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生態調査から見えてきた尺イワナの居場所と釣り方

尺イワナはふつうの川にもいる。釣り人が知らないイワナのヒミツ

写真・文◎高木優也
01-iwanasuichu 調査で捕獲された50㎝超の大イワナ

結局、大ものは特別な釣り場でなければ釣れないのでは?
そんな釣り人の思い込みが、ある意味で覆るような調査がある。釣り好きが高じて、渓流魚の生態を実地で調べてきた高木優也さん。
川にいる魚のうち、どれだけの数が実際に釣れるものなのか?
イワナとヤマメで異なる、釣られやすさの違いとは?
思わず目からウロコのデータの数々と、「大イワナ」がこれからも釣れる環境を維持するための提言。


身近な渓流に大イワナはいるの?


 初めに、本稿でご紹介する一連の調査結果は、水産庁「放流用種苗育成手法開発事業(H25~29)」の一部として実施したものだ。詳細については、そちらの報告書をご覧いただきたいが、今回は一般の遊漁者の皆さんにも広く知見を共有していただくため、その要点をなるべく分かりやすくご紹介したい。

 ダム湖や大河川の本流ならともかく、渓流域で大イワナが釣れることはめったにない。しかし、秋の禁漁期になると大イワナの産卵が見られることもある。実際のところ、普通の渓流に大イワナはいるのだろうか?

 そこで、秋に魚が濃くなる堰堤や滝の下流で、電気ショッカー(弱い電気で魚を麻痺させる)を使ってイワナを捕まえてみた。その結果、50㎝を超えるような大イワナも捕まった(図1)。つまり、禁漁区でもなく、ダムや大河川の本流からソ上してくるような場所でもない、ごく普通の渓流でも大イワナはいたのである。

zu-1-atari図1

 もう少し詳しく説明すると、栃木県内の27ヵ所で調査したころ、1歳魚以上のイワナ359尾のうち、30㎝を超えるイワナは9尾だった。平均的にみると、栃木県の渓流漁場では「尺イワナは約3%」ということになる。また、その9割方がオスのイワナであった。たった9尾ではたまたまかもしれないので、数が多い25㎝を超えるサイズで見ても、約70%がオスであった。

09-ooiwana1 10-ooiwana2 調査中に採捕されたオスの大イワナ。アゴは特徴的な発達を遂げ、体色も黒味を帯びて迫力がある

11-ooiwana3 このサイズでは珍しい大きなメスもいた。他のサイズの魚も大事だが、特にこうした個体をしっかりリリースしていくことも将来的な釣り場の維持に繋がる

 これは、メスよりオスのほうが長生きしているためと考えられる。一般的にイワナは、1回産卵しても死なず、何年か産卵に参加するとされている。一方で、養殖池では充分にエサを与えた個体は産卵してもほとんど死なないが、エサを控えた個体は死亡が多い。つまり、栃木県においては、河川のエサ環境が充分ではなく、産卵後に死亡するイワナが比較的多い、さらに、メスはオスよりも卵に栄養を取られるため、死亡が多いのだろう。大きなメスほど、卵の数が多く、卵の質もよいので、大きくなる前に産卵して死んでしまうというのはもったいない。調査していて感じたことは、よい川だと感じる川ほどメスが比較的多く、ダメな川ほどオスが多いということである。やはり、よい川を守ることがイワナを増やすには一番大事である。

大イワナの釣り方を考える。多くの釣り人が気づいていないこと


 普通の渓流でも大イワナがいることは分かった。しかし、魚がいるからといって釣れるとは限らないのが釣りである。そこで、まず私がエサ釣り(サオ:6m、イト:0.2号、ハリ:5号、エサ:ブドウムシ)をしてから、釣られずに残った魚の数を調べるという調査を、栃木県内の39ヵ所でイワナとヤマメを対象にやってみた。

03-keiryu1 04-keiryu2 05-keiryu3 調査対象となったの栃木県内の渓流のようす

 その結果を見てみると、大型ほど釣られやすかった(図2)。

zu-2-atari 図2

これは釣り人の感覚からすると違和感があるかもしれない。しかし、よい場所に定位して、エサをどんどん食べるから大型になっているわけで、1尾1尾を見れば賢く、釣りにくいイワナもいるのだろうが、全体的に見ると大型だからといって賢いわけではないようである。


