5月25日より好評発売中の『つり人』7月号にて、東京大学の山室真澄教授による連載が始まります。島根県・宍道湖の魚類の減少にネオニコチノイド系殺虫剤という農薬がかかわっていることを明らかにした研究者が水辺を襲う危機を解説します。
東京大学・山室真澄教授による令和版・沈黙の春
5月25日より好評発売中の『つり人』7月号にて、東京大学の山室真澄教授による連載が始まります。タイトルは「魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う」。
山室先生は島根県・宍道湖の魚類の減少にネオニコチノイド系殺虫剤という農薬がかかわっていることを明らかにした研究者です。
その研究成果は2019年11月、世界で最も権威のある学術誌のひとつ『Science』に掲載され、大きな話題になりました。
◆研究の概要は産業技術総合研究所のリリースで読むことができます
ウナギやワカサギの減少の一因として殺虫剤が浮上(産総研プレスリリース)
釣り人が漠然と不安を感じながらも確証を持てずにいた農薬の影響を、山室先生らのチームが客観的なデータで示してくれたのです。
幼少期から水辺に親しみ、今も現場に出て調査を行なう山室先生
その意味は私たち釣り人だけでなく、日本の自然から恵みを受けているすべての人にとって重大なものと考え、いま日本の水辺で何が起きているのか、研究成果をもとに解説いただく記事の執筆を先生に依頼したところ快諾いただいた次第です。
今回の連載を始めるにあたり、先生と編集部とで「エビデンス」つまり客観的な科学的根拠を大事に伝えていこうということを話し合いました。
この連載でとりあげるネオニコチノイド系農薬は、環境への害が報告されている一方で、農家の皆さんの大切な作物を害虫から守り、私たちの社会に恩恵をもたらしている存在でもあります。そういった存在に真っ向から意見をぶつけるには、客観的なデータと論理が何よりも重要なのです。水中で起きている現象を私たちひとりひとりが理解することによって、釣り人の立場からも建設的な意見を出せるようになるはず……。
ここで、先生の原稿の一部を引用します。
『つり人』2020年7月号p152より……
ネオニコチノイド系殺虫剤は現在、世界の農業分野で最も多く使用されている殺虫剤である。ということは宍道湖で突如としてウナギがとれなくなったようなことが、世界のどこかでこれから起こるかもしれない。あるいは読者の身近な水辺で、既に起こっているのかもしれない。それに気付けるのは誰だろうか?
日本では水田に大量の農薬がまかれるが、そこから繋がっている川や海の状態は、漁師や釣り人くらいしか見ていない。一方で漁師や釣り人は、「最近○○が採れない」「○○年前にはもっと○○がいたのに……」と現場の変化には気づいていても、かつて魚毒性の強い農薬によって魚が瞬時に浮いたような激変でもない限り、その原因が農薬だと判断できない。
ペルム紀末の大量絶滅は、もしその時代に人類がいたとしても止められなかっただろう。けれど今魚たちが直面している危機の原因がネオニコチノイド系殺虫剤であることが確かになれば、人類はきっと、魚を減らさないような殺虫剤を創り出すことができる。人間が作った物が原因であれば、改良するだけのことだから。
本連載最大の目的は、日頃、水際で魚に親しんでいる釣り人の読者に魚が減った原因を見極めるコツを伝え、子や孫の代まで豊かな水辺が日本に残るように日本の農業を変えていく原動力になっていただきたいことにある。そこでまずは農薬、とくにネオニコチノイド系殺虫剤についてざっと解説する。
引用終わり
ネオニコチノイド系殺虫剤は現在、世界の農業分野で最も多く使用されている殺虫剤である。ということは宍道湖で突如としてウナギがとれなくなったようなことが、世界のどこかでこれから起こるかもしれない。あるいは読者の身近な水辺で、既に起こっているのかもしれない。それに気付けるのは誰だろうか?
