もはやアジングをするために誕生した新素材のラインかと思えるほど、急速にアジングファンに浸透しているエステルライン。それにともない釣果も上向いているアングラーも多いだろう。一方で、まだ使ったことがないという人も少なくない。使ってはみたものの、使いにくさを感じた人もいるかもしれない。そこで今回、国内有数のフィッシングラインメーカーであり、大ヒットの『鯵の糸エステル』シリーズの商品開発担当者に、もっと詳しくエステルラインや鯵の糸について教わった
『鯵の糸エステル』シリーズの商品開発担当者に、もっと詳しくエステルラインや鯵の糸について教わった
協力◎株式会社サンライン 写真◎藤原武史
回答してくれた方は
㈱サンライン製品企画課主任 田中和希さん
淡水から海水、エサからルアーまでどんな釣りでもやり、毎週末に隙があれば何かしらの釣りを楽しんでいます。特にバスフィッシングはお任せください!
Q1 メバルやメッキなどのライトゲームと比較してアジングに求められるライン性能は異なりますか?
A1 直線的なフォール性能が求められる点が異なります。
アジングで欠かせない1g以下の軽いジグ単をキャストおよびフォールさせる時には、潮流や風、ライン自体の浮力、水圧などによるイトフケが、手元に伝わる情報、アタリの感度を阻害します。よって、ロッドティップからジグヘッドに対して直線的なフォール性能(なじみよさ)がアジングに求められます。これが欠けるとアジングは釣りにならないといっても過言ではなく、釣果に大きな差が表われます。ただし、この性能をメバルねらいなどに活かすことは可能です。
ジグ単でも、重めのジグヘッドを遠投して深ダナまで一気に沈ませる釣りよりも、軽めのジグヘッドでスローに探る釣りにマッチする
Q2 エステルの特徴を教えてください。(ナイロン、フロロカーボン、PEラインと比較して)
A2 決して万能ではありません。長所を見極めて使いましょう。
①ナイロンとの比較
優位性:吸水しないので耐久面で優れています。また比重が1.38と高く潮なじみがよいこと。低伸度による感度のよさがアタリを明確にとらえます。そのほかイト質が硬く耐摩耗性に優れています。
劣位性:初期の直線強力、結節強力ではナイロンに軍配が上がります。またエステル特有のイト質の硬さから、リールなじみやイトグセによる扱いやすさの面ではナイロンに及びません。
②フロロカーボンとの比較
優位性:ナイロンとエステルの中間的な性質のフロロカーボンとの比較では、やはり感度においてアタリの明確さと即アワセの能力でエステルに分があります。
劣位性:フロロカーボンの比重1.78はエステルより潮なじみが早いため手返しに若干の差が出ます。また流行りのベイトフィネスにおいてはキャスト時にリールなじみやライン自体の重みが求められるためフロロカーボンに分があります。
③PEラインとの比較
優位性:PEに匹敵する感度のよさがアタリを明確にします。またモノフィラメント(1本からなるイト=単線)特有のライン表面の滑らかさが、空気抵抗はもちろんのこと水との接触面積も少なくし、潮なじみのよさや水との摩擦抵抗の低さにつながります。よってイトフケの少ない、ジグヘッドとの直線的な最短距離を作ることを可能としフォールからアタリ、即アワセ、フッキングまでの一連の流れをより確実なものにします。
劣位性:圧倒的に強度面と、軽さによるキャスト時の飛距離でPEに及びません。なので、ヘビーリグでの遠投や深場、大物ねらいではPEに分があります。
多少の風がある状態では、PE ラインよりも伸びのあるエステルラインのほうが軽いジグヘッドを直線的にフォールさせられることから感度を得やすい
Q3 エステルはそもそもどんな釣りで使われてきたラインですか?
