群馬県高崎市在住の名手、井上聡さんが解禁当初によく足を運ぶフィールドが伊豆半島の狩野川だ。今回は浄蓮の滝よりも上流域をブドウムシで探ってみた
群馬県高崎市在住の名手、井上聡さんが解禁当初によく足を運ぶフィールドが伊豆半島の狩野川だ。今回は浄蓮の滝よりも上流域をブドウムシで探ってみた
写真と文◎編集部
春雨による水温低下
「今年は渓の春が遅いです。4月に入っても群馬、栃木、埼玉の身近な釣り場は本調子ではありません」
そう話すのは群馬県高崎市在住の井上聡さん。向かった先は伊豆半島の狩野川である。温暖な気候のため早春から釣果の出やすいアマゴの渓だ。本流から広がる水脈は広く一大支流の大見川をはじめ猫越川、船原川、長野川、柿木川と豊かな表情を見せる。
4月上旬のこの日は湯ヶ島のやや下流にあるタゴトノ淵からようすを見た。が、魚の気配はまるでない。水温は11℃。前夜から明け方までたっぷりと降った雨で水温が下がったようである。その後も湯ヶ島の西平橋、持越川とサオをだしてみたが反応は得られない。
雨で水が増えると多くのエサが流れる。適度な濁りも入ることで仕掛けも見切られにくいため好釣果に恵まれるのはよくあること。しかし水温の低い解禁当初はいいことばかりではないようだ。水温低下や堆積した落ち葉が流れ釣りに悪影響を及ぼす。
「大きくエリアを変えたほうがよさそうです。水温が安定している上流域に行きましょう。渓は上に行くほどエサが少なく、お腹を空かせた魚たちもたくさんいます」
そう言って井上さんは天城峠を登り国道から離れた谷間に下りた。
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ブドウムシを活かすガン玉の使い分け
狩野川本流は上流で本谷川と名を変える。井上さんが下り立ったのは大きな石が目立つ苔むした渓相である。さっそくサオを伸ばして0.25号の仕掛けを張った。エサはブドウムシである。
「春先は川虫が育ちきっていませんからね。ブドウムシの出番が特に多い季節です」
ブドウムシはブドウやエビヅルの枝の中で育つブドウスカシバという蛾の幼虫。ヒラタ、キンパク、クロカワムシなど水生昆虫に比べ自然界では流下しにくく、渓魚の常食エサとは言い難い。しかし古くからヤマメもイワナもよく釣れる人気の市販エサであり、川虫に比べアピール度が高い。魚に発見されやすく源流・渓流域だけでなく広大な本流を探る大ヤマメ釣りにも効果的だ。
「抵抗が大きく浮きやすいエサですから川底を這うようなオモリ使いが重要になります」
井上さんのオモリ使いは流速や水深はもちろん立ち位置に応じても変える。渓流釣りは釣り上がりが基本だ。魚は流れに対して上流を向くため下流からアプローチしたほうが気付かれにくい。そして上流に向かって仕掛けを振り込み手前に流し込む場合なるべく軽いオモリを使うのが基本である。
「上流に振り込んだ仕掛けは早く沈みます。なるべくふわふわと流れなりにエサをトレースしたいのでG 5~ G 3のガン玉を多用します。ポイントの横からアプローチする時は水深にもよりますがG 2~ B を使うことが多いですね」
またオモリからハリまでの距離も魚の食い込みに影響する。重いオモリを使うならハリまでの距離を長く取る。エサをくわえた魚に対してオモリの抵抗を軽減したいからである。井上さんは本流域で4B 以上のオモリを使う時はハリまでの距離を50cmほど取ることもある。逆に軽いオモリは15~20cmほどと短くすることが多い。というのもエサが沈みにくいからである。特にブドウムシは井上さんが言うとおり浮きやすいエサだ。軽すぎるオモリやハリまでの距離を長く取り過ぎると流れに揉まれ吹き上がってしまう。流れに合った最適なガン玉使いを見極めることが釣果を得るためのキモである。もうひとつブドウムシを川底から浮かさないためにはハリの号数を上げ、太軸を使いその重みを利用するというのもひとつの手段だ。
