ゆっくり沈む浮力設定でも気持ちよく飛ばせる自重があるところが、高浮力シンキングの新しさ
ゆっくり沈む浮力設定でも気持ちよく飛ばせる自重があるところが、高浮力シンキングの新しさ
写真と文◎宇野章則
新ジャンルを牽引する高浮力シンキングミノー
上)ラクス50S
高浮力でありつつ自重4g超のユニークなバランスが持ち味。プラスチック高浮力シンキングミノーのジャンル確立に大きな貢献を果たしたミノーだ。
下)ルレイ62S
渓流ミノーとしては最高レベルの浮力が感じられるルレイ62S。自重4.2gでキャスタビリティも損なっていない。水噛みのいいリップだが潜りすぎないので、一般的な渓流フィールドで扱いやすい。
ラクスとルレイの実釣インプレッション
着水させるだけでオートマティックに深いレンジがトレースでき、なおかつボトム付近で跳ね上げる誘いが簡単に行なえるヘビーシンキングミノーは、今も多くのアングラーにとって定番ルアーであることは間違いない。しかしその一方で、近年渓流ミノーイングが新たなフェイズに入ったと感じるアングラーが増えているように思う。というのも、大規模水害による深場の消失、毎シーズンお決まりの常態化してしまった渇水、それらの影響でナーバスな魚が増加したことでルアーの重さが仇となるケースが増えているからだ。
こうした状況を攻略する手立てとして、あらためて注目を浴びている要素が「浮力」である。昨年秋、福井県在住アングラーの小林祐二さんとの釣行でも、活躍したのは浮力をキーワードにつくられたシンキングミノーたちだった。そこで今回は、もともとヘビーよりはライトなタックルでのテクニカルな釣りを信条とする小林さんの、高浮力シンキングミノーを使った釣りを解説。ミノーに浮力があるからこそ可能な釣り、釣れる魚を再確認してみたい。
食性の変化と浅くなる水深
9月中旬の九頭竜川水系は高気温と渇水のダブルパンチに見舞われていて、なおかつシーズン最終盤のプレッシャーの蓄積で魚たちは低活性。こうした状況が昨年は北陸地方だけでなく全国的に起こっていたわけだが、この決してイージーではない状況で小林さんはおもにルレイ62S とラクス50S で川を釣り上がっていた。いずれもシンキングタイプながら高浮力のミノーだ。
小林さんがこれらの高浮力 シンキングミノーをメインルアーに抜擢した理由としては、そもそも北陸では夏以降の渓魚の主食が陸生昆虫となるため、水面への意識が非常に高くなることがまず一点ある。この時期、表層を意識したルアー選択としてより軽いミノーをメインに据えることが彼のセオリーなのだ。
そしてまた、長引く渇水で比較的水深が浅いポイントが増えていたことも、もちろん大きな理由に挙げられる。
「浅いポイントが多くなれば、魚は神経質になりがちです。そうした時は静かにアプローチできるミノーのほうが、魚を驚かせないため自然に食わせやすくなります。つまり、高浮力ミノーであれば静かに水面に落とせますし、なおかつルアーは軽いほど水面に落とした際に魚の食性に訴えてくれると思うので、『驚かせないこと』と『興味を惹きつけること』の2つの意味で浮力のあるミノーを選んでいるんです」
サイズダウンがありなら62mmもありなのだ
さて、小林さんが多用したルアーの1つであるルレイ62S は62mmの全長があるうえ、それなりに高さと厚みのあるシルエットをしているため、渓流での使用に躊躇するアングラーは少なくないかもしれない。だが、「62mmなら違和感なく食ってきます」と小林さんは言う。50mmから40mmへのサイズダウンがあるのなら、50mmから62mmにサイズアップする選択肢があっていいとの考えがまずベースにあり、なおかつ実際に食ってくるので使うことに抵抗はまったく感じないそうだ。
「通常は50mmで釣り上がり、小場所に40mm、大場所に62mmという使い分けが多いですね。小渓流では62mmのサイズ感を魚が嫌がる時もあると思いますが、ポイントやシチュエーションによって使い分けることで、むしろ今まで反応しなかった魚が追ってくれることがあるように感じています」
また、こうしたポイント規模に応じたサイズの使い分けを軸としつつも、時に小林さんはルレイ62S をメインに川を釣り上がることが珍しくないとのことで、実際この日はそうした釣りで数尾の魚をヒットさせていた姿が印象的だった。それほど深く潜らない深度設定だから、膝くらいの水量の渓流であればストレスなく探ることができるのである。