A3 硬さや張りが求められる枝スなどに使われます。
キス投げ釣りの仕掛け部分、砂ズリや枝スのほか、硬さ(張り)の特性を生かし絡みにくさの求められる船釣り仕掛けの枝ス、低伸度を生かした感度を必要とするカワハギ仕掛けなどです。
アサリなどのエサをセットしてもダレにくい張りの強さがカワハギ仕掛けの枝スなどに使われてきた
Q4 『鯵の糸エステル』の誕生から現在までの流れを教えてください。
A4 着手当時は違和感も、使用感に好印象を得て進化が加速。
仕掛けの枝スとしてではなく、リールに巻いて使うエステルラインが登場し、アジング用としても製品展開する流れが始まった時に、サンラインとしても開発を進めました。
当初はテスター陣も「エステルでアジング?」という印象を強く持っていましたが、テストを続けるなかでエステルへの印象がよい方向に変わり、初代『鯵の糸エステル』が誕生しました。
さらに、エステルが持つ感度をより高めた仕様が欲しいという声が出て、それを実現したのが『鯵の糸エステルナイトブルー』です。この時点で2種類の『鯵の糸エステル』を展開しましたが、伸度設計を含めたイト質としては近いものでした。
それを「もっと使いやすく」の方向に改良したのが『鯵の糸エステルラッシュアワー』であり「もっと感度を高めたい」の方向に改良したのが『鯵の糸エステルワンモア』です。
それぞれの製品の個性が濃くなったことで、より明確に使い分けることが可能となりました。
現在、『鯵の糸エステル』にはラッシュアワー(左)とワンモア(右)の2 種類があり、コンセプトも明確に違うので選択しやすい
Q5 『鯵の糸エステル』二種の特徴とマテリアルの配合の違いを教えてください。
A5 伸度2.5%の違いをお互いが長所にしています。
〇ワンモア
・感度、操作性を重視した低伸度設計で、より小さなアタリを取り即座にフッキングするスタイルを得意とします。
〇ラッシュアワー
・エステル素材の中では格別に扱いやすいしなやかさを重視したトラブルが起きくいソフト設計です。
ラインの伸びについて
伸びるイトはいい意味ではクッションの役割を果たし、釣り人や魚が掛ける瞬間的な負荷に対してラインブレイクを防ぐ要素となります。しかしながらイトが伸びるということはイトを通じて伝達される情報がぼやけてしまうことにも繋がります。
実はラッシュアワーとワンモアの伸度には2.5%の差があります。これは20m先で50㎝、30m投げた先では75㎝もの差が生まれます。この差がワンモア特有の感度を生み出すのです。
イトを張った状態でルアーを操作することの多いアジングはイトから伝わる情報量も多い釣りジャンルです。ドラグ、ロッド、合わせ方とどこかでクッション性を補うケアがあれば戦力になること間違いなしの操作感を体感できます。
両製品ともにマテリアル配合については企業秘密ですが、ラッシュアワーについては通常のエステルラインに比べてシリコーンを配合していますのでしなやかさを高めつつチヂレ等の発生を防ぎ、トラブルレス性を高めています。また、共通の特長として、前作から仕上げ加工を改良したことで「キシキシ感」が発生するまでの時間をかなり伸ばせているかと思います。エステルラインというと比較的消耗の早い印象を持っている方も多いと思いますが『鯵の糸』は買ってすぐの質感・性能を長く保てますので、ぜひその部分にも着目しながらご使用ください。
Q6 エステルラインにはリーダーは必要ですか。その号数や長さ、ライン交換の目安を教えてください。
A6 トラブルなく釣るためにリーダーは必要です。
アジの食いだけならリーダーレスのほうがよいかもしれません。しかしながらフッキング後のやり取りや抜き上げ時の切れにくさを求めるとメインラインより1~2ランク太いフロロカーボンを矢引き程度(約60㎝目安に)使用することをおすすめします。屈折率が水に近いフロロカーボンであれば魚が感じる違和感も減り、適度にショックを吸収します。