「流れに馴染んだオモリを使えば目印が流れなりの動きをします。たとえば反転流に入れば仕掛けも流れに乗って反転します。流れを切ってしまう重いオモリを使うとそうはなりません。それと川底の波をしっかりとらえていれば表層の流れよりも目印はゆっくりと流れていくでしょう」
もちろん仕掛けが川底に馴染みやすい投入点の見極めや、川底の変化に応じて目印をブラさずに流せるかどうかも重要な技術である。
白、緑、赤がラインナップされている横溝商会の多彩なブドウムシ。スタンダードな白い虫(源流シリーズ)はまゆあり、まゆ無し、ミニミニ、渓流スペシャルなど数種ある。緑は「ぶな虫」と名付けられ源流域でブナムシが大量発生する頃に効果的。「紅やなぎ」の赤は魚の目先を変えるのに好適
基本的なエサ付け方法は尻の横からチモト付近までを刺してハリ先を出すチョン掛け
食いが浅い時や小型が多い時はハリ全体を隠すように頭まで刺す
渓流域の井上さんの愛用バリはオーナー「忍ヤマメ」。エサのズリ落ちを防止するケン付き。吹き上がりやすいブドウムシをしっかり川底に這わせるために小さなハリは使わない。6 ~ 7 号を基準にする
「源流」シリーズは30 匹入りが多く「紅やなぎ」は25 匹入り、「ぶな虫」は25 匹入り、「源流S」のみ40 匹入りとなっている。井上さんは1日の釣行で2 パックは使用する
横溝商会は鮮度の高い「極上生イクラ」や「生イクラ」、「紅ゼリーイクラ」も人気。解禁初期は欠かせないエサである
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苔むした渓に豊かな魚影
「釣りながらどんなポイントがよいのかをつかんでいきますが、魚の活性が上がりきらない春先は瀬尻と淵尻で食ってくることが大半です。流心の通った落ち込みや瀬頭では反応は出ないでしょう」
左右から木々が張り出した探りにくいポイントも多いが、百戦錬磨の井上さんは器用に仕掛けを振り込んでいく。入れにくいスポットは当然ながら素直な魚が多いもの。1尾目のアマゴは、まさしく木の下で引き出した。
「かわいいサイズですが、きれいですねえ」
と目を細める井上さん。この1尾を皮切りに次々に現われる瀬尻や淵尻でアマゴがぽんぽんと躍り出た。やや水深のあるポイントは比較的サイズがよかったものの最大で18cmクラスである。
アマゴ・ヤマメの体の斑紋(パーマーク)は川ごとに個性がある。伊豆半島のアマゴを研究してきた静岡県水産技術研究所の川嶋尚正さんによれば狩野川の固有種は特徴として斑紋が丸いことが挙げられ、7~12個見られる個体が多いという。また背中の黒色班は3~9個の範囲で見られ4~7個が多いとのこと。井上さんが釣りあげるアマゴの中にはパーマークの丸い固有種の血を引いた個体も混じっているように見えた。
井上さんは時に大岩を乗り越え、頭上の木々に注意しながら900mほどの区間を釣り上がった。浅瀬の石にはカサカサと動くヒラタカゲロウの幼虫がたくさんいて瀬のヒラキを走る魚影も豊かである。井上さんは苔むした渓と美形アマゴに満足したようすでサオを畳んだ。4月に入って井上さんの釣友の中には下流域のサツキマスを手にしている人もいるそうだ。小誌発売のころは、狩野川水系全域で渓魚の活性が一気に高まっているだろう。
愛竿のひとつシマノ「翠孤H61」。シャープに振り込める本調子が好きだという
ワンタッチで目印を取り付けられるオーナー「あみ込み目印」も愛用アイテム
釣り場で仕掛けを作ることの多い井上さん。この日使用した水中イトはオーナー「ザイト・渓流フロロ」0.25 号
※このページは『つり人 2024年6月号』を再編集したものです。