6月上旬、解禁から1週間の長良川中央漁協管内。このエリアを象徴する釣り場のひとつ「鮎之瀬」に小沢聡さんの姿はあった。
混雑河川でのポイントの見極めとオトリの操作
つり人編集部◎写真と文
アユ釣り競技会で「兄さん」の愛称で親しまれるエキスパート・小沢聡さんが、解禁から時間の経った場荒れ河川で釣果アップを導く思考法を解説。瀬肩から釣り始めるわけ
6月上旬、解禁から1週間の長良川中央漁協管内。このエリアを象徴する釣り場のひとつ「鮎之瀬」に小沢聡さんの姿はあった。取材のお題は「場荒れした川で釣果を伸ばすキモ」である。
解禁当初の天然は小型でオトリにはなりにくい。放流魚は解禁1週間を経てだいぶ抜かれた状況である。それでも鮎之瀬は瀬肩から瀬尻まで200mはあろう広大な瀬だ。探り方しだいでどこかにアユは付いている。釣り人は小沢さんのほかに3人のみ。はたしてどんな所から釣り始めるか。
鮎之瀬は200m以上もある長大な瀬だ。魚の密度が濃い瀬肩周りから探るのがセオリーである
「瀬肩とか瀬落ち、まずはアユがストックされやすい淵近くのハミ跡を見ます。そこにハミ跡があれば瀬にも魚は入っています。100m以上の長い瀬であれば、瀬肩と瀬落ちの付近ほど魚は多く、中段ほど魚が薄くなる傾向があります。あとは浅場か深場か。どちらに魚が多いのかを探りながら見極めます」
そう言って小沢さんは瀬肩の波立ちが始まる付近に立って仕掛けをセットした。
アユが集まりやすい場所
鮎之瀬は小沢さんの勝手知ったるポイントだが、始めて訪れた河川ではどんな場所に着目するのか。
●中州の周り。
●落差の大きな段々瀬の上下。
大きく川を見た時にこの2ヵ所はシーズンを通じて釣果の出やすい釣り場という。
中州は巨大な馬の背であり、周辺は当然、本流と分流に分かれ、瀬肩、瀬落ち、トロ場、チャラ瀬と流れが変化に富む。野アユも環境のよい場所を求めて、自然と中州周りに集まりやすい。
落差の大きな段々瀬の上下は、地形がアユの行き来をさえぎる堰堤のような役割をする。段々瀬の始まる直前の瀬肩と段々瀬が落ち込んだ瀬落ちは行く手を阻まれたアユが集まりやすく、落差が大きいほどその上下はアユの密度が高くなる傾向がある。
川に立った所でさらにポイントを絞り込むわけだが、たとえば鮎之瀬でも広大な瀬の中にチャラ瀬、平瀬、早瀬と場所によって水深や流速がさまざまだ。その中で「シーズンを通じて一番安定して釣れるのは、水面に白泡が立つほどの大きな変化が出ている筋です。こんな場所は川底に変化があり、大きめの底石が入っている証拠です。活性の高い野アユが集まり、常に平均点以上の成績をあげることのできる友釣りの1級ポイントになります」と解説する。
瀬のアユは追い気が強くて簡単に掛かるイメージがある。よって釣り荒れしやすいと思われがちだが、流れの強い水深のある瀬ではオトリをきっちり川底に入れてやらないと掛からない。そのため意外に釣り残しが多く、連日釣り人が入った場所でもポロポロと数を稼げる。
波立ち変化の大きな筋で、特に魚が残りやすいのは腿から胸くらいの水深のスポット。浅場と深場どちらで反応がよいのかを見る。増水時は浅場にアユが多くなることも覚えておくとよい
サオとイトの角度の思考法
オトリをセットした小沢さんは次頁の図のように下流に送り出し、ねらいの筋または石の少し手前に沈め込む。サオ先を目線より寝かせるようにして川底にオトリを馴染ませる。流れに対するサオ角度はこう語る。
「単行本では上ザオ45度の構えが基本と書いていますが、今シーズン積極的に試みているのがサオとイトを90度にしてポイント周辺でオトリをウロウロさせる操作です」
上ザオ45度の構えはオトリをコントロールしやすく流れの中に安定させやすい。一方で下ザオ気味(流れに対して90度近く)に構え、サオとイトが広角になるほどオトリの動きは不安定になる。よく動き回る反面、流れが強いポイントではオトリが浮かされやすく、少し弱ったオトリでは下流へ流されてしまう。
サオとイトの角度が90度の広角の構え。このサオ角度はオトリがウロウロと不安定な動きをしやすく「待ち」を入れる時も動きやすいためアピール度が高い
上ザオにしてオトリとの距離を縮めるほどオトリの安定度は高まる。ねらいの筋をタイトにきっちりと探りたい場合は上ザオ角度(45度前後)を基本にする
