山間の台地に真新しい住宅が建ち並ぶ兵庫県三田市。大阪・神戸へ至近のベッドタウンとして発展する町には、緑豊かな田園地帯もまだ多く残っており、春の小川を探索すれば、元気な野のタナゴに会える。穏やかな日曜日、父娘水いらずのお散歩フィッシングへ。
里の小川でねらうべきポイントは?
文◎松井伸吾、写真◎編集部
山間の台地に真新しい住宅が建ち並ぶ兵庫県三田市。大阪・神戸へ至近のベッドタウンとして発展する町には、緑豊かな田園地帯もまだ多く残っており、春の小川を探索すれば、元気な野のタナゴに会える。穏やかな日曜日、父娘水いらずのお散歩フィッシングへ。この記事は『つり人』2018年5月号に掲載したものを再編集しています。
親子でタナゴ釣りを始めたきっかけ
私がタナゴ釣りを始めたのは、大阪から今住んでいる兵庫県の三田市に引っ越してきた3年ほど前。三田に流れている武庫川水系にはタナゴがいるらしいと知人から聞き、釣ってみたいと思ったのがきっかけだ。
松井伸吾さんは鳥取の大学を卒業。釣り好きが高じて釣りメーカーに就職。営業や製品開発に長く携わったが、夢を追い求めて独立した。環境のよいこの土地がすっかりお気に入り
もともとアクアリウムが好きで、タナゴにも以前から興味はあった。しかし、それまでタナゴは水族館か熱帯魚店でしか見たことがなく、野生の姿はもちろん目にしたことがなかった。三田にタナゴがいる!? それだけで興味をそそられた。
とはいえ、どうやって釣るのか、どんなところにいるのか全く分からない。タナゴ釣りというと、水路やホソで短いサオを使って足もとを釣るイメージがあったので、まずはそういう場所を捜すことから始めた。ところが、三田にはそういうポイントがないのだ。「えっ、どこにいるの?」という感じ。とりあえず「ココかな?」と思うポイントでサオをだすが、釣れるのはカワムツばかり。タナゴ釣りは手軽で簡単なものとばかり思っていたので、「完全になめていた!」と痛感したのを覚えている。
タナゴを釣るにはどうすればいいか? まずは魚のことを研究しようと、ネットや博物館の資料を読み漁った。あとは地図を広げていろいろな現場、ポイントを廻ってひたすらサオをだし続けた。すると偶然にも、初めてのタナゴが釣れた。
初めての野生のタナゴはアブラボテだったと思う。その時の感動は今も忘れていない。それ以来、どっぷりとタナゴ釣りにハマり、小一時間もあれば近所を探釣するようになった。
里川でのポイントの探し方
三田は六甲山の北側にあり、標高が200~300mほどだ。夏は涼しくちょっとした避暑地になっている。阪神エリアからのアクセスもよく、車だと高速を使って大阪から40~50分、神戸から30~40分だ。
三田牛が有名だが、他にも黒枝豆やイチゴ、原木シイタケ、米、酒米(山田錦)、マツタケ、山の芋などの畜産・農産物に恵まれている。そして、昔ながらの田園風景、雑木林などの里山的な環境が今も多く残っている。三田城の城下町だった三田駅周辺は旧市街と呼ばれ、歴史を感じられる。
一方で、市内にはウッディタウンと呼ばれる、近畿でも最大規模のニュータウンが広がっている。里山、旧市街、ニュータウンが融合した全国でも珍しい町ではないかと思う。また、関西地区のバス釣りで有名な青野ダムもここ三田にある。あとはとにかく大きな公園が多い。週末になると大勢の家族連れがレジャー目的で三田を訪れる。妻と家を捜していて、たまたま三田を訪れた時に、空気はうまいし、特産物&美味いものもたくさんあるし、自然も多いし、公園も多いし、子どもを育てるならもうここしかないなといった感じになり、引っ越しを決めたのだった。
『川釣り仕掛け入門』
