夏休み避暑地で家族旅。となれば王道のプランがキャンプだろう。渓魚を釣って野営して、非日常の時間は家族の記憶に深く刻まれる。
夏休み。避暑地で釣りとキャンプの家族旅
つり人編集部=写真と文
奥様の陽子さんや寧々ちゃんと世那くんが「パパ早く釣らせてよ」とヤンヤヤンヤ。うれしいような困ったような表情で歩くのが前川敦史さん。一家は岩手県盛岡市在住夏休み避暑地で家族旅。となれば王道のプランがキャンプだろう。渓魚を釣って野営して、非日常の時間は家族の記憶に深く刻まれる。東北随一の高原地帯、八幡平には子ども連れでも楽にサオをだせる渓流が多く、周辺には気軽に利用できるキャンプ場もあり。というわけで、ここでは八幡平に通じる前川敦史さん一家の団欒のひとコマを紹介!
盛岡から至近の高原・八幡平
奥羽山脈の北部に位置し岩手県と秋田県をまたぐ八幡平。茶臼岳、畚岳、焼山といった標高1000m超の山々が連なるも平坦でなだらかな地形である。東北を代表する高原地は、ブナやオオシラビソの樹林を縫う幾筋もの水脈があり、渓流釣りファンが絶えない。
7月初旬の週末、釣りとキャンプを楽しみに八幡平を訪れたのは盛岡市に住む前川敦史さん一家。愛車のトヨタ「FJクルーザー」を駆って自宅から40分も走れば雄大な岩手山が眼前に迫る。その裾野を流れる松川が今回の目的地のひとつ。
八幡平に多い爽快なワインディングロード。前川さんは2011 年のTOYOTA CUP 鮎トーナメントin 岩手で頂点に立った。優勝商品がトヨタの車というこの大会。贈呈されたトヨタ「ラクティス」を元手に購入した愛車がトヨタ「FJ クルーザー」
「松川の下流部が好きなんです。アクセスしやすく開けた川で子どもと一緒に釣りをしやすいんです。盛岡からとても身近な釣り場ですが、ヤマメやイワナ、ニジマスが気持ちよくサオを曲げてくれます」
そう話す前川さんは38歳。岩手県沿岸部の宮古で生まれ閉伊川をはじめとする近所の渓流群で幼いころからヤマメ釣りを楽しむ。
そんな前川さんが通う松川は北上川の支流である。四十四田ダムから差す大型渓魚の実績も高く、尺上はめずらしくない。一行がやって来たのは赤川の合流点付近。奥様の陽子さんは車を降りて深呼吸。
「寧々が生まれる前までずいぶん釣りをしましたよ。旦那に連れられ渓流でエサ釣りやルアーをやって。最近は子どもの習い事やママさんバレーが忙しくって。久しぶりで楽しみです(笑)」
陽子さんがそんな話をしていると、小学6年生の寧々ちゃんと小学4年生の世那くんが「カエルいるかな?」と水辺を散策。子どもたちは前川さんと度々釣りに来ているそうで、今シーズンも多くの釣果を手にしている。
寧々ちゃんにニジマスがヒット
松川は渇水である。一家が前にしたのは、この日の2週間前に8寸クラスのヤマメ、ニジマスやブラントラウトが連発したポイント。前川さんは0.1号の水中イトを張ったゼロ釣法の道具立てにブドウムシを付ける。
「世那おいで」
とサオを持たせると前川さんが手を取って回し振り。軽い仕掛けをふわりと振り込む。オモリが底波に馴染んですぐ、反応がある。さっそくアワセが決まり軟調子のサオが弧を描いた。が、顔を出したのはウグイ。本命の渓魚ではないが幸先よく魚の引きを楽しめて、世那くんはうれしそう。
強烈なスピードで暴れる魚に駆け足で追いつこうと寧々ちゃんと前川さんも真剣
「ウグイかあ」と落胆する前川さんだが、世那くんにとってはうれしい1尾。魚の手応えを感じ取れただけでも満足なのだ
世那くんの力ではサオを立てても寄せきれない。陽子さんがサポートし前川さんがタモを突き出す
その後もウグイが連発したので2㎞ほど上流にある堰堤付近に車を走らせる。
「いつもなら朝の7時前後が時合です」
時計はまさにその時刻。ザラ瀬から続く流れがテトラ帯にぶつかる深み。エサが流れやすく魚が身を潜めやすいフトコロがある。前川さんは寧々ちゃんを呼んでサポート。底波にエサが馴染むと目印が表層の流れよりもゆっくりと滑った。仕掛けを立てず斜めにして送り込む。表層の流れを受けて膨らむイトのフクロを調整しエサをじっくりと流す。数投するとグッと目印に重みが乗る。サオ尻を下に押し込むように合わせると身をひるがえす魚影が水底で光り、幅広の魚体が猛スピードで走った。間もなくサオが立たずにプツン。切れた仕掛けがヒラヒラと宙を舞う。
