ぶように設定されています。「空海」の場合は瞬発力の高い高弾性シャフトを曲げてそこで生じるルアーの飛行方向への推進ベクトルでバンと飛ばすようなイメージです。シャフトの高いインパクトで飛ばす感じで、その飛び方は弾丸ライナー系になります。

低弾性のシーバスロッドと同じレングス、同じ硬さ、同じルアーで比較した時には飛距離が2mくらい空海のほうが飛ぶでしょう。そんなに変わらない。でもその抜け感がめっちゃくちゃ気持ちいい。バキーンという抜け感。これでLBO のルアーを使った時は重心移動した時にカキーンと鳴る。バキーンとカキーンが合わさってめちゃくちゃ気持ちいい。ロッドのフィーリングから得られる情報がより感度が高くて鮮明だと、そのイメージが変わってくる。釣りの展開が変わってくる。結局、競技で勝つためのノウハウってそこなんですよね。曖昧な感覚を消していかないと展開する手数が制限される。やることのイメージが湧かなくて、次の動作にスムーズに移行できないんですよ。フリーズする悩む時間が多くなってしまう。空海とかLBO というのは、それを排除する直感的なアプローチです。それが勝つためのテクノロジーなのです。

シーバスロッド「Cookai 空海」は高弾性カーボンを採用し「ダイレクタビリティ」と呼ぶ直感的な性能が非常に高い。伊東さんが最初におすすめする1 本は汎用性の高い「CK-92MLS」だ

シーバスロッド「Cookai 空海」は高弾性カーボンを採用し「ダイレクタビリティ」と呼ぶ直感的な性能が非常に高い。伊東さんが最初におすすめする1 本は汎用性の高い「CK-92MLS」だ

 

 

 

※このページは『つり人2024年4月号』を再編集したものです。

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