『鯵の糸』は買ってすぐの質感・性能を長く保てる仕様になっていますが、ライン交換の目安として、キャスト頻度にもよりますが、できれば釣行ごとに5m程度先端を取り除き、イトが出にくい、イトグセが取れにくいなど劣化が感じられた時は交換をおすすめします。
リーダーには切れにくくて擦れにも強い『トルネードV ハード』各種がマッチ
Q7 初めてエステルラインでアジングをする人への注意点や使い方のコツがあれば教えてください。
A7 エステルラインの素材であるポリエステルの2つの特性を知ったうえでご使用ください。
〇伸びが少ない
・ドラグをきつく締めすぎず、急なテンションをかけない
・キャスト時にはロッドのしなりとしなり戻りを利用する
・抜き上げ時前後はエステルを直接掴まない(リーダーを掴む)
〇イト質が硬い
・リールなじみが悪い
・バックラッシュしやすい
・上記症状があればキャスト数回ごとに1度、軽くテンションをかけて巻き取る
リグが着水する時にしっかりフェザリングをする。硬質のエステルはきちんと止めておかないとスプールからラインがパラパラ放出されてトラブルの原因になりやすい
Q8 ワンモアとラッシュアワーの上手な使い分け方、特徴が活きるシチュエーションを教えてください。
A8 最初はラッシュアワー、慣れたらワンモアに挑戦。
〇ワンモア
・イト質は感度重視の低伸度設計で、人が感じ取れる最小限のアタリを取り、掛けにいくためのエステルラインです。魚が低活性時の食い渋り、深ダナなどのシチュエーションで威力を発揮します。若干硬めのイト質なのでエステル使用への慣れは必要です。
〇ラッシュアワー
・エステルでありながら扱いやすいしなやかさを追求しました。NSVライトを照射すれば高い視認性も確保できトータル的に使いやすいエステルラインの代表格です。エステルに不慣れな方にもおすすめです。
Q9 エステルラインはアジングのほかにどんなキャスティングの釣りに向いていますか?
A9 特性上、用途は広くないものの限られたジャンルでの需要は増加しています。
ルアーゲームでいえばメバリング、エリアトラウトでは年々使われる方が増えています。このラインの特徴が長所になる釣りものはまだあるはずです。
『鱒の糸エステルハード』。エステルラインの持つ情報伝達性能が掛けていく釣りを可能にする
Q10 『鯵の糸エステル』の開発で苦労したことがあれば教えてください。
A10 最高峰の感度の追求と扱いやすさをギリギリ残したセッティングです。
『鯵の糸エステルワンモア』と『鯵の糸エステルラッシュアワー』の開発を進める中で特に苦労したのは「ワンモア」です。より感度に優れたエステルラインを目指して開発を進めた「ワンモア」ですが、感度を持たせるためには低伸度設計が必須条件になるからです。
言葉にするのは簡単ですが、ただでさえ瞬間的なショックに弱いエステルラインなので低伸度過ぎる設計にすれば、感度は抜群によくてもアワセ切れが多発し使い物にならないなんてこともしばしばありました。
最高峰の感度を備えながら扱いやすさをギリギリ残したセッティングに仕上げるのには苦労しましたし、実際に発売も「ラッシュアワー」の半年後と時間もかかりましたが、その甲斐あって自信を持っておすすめできる製品に仕上がったと思います。
「ワンモア」「ラッシュアワー」それぞれの個性が強まり、ますます選びやすくなった『鯵の糸エステル』をぜひ一度お試しください!
以前のエステルラインは細くて硬めだったことからドラグを緩めて釣ることが多かったが、しなやかなエステルラインが登場してからは少し太めでも扱いやすくなった。そのためドラグを締め気味にできることでフッキングも決まりやすくなりロッドも曲げて釣りができるようになっている
※このページは『つり人 2024年1月号』を再編集したものです。