「まったくドリフトが通用しない……」瀬戸内育ちのベテラン・丹羽さんも翻弄された環境、それが湾奥、止水域でのアジングだった。流れがなくてもアジはいて、しかもデカいのが釣れる。場所は愛媛県御み しょう荘湾。通称、奥地アジ。通い込んでマスターした止水域独特の世界観を紹介しよう。
止水域独特の世界を紹介しよう
写真と文◎松本賢治
ドリフトが通用しない湾奥の止水域
広島県在住で瀬戸内海をホームグラウンドにするベテランアジンガーの丹羽善嗣は、8年ほど前から足繁く通っている場所がある。それが愛媛県の宇和海エリアだ。古くから磯釣りで有名だが、アジングが流行ってからはアジングの好エリアとしても注目され、多くのアジンガーが連日訪れる激戦区となった。丹羽さんが目をつけたのは、さらに南に位置する御荘湾だった。「宇和島でやっていたころからずっと気になっていたのが御荘だった。宇和島で釣れるなら御荘も釣れるだろうと。でも、実際に行ってみると釣れなかった。湾奥で潮が動かず大苦戦しました」
それが今から2年前の話。
御荘は古くからイカダのかかり釣りが有名で大チヌ(クロダイ)のメッカとして知られた場所。だが、他の釣りもののイメージはあまりない。理由は北の宇和島や由良半島、南の宿毛(高知県)など、この四国西南部にはチヌだけではくグレ(メジナ)や青物、根魚、アオリイカなどで有名な素晴らしいフィールドが連なっているため。そのため、チヌねらい以外で御荘を目指すアングラーは稀有な存在だ。
「2年ほど前、御荘を知る友達に誘われてアジングに行く機会があったんです。そしたら、友達はぼっこぼこに釣れて……僕は釣れなかったんです。それがすごく悔しかった」
瀬戸内の激流で鍛えた丹羽さんのアジングが御荘湾では全く通用しなかったという。理由は、御荘湾奥は潮が流れない、ほぼ止水だったためだ。
「御荘湾奥は僕がいつもやっている瀬戸内の激流の環境とは真逆の環境だった。そこのアジは通称、奥地アジって呼ばれていて、ほとんど潮が動かず、底潮が動いてもちょっとだけ。だからドリフトはできない。しかもこっちはベイト着きをねらう時の横の釣りを軸にしないと釣れない。それをマスターするのに時間が掛かりました」
アジングのベーシックなテクニックである、ただ巻き×フォールの釣り。そのフォールの釣りさえも、横の釣りを軸としない限り成立しにくいと話す。では、丹羽さんのいう横の釣りとはどういうものだろうか?
「流れがほとんどなく、プランクトンや甲殻類の流下ではなく小魚を捕食しているパターンがメイン。横移動はバイトさせるきっかけ。要するに、アジが横移動するベイトにバイトする環境である確率が高いわけです。だから、その釣りを軸にしないと釣りが成立しにくい。同じレンジで横に動かす、ということが大事で、それを理解したうえで上下の釣りを加えていくのが、このエリアのキモなんです」
丹羽さんの言う横移動は誘いという意味が強く込められている。ニュートラルな小魚のスイミング姿勢は横移動。それを模すため横移動を軸にする必要があるわけだ。
しかしアジはフォールで食わせる、という基礎知識が皆さんにもあるはず。ここではどうだろうか?
