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編集部2024年4月2日

TULALA(ツララ)の ロッド開発Q&A

企画から完成までロッドはどうやって開発されていくのか。テスターからどうフィードバックされて改善されていくのか。TULALA でシーバスロッドの開発に関わってきた工藤靖隆さんが、意外と知らないロッド開発の裏側について教えてくれた。

企画から完成までロッドはどうやって開発されていくのか。テスターからどうフィードバックされて改善されていくのか。TULALA でシーバスロッドの開発に関わってきた工藤靖隆さんが、意外と知らないロッド開発の裏側について教えてくれた。

回答◎工藤靖隆

そもそもどういったところから開発がスタートするのですか?

釣行時のちょっとした気付きや要望からスタートすることが多いです

私はテスターという立場であり、契約メーカーのアイテムを日常的な釣行でも使っています。その中で浮かんでくる「ちょっとした気付き」を常に貯めていて、メーカースタッフとの打ち合わせの際に、具体的な例を出しながら「こんなものがあったらいいなぁ」というイメージを伝えます。それをメーカーが、製品にしていく価値があると捉えれば、ファーストプロトの作成をしていくことになります。たとえばスタッカート89 の場合は高弾性なロッドが今の流行りだけどシーバスって巻きの釣りがメインで乗せ調子がやっぱりいいよねという話からスタートしたロッドです。

どのような業界でも、販売メーカーが何か新しい製品企画を起こす場合は2通りあります。市場が求めている製品をメーカーが企画する「マーケットイン」と、自分たちが欲しいものを具現化してユーザーへ提案していく「プロダクトアウト」です。ツララの場合はほとんどが後者だと思います。少なくとも私の場合は、流行っているから、売れるからという始まり方ではなく、ツララスタッフが開発したモデルも、釣り人である彼らが欲しいと思ったモノから始まっています。

釣行時のちょっとした気付きや要望からスタートすることが多いです

 

開発の過程でプロトを自分で作ったり、手を加えたりしますか?

私の場合はメーカーに作ってもらい、手を加えるようなことは基本的にしません

ツララの場合は現場から要望を伝えることから始まるのですが、プロダクトや販売する予定が確定する前に、「こんな感じ?」といった具合に試作品を予告なしで送ってくることが多いです。まずはその一本目を使いこむことから開発がスタートするので、ファーストプロトは「多分これ?」なんてはっきりしないことも多いです。

なお、ロッド開発に関しては「私が何かを作る」ということはほぼありません。過去にはガイド位置の設定なども自分でやりましたが、現在はツララが提唱しているストローガイドセッティングというものがあります。かなりシビアで複雑なセッティングなので気になったときにコメントは出しますが、調整はメーカーへ一任しています。

私もある程度の製造知識を持ってメーカーと会話をしますが、製造・販売という部分はやはり専門的な知識や技術に依るところが大きいです。中途半端な知識や誤った認識でのコメントはすれ違いを引き起こすこともあるため、私はフィールドテストでの情報収集とフィードバックに注力しています。

送られてきたプロトを使い込むところから開発はスタート。ファーストサンプルからいかに希望どおりに仕上げていくかが大切

送られてきたプロトを使い込むところから開発はスタート。ファーストサンプルからいかに希望どおりに仕上げていくかが大切

 

最新の素材や最新技術がやはり一番いいのでしょうか?

ロッドに関しては素材や技術をどう使うかが大切です

最新の素材は、間違いなく「工業製品としてよいもの」と言えます。特にカーボンマテリアルは確実に何かしらのメリットを持っています。ただ、これが釣りザオとして優れたマテリアルかと言われると、良し悪しの判断はできず、要望にマッチするかしないかの問題だと思っています。

新素材や技術が求めているロッドの方向性にマッチすればプラスですが、そうでなければむしろ悪手になります。釣りザオとして一般的に素材に求める性能は、より「軽い」「硬い」となりがちですが、この方向性が必ずしもすべてのルアーロッドに対する需要に一致する訳ではありません。軽くて硬くて高復元力が一番とは言い切れないロッドにおいては、最新マテリアルが必ず最上位になるわけではないのです。新素材や工法はあくまでもロッドの作り方に選択肢が増えるということであり、理想とするロッドの作製においてどのようなメリットがあるのか? が重要です。そして、それらを生かすも殺すも設計次第だと考えています。

最新素材や技術だから一番よいというわけではなく、よりよい製品を作るための選択肢のひとつでしかない。ツララ特有のストローガイドセッティングは感度やライントラブルの減少といったメリットがある

最新素材や技術だから一番よいというわけではなく、よりよい製品を作るための選択肢のひとつでしかない。ツララ特有のストローガイドセッティングは感度やライントラブルの減少といったメリットがある

 

テストするときはどんなところに注目していますか?