「浮力がありキビキビと動くので、アップの釣りも充分にこなしますが、どちらかといえばクロス〜ダウンクロスにかけてのドリフトが得意なミノーだと思います。対岸にキャストして、ドリフトさせながら魚のいるスポットに入れていく釣り方が効果的です。大場所でのアピール力を優先したい状況だけでなく、レギュラーのポイントでも積極的に使っています」
警戒する相手でもキャストが重ねられる
高浮力シンキングはこれまでおもにバルサミノー界隈に目立つジャンルだったが、より手軽に入手できるプラスチックミノーでそのバランスを具現化させた製品がラクス50S だ。自重4.1g でもゆっくり沈む「浮力」を明確に意識したハンプバックと若干ファットな設計が個性的で、プラスチック製高浮力シンキングミノーという、未来の伸び代を感じさせる新ジャンルの旗手的な存在。今釣行で小林さんが最も多くのヒットを得たミノーとなった。
「ラクス50Sはシンキングタイプですが、しっかりと浮力を持たせたハイレスポンスシンキングミノーなので、細かいトゥイッチングでヒラ打ちさせた際の復元が速く、なおかつ沈み方もゆっくりだからナチュラルに誘えます。その一方で、速く引いてもしっかりと水を噛んで飛び出しにくいところも特徴です。アップでもダウンでもオールマイティに使えるため、渓流釣りで最も使用頻度が高いミノーですね」
この日、同ミノーの高浮力に由来するオールマイティな性能が特に発揮されたのは、渇水した渓流で小さなポケットに付いたアマゴをねらう場面だった。アップクロスでチェイスを確認したものの、水深が浅くポイントが小さいことから小林さんは「魚が付き場から離れるのを嫌がっているかも」と少し遠巻きに回り込み、立ち位置をダウクロスにチェンジ。ポイントから離れないようにミノーをじっくり見せる釣り方に変え、何投か重ねたところしっかりと食ってきた。ボサ際の小さなポケットに高精度で撃ち込める自重を備え、それでいて浅場で底を拾わずに時間をかけてナチュラルに誘える浮力があり、なおかつ逆引きになっても水面から飛び出しにくい。そんな高浮力シンキングならではのバランスを利用して、釣り人はきれいなアマゴを手にしたのである。
また、小林さんが指摘する高浮力ミノー特有の「驚かせないこと」と「興味を惹きつけること」のアプローチの静かさにおけるアドバンテージも、数投のキャストを要したこのヒットをアシストしたのは間違いないだろう。簡単に食ってこない魚に対しては、彼らが嫌がらない釣りが鉄則。その点、浮力のあるミノーは着水時のインパクトが抑えられるので、キャストを重ねてもチャンスを潰しにくくなるのだ。
誰もが手の届く魚を攻略すること
ヘビーシンキングミノーが世に出た当時、アングラーはたくさんの魚を手にすることができた。しかし、フィールドに深場が少なくなり、なおかつそれら深場に対して誰もがたやすくアプローチできるようになったことで、ただ沈ませるだけではこれまでのような頭抜けたメリットを感じにくい釣行が増えている。
もちろんより重く、そしてまたより深く沈むミノーを使い、未知の深場を探ればそこにいる魚は釣れるはずだが、それらは手の届かなかった魚にリーチできたからこそ得られた釣果であり、貴重な選択肢の1つではあるものの効果は限定的だ。現状、一般的な渓流フィールドを歩くアングラーが感じる悩みの多くは河川の平均水深が浅くなっていることと、そこに加えてヘビーウエイトルアーのラインナップが充実したことにより、「誰もが手の届く魚」ばかりを相手とする状況が避けられない点に起因していると思う。
そうなる以前からシンキングミノーの中でも比較的浮力があり、低比重タイプを好んで使ってきた小林さんによれば、「軽いルアーのほうが、やはり魚は嫌がりにくい気がします」とのこと。誰もが手の届く魚とは、つまりプレッシャーを感じて警戒している魚である。相手を嫌がらせずに誘える軽いルアーが攻略の切り札になる可能性は大きい。
すでに夏場の高気温が予測されている今シーズン、誰もが手の届く魚との駆け引きがますます増えるだろう。警戒し低活性の魚に対しては沈ませる選択肢だけでなく、相手を驚かせず、むしろ興味を惹きつけるソフトな着水が演出でき、そしてまた浅場をゆっくりナチュラルに誘えるルアーもまた必要だ。小林さんにとって、その最右翼が高浮力シンキングミノーである
※このページは『鱒の森 2024年7月号』を再編集したものです。