日本では水田に大量の農薬がまかれるが、そこから繋がっている川や海の状態は、漁師や釣り人くらいしか見ていない。一方で漁師や釣り人は、「最近○○が採れない」「○○年前にはもっと○○がいたのに……」と現場の変化には気づいていても、かつて魚毒性の強い農薬によって魚が瞬時に浮いたような激変でもない限り、その原因が農薬だと判断できない。
ペルム紀末の大量絶滅は、もしその時代に人類がいたとしても止められなかっただろう。けれど今魚たちが直面している危機の原因がネオニコチノイド系殺虫剤であることが確かになれば、人類はきっと、魚を減らさないような殺虫剤を創り出すことができる。人間が作った物が原因であれば、改良するだけのことだから。
本連載最大の目的は、日頃、水際で魚に親しんでいる釣り人の読者に魚が減った原因を見極めるコツを伝え、子や孫の代まで豊かな水辺が日本に残るように日本の農業を変えていく原動力になっていただきたいことにある。そこでまずは農薬、とくにネオニコチノイド系殺虫剤についてざっと解説する。
引用終わり
編集部では、宍道湖で明らかになった事実の表面的な部分だけでなく、この農薬が環境中に放たれたとき水中では何が起きるのか? 生態系のどの部分に影響を与えた結果魚が減少したのか? そして山室先生はどうやって因果関係を証明できたのか? それを読者のみなさんと一緒に学んでいきたいと考えています。
ここまで読んでいただき、「興味はあるけど、なんだか小難しそうだな」と感じた方もいらっしゃるかと思います。
ですが安心してください。
この連載は毎回テーマを決めて、先生の研究内容を理解するための前提となる水中の生態系の基礎知識から解説をしてもらうという構成を予定しています。釣りをするうえでも大いに役立つ生態学の講義を誌上で受けられるという趣向です。
また、文系の編集部メンバーにも理解できるよう、先生には進路の文理が分かれる前、中学3年生でも読める内容の原稿をお願いしています。
今号に掲載中の連載第1回はイントロダクションということで、農薬とネオニコチノイド系殺虫剤について解説をしてもらっています。
第2回以降の内容も決まりつつありますので、ぜひ毎号チェックしてほしいと思います。
よろしくお願いします。
■連載予定内容
※あくまで予定です。予告なく変更となる場合がありますので、ご了承ください。
●第1章 イントロダクション(第1回)
宍道湖のシジミ研究とネオニコチノイド系農薬
●第2章 開講! つり人のための水圏生態学講座(第2~4回)
水中の生態系と食物連鎖、湖の貧栄養化と有機物の循環の解説など
●第3章 宍道湖で起きていたこと(第5~6回)
先生の研究成果の解説と問題提起
研究の解説
・異変に気付いたきっかけ。どんな仮説を立てたのか
・その仮説を証明するためにどんな調査をしたのか
・なぜ魚の個体数減少をネオニコチノイド系殺虫剤の仕業と結論づけられたのか、など
・ほかの地域でも同じことが起きている可能性は? など
●第4章 われわれにできること(第7~8回)
連載を読んでくれた人が自分のフィールドで異変に気付いたとき、自分も行動したいと思った人の手助けをするための内容。客観的なデータの集め方やサンプルの採集方法など
※あくまで予定です。予告なく変更となる場合がありますので、ご了承ください。
●第1章 イントロダクション(第1回)
宍道湖のシジミ研究とネオニコチノイド系農薬
●第2章 開講! つり人のための水圏生態学講座(第2~4回)
水中の生態系と食物連鎖、湖の貧栄養化と有機物の循環の解説など
●第3章 宍道湖で起きていたこと(第5~6回)
先生の研究成果の解説と問題提起
研究の解説
・異変に気付いたきっかけ。どんな仮説を立てたのか
・その仮説を証明するためにどんな調査をしたのか
・なぜ魚の個体数減少をネオニコチノイド系殺虫剤の仕業と結論づけられたのか、など
・ほかの地域でも同じことが起きている可能性は? など
●第4章 われわれにできること(第7~8回)
連載を読んでくれた人が自分のフィールドで異変に気付いたとき、自分も行動したいと思った人の手助けをするための内容。客観的なデータの集め方やサンプルの採集方法など
記事の内容について、もっと詳しく知りたいことやご要望がありましたら担当編集(新井)までメールでご連絡ください。また反論やご意見なども歓迎いたします(反論の場合は根拠となる文献を添えていただけると助かります)。先生にお伝えして今後の内容の参考にさせていただきます。