「今までにない川釣り仕掛け入門の決定版! 渓流、湖、里川、河口など、変化に富んだフィールドにさまざまな魚が棲む淡水(汽水含む)では、釣法も仕掛けも多彩。入門者にとっては「どんな仕掛けで、どう釣ればいいの?」が最初の壁。本書では、まず基本となるタックル&仕掛けパーツを紹介、仕掛けはパターン別に解説。そのうえで、各魚種別仕掛けマニュアルへと導入していきます。
住宅街から少し足を伸ばすと田園地帯の里川があちこちに「今までにない川釣り仕掛け入門の決定版! 渓流、湖、里川、河口など、変化に富んだフィールドにさまざまな魚が棲む淡水(汽水含む)では、釣法も仕掛けも多彩。入門者にとっては「どんな仕掛けで、どう釣ればいいの?」が最初の壁。本書では、まず基本となるタックル&仕掛けパーツを紹介、仕掛けはパターン別に解説。そのうえで、各魚種別仕掛けマニュアルへと導入していきます。
生息するのは6種類。好む流速が種により違う武庫川水系に生息しているタナゴは、アブラボテ、ヤリタナゴ、カネヒラ、シロヒレタビラ、タイリクバラタナゴ、イチモンジタナゴだ。
アブラボテはここを代表するタナゴで、比較的いろいろな場所で釣ることができる。流れが緩い場所を好むようで、石垣の隙間や大岩の反転流、藻の陰などに多く見られる。サイズもよく、大きいものなら10㎝くらまで釣ったことがある。体色は一見すると地味な茶色だが、よく見ると淡いオリーブグリーンで、オレンジの尻ビレと相まって大変きれいだ。婚姻色は春から初夏に見られ、晩秋まで姿を確認できる比較的釣りやすいタナゴである。
娘の実花ちゃんも釣ったタナゴは凛々しいアブラボテ
ヤリタナゴとカネヒラは、岩や石がゴロゴロしていて、周囲に藻が生えており、日当たりがよく、比較的流れがあるところで、群れでヒラを打っている姿をよく見かける。アプローチが難しく、ちょっと近づくと逃げてしまうので、少し距離を置いて、そっとエサを流してねらう。ヤリタナゴは春、カネヒラは秋の婚姻色が非常にきれいだ。
あとはシロヒレタビラとイチモンジタナゴが今一番釣ってみたいタナゴなのだが、自分はまだ釣ったことがない。周囲には釣れている人がいるので、私も今年こそはと思っている。シロヒレタビラは初夏頃に婚姻色が出て非常にきれいになるとのことなので、その頃にぜひ釣ってみたい。数が非常に減っているタナゴということで、もちろん釣れた時にはいつも以上に大切にしたいと思っている。あとは移入種のタイリクバラタナゴも姿を見ることができる。
タナゴ釣りをして驚いたのは、彼らの遊泳能力の高さだ。種類にもよるが、流れの速いところにも多く生息しており、最盛期(春~秋頃)には川の瀬の中で、多くのタナゴたちがヒラを打っているのを見ることができる。武庫川水系、三田周辺の河川は比較的流れが速いため、そのようなタナゴたちが多いのかもしれない。タナゴ釣りを始めた当初は、タナゴというのは流れが緩いところや、止水域にだけいるものと決めつけてしまっていたので、この意外な習性を実感として知った時はとても驚いた。もちろん時期にもよるが、5~10月には瀬、チャラ瀬もチェックするようにしている。
タナゴ捜しの注目要素
・川が屈曲しているベンド部分(速い流れが適度に緩む)
・川の合流部や流れ込みの合流点
・日当たりぐあい(日向と陰のバランス)
・隠れ家となる石、石垣、流れ藻がある周辺
・周辺に貝があるかどうか
・川が屈曲しているベンド部分(速い流れが適度に緩む)
・川の合流部や流れ込みの合流点
・日当たりぐあい(日向と陰のバランス)
・隠れ家となる石、石垣、流れ藻がある周辺
・周辺に貝があるかどうか
人工的な水路の合流部も小魚が集まる
この流れにもタナゴがいた
川の水量は季節によっても大きく変わるので、定期的なポイント探索が欠かせない
水路に架かる木橋の陰も有望ポイント
武庫川上流部の大きなカーブ。治水用の石垣などが入っており周辺でタナゴの魚影が見られる
魚影を見つけてからサオをだすのがベター