「ナイトや高活性の爆釣時の基本は巻き(同レンジの横移動)。デイでは、横移動を伴ってのフォールが基本。角度の緩いカーブフォール。もうひとつは横移動させてから漂わせて食わせる」
誘いの横移動から漂わせて食わせる。漂わせるとは、20〜30㎝の高さ(空間)を例えば10秒かけてフォールさせるというもの。よりスローによりナチュラルにフォールさせる。これを丹羽さんは漂わせると表現する。
まさに止水域ならではの食わせメソッドだが、これを実現させるには、フォール速度のコントロールが最も重要であり、それはラインをコントロールすることでもある。
バランスの上に成り立つ漂わせるフォール
強制的に動かす巻きの釣り以外は、この御荘湾奥という止水環境下ではラインコントロールが最重要課題になる。これはドリフト時のラインメンディングとはまた違った難しさがある。
「潮や風、表面張力。そして、セレクトしたジグヘッドの形状とウエイト。それに、各ワームがラインへ与える影響。これらすべてのバランスが取れて初めて理想の漂わせるフォールになる。フォールといっても落ちる方向は真下ではなく、その空間をイメージしています」
狭い空間内を超スローに落とす。張らず緩めずのテンションフォールをイメージするかもしれないが、それ以上の繊細さが必要だという。止水域ではその繊細なフォールでなければアジに見切られる。特に大型には。そのため全体のタックルバランスが非常に重要になる。
今回はイカダでの近距離戦をジグ単で釣るために操作性と感度重視、反響感度を得意とするショートロッドのソアレリミテッドS58UL-S(シマノ)をセレクト。重心が手もと寄りに設定されていることから操作性が高く、アジの繊細な金属的なアタリを取っていけるゲーム性の高い攻撃型ロッドだ。
「今日みたくベイトが薄い場合はイカダのシェードのボトムを回遊してくることが多い。風も止んだのでジグヘッドのウエイトを0.4gにしてスローにボトムから1m以内を探っていきます。水深が13mほどあるんで無風なら0.4gでカウント90くらい」
丹羽さんは、たとえベイト不在であったとしてもベースとなる横方向を意識した釣りを展開する。食わせのフォールは横の動きを伴ったフォール、つまりかなり角度の緩いカーブフォールを入れる。
「ティップから水面までのラインを緩い『ノ』の字にして、水面では逆の『ノ』の字を意識して、それをキープしてゆっくり巻いたりロッドをさびいて水平移動させるんですが、巻く手を止めるとワームは緩いカーブフォールの軌道を描きます。そしたら、少しリフトさせてまた横移動させる。この繰り返しです」
水面の上と下で『ノ』の字をキープしてスローに横移動させることがこの海域でのキモ。丹羽さんは静かに操作を繰り返す。すると、ボトム付近から元気なアタリを捉えたティップはすぐに水面へとツッコミを見せた。
「回ってきました。なかなかいいサイズですよ」
軽快なやり取りで25㎝クラスの体高のあるコンディションのいい奥地アジが登場。するとこのパターンで瞬く間に連発した。
基本的にアジの産卵は春といわれている。愛南町のアジは産卵期が年に2度あるという。9 月下旬はそれに差し掛かるタイミング。産卵絡みの個体は群れを形成して競争して捕食する。デイゲームが成立しやすくなるタイミングでもある。「今年は2週間ほど早い!」と嬉しそうに尺を釣りあげた
規格外の魅力を秘めた御荘湾奥のポテンシャル
今回釣りをしたのは丹羽さんが管理するiNanBASE(アイナンベース)という管理釣り場。イカダを間借りした形だがアジの回遊ルートとなっており、その実績は規格外だ。
群れが回ってくると面白いくらい釣れる。バーチカルでも釣れる
御荘湾には5本の河川が流入しており、湾の最奥の河川の河口には干潮時に干潟が出現するが、それ以外のエリアは基本的にはドン深地形。つまり、御荘湾は汽水である。