変更内容をじっくり確認してからフィールドテストで使います

プロトが手もとに届くと、さっそくフィールドテストとなりますが、その前に開封してニヤニヤしながら一杯……というのは1/4 冗談。まずは細かく各部をチェックします。特に変更点(要望に対して何を変えてきたか)を重点的に確認して、テストをする前になぜこう変更したのか設計者に聞き、理解しておくと検証精度がよくなります。

フィールドテストは華々しいもののように思うかもしれませんが、実際はかなり地味というかアングラーとしては厳しく辛い釣りをすることになります。何が厳しいのかというと、ひたすら時期や場所が合っていなくてもプロトを使い続けなければならないということです。

メリットとデメリットを確認するために時間をかけて使っていきますが、これがツラいんです。いい時期にいい釣りだけをしていたら膨大なテスト時間がかかってしまうため、ロッド開発期間に入ると魚がいなくても開発ロッドに合わせたフィールドやルアー選択を優先することになります。つまり、釣りに行くのに魚が釣れない時間が増えていくのです。それでも自分の求めていたアイテムを作れるという魅力があるので、頑張ってテストを繰り返していきます。

フィールドテストは地道な釣行の積み重ね。投げ倒して初めてわかることもあるため、釣れないとわかっていても釣り場へ足を運ぶ

フィールドテストは地道な釣行の積み重ね。投げ倒して初めてわかることもあるため、釣れないとわかっていても釣り場へ足を運ぶ

 

開発で心掛けていることを教えてください。

メーカーへ正しく過不足なく要望を伝えることです

まず、ファーストプロトで100 点になることはありません。最初から100 点ならば、私が開発テストを行なう意味がないので。その後どうやって「自分がほしい物にしていくか」が肝心なのですが、まずは私と設計の間において、意思疎通が正しく行なわれる必要があり、メーカーの意図も理解する必要がでてきます。たとえばテスターが「もっと強く」とか「軟らかく」という要望を持ったとして、果たして設計者側がそれを設計図という数値に変換できるかというと、ニュアンスだけではかなり難しいのです。私の場合はできる限り部位と数字を明確に伝えることを意識します。

ツララはロッドの完成形と納期に対してメーカーとしての要望を入れてくることはほぼありません。言い換えれば、出来上がった製品に対して言い訳ができず、良作になるか駄作になるかはテスター次第ということになります。もちろんメーカーとしてできるできないがあるのは当然なので、その範囲の中で最大限の提案を行ない、最終的に満足をする製品に導くことが開発プロセスを担う一人としての責務だと考えています。

 

 

ロッド開発していく中で苦労したことは何ですか?

何より設計者との意思疎通です

最初は、とにかく伝わらないというもどかしさがありました。設計者と私のフィールドの違いや釣りの経験値の違いにより、お互いに理解したはずなのに、手にしたものが全然違うということが多くあったんです。当時は高弾性で軽量・高感度ロッドが最先端と言われている時代で、ハーモニクスブランクのしなやかさをどうやって生かしていくかがなかなか理解してもらえず、ブランクメーカーの工場まで赴いて私、ブランクメーカー、ツララの三者で打ち合わせをしたこともありました。

ツララのファーストプロトは、いつも強すぎるものから始まるのは今も昔も変わっていません。いまだに一本目は笑うことから始まります。(笑)ツララと聞いて多くの人は、コアなストロングロッドというブランドイメージをお持ちかもしれませんが、ストロングを売りにしているのではなく、コアなアングラーが妥協なく作り上げたロッドを集めてみたらストロングなものが多かった、だと思っています。私が関わったスタッカートの89、91、110、コローナ89はブランドイメージほどストロングではないので気になる方はぜひ触ってみてください。

ツララのファーストプロトがいつもストロングなのはご愛敬。ここから設計者と折衝して開発を進めていく

ツララのファーストプロトがいつもストロングなのはご愛敬。ここから設計者と折衝して開発を進めていく

 

シーバス釣りにおいてよいロッドとは、どんなものだと考えていますか?

