フィッシングライターとして現在も活躍する佐藤成史さんのライフワーク、人間の活動などにより生息場所を狭められる渓流魚たちを追いかけ写真に収めた貴重な記録。インターネット前夜、乏しい情報をかき集めてターゲットににじり寄るようすは、冒険談のようなある種の清々しさも感じられます。
フライロッドを手に日本中を巡る冒険
1998年刊行の幻の名著が2020年の視点も加筆されて、復刊です。フィッシングライターとして現在も活躍する佐藤成史さんのライフワーク、人間の活動などにより生息場所を狭められる渓流魚たちを追いかけ写真に収めた貴重な記録。インターネット前夜、乏しい情報をかき集めてターゲットににじり寄るようすは、冒険談のようなある種の清々しさも感じられます。著者はフライフィッシャーですが、渓流魚の儚さ、美しさに心が動かされたことがある、すべての人にとって、価値のある読書体験になるはずです。希少な渓流魚を求めた大仕事です
解説=FlyFisher編集長・滝大輔
まず、佐藤成史さんをご存知ない方のために。今もメディアで活躍するフィッシングライター、という肩書きが一般的に通りがよいのでしょう。ただ、釣行記やエッセイだけでなく、フライフィッシングのハウツーを解説した著書、VHS(!)ビデオなども多数ある、情報収集力、文筆力、写真力だけでなく、フライフィッシングの経験と実力も折り紙つきのライターです。
本書はそんな著者の本領がおおいに発揮されています。書名のとおり、希少な渓流魚の写真を収めた貴重な記録ではありますが、それとともに、エキサイティングなフライフィッシングの釣行記でもあるという、非常に難易度が高く、今となっては再現不可能なほど。
西日本編/第12章 流紋岩魚と奇跡の渓 滋賀県(1994年5月) 182ページ~
東日本編/第22章 タキタロウと大鳥池 山形県(1996年9月) 108ページ~
さらに具体的な内容は目次を見ていただければお分かりいただけますが、佐藤さんの足取りは屋久島から利尻島までをカバーしています。実は本書、1998年に出版されたものの再編集版で、取材内容は1991年まで遡りますので、ほぼ30年前のものも含まれています。補足として2020年時点での最新情報も盛り込んではいますが、当時の空気感も伝えたいという意図もあり、大きな変更などは行なっていません。スマートフォンどころか、インターネットも一般的ではない時代。佐藤さんはいったいどうやって、瀬戸際の渓魚たちにたどり着いたのか?そういった視点でも楽しめるように作ったつもりです。
担当編集者として、個人的なおすすめのエピソードは……、と問われれば、「すべてです」と応えてしまうほどに充実した取材内容だと思います。西日本編、東日本編と2冊に分けましたが、どこから読んでいただいてもよい構成になっています。そして行間から漂う、当時30〜40歳代だった著者の、取材対象へにじり寄る、時に荒々しい欲望のようなものもお楽しみください。
最後に朗報。執筆当時、すでに瀬戸際だった渓流魚たちは現在、どうなっているのでしょう? 佐藤さんによれば、ほぼすべて健在、とのこと。楽観はできたものではありませんが、捨てたものでもありません。
西日本編コンテンツ
まえがき 002瀬戸際の渓魚たちの現在 2020 006
ヤマメ・アマゴ群の自然分布概念図 018
日本産イワナ属の自然分布概念図 019
日本海側イワナ 020
太平洋側イワナ 022
オショロコマ 024
日本海側ヤマメ 025
太平洋側ヤマメ・アマゴ 026
第1章 ヤマメの南限を求めて 鹿児島県(1991年4月) 030
第2章 屋久島のヤマメ 鹿児島県(1993年4月) 043
第3章 “マダラ”と九州ヤマメ 宮崎県(1997年4月) 057
第4章 国境の島に棲むヤマメ 長崎県(1994年4月) 071
第5章 四国山地にイワナを追いかけて 高知県(1993年4月) 085
第6章 四万十川と天然アマゴ 高知県(1996年4月) 098
第7章 隠岐島探釣記 島根県(1995年4月) 112
第8章 ゴギの里にて 島根県(1992年4月) 126
第9章 限りなくヤマメに近いアマゴが棲む渓 岡山県(1994年5月) 138
第10章 南紀のアマゴ 和歌山県(1996年5月) 152
第11章 キリクチ 奈良県(1992年4月) 164
第12章 流紋岩魚と奇跡の渓 滋賀県(1994年5月) 182
第13章 琵琶湖とイワナたち 滋賀県(1995年5月) 194
第14章 イワメの渓 三重県(1992年3月) 216
第15章 黒部源流、日本最高所のイワナ 富山県(1994年8月) 228
2020年、「瀬戸際」を振り返る 西日本編 248
参考文献 253
謝辞 255
東日本編コンテンツ
まえがき 002瀬戸際の渓魚たちの現在 2020 006
ヤマメ・アマゴ群の自然分布概念図 018
日本産イワナ属の自然分布概念図 019
日本海側イワナ 020
太平洋側イワナ 022
オショロコマ 024
日本海側ヤマメ 025
太平洋側ヤマメ・アマゴ 026
第16章 サツキマス 岐阜県(1992年5月) 030
第17章 別荘地に残されたイワナ 長野県(1997年5月) 044
第18章 種の境界と混沌 神奈川県、静岡県(1994年4月) 056
第19章 神流川源流の天然イワナ 群馬県(1994年8月) 072
第20章 失われた渓と無紋ヤマメ 茨城県(1994年4月、1995年4月) 084
第21章 阿武隈高地の天然イワナ 福島県(1996年9月) 096
第22章 タキタロウと大鳥池 山形県(1996年9月) 108
第23章 カメクライワナを巡る旅 山形県(1993年9月) 121
第24章 無差別放流への警鐘 岩手県ほか(主に1993年8月) 138
第25章 小渓の幽魚 無斑イワナ 岩手県(1993年8月) 155
第26章 スギノコ物語 青森県(1991年8月) 171
第27章 オショロコマの南限 北海道(1992年6月) 185
第28章 オショロコマの楽園 北海道(1996年9月) 196
第29章 北の原野にイトウを追い求めて 北海道(1995年11月) 208
第30章 日本最北の島々と渓魚たち 北海道(1996年9月) 224
2020年、「瀬戸際」を振り返る 東日本編 246
参考文献 252
謝辞 255