瀬に付く渓魚は食い気が満々。 勝負は早く自ずと釣りのテンポもアップ。 白泡が無数に走る筋、手前から対岸にどれだけ細かくアプローチができるかが釣果の決め手。 そんな「瀬のアマゴ釣りが大好き」と言う2人のエキスパートが郡上八幡の秀渓を遊んだ。
おすすめ時期:解禁~5月
つり人編集部=写真と文
アユ釣り競技会で史上最強との呼び声も高い小澤剛さん。5 ~ 7 号の軽量ガン玉を使った技で美形アマゴをキャッチ
瀬に付く渓魚は食い気が満々。勝負は早く自ずと釣りのテンポもアップ。
白泡が無数に走る筋、手前から対岸にどれだけ細かくアプローチができるかが釣果の決め手。
そんな「瀬のアマゴ釣りが大好き」と言う2人のエキスパートが郡上八幡の秀渓を遊んだ。
この記事は『つり人』2016年3月号に掲載したものを再編集しています。
アユ釣りエキスパートの渓流釣り
小澤剛さんは数多のアユ釣り競技会で何度も頂点に立ってきた名手である。アユ解禁前の若葉が芽吹く季節には渓に分け入りアマゴを追う。
「谷の釣りほど癒される釣りはありません。森の空気、澄んだ水、きれいなアマゴ。人気のない山間に立つと無心になれますね」
ホームグラウンドは奥三河の小河川。愛知県豊田市を流れ三河湾に注ぐ矢作川の源流部やその支流をメインにサオをだす。近年は長良川本流や支流にも足を運び、4月下旬に訪れたのは郡上八幡だ。
「アユ釣りの解禁前に一緒にアマゴを釣りましょうよ」
そう小澤さんを誘ったのは古田徹哉さん。渓流釣りファンにおなじみの「ゴム張ガン玉」を生み出したヤマワ産業の代表取締役社長である。岐阜県多治見市に工場を構え、アユ・渓流釣り用品をはじめ、カワハギやフグ釣りに便利な沖釣り用品も手掛ける。根っからの釣り人でありアユ釣り競技会にも積極的に参戦。トーナメンターとの交流も多く、小澤さんもそのひとりだ。
古田さんと小澤さんは気心知れた釣友だ。2015年のアユ解禁前の一時、若葉があふれる渓流でサオを並べた
ふたりが訪れた亀尾島川は長良川流域の中でも「最後の清流」と呼ばれる。稚魚放流が主体で自然産卵したアマゴも多い。ヒレの張った美形魚を求めて訪れる渓流ファンは少なくない。なにしろここは渓流王国の岐阜県だ。2人の入った相生地区は誰もがサオをだしやすい頭上の開けた激戦区。はたしてどのような釣りを展開するのか。
長良川に注ぐ亀尾島川は、この流域では最後の清流と呼ばれる。郡上八幡の静かな町の対岸にありながら川沿いの林道は険しく、しかも途中で分断されている。上流部は内ヶ谷と呼ばれ長良川との出合からずっとさかのぼろうとするならヒルの多い林道の歩きを強いられる。そんな渓だけに自然産卵のアマゴも多い。こんな惚れ惚れとする流れに、ダムの本体着工が粛々と進められている。全くもって残念でならない
軽量ガン玉を操る
快晴のもと水は青々と光り若葉がまぶしいほどに輝いていた。
「流れを見ているだけでテンションが上がります(笑)」
と目を細める小澤さんの釣り方にまずは注目していこう。小澤さんは「谷の釣りが好き」と言う。5・4mほどのサオで探れる細流を好むのだが、特徴は7~5号の軽いガン玉を用いること。ねらうのは主に腰から膝くらいまでの水深の瀬。エサはキンパクである。
この日使ったエサはキンパクとオニチョロ。郡上周辺では釣具店で売られている
「重いオモリを使うと根掛かりしやすくなりますよね。僕がよくやる奥三河の釣り場は水量が少なく、小さなポイントが多いのです。膝くらいの水深やもっと浅い流れも釣ります。根掛かりすれば当然ポイントが潰れますから、ガン玉を軽くするのです」
軽いオモリは仕掛けを沈めることも飛ばすことも容易ではない。小澤さんは円を描くようにサオを回して反発力を高め、その勢いで振り込む。仕掛けを打ち込むのはオモリを沈めやすい緩流帯やヨレであり、立ち位置の上流もしくは正面までを探る。軽い仕掛けは下流に送り込むほど浮き上がりやすいからだ。
「目印に水分を含ませるのがキモです。微妙な重さでもイトの張り加減を調節しやすく仕掛けを送り込みやすくなります」
小澤さんは振り込んだ仕掛けを流れに合わせて穂先でリードする。穂先の位置は仕掛けよりも下流にあり、流れに合わせた速度で引っ張っていくようなイメージだ。
サオを伸ばして2、3投でヒレピンアマゴが舞い躍る。小型ではあるものの、次々に魚を引き出す手際は鮮やかで素早い。
フックホルダーや発泡糸巻きが大容量で収納可能な『ミニ仕掛バインダー』。淀みのない手返しは仕掛けや小物の整理整頓から
小澤さんが仕掛けの携帯に重宝している『カンガルーキャップ』。仕掛けをセットしたまま移動ができ、小場所を点々と探る河川で最適のアイテム