キャストで疲れずに安定した飛距離が出せるロッドは理想のひとつです

シーバス釣りの特徴に、一度ポイントへ入ったらアングラーの移動が少なく、巻きの釣りが主体であること、つまりロングキャストとリトリーブが釣行時間の多くを占めるということが挙げられます。特にキャストは疲労の原因につながると考えていて、フルキャストを強いられないロッドが私の理想です。

たとえば、干潮周りのウエーディング4 時間において、果たして渾身のフルキャストを何回するでしょうか。ボイルが見えた時くらいでおそらく10回もしません。フルキャストだとよく飛ぶけど9割の力で投げると途端に飛ばなくなるロッドよりもフルキャストでも8割でも安定してある程度の飛距離を出してくれるロッドが好みです。言い換えれば「キャスト時のリリースポイントを広くする曲がりのピーク位置と反発力」となります。この方向性を目指すブランクはキャスト以外にも①ラインがたるみにくく、フックへ負担がかかりにくい、②魚が暴れにくい、③壊れにくいといった3 つのメリットがあります。特に③のメリットは安心して使えるロッドになるので重要だと考えています。遠距離でのフッキングや感度低下といったデメリットもありますが、今はフックがよくなったことやストローガイドセッティングのおかげで弱点をかなりカバーできるようになりました。

ツララのコンセプトに「旅」は切り離せない。シーバスロッドも国内各地へ遠征テストを繰り返して多くのフィールドでも対応できるように開発していく

ツララのコンセプトに「旅」は切り離せない。シーバスロッドも国内各地へ遠征テストを繰り返して多くのフィールドでも対応できるように開発していく

 

正直なところ、出来上がった製品に満足していますか?

誤解を恐れずに言うと、100%満足したロッドはありません

二つ理由があります。ひとつは環境の変化です。ひとつのプロダクトに開発期間で数年かけますが、その間にもフィールドやタックルの変化が常に起きています。特にルアーやライン、フックといったロッド以外のアイテムは進化が速く、量産化される頃には次のやりたいことが出てきています。

もうひとつは、私の釣りも日々アップデートされていくから。開発を続けていく中で自身の釣りが洗練されて当初よりも目標レベルが高くなることは多いです。ただ、これは際限がないことなので理想を追い続けてしまうとロッドの完成はいつまでもしません。開発コンセプトにおける「5W1H の方向性が当初からブレないこと」を意識して目標を再設定し、到達出来たら完成とすることにしています。このロッドが完璧とか100%の満足とか、言えたらカッコいいと思うのですが、おそらく一生100%満足するロッドはできないだろうなと思っています。

ツララのロッド作りはテスターに権限がかなり委ねられているため、監修したテスターの色が濃く出た特徴的なロッドが多い。万人受けしにくいかもしれないが、求めていた理想の一本に出会えるかもしれない

ツララのロッド作りはテスターに権限がかなり委ねられているため、監修したテスターの色が濃く出た特徴的なロッドが多い。万人受けしにくいかもしれないが、求めていた理想の一本に出会えるかもしれない

 

工藤さんのロッド選択
最も使用頻度が高いシーバスロッドといえば9フィート前後のMLでルアーウエイトは20gが適正範囲内のものです。ツララならスタッカート91 で、一般河川のオカッパリからウエーディングまでシーバス釣りの大半をカバーできます。ただし、91 で絶対にカバーできないフィールドが2つあります。ひとつは磯の釣りでスタッカート110 のようなロングロッドが必須。もうひとつが港湾や小場所での釣りです。小型バイブレーションなどの軽量ルアーをショートレンジで繊細に扱うには、やはり短めがよく、スタッカート76 が快適です。まずはこの3 本だと思います。その後に、3本の中間を埋めていくものや特殊な専用ロッドを用意していくといいでしょう。たとえばサーフでは10 フィート前後のMLクラスがほしくなると思います。ほかにも落ちアユやコノシロのようにルアーが限定される場合なら、パワーのあるスタッカート810 やコローナ89 を選びます。

 

 

 

※このページは『つり人2024年4月号』を再編集したものです。

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