 つまり、普段の釣りで大イワナがなかなか釣れないのは、そもそも大イワナが少ないためである。したがって、口を使わない魚にどう食わせるかを考えるよりも、大イワナにあたる確率を高めることを考えたほうがよさそうである。たとえば、ルアーで大イワナが釣られることが多いのは、同じ釣り時間で、エサ釣りよりもねらうエリアが広いことが理由の一つかもしれない。

 そうはいっても、もともと数が少ない大イワナをより効率よく釣れる方法はないだろうか。ちなみに、イワナの平均釣獲率(釣れた数/漁場にいた数×100)は3.6%であった。大型ほど釣られやすく、25㎝を超えるサイズでは約10%の釣獲率であったが、それでも10尾中1尾しか釣れていないことになる。一方で、ヤマメの平均釣獲率は9.1%であった。もちろん、漁場や釣り方、釣りの腕前によっても数字は変わってくるだろうが、ごく普通にエサ釣りをしている分にはヤマメのほうが釣られやすかった。

 この理由を考えるために、水中にもぐってイワナ、ヤマメを観察してみた。まず、明らかに違うことはイワナのほうがヤマメよりも見つけにくいということである(図3)。

zu-3-atari図3

02-prof-sensui 潜水観察のようす

 これは、ヤマメは流れの中、しかも中層に定位している個体が多いが、イワナは障害物に隠れていたり、川底に張り付くようにしていたりする個体が多いためと考えられる。

06-iwana-suichu1 07-iwana-suichu2 調査で見た水中のイワナのようす。起伏のある地形の川底にいたり、岩のエグレの下に挟まるように潜んでいたりする個体が多数見られる

08-yamame-suichu ヤマメは流れの中でも開けた場所でよく見つけられた

 イワナの発見率は約30%、逆にいうと、約70%のイワナは潜ってみても、見つからないような場所に隠れているということになる。つまり、ヤマメをねらう時のように流れの中を自然に流すことよりも、ゆっくりと底近くを流したり、障害物周りを積極的にねらったりしたほうが釣果を伸ばせると考えられる。

 その他、釣られやすい条件についても検証してみた。予想どおり、渇水よりは増水のほうが釣られやすく、水温は13.4℃がピークで、それよりも低くても高くても釣られやすさが低下した。そして、これらよりも釣られやすさに大きく影響したのは、川幅と時期であった(図4)。簡単に言うと、季節が進むほど、川幅が狭いほど釣られやすかった。釣り人の感覚からすると、季節が進むほど釣れなくなると感じるかもしれないが、それは個体数が減ってくることや、夏季の高水温の影響のようである。

zu-4-atari図4

リリースしない釣り場はやがて疲弊する。釣り人自身が資源維持を心掛けよう


 ここまでの話をまとめると、大イワナを釣るには、ルアーなど勝負の早い釣り方でラン&ガンするか、秋に産卵ソ上してきたイワナを支流で待ち構え、底近くや障害物周りをねらうのが効率的と言える。ただし、先にも書いたように、大イワナは産卵量が多い。また、強い漁獲圧にさらされ続けた渓流魚の個体群では、遺伝的に警戒心が強い個体が多くなり、小型化するという報告がある(Tsuboi et al. 2016)。つまり、釣れるからといって大イワナばかりを持ち帰ってしまうと、その川のイワナは、だんだん大イワナにならなくなってしまう恐れがある。

 メスの大イワナをリリースすれば、質が高い卵をたくさん産んでくれることが期待できる。オスの大イワナをリリースすれば、大きな個体ほどメスをめぐるオス同士の戦いに勝つので、大イワナの遺伝子をたくさん残してくれることが期待できる。結局、大イワナであればこそ、リリースすることが、釣れる渓流漁場を維持することに繋がるのである。

たかぎ・ゆうや
栃木県職員。長く県の水産試験場に勤務し、渓流魚やアユの生態に関するさまざまな調査にかかわる。自身も無二の釣り好きで、休日にはサオをだす日々。現在は塩谷南那須農業振興事務所に勤務する

この記事は月刊『つり人』2019 年10月号でも読むことができます。

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