コンパクトで切れ味の鋭い『タイニーシザー』。先丸刃なので安全である
重要なのは底波をとらえること
一方の古田さんは「瀬をテンポよく探る釣りが大好きです」と言う。淵などの大場所で粘る釣りはほとんどしない。
「表層の流れよりもゆっくりと目印が流れるように操作します。底波にしっかりとエサを入れるのが大切です」
古田さんは立ち位置よりやや下流にポイントを定める。水中イトは0・2号。ガン玉は3号が主体。浅場をねらうためハリまでの距離は15㎝と短い。サオは操作性がよい先調子でかつブレにくい適度に張りのある穂先が好みという。
イトが傷つきにくい『ゴム張ガン玉』は渓流釣りファンに欠かせないアイテムのひとつといえる。古田さんは3 号をメインに使用
古田さんは変化に富んだ川底の溝に正確にエサを送り込んだ
「釣り残しのないように細かく筋を探っていきます。先行者がいても釣果を出せますから、早朝から釣りをすることはほとんどありません」
そう言う古田さんは手前から対岸まで瀬の中でも魚が居着きやすそうな深みや溝をねらってポンポンと仕掛けを打つ。振り込みから仕掛けを送り込む一連の所作に淀みはない。
濃い水色の深みに入った目印はじんわりと水面上を滑る。それが不自然に止まったり、震えたりする時に軽くサオを立てれば小気味よい疾走が伝わる。やがて朱点鮮やかな妖精が抜き上げられ、スパッとタモに収まるのだ。
ヌルの付いた手をパッと拭けるタオルは背中に装着すると立ち込み時も濡れにくい。古田さんが愛用するのは強力磁石で脱着自在な『タオルリリーサー』。これまた渓流ファンにぴったりの便利グッズといえる
水色の異なる2つの長良川支流
2人は一定の間隔を開けて交互に先行しながら釣り上がった。アベレージは5寸ほどだが、相当数のアマゴを釣っている。やがて小澤さんの前に車一台分くらいの流心が現われた。その落ち込みを目がけて5号ガン玉を付けた仕掛けを振り込む。目印にグッと重みが乗った。この違和感を逃さずに鋭くサオを起こせば、グリンと身をよじらせてローリングするアマゴ独特の引き。8寸ほどの良型魚がタモの中に吸い込まれた。
豊富なエサをたらふく食べて肉付きのよくなったアマゴ
「アユは数が出ないとオトリが回らず釣りが成立しません。アマゴは違います。きれいな魚が1尾釣れただけで満足できます」
小澤さんがその魚体をじっくりと愛でていると「いいアマゴですね」と古田さんの目尻も下がる。
2人は風薫る水辺でのんびりと昼食を取り「今度は吉田川を釣ろう」と移動した。
「亀尾島川は水が青白く見えるのですが、吉田川の水はエメラルドグリーンをしています。どちらも立っているだけで気持ちのよい川ですね(笑)」
古田さんは再び瀬を前にしてサオを振った。落ち込みの白泡が消える辺りにほの暗い深みがあった。そこに仕掛けが差しかかると目印に生命反応が乗る。すかさず穂先を跳ね上げると、まばゆい魚体を妖艶にくねらせたアマゴを引き寄せた。
水面に躍り出た8 寸クラスに笑みがこぼれる小澤さん
青い斑紋にちりばめられた鮮やかな朱点。これぞ渓の妖精
袖をまくっても清々しいほどに気温は高くなっていた。各所で羽虫が飛び交って、谷は春を謳歌する生き物の息吹で満ちている。
「5月になるとポイントは変わります。カガミになった瀬のヒラキやトロで表層に落ちてくる虫を意識するアマゴも多くなるんです。こんな魚をねらう時は7号くらいのガン玉で表層付近を流します。下の目印を水面下に入れてアタリを取るのですが、目印をヒュンと消し込む、たまらないアタリが出るんですよ」
と小澤さん。アマゴやアユをねらう職漁師が腕を競った郡上八幡の地。郡上竿や郡上ビクといった独特の道具が発達したのも、職漁師の生活を支える川魚が豊富だったことの証である。春はアマゴ、夏はアユと、川を愛するエキスパートを夢中にさせる谷の幕明けまであと幾月の辛抱だ。
風薫る谷の緊張のやり取り。水面を割ったアマゴの魚体はハッとするほどまばゆかった
新緑に染まった吉田川で昼下がりの釣りを楽しんだ
モノ作りをこよなく愛する古田さんは、タモは自作郡上ビクをカスタムしている
郡上の老舗釣具店『田中釣具店』(℡0575・65・2540)。キンパクやヒラタなどの川虫が自動販売機でも売られている
●解禁期間、入漁料などの問合せ先 郡上漁協(℡ 05756・5・2562)
●交通 東海北陸自動車道・郡上八幡IC を降りて左折。亀尾島川にはR156 を左折し、中野の交差点を右折。亀尾島トンネルを抜けて県道315 号でアクセス。吉田川にはR156 からR256 に入り上流に遡ることができる
2017/1/25