「あ~あ……」と落胆する4人。場所を少し休めてから再度ねらおうと、前川さんは長靴を履いた寧々ちゃんと世那くんを背負い順番に川を切る。大型の実績は高いというが、この日はなぜかアワセと同時にすっ飛んでくるような新仔のヤマメばかりが当たる。
再び本命のポイントに入り寧々ちゃんにサオを持たせる。そして数投するとエサが吹き上がる瞬間に押さえ込まれた。合わせるとまたもや魚は流れに乗りぐんぐんと抵抗。その引きに「ニジマスかもしれません」と前川さん。寧々ちゃんも今度こそバラしてなるかと真剣な眼差し。のされないよう魚を追って流れを駆け足で下った。水面を割ったのは、9寸クラスのニジマスだ。
寧々ちゃんが手にしたニジマスにほっと胸をなでおろす前川さん。陽子さんと世那くんもうれしそう
「今まで釣ったなかで一番大きい魚かも!」
と寧々ちゃんの笑顔が弾ける。本命の大ヤマメではないものの陽子さんも世那くんの顔もほっこり。そのころから涼風が吹いてきた。日が高くなると岩手山から吹き下ろす風である。
夏ヤマメは瀬の中で
前川さんはヤマメとイワナを求めていくつかのポイントを巡る。夏のヤマメは水通しのよい瀬や泡の中、もしくはドン深の淵に潜みやすい。トロリと緩い流れはウグイばかりが当たってしまう。
今度は前川さんがテンポよく探っていく。流れがぶつかる石の前で目印が止まり即座にアワセをくれる。と、首を振りローリングする引き。すぐに力尽きたその魚を引き抜くと18㎝クラスのヤマメである。
この日の松川は新仔ヤマメばかりが当たったものの尺上が連発することもある
瀬の流心部、川底が深く掘れているような場所にヤマメは多かった
松川支流の北の又川。こちらは美形イワナがメインの釣り場
北の又川のイワナ。教科書どおりのサオ抜けといえる張り出したボサの下で食ってきた
前川さんの愛用ハリはがまかつ「ゼロヤマメ」4~5号。川虫は小バリ、キヂやブドウムシはサイズアップ
エサはクロカワムシやヒラタを採取するとよりアタリが多くなる
「かわいいですね」
と苦笑い。大型を求めて松川橋、下ノ橋といった実績エリアを探るが反応するのは小型ばかり。美形イワナがいるという支流の北の又川へ移動。ボサの被さるサオが抜けそうなスポットにキヂを打ち込むとイワナが出る。しかし釈然としないサイズ。
「まだやるの~?」
と世那くん。お腹が減ったようすである。前川さんは「もう1ヵ所だけ」と寧々ちゃんがニジマスを釣りあげたエリアに戻る。淵に仕掛けを振り込むとさっそく目印に反応が現われた。合わせると同時に下流にダッシュ。魚はテトラ帯に逃げ込む。水中イトは0・3号。根に擦れると一巻の終わり。思い切って前川さんは川を切りテトラ帯に踏み込む。魚との距離を縮めて一気にタモ入れ。ズシンとくる40㎝クラスの二ジマスが収まった。この1尾に満足し前川さんはサオを納めた。
前川さんが最後に手にしたのはヒレが回復したニジマス。筋肉質で幅がありパワフルに疾走
●管轄漁協:松川淡水漁協(℡0195・76・3803)
●交通:東北自動車道・西根IC よりR282、県道23 号、212 号を経由して松川へ
待ちに待ったキャンプ
八幡平にいくつかあるキャンプ場の中でも松川下流にほど近い「岩手山焼走り国際交流村」は600人を収容できる。岩手県随一の規模を誇るキャンプ地だ。バーベキューコンロに木炭などの炊事用具が常備され、椅子やテーブルの貸出もあり。さらには温泉施設もあるのだからファミリーキャンプをするには素晴らしい場所だ。広々としたテントサイトからは岩手山が一望できる。ロケーションも最高である。
まずは4人でテントを組み立てる。前川さんと世那くんが火を起こし、陽子さんと寧々ちゃんは食事の準備。万事整ったところで腹ペコの4人は肉に野菜にマシュマロと火を囲んでよく食べた。