汽水だからこそ栄養たっぷりな豊穣な水域であることが想像できる。その証拠に、潮が動かないにも関わらず、タチウオやカンパチ、カツオやアオリイカ、メッキ、ヒラメ、シーバスなど数多くのフィッシュイーターが湾の奥まで差してくる。それは豊富なプランクトンを求めて小魚が集まり、さらにフィッシュイーターたちが集まるという図式だからであろう。さらに驚くべきことは近年、超ド級のアジが釣れていることだ。
今から4年ほど前に御荘湾口でイサキ釣りにまじって釣れてきたのは72㎝のマアジ。そして、2年前にはここの3号イカダでチヌねらいの仕掛けに60㎝オーバーのマアジがヒット。昨年はひとりで2尾の60㎝オーバーを釣りあげた人も。いずれもエサ釣りの釣果ではあるが、そんな規格外のモンスターマアジが回遊してくるという事実に驚かされる。
「豊後水道の冷水塊と黒潮、そして湾のリアス式な地形と水質のよさ。それら奇跡の条件が揃ってこの生態系があるんだと思います」
丹羽さんが惚れ込むのも納得の環境。とはいえ、先述したように非常に限られたメソッドでしか釣果が期待できない。そんな環境だからこそこれまで多くのアングラーにスルーされてきた。
「ベイトフィッシュは常にいるわけではありませんが、アジは回遊してくるんで釣れます。生命感が薄いほど釣れるって感じる時もある。逆にベイトが多すぎる時のほうが釣りにくかったりもする。レンジはデイだとボトムから1m以内を回遊していることが多いので、そういう時は底生生物を食っているんだと思います。その時でも横の釣りが基本です。そして、いかにスローに動かしてアジへ長くアピールできるか。それが止水域のカギです」
群れが回遊してくると25、26㎝クラスの良型アジが順調に釣れる。風も止みジグヘッドを0.6gから0.4gへと軽くして再びボトム付近をトレース。すると、これまでよりも強烈なファイトが丹羽さんを襲った。
「これは尺いったかも(笑)。ベイトがいない時はナイトゲームよりデイゲームのほうが釣れる傾向がある。尺が回ってきたってことは、もうシーズンインしましたね。今年はちょっと早いですね(9月下旬)」
例年だと10月に入って秋本番になるとキビナゴが入ってきて、それに着いて40㎝クラスのアジも差してくる。さらに季節が進んで水温が低下してくると、今度はシラスも入ってくる。それに着くとさらに釣れ盛る。サイズは25〜30㎝強がメインとなるが数がかなり出る。それはデイでもナイトでも。40㎝クラスはデイでの確率が高いとか。ナイトで40㎝をねらうとなると産卵が絡む1月くらいがいいようだ。
ナイトゲームも可能。集魚灯を焚くと浅いレンジで釣れるようになることが多い
丹羽さんのタックル。感度を徹底的にこだわりたいジグヘッド単体などでセレクトする時はソアレリミテッドS58UL-S。リールはステラ1000SSPG。ラインはサイトレーザーEX エステルの0.4 号。リーダーはソアレリーダーEX フロロ5Lb を矢引き。エイトノットで結束。もう1本は、反響感度に加え、潮などの環境感度を捉える際に長けた同S64UL-S を用意。リグがどう動いているかなどリグに加わる重さを感じられるバランス設計。リールはステラC2000S(すべてシマノ)
ジグヘッドはドラッグヘッド(シマノ)0.4 gをメインに使用。「風があると0.4 gは厳しいですが、今日みたいなベイト薄の状況で無風のなかで食わすには強いですね」
ワームはプリズムベイト(テルズワークス)5.5mm(2.17in)を多用
「今日の当たりカラーは透過性のあるイエローですね。これは、クリアのワームをチャートと一緒にボックス内で同居させて2週間ほど色移りさせたものです。これはデイゲームで強い。でも、日によって当たりカラーって違いますよね」。ローテするなら、ドクリアやシルバーラメにチャート、ホワイトなどを入れていくようだ
アジのボディラインをCT スキャンするなど約3年、研究して制作されたライトグリッパー(シマノ)。豆アジから尺上まで幅広くストレスなしで使える。余計な握力を必要とせず確かに保持しやすい。ホルスターが付属している
アジにフィットする
※このページは『つり人 2024年1月号』を再編集したものです。