タックルについて触れておくと、サオは比較的長めのものがおすすめ。私は205㎝の小もの釣り用をよく使っている。釣り場によってはもっと長くてもよい。武庫川水系は足場が高めだったり、足もとがブッシュだったりして、短いサオだと釣りづらいことが多いからだ。また、比較的透明度も高いため、タナゴとの距離を縮めようと近づくと、魚たちも警戒してどこかへ行ってしまう。そのため長めのサオが重宝する。エサは黄身練りが基本。卵黄をベースにはちみつやグルテンもちょっと混ぜている。ただ、アカムシがよい時もあるようなので、今後はそれも加えてローテーションしてみようと思っている。
サオはカーボン製の小継ぎタナゴザオを使用。エサはポンプに入れた黄身練り。仕掛けはシモリバランスにした小型の親ウキ+シモリ玉仕掛け
釣り方は、ほとんどが魚の姿を目視してからの釣りになる。いわゆるサイトフィッシングだ。それらしいポイントにどんどんエサを入れていく、ブラインドフィッシングでもよいのだが、それをするのはあらかじめポイントが絞り込めている場合に限る。というのも、あてずっぽうにエサを流しても、ほとんどはタナゴが食う前にカワムツやオイカワの猛攻にあってしまうからだ。効率を考えるとやはりサイトフィッシングでやるほうがよい。
タナゴを見つけたら、流れを読んで、エサをそっと目の前に通してやる。中層よりも底ギリギリをエサが流れるようにするほうが食いやすいので、ウキとオモリを調整して流れぐあいや深さを合わせる。
『川釣り仕掛け入門』
「今までにない川釣り仕掛け入門の決定版! 渓流、湖、里川、河口など、変化に富んだフィールドにさまざまな魚が棲む淡水(汽水含む)では、釣法も仕掛けも多彩。入門者にとっては「どんな仕掛けで、どう釣ればいいの?」が最初の壁。本書では、まず基本となるタックル&仕掛けパーツを紹介、仕掛けはパターン別に解説。そのうえで、各魚種別仕掛けマニュアルへと導入していきます。
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子連れでも楽しめるお散歩フィッシングの魅力
タナゴ釣りの楽しさは、まずは場所捜しそのものにある。タナゴの釣り場はとても流動的だ。決まったところでずっと釣れるということがほとんどなく、時期やその日のコンディションによってさまざまに変わる。そこであらゆるポイントを見て回るようにしている。よくいわれるように、「タナゴ釣りは宝捜し」だ。そのためなるべく多くのポイントを見て回っているが、まず目安にするのは、たとえば川の屈曲部や合流地点である。その他に流れのぐあい、日当たりぐあい、石や石垣の存在、藻の生えぐあい、貝がいるか……などの要素を複合してタナゴのいそうな場所を捜している。それでも、思いもしなかった意外なところにもいたりするところがまた面白い。
一方で、タナゴ釣りは子どもと一緒に楽しむのにもよい。道具がシンプルだし、サオをだす場所も比較的足場がよいところを選べる。小さい子どもと一緒なら必ずしもタナゴが釣れなくても楽しいし、釣った魚をアクリルケースに入れて、タナゴならきれいな魚体を観察するのもおすすめ。私も休みの日には娘を川に連れて行くことがあり、一緒に自然の中で遊べるタナゴ釣りがよいコミュニケーションツールになっている。家族でピクニックに行くついでにタナゴ釣りなんていうのもありではないだろうか。きっと楽しい思い出ができると思う。
サオを渡せば子どもも夢中になる
「壁の近くをねらってみ~」とお父さんも熱血指導
立派なオスのアブラボテを釣りあげてお父さんの面目躍如!
口吻部の追い星、深いオリーブの体色、オレンジの尻ビレの3 拍子がそろった盛期のオスは小魚と思えない貫禄
地元の人と挨拶がしやすくなるのも子連れ散歩フィッシングの効能だ
2019/4/8