「広角の状態では穂先を軽く利かせただけの小さなテンションでもオトリがよく動いてくれます。これを利用して、オトリの動きが悪く休みがちな時には少し遠めにオトリを送り込み、広角気味に構え、イトを軽く張ってやるとウロウロと動かすことができます。サオとイトの角度が90度の状態は一番サオのリーチを活かした釣りができるのですが、今年試したいことのひとつが7~8mの短ザオでの広角操作。オトリは遠い位置にあるほど、操作性は低くなります。それが短ザオなら、ある程度近くでオトリを動かすことができるため操作性を損なわず、広角ならではのオトリの動きを演出できます」
小沢さんが今回選んだサオはシマノ「スペシャル小太刀80-85 H2.75」。この日は風速10m近い強風が吹いていた。シャキッとした先調子の短ザオでないと操作が難しかったのである。膝くらいの水深の波立つ筋にオトリを通すと、いきなりガツーンとアタリが出た。
オトリを替えると、今度は同じ筋を上流に足を動かし探っていく。サオ角は上ザオ45度のオトリが安定する構えである。オトリを沈ませにくい強い流れ、狭いピンポイントをねらって釣るとき、流れに負けて流されてしまうオトリを川底に安定させたいときは上ザオにする。長良川の底石は大きく、上流部ほど大石になり筋がはっきりする。こうなると上ザオ45度でねらいの筋をタイトに探ったほうが効率的だ。
小沢さんの愛用アイテム この日用意したのはシマノ「スペシャル小太刀ZYH2.75 80-85」と「PROSELECT VS 85NP」
愛用バリはオーナー「忍」と「秀尖」の6.5号4本イカリ
仕掛けは水中イトが「メタゲーム」0.05号。仕掛けをかなり寝かせて釣るため、その長さは約6m。収納は小型のジップロックに入れておく
下付けイトなしのワンピースのハナカン回りを愛用
愛用バリはオーナー「忍」と「秀尖」の6.5号4本イカリ
仕掛けは水中イトが「メタゲーム」0.05号。仕掛けをかなり寝かせて釣るため、その長さは約6m。収納は小型のジップロックに入れておく
下付けイトなしのワンピースのハナカン回りを愛用
サオ抜けを意識した足取り
小沢さんの足取りは図のように一つの筋で反応がなければ、前に出る。アタリが出るまで前に沖に探って反応がなければサオ1本分下がって、また手前から沖に探り、ジグザグに釣り下っていく。今回のポイントは瀬のやや右岸寄りに深くて強い流心が走っている。浅場の筋から深い筋へオトリを通していく格好になる。
なお混雑する激戦区の河川では常にサオ抜けを意識し、人の立ち位置とねらいをずらして探ることが重要という。多くは人の立つ浅場を釣る。
「アユは石と生きた流れがあれば、驚くほど大胆に浅い場所に出てアカを食み、ナワバリを持ちます。くるぶしから向こうずね程度の水深でもシャバシャバした泡立ちがあり、石がきれいに見えたら、とりあえずオトリを入れてみる癖を付けましょう。ヘチの浅場にいるアユは活性の高い個体が多いです。ちょっとオトリを入れてみればいるかいないか、掛かるか掛からないかの答えはすぐに出ます。粘る必要はありません。きっちりと追い星が出ている野アユがポンポンと掛かれば、その周りのちょっとしたシャバシャバした泡立ちすべてがサオ抜けのお宝ポイントかもしれません」
オトリを動かす注意点
では、どのようにオトリを通すのか。「根本的にオトリは常に上流へ上流へと動いているのが一番よいです。待つとか止めるなどが効果的なこともありますが、それは時に混ぜることも有効といった程度です。大基本はオトリは常に上へ動かす。迷った時やスランプになった時もまずはこの基本に立ち返ります」
泳がせ釣りでは釣れたての元気なオトリが自力で上流にゆっくりジワジワと泳ぐ時が最高の状態といわれる。しかしそれはオトリが元気なうちの数分の話で、あまり長くは続かない。オトリが少しでも弱くなれば、泳ぎが悪くなり、動きは止まる。そんなとき「そのまま元気になるのを待つ」のではなく、釣り人が積極的に、オトリの尾を振らせて「ジワジワと上流に動いている状態」をサオ操作で作ってやる。
「ここが釣り人の腕のみせどころです。オトリが元気に自力で泳ぐ動きと、釣り人がサオで強制的に動かす動きを比べれば、当然後者は不自然に見えます。それでも川底でジッと止まっているオトリよりも野アユが掛かる確率は断然高いです」
しかし強引に引けばオトリは浮き上がってしまうし、動きがあまりにも不自然になってしまえば野アユは相手をしてくれない。弱らせないように、浮かないように、できるだけ不自然にならないように動かすことが大切なのである。
「待ち」といってもオトリを止めることではない。ポイントをウロウロと動かすことが重要である。そのためには前述のサオとイトの角度を意識することだ。サオとイトの角度を広角にすればオトリは不安定になり動きやすくなる。また上流に引き上げるには上ザオ45度で引き上げていくと、不自然になりにくい安定した引き釣りが可能になるのだ。