得意な勉強は? と聞けば「体育」と即答する寧々ちゃんは、なでしこジャパンの活躍を見てから週末は少年サッカーに燃える。世那くんは人気のバレーボール漫画『ハイキュー!!』に影響を受けて少年バレーを習い始めた。陽子さんも世那くんの影響かママさんバレーに熱い。釣りと仕事で忙しい父親に3人はスポーツのこと、面白かった授業のことを話して聞かせ笑顔が絶えない。
爽やかな風が吹く高原の日暮れ。一家団欒のひと時はゆるゆると流れていった。
アライテント「ベーシックドーム」はモスキートネットが付いたファスナーで大きく開くメインエントランスと、その反対側に付けられた積雪期に有効な吹き流し式の入口がある。熱い夏も風が抜け快適にすごすことができる。3 人用5 万6500 円、5 人用6 万6500 円。ファミリーキャンプにも本格的な野営でも安心&快適
寧々ちゃんと陽子さんは手際よくバーベキューの食材準備
野菜や肉が焼き上がるまでは焼マシュマロをつまみ食い。外にいるとお腹がすくのだ
長い夏の夕暮れをのんびりとすごす前川さん一家。西日に照らされた岩手山が雄大だ。こんな景色を愛でながら高原の爽やかな空気を満喫できるキャンプ場が「岩手山焼走り国際交流村」にはある
岩手山焼走り国際交流村キャンプ場
宿泊料金:20 名未満= 1 人300 円
日帰り:20 名未満= 1 人180 円
受付時間:10 ~ 18 時
各種用具貸出:BBQ コンロ= 1100 円、炊事用薪一束
500 円、炊事用木炭(岩手県産)1kg350 円
この記事は『つり人』2016年9月号に掲載したものを再編集しています。
つり with camp スタートガイドMOOK
野に入る楽しさを味わう「釣り」と「キャンプ」を掛け算で楽しむ。自分らしいユニークな体験をするのに、これほどぴったりな野遊びの組み合わせはきっとないはずです。本書は〝キャンプとさまざまなカルチャーの融合〟をめざして活動している注目のユニット、「with camp(ウィズ・キャンプ こいしゆうか、佐久間亮介、猪俣慎吾)」のメンバーが自ら釣りを体験しつつ、数多くの「つりキャプ」を実践しているモデルを取材。白樺が立ち並ぶ小さな湖のあるキャンプ場でイワナ釣りとキャンプとコーヒーを楽しむ、お父さんと男の子の親子で海岸に泊まり磯遊びやカサゴ釣りに挑戦、朝もやの漂う高原のキャンプ場にソロテント泊し、日中は周辺の渓流でテンカラの毛バリ釣りに没頭する。まさに見ているだけで行きたくなるモデルケースが盛りだくさんです。一方で、実際に使われている釣り道具やキャンプ道具も詳しく紹介。覚えておきたい釣り用語や道具のそろえかたのアドバイスも充実しています。この1冊から、もっとキャンプが、もっと釣りが、大好きになること間違いなしです。
渓流のポイントガイドブックの決定版野に入る楽しさを味わう「釣り」と「キャンプ」を掛け算で楽しむ。自分らしいユニークな体験をするのに、これほどぴったりな野遊びの組み合わせはきっとないはずです。本書は〝キャンプとさまざまなカルチャーの融合〟をめざして活動している注目のユニット、「with camp(ウィズ・キャンプ こいしゆうか、佐久間亮介、猪俣慎吾)」のメンバーが自ら釣りを体験しつつ、数多くの「つりキャプ」を実践しているモデルを取材。白樺が立ち並ぶ小さな湖のあるキャンプ場でイワナ釣りとキャンプとコーヒーを楽しむ、お父さんと男の子の親子で海岸に泊まり磯遊びやカサゴ釣りに挑戦、朝もやの漂う高原のキャンプ場にソロテント泊し、日中は周辺の渓流でテンカラの毛バリ釣りに没頭する。まさに見ているだけで行きたくなるモデルケースが盛りだくさんです。一方で、実際に使われている釣り道具やキャンプ道具も詳しく紹介。覚えておきたい釣り用語や道具のそろえかたのアドバイスも充実しています。この1冊から、もっとキャンプが、もっと釣りが、大好きになること間違いなしです。
『「いい川」渓流アマゴ・イワナ釣り場』
kindle版が発売になりました!! ・秩父・奥多摩・丹沢「いい川」渓流ヤマメ・イワナ釣り場
・山梨・静岡「いい川」渓流アマゴ・イワナ釣り場
・栃木・群馬「いい川」渓流ヤマメ・イワナ釣り場
・長野「いい川」渓流ヤマメ・イワナ釣り場
2019/7/16