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編集部2021年6月29日

持続可能なタナゴ釣りのために釣り人ができること。

環境レポート

本来の分布を無視した無秩序な放流は止めるべきだ。他地域からの持ち込まれたタナゴは、そこにいるタナゴ類と交雑したり、エサや産卵母貝の競合がおきたり、他所から病気を持ち込んだり、本来そこに生息しているタナゴたちに対して負荷をかけてしまう。

本来の分布を無視した無秩序な放流は止めるべき

レポート◎熊谷正裕

※この記事は、月刊『つり人』2021年8月号に掲載したものをウェブ用に再編集したものです。

心ない放流をやめてほしい

 今また、タナゴ釣りがブームだ。一円玉に乗るような極めて小さなオカメタナゴを繊細な仕掛けで釣る。思い思いのウキ、研ぎ上げたミクロのハリ、独自に配合したエサなどを駆使して数を釣るのが楽しい。仲間と釣りあげたタナゴの数を競う人もいる。また、小河川やため池など地域固有のタナゴを静かに釣る人も少なくない。春と秋、オスが婚姻色のきれいな季節に、その魚体を一尾一尾、優しく手中で愛でる。とても楽しく心豊かになるタナゴ釣りの時間だ。

 しかしその一方で、本来その場所に生息しないはずのタナゴ類を無秩序に放流する釣り人がいる。タナゴ釣りのコミュニティで放流を行なっている場面も増えている。この現象は特にタナゴ釣り文化が定着している関東において顕著だ。タナゴ類の一大生息地であった霞ヶ浦水系は2007年頃を境に在来タナゴ類が激減。それからというもの、北関東を中心とした関東各地で密放流が増えたように思う。近年はタナゴ釣りの人気が全国的に高まった影響もあり、関東のみならず全国各地で心ない放流が見られるようになった。

 あらためて日本に自然分布する在来タナゴ類16種(亜種)の現状を見てほしい。環境省のレッドリストではミヤコタナゴとイタセンパラは絶滅危惧ⅠA類で国の天然記念物に指定され、スイゲンゼニタナゴとセボシタビラも絶滅危惧ⅠA類として国内希少野生動植物に指定された。このため4種(亜種)は釣ることも飼うこともできない。それ以外もカネヒラを除くすべての種(亜種)が絶滅危惧ⅠA類から準絶滅危惧まで指定されており、分布の広いヤリタナゴさえも準絶滅危惧である。ヤリタナゴ、アブラボテという比較的見ることが多い在来2種も極端に減少しているのだ。また、ゼニタナゴ、イチモンジタナゴ、ミナミアカヒレタビラ、ニッポンバラタナゴは条例で捕獲が禁止になってしまった地域がある。

長い年月をかけて生まれた多様性が失われつつある


 タナゴ類の希少性は、手にしてみたいという気持ちにさせる。しかし、その思いだけで本来の分布を無視した無秩序な放流は止めなければならない。日本在来のタナゴ類はそれぞれの地域によって種や亜種に分かれていたり、また同種でも地域によって遺伝的に違っていたりする。日本列島は南北に長い。太古に大陸とつながったり離れたり、造山活動によって河川が独立したり、非常に長い年月をかけて固有の進化を遂げた魚たちがいる。現代のそれぞれの地域に生息しているタナゴたちは、その生き証人ともいえ、だからこそ本来の地域に生息するタナゴを、その場所で大切にしなければならない。

 タナゴ類の減少は生息地の改変が主な原因だが、釣り人による無秩序な放流も在来タナゴ類の減少要因のひとつ。在来タナゴ類の生息環境は、どの地域も二枚貝と共に非常に脆弱で不安定な状況であり、数を減らし続けているのは水辺の番人である釣り人がよく知っている事実だ。

 また、本来ため池はそれぞれ所有者や水利権者が決まっており、無断で釣りをすることはできない。ため池付近の身勝手な駐車、ため池への無断立ち入り、ひどい人はゴミを投棄していく。こんなことをすれば地元民との軋轢が生じるのは明らか。このような釣り人の行為が目立つようになると、地元民や地方行政、さらには研究者などからも、より一層規制がかかる。現実にその影響で秋田県や新潟県、福井県など各地域で立入禁止の箇所が増えているのだ。全国的に自然環境の保護意識が高まっている今日、各地域でも地元民のタナゴ類に対する意識にも大きな変化が見られる。

 無秩序な放流の問題点は、他地域からの放流によってそこにいるタナゴ類と交雑したり、エサや産卵母貝の競合がおきたり、他所から病気を持ち込んだり、本来そこに生息しているタナゴたちに対して負荷をかけることだ。残念なのは、放流されたタナゴたちは定着してもしなくてもいずれも不幸なことである。タナゴ類が減少し、さらに釣り禁止の場所が増えれば、我々はタナゴ釣りを楽しむことができなくなる。

 タナゴ類は釣りの対象魚として放流に頼らない。二枚貝とハゼ類と自然環境のバランスに委ねられている魚種だからこそ、自然のサイクルに背いてはいけない。いつまでも好きなタナゴ釣りを楽しむためにも、もういい加減に無秩序な放流や釣り場作りは止めるべきだ。釣り人がそれを守っていかなければ、タナゴ釣りを継続していくことが難しくなると、各自が肝に銘じてほしい。

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レポート◎熊谷正裕
タナゴ釣りを楽しみながら飼育や生態調査、小粋で繊細な和の道具にも魅了されている。自らを「タナゴ愛好家」と称し、タナゴを巡る周囲の自然も愛してやまない。とりわけ霞ヶ浦のタナゴたちには特別な思いが強い。葛島一美さんとの共著『日本タナゴ釣り紀行』がある


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