目印とオトリの動き
小沢さんのハナカン回りはノーマル。急流ではオモリを多用する。オトリが浮かないように、川底に馴染ませることがオトリを動かす上での大前提だが、さらにどのように操作を加えているのか。当然イトの張り加減が重要になる。
小沢さんは過去に、ホームグラウンドの巴川が超渇水になったシーズンに、釣りをしながらオトリの動きと目印の動きを同時に観察する経験をした。その時に分かったことが単行本でも語られている。目安としては目印の動きが水中のオトリの動きとイメージする。
●イトを張っているのに目印が動かなければ、オトリは川底でジッと寝ているか根掛かっている。
●逆に目印が大きくブレていると、オトリは浮き上がって流されそうになっている状態。イトの張りを弱めるか、オトリをそこから強引に引き上げるか、ポイントを打ち直すかしてオトリの位置を変えて態勢を整えます。手感はオトリの重みと動きを軽く手に感じられるまでイトを張る。
イトの張り加減は非常に感覚的である。そこで小沢さんは感覚をイメージとしてメモに残している。「オトリを1号オモリと考え、それを川底に着けず浮かさずの状態をキープするようなイメージ」「根掛かりしていないことが分かる最小のイトの張り加減」「オトリの鼻を軽く持ち上げる感覚を持続させる」というぐあいだ。
手尻の調整 オトリの操作性を高めるうえで手尻の調整はとても重要。小沢さんの基本の手尻はサオ尻から+10cmの位置にハナカンが来るくらい。良型が多く、サオのしなり幅が大きくなる時はサオ尻とぴったり合わせるか、マイナス10cmほど入れ込んで取り込みをしやすくする
オモリを積極的に活用する
小沢さんは左岸の浅場から右岸の深みを探りながらおよそ2時間で12尾を掛けていた。それから瀬の中段のガタガタした流れを見たが、石色が悪い。オトリを通しても反応が悪かったため、オトリを引き舟に戻し、さらに川を下って瀬の中でも落差のある右岸の深み(腰くらいの水深の瀬)を前にした。ここではオモリ1号と0.5号の2つをオトリの上に噛ませた。そして最も流れが絞り込まれる右岸寄りの流心に向かって、手前から沖に徐々に前に探っていく。
オモリを打つ位置 オモリは1号を標準に使うことが多い。オトリとの距離感は1号で10㎝、1.5~2号で15~20㎝。小さいオモリほどオトリの近くに打つ。オモリが苦手な人は1号程度の重さから慣れる。そして付けたら1日外さないこと
オモリはオトリを沈めるためのアイテム。沈みが悪ければ2個付けもする。この日は1号オモリの下に0.5号のオモリを付けていた。距離を置いて取ることで重さが分散し、石にハマるのを防止する
オモリはオトリを沈めるためのアイテム。沈みが悪ければ2個付けもする。この日は1号オモリの下に0.5号のオモリを付けていた。距離を置いて取ることで重さが分散し、石にハマるのを防止する
「オモリは怖がらないで使うことです。サオ操作の注意点はイトを絶対に緩めないことです。オモリの重さをサオ先で支えるように軽くイトを張り、ときどきオトリの動きが手にクンクンと伝わってくればOKです。根掛かり時やエビのトラブルを少なくするなら下付けイトなしのワンピース仕掛けがおすすめです」
すると流心の深みよりはカケアガリの落ち込みにある手前の緩い瀬のほうが反応は多く、しばし入れ掛かりになる場面もあり、強風が吹きすさぶ中およそ6時間の釣りで30尾を揃えた。
この日は深みの筋よりも水深が膝くらい浅瀬のほうが好反応を示した
最後に急流での引き抜きについて。数年前までは「野アユが掛かったら疾走を止めるようにサオを寝かせたまま上流側に絞り、しばらくためてからサオを立てる」という方法が教科書には多かったが、小沢さんは近年「野アユが掛かったら素早くサオを立て、一気に水面までオトリを浮かせたほうがサオはのされにくく、早く取り込むことが可能で身切れのバラシも減ることが分かった」と言う。この日の取り込みも掛かったらほぼ瞬間的にサオを立てて絞り込み、一気に浮かせて抜き上げた。
強風のタフコンディションのなか、6時間で30尾。場荒れした状況でこの釣果は凄い
アユが掛かったところで、一気に浮かせに掛かるのが最近の小沢さんの取り込み。中層にアユを置かないほうがのされることも少なく、キャッチ率が上がっているそうだ
この記事は『つり人』2017年7月号でも読むことができます。
2019/8/8